〇男の子の一人部屋
鈴喜真琴(すずき　まこと)「歌詞はこんな感じで」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「いや、なんかダサいな。メロディごと変えるか？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「あー、わからん。今日はもう寝よ」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ん、なに？ひめか」
　　『こと、ごめん。大好きだよ』
鈴喜真琴(すずき　まこと)「は、なにこの文面」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「既読、つかない」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「通話出ないし！」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「そうだ、whispperなら！」

〇SNSの画面
　　めあのん：
　　もうむり、おわり
　　めあのん：
　　最期は推しの曲聴いていきたいな
　　裏切られたけどww

〇シックな玄関
鈴喜真琴(すずき　まこと)「かまちょ？いいね稼ぎ？リプのやつら目節穴か？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ひめ、ガチじゃん」
鈴喜智子(すずき　ともこ)「ちょっと、真琴。こんな時間にどこ行くの？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「コンビニ！すぐ帰るから！ごめん鍵閉めといて！」
鈴喜智子(すずき　ともこ)「どうしたのよ、急に・・・」

〇歌舞伎町
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ライブハウスは時間的に締め出されるし、可能性あるのはここだけど」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「広すぎて全然わからん」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「そもそも、ひめと違って私歌一番町なんて来ないし」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「既読はやっぱないし」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「whispperは・・・」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「なんか配信してる？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「屋上？なんか曲流してる？ 風であんま聞こえない」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「てか、映ってるのひめだよね？落ち──」

〇カラオケボックス（マイク等無し）
　　ひめは変なやつだった
　　単位計算してるからって、あんま高校来ないし
　　ピアスバチバチに開けてるし
　　好きな曲の話すると止まらないし
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「ねっ、こともwRaTH（ラース）好きでしょ？次の一緒に歌おうよ」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ん、いーよ」
　　けど他のやつらと違って、一緒に居ても疲れなかった
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「こと、歌も上手いんだから、自分で歌って動画あげればいいのに〜」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「やだよ恥ずかしい。それに、ソングロイドもあるし」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ま、「めあのん」みたいに歌上手ければ考えたけどね」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「え、ほんと？私上手い？まだ登録者２桁だけど」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「上手いよ。始めたてだし登録者数はこれから増えるって」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「えへへ、ことにそう言ってもらえるとなんか勇気出るかも」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「そうだ！ことが・・・「小鳥コト」の曲100万再生行ったら歌った動画投稿する！」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ちょ、なんで急にそうなる？ てかハードル高すぎじゃん」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「だってことだったらいつか絶対いけるもん」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「あたしももっと歌上手くなるの。ことの曲に恥ずかしくないくらいに」
哀咲姫花(あいさき　ひめか)「それであたしがことの曲歌ったらつよつよでエモいでしょ？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「はあ・・・わかったわかった。100万目指すよ」
　　最大で数万再生して喜んでるような
　　人間なのに、そんな約束までして
　　学校が面倒だとか、最近好きな新曲がどうとか
　　お互い動画を投稿してることだって打ち明けられた相手
　　めあのんは──哀咲姫花は、死んだ

〇教室
鈴喜真琴(すずき　まこと)（あー。なんで学校いるんだろ）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（昨日どうしたんだっけ・・・）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（何もできなくて、帰って。めあのんのアカウントは消えてて）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（トレンドに上がってるわみんな好き勝手いうわで）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（てか、でかいだけの底辺歌い手ってなんだよ。ひめは歌上手いよ！）
女子生徒B「ねえ、聞いた？哀咲、歌一番町で死んだって」
女子生徒A「昨日グループで共有されてたよね〜」
女子生徒B「最近学校来てなかったしね。パパ活とかしてたんじゃないの？」
女子生徒A「メンヘラってこわ〜」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「ひめは、哀咲はそんなやつじゃない！」
女子生徒B「は、なに急にキレてんの？」
女子生徒A「インキャ、キモ〜」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（まあ、そりゃそういう反応になるよね）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（普段はこんな言っても無駄なこと、わざわざ言わないのに）
四堂京(しどう　けい)「お前ら、座れ。大事な話がある」
　　担任の話も予想通りだった
　　哀咲が死んだと、深刻そうに
　　普段私たちに見向きもしないくせに
　　黙祷を捧げようだなんて
鈴喜真琴(すずき　まこと)（ひめが学校に来ないのはまあ、慣れたけど）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（もうどこにも居ない、のか──）

〇教室
四堂京(しどう　けい)「鈴喜、ちょっといいか？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「・・・なんですか？」
四堂京(しどう　けい)「鈴喜は哀咲と仲が良かっただろう？」
四堂京(しどう　けい)「いろいろ大変だとは思うんだが、ちょっと手伝ってほしいことがあってな」
四堂京(しどう　けい)「警察の事情聴取なんだが・・・」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「警察？」
四堂京(しどう　けい)「ああ、なんでも直前にLIMEでメッセージを送っていた相手だからだとか」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（あぁ、あれか）
四堂京(しどう　けい)「できたら今日の放課後がいいそうなんだが、鈴喜はいつも帰るの早いよな」
四堂京(しどう　けい)「日程の調整はある程度効くそうなんだが、受けてくれないか？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（いつも早く帰ってるのは曲作るためだけど。今は──）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（断るのも面倒だな。四堂は勢いでゴリ押す暑苦しいタイプだし）
鈴喜真琴(すずき　まこと)「特に用事とかないですし。今日の放課後でいいです」
四堂京(しどう　けい)「そうか！ありがとう、伝えておくよ」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（そういえば、whispperで言ってた裏切られたって、誰のことなんだろう）

〇校長室
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「辛谷警察署の上野です」
木下清子(きのした　せいこ)「木下です。よろしくね」
四堂京(しどう　けい)「あの、本当に僕はいなくて大丈夫なんですか？」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「ええ。デリケートな話もあるかもしれませんからな」
四堂京(しどう　けい)「分かりました。もし何かあったら事情聴取は中止してくださいね」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「もちろんです」
木下清子(きのした　せいこ)「ごめんね〜突然。あ、別に鈴喜さんを疑ってるとかってわけじゃないのよ」
木下清子(きのした　せいこ)「あまりに、その、ショッキングだったから。概要を纏めてこいって話でね」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「あー、はい」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「まあ、そんな固くならんでくれ。今から色々話を聞くが、辛かったら答えなくていいからな」

〇校長室
鈴喜真琴(すずき　まこと)（辛くないかとか、ひめとの関係とか。くだらないことばっか聞いてくるな）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（SNSで変なコミュニティとか入ってないかって、おせっかいすぎだろ）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（事情聴取って言ってるけど、まるでカウンセリングみたいな・・・）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（ま、そりゃそうか。配信までして・・・誰がどう見ても自殺）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（仮にいじめとかで追い込まれてたとしても、追い込んだやつを警察が逮捕できるわけでもない）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（警察としてはただの自殺でしかない）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（でも、じゃあなに？ ひめは死んで、私はひとりになって）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（ひめはひめのことなんも知らない奴らにメンヘラとか社会のゴミとか言われて）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（バカな少女が思い悩んで自殺しましたで終わらせられるの？）
　　推しの曲聞いていきたいな
　　裏切られたけどww
鈴喜真琴(すずき　まこと)「・・・そういえば。あの動画、曲が流れてたと思うんです」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「曲？木下、そうだったか？」
木下清子(きのした　せいこ)「ええ。現場には配信に使われたスマホ以外に、もう１台スマホがあったそうです」
木下清子(きのした　せいこ)「そのスマホは動画投稿サイトItubeから曲を流していたそうで」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「それ、それってなんの曲なんですか?!」
木下清子(きのした　せいこ)「ど、どうしたの？鈴喜さん」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「あ、あー、えっと」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（裏切った推し・・・ひめは好きなロイドpとか歌い手にのめり込むタイプだった）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（最後に聞いていきたいってことは、最後に流してた曲の作者に裏切られたってこと）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（そいつのせいでひめが死んだんじゃないの？）
鈴喜真琴(すずき　まこと)「私、あの子とよくカラオケ行ってて。もうあの子はいないけど・・・」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「最後にあの子が聞いていた大好きな曲を、私も聞きたいんです」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「そうか・・・」
木下清子(きのした　せいこ)「上野さん、資料ならありますけど。提供していいですよね？」
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「もちろんだ」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（やっぱカウンセリング優先か。やたら優しい）
木下清子(きのした　せいこ)「一応曲のリストがあるの。これよ」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「リスト、ですか？」
木下清子(きのした　せいこ)「ええ、Itubeのプレイリスト機能を使って20曲くらい流していたの」
木下清子(きのした　せいこ)「最後の曲が終わったタイミングが・・・その、あの時でね」
木下清子(きのした　せいこ)「小鳥コト、wRaTHって人の曲は複数あったわ。知ってる人だったりする？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（小鳥コトは・・・私だ）
上野孝次郎(うえの　こうじろう)「鈴喜さん？」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「あ、ああ、すみません。知ってます。二人で歌ったこともありますし」
木下清子(きのした　せいこ)「そうなの・・・」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（リストの最後は私の曲・・・最近初めて10万いったやつ）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（違う、違う私は裏切ってない！）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（でも、じゃあ誰が？リストの曲、作者バラバラだし）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（私の曲、最後に聞いてくれてたのに。止められなかった。私の曲じゃ・・・）
鈴喜真琴(すずき　まこと)「・・・」
木下清子(きのした　せいこ)「ちょっと、大丈夫？ごめんね、聞きすぎちゃったかな」
鈴喜真琴(すずき　まこと)「いえ。ちょっと、懐かしくなっちゃっただけですから。ありがとうございます」
鈴喜真琴(すずき　まこと)（・・・いや。まだ、やれることはある）
　　wRaTH
　　SEASKYS
　　夢霧ましゅ
　　TETRA TETRA
　　りぃる
鈴喜真琴(すずき　まこと)（あと何人かいるな。「最後」に聞きたい曲・・・このリストに入ってるはず）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（絶対、見つけ出す──）
鈴喜真琴(すずき　まこと)（ひめを裏切った「推し」を）