根暗なアルファと根明なオメガ ~オフィスで見つける運命の恋~

あいざわあつこ

第五話 『人生で、ハジメテ』(脚本)

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〇オフィスのフロア
  部署の入り口に立って。
  大きく深呼吸。
  そして、気合いを入れて
  一歩を踏み出した。
羽島哉人「おっ、おはよう! ござい、ます」
  一斉に部署のみんなが僕を見る。
  その視線にたじろぎそうになるけれど、
  どうにか堪えた。
同僚1「え、誰・・・?」
同僚2「もしかして・・・羽島君!?」
  僕を遠巻きに見て、
  こそこそと話す声が聞こえる。
  嫌なこと、言われてたら
  どうしようって不安になるが、
  きっと大丈夫・・・なはず。
羽島哉人(び、美容師さんに、スタイリングの仕方、 教わったし!)
羽島哉人(朝、一時間も早く起きて 準備してきたし・・・!)
羽島哉人(うわああ・・・前髪ないと、 視界がクリアすぎて怖い)
  少しだけ足早に席につく。
  すると、ポカンとした顔のまま
  菅野君がこちらにやってきた。
菅野薫「・・・せんぱ、い? うええ、どしたんすか」
羽島哉人「い、イメチェンっていうのかな・・・ そういう感じで」
菅野薫「そ、そっすか」
  菅野君が曖昧にうなずいた、次の瞬間。
須崎部長「あれええええ! 羽島君!? うわあ、イケメンになっちゃってまあ!」
羽島哉人「わっ、ぶ、部長、おはようございます」
須崎部長「おはようございます、うんうんいいね! 顔が見えるっていいことだ!」
須崎部長「こんなにイケメンだったなんて 知らなかったよ! わはは!」
羽島哉人「あ、あはは・・・」
  須崎部長の声に紛れて、同僚たちの言葉が
  とぎれとぎれに聞こえてくる。
同僚1「や、でも・・・ほんとに」
同僚2「わかる、こんなことなら・・・なんてね」
  笑い声に、少しだけ不安になってしまう。
  ふと菅野君に視線を戻すと・・・。
菅野薫「・・・ふんっ」
  なぜだか、
  菅野君はむくれてしまっていた。
羽島哉人(えぇ・・・なんで?)

〇小さい会議室
須崎部長「えーと、それじゃあ新規顧客の獲得のため まずはどういった戦略で・・・」
  会議中に、おかしなことが起きた。
  いつもなら、僕の隣になんて
  誰も座らないのに、今日はなぜか・・・。
同僚1「羽島君、この数字って〜」
羽島哉人「え? えっと、ここの目標を 数値化してあります」
同僚2「ねえ、この新商品は〜」
羽島哉人「あ、まだ開発前で・・・ 確か、この間マーケさんが」
  僕の周りに、女の人が自ら座った。
  こんなこと、今まで一度だって
  なかったのに。
羽島哉人(な、なんで・・・? 僕は、菅野君と話したいのに)
須崎部長「それでだね、コンペに勝てば 、 そのまま関連企業を芋づる式で 新規開拓も夢じゃないと思うんだ」
羽島哉人「あ、それなんですけど──」
菅野薫「あー、その前にちょいイイっすか?」
  ぶすっとした顔の菅野君が声を上げる。
  彼は朝からなぜかずっとこの調子で、
  一日中不機嫌なままだ。
羽島哉人(それが、すごく寂しい。なんでだろう。 ・・・褒めてもらいたかったのに、なんて)
菅野薫「さっきから、目の前でイチャイチャ ベタベタしよるせいで、気が散って しゃーないんでやめてもらえます?」
菅野薫「相手が迷惑そうなん、気づかないんすか」
同僚1「なっ!?」
同僚2「それ、私達に言ってんの?」
羽島哉人「あっ、え!? か、菅野君?」
菅野薫「自覚あるんなら、今すぐやめえや」
菅野薫「今まで見向きもせんかったくせに 見苦しいわ」
同僚1「ちょっと、それどういう!」
須崎部長「ま、まあまあ、 さすがに言い過ぎじゃ・・・」
菅野薫「言い過ぎちゃうわ!」
菅野薫「アホみたいに先輩に まとわりつきやがって!」
羽島哉人「あ・・・っ」
  ふわっと鼻先をかすめる甘い香り。
  これは以前にも嗅いだことがある・・・
  理性を揺らがせる、あの香りだ。
同僚1「なに、この匂い」
同僚2「・・・体が」
須崎部長「か、菅野君、きみ・・・」
菅野薫「俺は! 先輩のことそんなふうにちょろい 目で見られんのは我慢ならないんや!」
菅野薫「好いてもええけど、ちゃんと中身で 評価せえや・・・って・・・っ」
羽島哉人「!?」
  ぐらりと、菅野君の頭がゆらぐ。
  そのまま、彼は机に突っ伏す形で
  息を荒らげた。
菅野薫「はあっ、はあ・・・まずっ、なんで、俺」
同僚1「いい匂い、菅野君・・・」
同僚2「菅野君、菅野君」
羽島哉人(まずい・・・!)
  本来ならば、フェロモンに
  左右されないはずのベータ。
  そのはずなのに、彼らさえ
  魅了されてしまっている。
  もちろん、僕自身も鼓動が早鐘を打ち、
  相当に息苦しい。
羽島哉人(けど、僕がここで頑張れなかったら・・・)
  不本意なことが起きてしまうかも
  しれない。
  ――そう考えた瞬間、
  背筋に冷たいものが走った。
菅野薫「せん、ぱい?」
羽島哉人「じ、じっとしてて?」
  慌てて菅野君を抱きかかえる。
  いや、半ば引きずるような格好かも
  しれないけれど・・・。
  そのまま、僕は会議室を飛び出した。

〇ビルの屋上
羽島哉人(と、とりあえず、屋外なら・・・まだっ)
  密閉空間よりは、幾分楽になったが
  それでもまだ胸の鼓動は早いまま。
羽島哉人(一瞬でも気を抜いたら・・・ 触れたく、なっちゃう)
羽島哉人(って、我慢、我慢我慢我慢!)
  だが、当の菅野君は
  一向に良くなってこない。
  相変わらず、真っ赤な顔で
  苦しそうに息をしている。
羽島哉人「か、菅野君? 抑制剤は、持ってきてないの?」

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