第1話 輝け!超次元科学研究部(脚本)
〇学校の校門
私立ノーベル学園
「人類に最大の貢献をもたらす人材の育成」を理念として掲げ
生徒の自主性を重んじる教育機関である。
学園には一芸に秀でた生徒達が全国から集められ
彼らによって設立された個性豊かな部活動が数多く存在する。
〇理科室
九龍真理「諸君、本日集まってもらったのは他でもない」
九龍真理「我々が入学直後から活動を開始した『超次元科学研究部』が」
九龍真理「現在深刻な問題に直面している」
超次元科学研究部、通称《チカケン》
現代科学を超えた新たな科学「超次元科学」を究明するために活動を開始したノーベル学園非公式の部活動である。
相沢新人「お嬢、急に改まってどうしたんだよ?」
相沢新人「この間の理科室爆破事件のことか?」
九龍真理「あれは怪我人も出てないから大した問題ではない!」
九龍真理「我々が直面している問題とは学園内での 知名度の低さだ」
九龍真理「斗真! 例の調査結果を発表してくれ」
衛士村斗真「OK! 真理ちゃん」
衛士村斗真「相沢、これを見ろ」
ノーベル学園の生徒100人に聞いた
『超次元科学研究部《チカケン》』って知ってますか?
相沢新人「いつの間にそんな調査してたんだよ」
『知らない』81人、『知っている』14人
『思い出したくない』5人
相沢新人「知名度は低いのに、しっかり何人かのトラウマになってるじゃねぇか」
衛士村斗真「その他、僕たちの顔を見ただけで逃げ出した生徒も何人かいたよ」
九龍真理「活動開始から1ヶ月が経つというのに」
九龍真理「これほどまでに知名度が低いとは由々しき 事態だ」
相沢新人「でもよ、知名度なんて必要か?」
相沢新人「知名度が低くても、お嬢が目指す『超次元科学』の研究はできるだろう?」
九龍真理「相沢、それは違うぞ!」
九龍真理「どれだけ優秀な科学者が最先端の設備を揃えて研究しようとも」
九龍真理「結局のところ科学とは『人』なのだ」
九龍真理「超次元科学の究明には私たちの力だけではなく、学園の他の生徒の力も必要になるだろう」
九龍真理「彼らの声が新たな研究のアイデアとなり、その研究から生まれた発明を人々のために役立てる」
九龍真理「私はチカケンをそんな部活にしたいのだ」
相沢新人「お嬢・・・」
相沢新人「俺はあんたのこと、周りの人間なんて実験動物にしか見えてないクレイジーな科学者だと思ってたけど」
相沢新人「ちゃんと生徒のためを思って活動してたんだな」
九龍真理「わかればよい」
九龍真理「さぁ、チカケンの学園内での知名度を上げて、更なる実験体を確保するぞ!」
相沢新人「結局、それが目的かよ!」
〇教室
九龍真理「それでは、我々は今からチカケンの知名度を上げるために」
九龍真理「『フラッシュサイエンス』作戦を実行する!」
相沢新人「フラッシュサイエンスってなんだ?」
九龍真理「フラッシュモブという言葉は聞いたことがあるだろう」
相沢新人「街中で急に踊り出すアレだろ?」
九龍真理「そうだ、今回はそれをサイエンスで行う!」
九龍真理「つまり、学園の生徒たちの目の前で、突如として科学実験ショーを行うのだ」
相沢新人「また新たなトラウマを生みそうだな」
九龍真理「作戦の役割だが、実験者は私がやる」
九龍真理「相沢、貴様の役割は実験助手と実験の撮影 及び動画編集だ」
九龍真理「実験ショーが終わり次第、すぐにショーの映像をPVにして生徒に公開するぞ」
九龍真理「実験の合間に動画編集を進めてくれ」
相沢新人「実験の合間に動画編集? そんなに焦らなくてもいいんじゃねぇか?」
九龍真理「この作戦はスピードが肝心なのだ!」
九龍真理「ヤツらに見つかる前に、なんとしてでも作戦を完了せねばならない!」
衛士村斗真「ヤツら・・・」
衛士村斗真「『学年連邦生徒会』だね」
学年連邦生徒会
生徒の自主性を尊重するノーベル学園に
おいて
学園から生徒の管理と学校運営の大部分を
委任された自治組織である。
九龍真理「どうやら前回の理科室爆破事件のことが、 1学年連邦生徒会長『瀬尾道安』の耳にも 入ったらしい」
衛士村斗真「規則の支配者《Rule Ruler》瀬尾道安に?」
相沢新人「ルール・ルーラーってなんだよ?」
衛士村斗真「瀬尾は1学年連邦生徒会長就任後、徹底的に規則を整備して、その遵守を生徒たちに強制しているんだ」
衛士村斗真「それで、呼ばれ始めた異名が規則の支配者《Rule Ruler》」
相沢新人「同じ1学年なのに恐ろしいヤツだな」
衛士村斗真「あいつにバレたら、すぐに作戦は中止させられるだろうね」
九龍真理「だからなんとしても、ヤツらに阻止される前に動画を公開する必要があるのだ」
衛士村斗真「任せてよ、僕は何をすればいい?」
九龍真理「斗真の役割は実験道具の荷物持ちと」
九龍真理「実験後の窓拭き係りだ」
相沢新人「窓拭き? 時間が勝負なのに窓拭きなんて してる場合かよ?」
九龍真理「窓拭きが必要な理由は作戦の途中で説明しよう」
九龍真理「とにかく今は、フラッシュサイエンス作戦を開始するぞ!」
衛士村斗真「おう!」
〇学園内のベンチ
九龍真理「ふははは、諸君! 我々は超次元科学研究部だ!」
九龍真理「今日は我々の活動内容を紹介するために参上した!」
生徒A「なんだ?」
九龍真理「我々が用意した科学実験ショーを楽しんでくれ!」
九龍真理「カモン、相沢」
相沢新人「はい」
九龍真理「まずは、コットンを丸めて」
九龍真理「消毒ジェルを塗ってから火をつける」
九龍真理「そして、この火の玉を素手でつかむ」
生徒A「うわ、熱くねぇのかよ」
生徒B「危ない!」
九龍真理「消毒ジェルに含まれる水やエタノールの気化熱が燃焼熱を吸収するので、それほど熱くないのだ」
「おぉ〜」
九龍真理「ふははは、これが科学の力だ!」
九龍真理「それでは、諸君また会おう」
相沢新人「特別な訓練を受けた上での実験です。みなさんは絶対に真似しないでください」
(あいつら、なんだったんだ?)
衛士村斗真「失礼します、超次元科学研究部です」
衛士村斗真「窓拭きさせてもらいます」
「超次元科学研究部って、やばい部活だな」
〇中庭
数十分後
九龍真理「よし、これで2年生の教室も全て回ったな」
九龍真理「残るは3年生のみだ」
衛士村斗真「まずいよ、真理ちゃん!」
衛士村斗真「ヤツらに見つかったみたいだ」
九龍真理「くそっ、このタイミングで来たか」
瀬尾道安「お前たちが最近学園を騒がせている超次元科学研究部だな?」
九龍真理「貴様は・・・」
瀬尾道安「1学年連邦生徒会長、瀬尾道安だ」
瀬尾道安「まったく、好き勝手やってくれたな」
相沢新人「まずいぜ、お嬢」
相沢新人「このままだと、フラッシュサイエンス作戦は中止させられる」
九龍真理「相沢、ここまでの実験動画で我々のPVは作れそうか?」
相沢新人「PV? まぁ、素材は十分だけど」
九龍真理「ならば、フラッシュサイエンス作戦の仕上げに取り掛かるぞ!」
九龍真理「相沢、大至急PVを仕上げろ!」
九龍真理「斗真は残りの窓拭きを急げ!」
衛士村斗真「わかった!」
相沢新人「お嬢はどうするんだ?」
九龍真理「私か?」
九龍真理「私は・・・」
九龍真理「逃げる!」
学年連邦生徒会員A「あ、こら待て」
〇学園内のベンチ
九龍真理「ふははは! 私を捕まえるとは、なかなかやるじゃないか、学年連邦生徒会」
学年連邦生徒会員A「捕まえたというより、勝手に白衣の裾を踏んで転んだんだろ」
学年連邦生徒会員B「とにかく、これでもう科学実験はできないな」
九龍真理「もう実験はできないだと?」
九龍真理「不可能を可能にするのが超次元科学だ」
学年連邦生徒会員A「まだ何かする気か!」
九龍真理「相沢、斗真! 準備はできたか?」
相沢新人「はいよ」
衛士村斗真「OKだよ、真理ちゃん」
九龍真理「それでは、フラッシュサイエンス作戦フィナーレだ!」
真理の合図とともに中庭の上空に一台の球体型ドローンが飛び上がった。
学年連邦生徒会員A「なんだ、あれは?」
九龍真理「あれは複数面映像投写ドローンだ」
九龍真理「球体の表面から全方向に映像を投写することができる」
九龍真理「そして、斗真が窓拭きの際に使用していた 霧吹きには」
九龍真理「窓ガラスをスクリーンに変える特殊なインクを配合しておいた」
九龍真理「つまり、今教室の中にいる生徒達には我々のPVが見えているのだ」
〇教室
教室の窓には本日の科学実験ショーの総集編映像が流れた後に
「超次元科学研究部」の文字が映し出されていた。
超次元科学研究部
生徒A「おぉ、これさっきのヤツらじゃね?」
生徒B「超次元科学研究部ってすごいかも」
〇学園内のベンチ
相沢新人「お嬢、どうやら成功したみたいだぜ」
九龍真理「ふははは、これでチカケンの名は学園中に 知れ渡ったな」
瀬尾道安「悪いが、その名前はすぐに消えることになるぞ」
九龍真理「1学年連邦生徒会長、瀬尾道安」
瀬尾道安「校内での火器の使用、飛行禁止区域でのドローン飛行、そして無許可での部活動の宣伝行為」
瀬尾道安「お前たちの行動はどれを取っても1学年連邦の規則に違反している」
九龍真理「ぐぬぬ」
瀬尾道安「超次元科学研究部、お前たちに解散を命じる」
九龍真理「なんだと!?」