〇地下道
アリス「大丈夫だ、必ず生きて戻らせる!!」
　　アリスは、ガーディアンズが掘った地下通路を走っていた。
　　ガーディアンズのみ知る逃げ道であり、補給路でもある為、アリスは気が楽であった。
アリス「はっ・・はっ!!」
　　ミリアルをおぶりながら、アリスは急いで地下通路を進んで行く。
　　汗が額を伝って流れ、体に疲労が溜まっていくのがすぐに分かる。
ミリアル「もういいです！あなただけでも・・・!!」
アリス「うっせぇ!!誰も見捨てはしない!!」
　　ミリアルは、アリスだけでも逃げる様に促した。
　　確かにそう言いたくなる気持ちも分かる。
　　今、アリスの障害となっているのはミリアル自身だ。
　　自分が、彼女の背中から降りれば彼女の移動が楽になるのは明らかだ。
アリス「全く、そう言う事言うんじゃねぇよ・・・」
　　しかし、それでもアリスは彼女を見捨てない。
　　笑顔を絶やさずに、そっと優しく語り掛けた。
ミリアル「ごめんなさい、本当に・・・」
　　結局、アリスの背中から彼女が降りる事はなかった。

〇地下道
　　そして暫くは、何事もなく走っていたアリスであったが・・・。
アリス「い、今のは!?」
　　突如として耳に響くバイクのアイドリング音。
　　地下通路にこだまして、いつも以上に不気味に聞こえてくる。
　　味方ではない事が簡単に理解出来る。
　　後ろからは悪寒で凍り付きそうな程の恐怖が迫って来ている。
　　打開の為に、アリスは抵抗の手立てを思い付く。
アリス「クソが!!あんま使いたくねぇけど!!」
　　アリスが取り出したのは、緊急離脱用。
　　もしくは追跡から逃れる為に支給されていた煙幕弾だった。
　　名前の通り、使用すれば周囲は煙幕に覆われて何も見えなくなる爆弾だ。
　　殺傷能力は無いが、逃げる分には丁度いい代物だ。
アリス「煙でも吸っとけ!!」
　　地面に煙幕弾をアリスが投げた瞬間、周囲が煙と霧に覆われる。
　　この道は一本道なので、迷う事はない。
　　アリスは振り返らずに、只管真っすぐ直進を続ける。
　　しかし、抵抗のつもりで放った煙幕弾は無意味に等しかった。
　　煙は、直進してくるバイクに掻き消され一瞬の内に無へと帰した。
アリス「ま、マジかよ・・!!」
　　折角の抵抗も無意味に終わった事に、アリスは思わず狼狽する。
アリス「お、お前は・・・!!」
　　暗い地下道の中で排気ガスを放出し、ライトで道を照らすバイク。
　　跨っていた謎の人物は、バイクから降りてゆっくりとこちらに迫ってくる。
Robber「そう逃げないでよ・・・」
アリス「誰だ!?」
Robber「賞金稼ぎのRobberよ。夜露死苦ぅ!!」
　　バイクから降りて来た赤髪の女性。
　　間違いなく味方ではない事が理解出来る。
　　ニヤリと笑い、不敵に笑みを見せる姿は完全に味方に見せる様な表情ではなかった。
ミリアル「ば、バイクに乗る時はヘルメット被らないと・・・」
Robber「ははは、ご忠告ありがとね!!次からちゃんとやるわ〜」
　　ミリアルのあまりにも冷静な言葉にRobberは面白おかしく笑いを見せた。
　　しかしRobberは彼女の言葉では止まらない。
Robber「あんた等をサージェントに引き渡せば、たんまり報奨金が貰えんのよ。 さ、大人しく来てもらうわよ・・・」
　　そう言って彼女は懐からスタンガンを取り出す。
　　ビリビリと電気がちらつき、体に直撃すれば気を失うのは必然であった。
ミリアル「私が囮になります。アリスさんは急いで逃げて!!」
　　ミリアルがアリスに逃げる様に、と告げる。
　　自分は捕まっても良い、と言いながら。
アリス「悪いが、捕まるも逃げるもしない!! ここでお前をぶっ殺せば・・・!!」
　　そう言いながら、アリスは自分が得物とする槍を取り出す。
アリス「はぁぁぁ!!」
　　ミリアルを地面に座らせ、アリスは槍を握ってRobberに突撃する。
　　槍を武器としている分、リーチの差ならアリスに軍配が上がるのだが・・・。
アリス「なっ!!」
　　Robberは、隠していた小型のナイフを引き抜く。
　　アリスの槍による攻撃を意図も簡単に受け止め、そのまま鍔迫り合いを行う。
アリス「野郎!!」
Robber「あら？私の顔ばっかり見てていいのかしら？」
　　戦闘時でも、Robberは余裕の表情を絶やす事はない。
　　彼女は片手に握り締めたナイフだけで、アリスの槍と渡り合っている。
Robber「馬鹿ね・・・」
　　彼女の手にはまだ空きがあった。
　　右手には、アリスと渡り合う為のナイフを。
　　そして、左手には・・・。
アリス「な・・・!!」
Robber「油断大敵よ・・・」
　　全身が異常な程に痺れる。
　　全身から力が抜けていき、徐々に意識が薄れていく。
　　足に力が入らない。槍も握っていられなくなる。
アリス「や、やろ・・・・う」
　　意識が消えていく。体が徐々に衰弱して感覚も消えていく。
ガーディアンズ兵「いたぞ！」
ガーディアンズ兵「要救助者発見、すぐに救助を!!」
　　アリスの意識が消えていく中、残る意識の中で聞こえてくるのはガーディアンズ兵達の声だった。
　　恐らく救助班だろう。何十人でドタドタと走って来る音が、消えゆく意識の中ではっきりと聞こえてくるのが分かる。
Robber「残念、一人か・・まぁ・・・いいわ!!」
アリス「がはぁ!!」
　　最後に体を彼女に強く踏みつけられた瞬間、アリスの意識は完全に途絶えた。
ガーディアンズ兵「要救助者、一名発見!!」
ガーディアンズ兵「一名のみ・・・急いで治療を!!」
　　そして先に離脱していたRobberと、彼女に連れ去られたアリスの存在に気が付く者は、誰一人としていなかった・・・。

〇地下の部屋
Robber「あの時は、アンタの彼氏か誰か知らない奴に邪魔されたけど、今度はしくじらないからね・・・」
　　三年前に捕まえた時、アリスを捕らえたRobberであったが、彼女は拷問にかける寸前でアリスを逃してしまっていた。
　　しかし今回は邪魔が入る事はない。
Robber「取り敢えず、アイツらに連絡するか・・・」
　　すると、Robberは仮の拠点であるこの場所に設置されていたホログラム装置を起動させる。
Attacker「はいは〜い、Attackerだよ。 どうしたんだ、Robber？」
　　ホログラム装置によって、その場に現れたのはサージェント強襲兵であるAttackerだった。
　　その場にはいないが、ホログラムによりあたかもその場に現れた様であった。
Robber「ガーディアンズの内、一匹を捕らえた。少ししたらそっちに送るね」
Attacker「おぉ!!捕まえたの？ サンキュー!!報酬はたんまり出すから、またこっちの方来てくれよな!!」
Robber「あぁ、じゃあそっちの位置情報送ってくれるか？」
Attacker「了解、すぐに送るぜ。 じゃ、また」
　　そう言い残して、Attackerのホログラムによる姿は完全に消えた。
　　一段落ついた所で、Robberは縄によって拘束されているアリスの元に歩み寄った。
Robber「ま、そう言う事だから・・・。 アンタはもうすぐしたらサージェントの皆さんに渡される・・・」
Robber「渡されれば・・・どうなるかねぇ？」
アリス（蒼一・・・）
　　Robberの煽りに聞こえる言葉に、アリスはどうやって言い返せば良いのか分からなかった。
　　何も言い返せずに、視線を逸して無言を貫く事しか出来ない。
Robber「本当なら、欲に飢えた男共に売っぱらった方が稼げる気もしたけど・・・しょうがないか・・・」
　　嫌な言葉が無理矢理に耳を通っていく。
　　耳を塞ぎたくても塞げない。
　　腕を動かせないので、耳を塞ぐ事は出来ず。
　　聞きたくない言葉の嵐が無情にも耳の中を駆け抜けた。
Robber「あら、怖いなら泣いてもいいんだよ？」
アリス（好き勝手言いやがって・・・!!）
　　Robberの言葉に、アリスは心の中で静かに怒りを見せる。
　　随分と好き勝手に言ってくれるものなので、動けるものならさっさとコイツを吹き飛ばしてやりたいものだ。
Robber「それじゃ、ストレス発散に軽く・・・」
　　突如として、部屋のガラス張りの窓が容赦なく砕け散った。
　　二人しかいなかった静寂の空間に突如として起こった出来事。
Robber「な、何だ!?」
アリス「え、ええぇ!?」
　　夜の闇に包まれる中。
　　割れた窓から月の光が降り注いでいた。
　　雪の様にまうガラス片、空から降り注ぐ月明かりの光。
　　その窓辺には・・・。
武川蒼一郎「よぉアリス、あん時みたいに助けにきたで」
アリス「そ、蒼一!!」
　　窓を突き破って入ってきたのは、白髪の剣士である蒼一郎だったのだ。
　　いつもと変わらず、飄々とした表情を崩さず、落ち着いた声で話している。
Robber「またかよ!!しつこいわね!!」
武川蒼一郎「まぁまぁ、外道は息すんな」
　　蒼一郎は、一瞬の内にRobberとの間合いを詰めた。
　　先程までは、窓辺に立っていた蒼一郎だがRobberの立つ場所を確認するとそのまま、一瞬で距離を詰める。
Robber「な、速い!?」
武川蒼一郎「少し黙っとれ・・・」
　　まだ抜刀せず、鞘の中に収まっていた刀であったが、蒼一郎は抜刀していないにも関わらず、Robberとの間合いを詰めた。
　　そしてそのまま、鞘に納めた状態で蒼一郎はRobberの腹部を狙って鞘に刀身を収めた状態で殴打を狙おうとする。
Robber（急いで迎撃を！・・・ダメだ、間に合わない!!）
　　急いで下さい行う為に、ハッとしたRobberはすぐさまナイフを構える。
　　しかしナイフを構えた時には既に、蒼一郎は刀を振るう範囲にまで迫っていた。
Robber「ちくしょうがぁ！」
　　Robberはあの時と同じ様に、煙幕弾を取り出し、素早く地面に放り投げた。
　　再び、周囲を覆い隠す程の煙幕が発生し視界は煙に覆われる。
Robber（一旦体制を立て直さないと・・・）
　　煙幕を発生させた事で生まれた僅かな隙で、Robberは割れた窓から一目散に飛び出した。
　　そして煙が晴れた頃、蒼一郎が突入した部屋の中にはもうRobberの姿はなかった。
武川蒼一郎「アリス、しっかりせぇ・・・」
　　蒼一郎は徐に、アリスの体を縛っていた縄を解き、彼女を拘束から開放する。
アリス「蒼一、オレはまた・・・」
武川蒼一郎「いいんや別に、気にすんな・・・」
武川蒼一郎「それより・・・」
　　向かい合って話していた蒼一郎であったが、話が途切れた瞬間。
　　蒼一郎は割れた窓の方を見つめる。
武川蒼一郎「ボクは追うわ・・・。どうする？」
　　蒼一郎は窓辺を眺め、アリスに背を向けながらそう告げた。
アリス「オレも行く！」
武川蒼一郎「着いてきんさい・・・」

〇ビルの裏通り
Robber「アイツら・・・!!」
　　窓から飛び出したRobberは、乗っていたバイクを捨てて、路地裏を走っていた。
　　勢い良く窓から飛び出したまでは良かったが、まだ逃げ切れたと言う保証はない。
　　追ってくるかもしれない恐怖と、報酬を逃してしまった虚しさに、思わず打ち拉がれそうになる。
　　しかし命が消えてしまえば、全てが水の泡だ。
　　命がある分儲けもの。
　　Robberはそう自分に言い聞かせて、足を止める事はなかった。
Robber「全く、またハズレかよ・・・」
　　ブツブツと独り言を呟きながら、Robberは人気がなく誰もいない路地裏を走る。
武川蒼一郎「悪いが、逃げは許さんよ・・・」
Robber「てめぇ、また邪魔を・・・!!」
　　焦りを見せながらも、追跡を振り切って逃げようとするRobberの前に立ちはだかる蒼一郎。
　　蒼一郎に対して、Robberは自身でカスタムした専用の銃を取り出し、その銃口を蒼一郎に向ける。
Robber「当たったら痛いよ？ 貫通弾使ってるからね!!」
　　絶えず銃口を蒼一郎に向けるRobber。
　　しかし蒼一郎は、絶対に怯える事も臆する様子を見せる事はない。
　　蒼一郎はいつも通りの飄々とした雰囲気を見せ、薄ら笑いの様な表情を崩さない。
武川蒼一郎「そんなチンケなもん見せれば怖がる思とるんか？」
Robber「そう言う胡散臭い所、三年前の時から嫌いなんだよ・・・」
武川蒼一郎「そうかそうか・・・なら・・・」
　　刹那、蒼一郎は一瞬でRobberの懐に潜り込む。
　　スピードは恐ろしい程の高速だった。
　　Robberは蒼一郎の圧倒的スピードに対応が僅かに遅れる。
Robber「ぐぅ!!」
　　鞘に納められた状態の刀は、対応が僅かに遅れたRobberの体に直撃する。
　　体に直撃した事でRobberの体は後ろに飛ばされてしまい体から少量、出血していた。
武川蒼一郎「まさか今だけで殺られたなんて事ないよな？」
　　吹き飛ばされて、まだ完璧に体制を立て直す事が出来ていないRobberであったが蒼一郎は表情を崩さずRobberに近付く。
Robber「クッソ！この野郎・・・!!」
　　Robberは何とか体制を立て直し、負けじと抵抗のつもりで銃の引き金を引く。
武川蒼一郎「おや、何や今のは？」
　　しかし、まともに狙っていない状態での射撃であったが為、銃弾が命中する事はなく、鉛弾は無情にも空を切り裂いた。
　　蒼一郎に一発も弾は命中せず、蒼一郎は銃声に臆する事なくゆっくりとRobberの元に迫る。
武川蒼一郎「終わりかいな・・・？」
武川蒼一郎「じゃあ・・・！」
Robber「ぐぁぁ!!」
　　更に身に食い込むかの様な程の、手痛い一撃。
　　Robberは後ろの壁に飛ばされ、項垂れる。
Robber「がはぁ！・・・やられた！」
アリス「蒼一!!」
　　少し遅れて、着いてくると言ったアリスもRobberと蒼一郎の戦闘の場に到着した。
武川蒼一郎「おぉアリス・・終わったで」
アリス「蒼一、まさか一人で・・・」
武川蒼一郎「ああ、結構ギリギリやったんやで・・・？」
　　ギリギリとは言えないが、蒼一郎は確かにRobberに対して勝利を収めた。
　　気を失いかけているRobberを横目に、蒼一郎はどんな表情を浮かべれば良いか分からないアリスの傍に寄る。
アリス「また、誰かに頼っちまった。これは、オレが落とし前をつけなきゃならない事なのによ・・・」
　　アリスは情けなく、自責の念に一人苛まれていた。
武川蒼一郎「アリス、お前は昔から・・・一人で抱え込み過ぎや・・・」
　　一人で抱え込むアリスに、蒼一郎は優しく語り掛ける。
武川蒼一郎「もう少し、他の人を頼れ。それは別に悪い事ちゃうんや」
アリス「け、けどよ・・・今回の事だって・・・」
武川蒼一郎「お前には今『仲間』がおるやろ？」
　　全て一人で抱え込み、誰にも頼らないと言う考えを徹底しようとするアリス。
　　しかし、一人で抱え込み過ぎる事には当然無理があった。
　　だから今までの様に、悪い夢を見て、トラウマになった人物を見た時に何も出来なかった。
　　誰かに縋って、迷惑を掛けたくなかった。
　　そんな他人を傷付けない様なやり方が、アリスの心を絶えず蝕んでいた。
武川蒼一郎「別に迷惑掛けてええんや、頼ってええんや。 今のお前にはボク以外にも、シャドウやリアやグレンがおる・・・」
武川蒼一郎「ゆっくりと、話してみたらどうや？」
アリス「蒼一・・・」
　　蒼一郎の言葉に偽りは存在しないとアリスは心の中で確信する。
　　彼の話し方、立ち振る舞いから他人に頼れば良いと言う考えに間違いはないだろうと感じた。
アリス「まぁ、確かにそうだな・・・」
アリス「オレは今まで、誰にも言わなかった。言うのは駄目だと思ってた」
アリス「でも、今なら言える気がするよ、蒼一」
武川蒼一郎「なら、拠点戻って土産話みたいに話したりぃや」
アリス「あぁ、面白おかしく話してやるよ!!」
武川蒼一郎「はは、楽しみいやわ！」
　　そう言って、アリスはいつもの爽やかで美しい表情を取り戻し、蒼一郎と共に横並びになりながら、帰路へと着いた。
　　そしてこの日以降、彼女が悪夢を見る事はなくなりトラウマは嘘の様にして消え去った。

〇ビルの裏通り
Robber「してやられたわね、今回は引くか・・・」
Robber「あ、また再登場するから私の活躍お楽しみに!!」