焼けた思い出(脚本)
〇立派な洋館
前回のあらすじ★
金太郎が、バーベキューをしようとしたら火事になっており、その経緯を聞きつつ・・・
もんじろうは、叱責しつつも火の海から彼を救い出す。
そして、再び真っ当に生きるため、もんじろうの手を取った金太郎。
だが、日課の散歩中にもんじろうは迷い込み・・・!?
もんじろう「ここは、どこだ・・・?」
立派な屋敷だ。
誰か住んでいるのだろうか・・・
もんじろう「何か、美味しそうな匂いがする・・・」
ぐぅ、と腹の虫もなり、引き寄せられるように屋敷へ足を運ぶ・・・
〇華やかな裏庭
お嬢様「みなさま〜! 本日は、わたくしの壮大なバーベキューにお付き合いいただいて・・・」
お嬢様「くっそ、感謝ですわ~!!」
もんじろう「な・・・これは・・・」
もんじろう「(ぶっ飛んでやがる・・・)」
お嬢様「この屋敷全部が」
お嬢様「消し炭でしてよ〜!!」
お嬢様「え?どうやって焼くのかって?」
お嬢様「皆さまが下がれば、わかりますわよ〜!」
お嬢様「いい感じに、火はあがってますの」
お嬢様「そして、巨大な網を上空からヘリが設置してくださいますの」
もんじろう「(く、狂ってやがる・・・)」
お嬢様「で、最高級霜降り肉をシェフが用意してますの」
お嬢様「それも、ヘリから落として焼きますの」
お嬢様「楽しくて、美味しそうでしょう?」
お嬢様「パエリアは、前座ですわ」
もんじろう「(く、狂ってやがる・・・だが、パエリアうまい・・・!!)」
もんじろう「もぐ、もぐ・・・」
しかし、もんじろうは危惧していた。
一度あることは、二度あると・・・
〇華やかな裏庭
「お嬢様、今から肉を投下します!」
お嬢様「かしこまりましたわ~!」
お嬢様「遠慮なく、網の上にぶち込むのですわ!」
「かしこまりましたー!」
顔は見えないが、ヘリのドライバーと・・・トランシーバーで話している。
もんじろう「大丈夫かなあ・・・」
もんじろう「屋敷レベルになれば、俺だとどうにもできないしなあ・・・」
お嬢様「さあ、これぞ・・・」
お嬢様「エンターテイメントですわよ~!!!」
ヒィイィヤッハァァァ!!と、甲高い声やお嬢様最高〜!!と崇め讃える声が聞こえる。
もんじろう「どいつもこいつも、狂ってやがる・・・!」
ドスン!という音がして、とうとう肉が投下されたか・・・と思った。
いつの間にか敷かれた網の上に、無慈悲に落とされた最高級霜降り肉・・・
肉の、宿命なのだろうか・・・
賛美歌を・・・と思いきや・・・
暴力的なまでの、旨味が溢れ出そうな・・・
芳醇な香りが、脳を刺激する。
もんじろう「なんだ、この、香りは・・・」
お嬢様「オリジナルブレンドの、ハーブ塩。 さっぱりとして・・・」
お嬢様「素材そのものの旨味を引き出す、魔法の調味料・・・」
お嬢様「ハーブは匂い消しとして調和され」
お嬢様「本当の肉を・・・」
お嬢様「皆さまに、ご提供いたしますわ・・・」
あまりの旨さに、昇天しないことですわね、と釘をさされる。
もんじろう「だ、だがこんな巨大な肉をどう引っくり返す!?」
もんじろう「どう、食べやすいサイズに切・・・」
お嬢様「んふふ・・・」
お嬢様「それらは全て、ご覧になって?」
お嬢様「ほら・・・」
もんじろう「き、巨大なワイヤー・・・!?」
お嬢様「わたくし、美味のためには惜しげもなく財を投じますの・・・」
もんじろう「なんて執念だ・・・!!」
もんじろう「(狂ってやがる・・・!!)」
〇養護施設の庭
結論から言うと、肉は美味かった。
屋敷があまりに燃え上がり、離れの庭に移動させられたこと以外、大丈夫だった。
もんじろう「あんな炎の中でも、焦げずに絶妙な焼き加減なのが奇跡的だ・・・」
もんじろう「でも、屋敷を燃やしてよかったのか・・・?」
お嬢様「ご心配なく」
お嬢様「もともと、手に余っていた別荘ですし」
お嬢様「コレを機に、燃やそうと思いましたの」
もんじろう「ダイナミックすぎないか?」
お嬢様「?」
お嬢様「捨てるときは、思い切りの良さも大事ですわ」
お嬢様「男も、ね・・・」
悲しげに目を閉じた彼女。
過去に何があったのだろう・・・
ただ一つ・・・
スケールの壮大さは、狂ってやがる。
〇華やかな裏庭
お嬢様「帰り道は、ここをまっすぐ抜けますのよ」
もんじろう「え、なんでそれを・・・」
お嬢様「さあ・・・」
お嬢様「気まぐれですわ」
お嬢様「でも、付き合ってくれてありがとう・・・」
彼女は柔らかく笑い、招待客とともに消え・・・
〇アパートの玄関前
俺は、帰路を辿って到着していた。
別れてすぐ、振り返ったが不思議なことに・・・
屋敷はなかったが、まるでそこに建っていたようなスペースと跡は、微かに残っていた。
もんじろう「ただいまー」
金太郎「おー、もんじろうおかえり」
俺は、散歩中にあった出来事を話した。
はじめは、しんじられない、ぶっ飛んでるとツッコんだ金太郎だが・・・
段々と、神妙な顔つきになり・・・
金太郎「もんじろう・・・」
金太郎「お前が見た屋敷って、こんな感じじゃないのか・・・?」
差し出されたスマホの画像を見て、固まった。
もんじろう「・・・これだ。でも、どうして・・・?」
金太郎「何十年も前の事件だ」
金太郎「俺も、些末までは知らないけど・・・」
〇立派な洋館
数十年前に起きた、とある財閥の屋敷が全焼した事件。
原因は、悲恋による自暴自棄な結果だ、と記されたり、報道されたりしていたが。
事実は、違う。
彼女に、結婚を申し込んだ男がいた。
彼女も、色々支えてくれる彼を信じ結婚しようかと決める頃・・・
偶然、彼の部屋を通過する際に聞いたのだ。
「・・・ああ、うまくいった。婚約にこぎつけたから、あとはこの財閥を手中に収めるだけだ」
「あの女も馬鹿でな。簡単に騙されてるよ。滑稽だ・・・はははっ!」
お嬢様「あの、あなた・・・」
「!?ああ、悪い。またかけるよ・・・」
「・・・今の会話を、聞いていた・・・ようだね」
お嬢様「ええ・・・本当なの?」
「ふっ・・・ははははは!!!」
「とんだ箱入り娘で、世間知らずな女だ!」
「お前みたいな女と近づくのは、それくらいしか理由がないだろう?」
「金と、この財閥の力が欲しくてな・・・!!」
お嬢様「・・・っ、あなた・・・」
お嬢様「信じていたのに・・・」
「もう遅い。騙されるお前も悪いんだよ」
〇立派な洋館
その日から。
彼女は誰とも、顔を合わさずにいた。
性格も悪く、悪名高いことで有名なとあるメイドに彼女は、いじめられていた。
「奥さま。しょっちゅうお菓子を作るから、オーブンがこんなに汚くなるんです」
「わかります? ケーキやお菓子の油脂、油分が焦げついてるんですよ」
「お菓子しか作れない女が、結婚できるわけない。相手が苦労する。相手がかわいそうだ」
お嬢様「・・・」
・・・違う。料理の油分も含まれている。
お菓子用のオーブンに、こいつが夜な夜な自家用に料理をしていることを。
器具もそのままにし、私に擦り付け、貶めようとしていることも。
メイドたちも、庇ってくれたり信じてくれたりするものもいた。
だが、奴に徹底的にいじめ抜かれ、自ら命を絶つもの。辞めるもの。
奴に、取り入れられるもの。
そしてついに・・・
お嬢様「もう、いいわよね・・・」
お嬢様「ほんとうに、疲れたわ・・・」
ジェン「お嬢様!早まらないで下さい!」
お嬢様「ふふっ、ジェン・・・」
お嬢様「こんな思いをするくらいなら・・・ 楽になりたい・・・」
ジェン「このジェン、お嬢様の味方です」
ジェン「馬鹿げた奴らが増え、私もほとほと呆れました。ですが・・・」
ジェン「オーブンの件、わたくしは信じております。なぜなら、幼少の頃から見てきましたので」
ジェン「シェフより、片付けも手入れも完璧にこなすお嬢様。あんな杜撰な訳がない」
お嬢様「!!」
お嬢様「・・・ジェン」
お嬢様「あなたみたいな男を、好きになればよかったわね・・・」
ジェン「お嬢様・・・」
ジェン「お嬢様が、今からなさることを全力で止めるつもりでしたが・・・」
ジェン「あなたは、貫き通す方だ・・・ ならば、わたしは・・・」
ジェン「あなたに、ついていきます」
お嬢様「いいえ、ジェン・・・」
お嬢様「私だけでいいわ。あなたにはまだ、未来があるの」
お嬢様「誰かのために、料理を作るという未来がね・・・」
ジェン「・・・」
お嬢様「さあ、おしゃべりはおしまい。まだいるのなら、あなたもローストになっちゃうわよ」
ジェン「いえ、残ります」
お嬢様「・・・当主命令よ。この屋敷から出なさい」
ジェン「・・・たとえあなたの命令であっても、それは聞けませんね」
ジェン「大切な人を、目の前で失うくらいなら・・・」
ジェン「わたしは、その人のそばにいたい」
やさしく、ジェンは彼女を抱きしめる。
お嬢様「・・・仕方ない男ね・・・」
お嬢様「たとえ、周りが責めても・・・」
お嬢様「あなたといられたら、いいわ・・・それと」
お嬢様「・・・最後くらい、あなたの作ったパエリアが食べたかったわ・・・」
ジェン「・・・それくらい、いくらでもあっちで作りますよ・・・」
ジェン「あなたが幸せそうに料理を食べる姿を見て、この仕事を続けてこられたんです」
ジェン「わたしは、毎日満たされておりました・・・」
お嬢様「私についてこれるのは、あなたくらいよ」
お嬢様「ありがとう、ジェン・・・」
城中撒いた油に火がつき、燃え広がりすべてを炭に焼き尽くしていく。
炎が近づき、包まれる寸でで、彼女が口にしたのは・・・
お嬢様「愛してる・・・」
せつない、純粋な・・・愛だった。
〇アパートの玄関前
金太郎「ど、どうしたんだよもんじろう・・・」
もんじろう「・・・なあ」
もんじろう「なんで、悪いことしたやつが・・・得するのかなぁ?」
もんじろう「人を追い詰めたやつが、なんでのうのうと生きられるのかなぁ・・・?」
金太郎「・・・もんじろう・・・」
もんじろう「悔しいよ・・・俺・・・」
もんじろう「彼女のこと、救えなかったよ・・・」
金太郎「・・・」
金太郎「法から、うまく逃げるクズもさ・・・」
金太郎「この世には、ごまんといるんだよ・・・」
もんじろう「・・・悪い・・・」
もんじろう「また、歩いてくる・・・」
金太郎「え、や、休めって!」
金太郎「帰ってきてからまだ、時間経ってないぞ」
金太郎の声も聞かず、もんじろうは飛び出ていった・・・
to be continue・・・