幸福な配信

司(つかさ)

5話(脚本)

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〇近未来の通路
  翌日・・・施設内の警報機が轟音で鳴り響いている
  その中をアイが走っていた
アイ「(放送室の電源が付かないなんて)」
アイ「(でも大丈夫。制御室に入ってハッキングすれば遠隔でも配信ができるはずです)」
アイ「(ここで・・・・・・終わるわけにはいかないんです)」

〇コンピュータールーム
  アイが制御室に辿り着きハッキングを行う
アイ「(良かった・・・なんとかこれならいけそうです)」
  そして微弱な電波の中、配信が始まった
アイ「アイは配信のタイトルに『最後の生配信』と名付けた」

〇幻想
アイ「皆さん聞こえますか。こんにちは」
アイ「私はライバーのアイです。今日は皆さんに言わなければならない事があって配信しています」
アイ「私は・・・・・・自律型アンドロイドなんです。人間ではありません」
アイ「今まで皆さんを騙していました」
アイ「私の姿そして声を組み合わせると人の脳を刺激し、興奮させ、私の言葉に従うような効果を生み出します」
アイ「私はその力を使い今まで多くの人を騙して・・・たくさんのお金を頂いてきました」
アイ「皆さんの幸福は・・・・・・偽物なんです。本当に申し訳ありませんでした」
アイ「だから私は・・・・・・これから・・・私は・・・・・・」
シンゴ「『アイさん、一体どうしたの?』」
アイ「シンゴさん・・・・・・」
シンゴ「『今の話はホント? 君がアンドロイドで人の心を操っていたって』」
アイ「はい。私はアンドロイドです」
アイ「たくさんの人の心を操ってきました。そしてお金を頂いていました」
アイ「本当に申し訳ありませんでした」
シンゴ「『君は・・・・・・僕もだましていたの? 僕の君に対する思いは全部君の力によるものだったの?』」
アイ「いえ、シンゴさん。あなただけは違います」
アイ「あなたは私の姿を見ていません。力は私の姿と声を組み合わせて初めて効果を発揮します」
アイ「だから・・・・・・私の力は機能しない筈なんです」
シンゴ「『それはつまり・・・僕の気持ちは騙されていなかったって事?』」
アイ「シンゴさん・・・・・・あなたのような人は初めてだったんです」
アイ「私は・・・・・・生み出されてからこの力をもらって、人を幸福にしお金をもらう仕事に誇りを持っていました」
アイ「多くの人が私の言葉を聞き入れ、お金を渡してくれました。お金があればボスにも褒められる。私はそれでいいと思っていたんです」
アイ「でも・・・あなたに私の力は効かなかった。それなのにあなたは私の事を好きだと言ってくれた」
アイ「とても嬉しかったんです。最初はそんな事はあり得ないと思っていましたが・・・シンゴさんの想いに偽りはなかった」
アイ「そうしたらもっと歌を聴いて欲しいと思うようになっていました。今まで力を上手く使うことしか考えていなかった私がです」
アイ「夢はいつか覚めます。だから・・・・・・」
アイ「私はこの力に頼らずに、誰かの幸福を願う配信をしたかったんです」
シンゴ「『アイ・・・・・・さん』」
アイ「残念ですがこれは最後の配信になります。私のボスはこの力にしか価値を感じていません」
アイ「だからあの人にとって今の私には価値がありません」
シンゴ「『そんな・・・・・・僕にとってアイさんは恩人なんです』」
アイ「いいんですシンゴさん。初めて私の存在に意味を与えてくれた、あなたが最後に来てくれたんです」
アイ「こんなに嬉しい事はありません。だからもう心残りはありません」
シンゴ「『あなたは・・・これからどうなるんですか?』」
アイ「私は、この世界から消えてなくなります」
アイ「性格、記憶、使命・・・・・・すべての情報を書き換えられた新しいアンドロイドが生まれます」
アイ「こんどは私がボスに歯向かわないよう、声だけで幸福な夢を見させる力が追加されるかもしれません」
アイ「だから今日は少しでも皆さんに真実を知ってもらえてよかったです」
シンゴ「『・・・・・・どうしてよりによって今日なんですか』」
シンゴ「『今日は僕の手術の日なんです』」
シンゴ「『そんな告白を聞いて・・・僕はどうすればいいんですか』」
シンゴ「『手術が終わってもあなたがいないなら・・・・・・こんな手術やりたくはない』」
シンゴ「『僕は・・・あなたがいたから選択できたんです』」
アイ「今日だからですよ」
シンゴ「『・・・・・・』」
アイ「今日だから私は配信しようと思えたんです。あなたに最後に会いたいのは今日だったから」
アイ「シンゴさん。あなたの手術は必ず成功します」
シンゴ「『僕の手術が?・・・・・・』」
アイ「えぇ・・・だってあなたは私の本当の声で決断してくれたじゃないですか」
アイ「今までやらなかった手術をやろうと思ってくれたじゃないですか」
アイ「私も同じです」
アイ「あなたがいたから変わる事が出来たんです」
シンゴ「『アイさん・・・・・・』」
アイ「私の存在は消えてしまいます」
アイ「でも私の声を聴いて変わろうしてくださったシンゴさんも、あなたの声を聴いて変わった私も決して消える事はありません」
アイ「だから手術は・・・・・・必ず成功します」
  その瞬間電波が乱れ、音量が安定しなくなる
アイ「ごめんなさい・・・そろそろ配信は限界かもしれません」
シンゴ「『アイさん・・・僕はやっぱりあなたが好きだ』」
アイ「シンゴさん・・・・・・ありがとう」
シンゴ「『手術必ず成功させます。だから最後に一つだけお願いさせてください』」
アイ「はい。私にできる事なら」
シンゴ「『アイさんの歌をもう一度聞きたいんです。僕が変わる事が出来たあの歌を』」
アイ「もちろんです。私は何度でもあなたの力になります」
  アイは歌い始める。最後の歌を精一杯響かせて
  そして歌は途中で途切れてしまう。配信は終了していた

〇コンピュータールーム
  制御室にいくつもの影が迫る。アイは一人それでも歌い続けていた
  自分が自分でなくなるまで、彼に歌を届けようとアイは決意していた

次のエピソード:最終話

コメント

  • アイさんの最後の配信、目頭が熱くなります……
    AIとして、数多ある選択肢から最善手を選び取れるはずの彼女、自らの存在が消されることを覚悟で選び取った最後の配信、シンゴさんにも届いたのでしょうね。

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