第一話 深淵の奥底(脚本)
〇黒背景
マナツ──
私のそばに ずっといて
なにがあっても 離れないで
約束・・・だよ?
君は・・・
ヤクソク ダヨ?
〇教室
時任真夏「はぁっ、はぁっ・・・」
磯山先生「時任、寝るのは構わないが まわりに迷惑かけないようにな」
時任真夏「す、すみません」
三浦春人「真夏〜急に大声出すなよ〜 びっくりしただろ?」
雪野涼菜「ふふっ、悪い夢でも見たの?」
時任真夏「うん・・・」
三浦春人「授業中居眠りなんかするからだろ」
雪野涼菜「真夏はバイトで疲れてるの。 仕方ないでしょ?」
磯山先生「おいそこ、うるさいぞー」
雪野涼菜「春人のせいで怒られたっ!」
三浦春人「フン」
時任真夏(なんだったんだ あの化け物・・・)
時任真夏(思い出すだけでもゾッとする)
時任真夏(でも、なんだろう)
時任真夏(すごく・・・悲しそうだった)
〇学校の校舎
〇教室
雪野涼菜「・・・」
時任真夏「涼菜、今日練習だっけ?」
雪野涼菜「そうだよ。 本当は行きたくないんだけどね〜」
時任真夏「そういうなよ。 演劇部の先輩、みんな優しいんだろ?」
雪野涼菜「優しいよ〜。 オトコの先輩はねっ!」
時任真夏「あー・・・」
時任真夏「待ってるから、終わったらLIMEで連絡して」
雪野涼菜「うん!いつもごめんね」
加藤七緒「ねぇねぇ時任くん」
時任真夏「ん?」
加藤七緒「放課後空いてる? みんなでカラオケ行こうって話してるんだけど・・・」
時任真夏「あーええっと・・・」
時任真夏「ごめん、今日は無理だ」
加藤七緒「えーまたぁ?」
加藤七緒「時任くん、この前も来なかったよね?」
時任真夏「本当にごめん! 今日は先約があって・・・」
加藤七緒「あー、いいよいいよ。 また今度誘うね〜」
雪野涼菜「私なんて放っておいて、 行ってくればよかったのに」
時任真夏「そんなわけいかないだろ。 涼菜と先に帰る約束してたし」
雪野涼菜「私はひとりでも大丈夫だよ?」
時任真夏「お前のことが心配なんだよ」
雪野涼菜「真夏・・・」
雪野涼菜「ありがと」
〇川沿いの道
三浦春人「よ!おふたりさん!」
時任真夏「春人・・・ 今日サッカー部の練習じゃなかったっけ」
時任真夏「いつもより終わるの早くない?」
三浦春人「あさって練習試合だからさ、先輩たちが 今日と明日は早く帰って休んどけってさ」
三浦春人「なんせ俺は、サッカー部期待のルーキーだからな!」
雪野涼菜「なーにが期待のルーキーよ。 邪魔だから早く帰らせただけでしょ」
三浦春人「くっ、なんだと・・・」
時任真夏「まぁまぁ、ふたりとも」
雪野涼菜「あーあ! せっかく真夏と2人きりだったのに」
三浦春人「へいへい、どうせ俺は邪魔者ですよ」
三浦春人「てか、お前はまた涼菜の部活が終わるの待ってたのかよ?」
時任真夏「うん。今日はバイトないから」
三浦春人「お前は本当に・・・ 保護者じゃないんだから」
三浦春人「もう高校生なんだし、ふたりともそんなんじゃいつまでもたっても恋人できないぞ?」
雪野涼菜「真夏は彼女がほしい?」
時任真夏「え? うーん・・・考えたことなかったな」
三浦春人「お前それでも男子高生かよ」
雪野涼菜「私は真夏が彼氏だったら嬉しいな」
時任真夏「へ?」
三浦春人「・・・」
雪野涼菜「えへへ、冗談だよ〜」
雪野涼菜「あれ、信じちゃった?」
時任真夏「・・・からかうなよ」
三浦春人「そうだぞ涼菜。 真夏は純粋無垢なんだから、冗談言っちゃいけません」
雪野涼菜「はーい」
雪野涼菜(ほんと、かわいい)
雪野涼菜(いつまでも変わらないでいてね──)
〇学校の校舎
〇教室
時任真夏「おはよー」
川嶋良太「ふたりともおはよー」
武田サトル「なぁ、あのふたりっていつも一緒にいるよな」
川嶋良太「ああ、幼馴染らしいよ」
武田サトル「はぁ〜。 俺、雪野さん狙ってるのになぁ」
武田サトル「時任のせいで入る隙がまったくないぜ」
黒霧俊太「雪野さんはやめとけ」
武田サトル「なんでだよ?」
黒霧俊太「女子たちの話じゃ、かなり性格歪んでるらしいぜ」
武田サトル「どうせ僻みだろ?」
武田サトル「俺としては、可愛ければなんも問題ないけどね〜」
武田サトル「はぁ・・・ まじで時任消えてくんねぇかな〜」
武田サトル「うわっ!」
雪野涼菜「真夏がどうかした?」
武田サトル「な、ななななんでもないよ」
雪野涼菜「ほんとに?」
武田サトル「ほんとだよ」
雪野涼菜「・・・・・・」
雪野涼菜「それならいいんだけど」
黒霧俊太「な、なんか雪野さん・・・ いつもとキャラ違くなかった?」
武田サトル「いや、きっと気のせいだ」
黒霧俊太「・・・・・・」
武田サトル「時任のことを悪く言うのは、 もうやめておこう・・・」
時任真夏「涼菜、なんかあった?」
雪野涼菜「うるさいハエがいたから、黙らせてきただけだよ」
時任真夏「・・・?」
磯山先生「HR始めるぞー 席つけー」
磯山先生「早速だが、今日はみんなに転校生を紹介する」
転校生?
新学期始まってまだ2ヶ月も経ってないのに?
どんな子なんだろー
磯山先生「秋山ー」
秋山陽月「・・・」
うわ・・・すげぇ美人
雪野さんといい勝負じゃない?
磯山先生「ほらほら静かにー」
磯山先生「秋山、自己紹介してくれるか?」
秋山陽月「秋山陽月です」
秋山陽月「一年遅れて入学したので、みなさんと年齢は違いますがよろしくお願いします」
一年遅れて・・・?
なんで・・・?
磯山先生「秋山・・・そのことは話さなくていいってさっき先生と話したよな?」
秋山陽月「隠す必要がないと思ったので」
磯山先生「・・・」
磯山先生「まぁお前がそういうならいい」
磯山先生「じゃ、席は・・・」
磯山先生「雪野の前だな」
秋山陽月「・・・」
時任真夏(俺を・・・見てる?)
雪野涼菜「秋山さん、よろしくね。 私は雪野涼菜!」
秋山陽月「よろしくお願いします」
雪野涼菜「ふふ、なんで敬語なのー? 私より一個上なんでしょ?」
雪野涼菜「タメ口でいいよ!」
秋山陽月「わかった」
三浦春人「俺 三浦春人!よろしくねー」
雪野涼菜「あ、こいつには気をつけて。 老若男女問わず口説くような奴だから」
三浦春人「おい、誤解を招くようなこと言うな!」
三浦春人「なぁ、真夏ー」
時任真夏「はは・・・」
秋山陽月「・・・」
時任真夏「あ、俺 時任真夏っていいます」
時任真夏「よろしく」
秋山陽月「よろし──」
雪野涼菜「ねぇ秋山さん! 今日一緒にお昼食べようよ」
三浦春人「あ、俺も一緒に・・・」
雪野涼菜「だーめ!あんたがいると 秋山さんとゆっくり話せないでしょ」
三浦春人「く〜・・・ 真夏は俺と食べような」
時任真夏「う、うん」
〇高い屋上
三浦春人「いいよなぁお前は。 毎日弁当作ってくれる人がいて」
時任真夏「大変だから俺の分はいいって言ってるんだけどね」
三浦春人「はいはい、惚気はヨソでしろ〜」
三浦春人「てか、驚いたよな〜。 人間嫌いの涼菜が、女子と昼飯食べるなんて」
時任真夏「俺はちょっと安心したよ」
時任真夏「涼菜の味方がひとりでも増えたほうがいいから」
三浦春人「お前・・・」
三浦春人「ほんといいやつだな」
〇学園内のベンチ
雪野涼菜「嬉しいなー!」
雪野涼菜「いつもは真夏と春人と一緒にお昼食べるから」
雪野涼菜「女の子と食べるなんて久しぶりだよ」
秋山陽月「雪野さんは、時任くんたちと仲がいいんだね」
雪野涼菜「涼菜でいいよー。 私も陽月ちゃんって呼ぶから」
雪野涼菜「あいつらはね、私の幼馴染なの」
雪野涼菜「小学校からずっと一緒で、家も近いんだ」
秋山陽月「そうなんだ」
秋山陽月「なんか、羨ましいな」
雪野涼菜「陽月ちゃんは、なんで一年遅れて入学したの?」
秋山陽月「入院してて、先月退院したばかりなの」
雪野涼菜「そうだったんだ・・・」
雪野涼菜「・・・」
雪野涼菜「実はね、私も小さい頃から病弱なんだ」
秋山陽月「そうなの?」
雪野涼菜「うん・・・ 捻挫、骨折、病気・・・何回したことやら」
雪野涼菜「それが原因で、いじめられたこともあってさ・・・」
雪野涼菜「死にたいって思ったことも、何度かあった」
秋山陽月「・・・」
雪野涼菜「でもね、そんな時私を救ってくれたのは真夏だったの」
雪野涼菜「不安で眠れない時、辛くてご飯が喉に通らない時・・・」
雪野涼菜「真夏はいつも私のそばにいて、 励ましてくれた」
雪野涼菜「真夏は、私のヒーローなの」
秋山陽月「・・・そう」
秋山陽月「涼菜にとって、時任くんは大切な存在なんだね」
雪野涼菜「え?う、うん・・・」
雪野涼菜「私の・・・大好きな人だよ」
〇学校の校舎
〇教室
雪野涼菜「真夏ー帰ろ!」
時任真夏「うん」
時任真夏「あ、秋山さんも・・・一緒に帰る?」
秋山陽月「え?」
三浦春人「おーいいじゃんいいじゃん! あっきーも一緒かえろ!」
雪野涼菜「ちょっと、なにその呼び名・・・」
雪野涼菜「てか、春人 あんたは誘ってないんだけど」
三浦春人「ガーン・・・」
雪野涼菜「いきなりごめんね? 嫌だったら断っていいからね」
秋山陽月「・・・」
秋山陽月「嫌じゃないよ」
〇川沿いの道
三浦春人「へ〜! あっきーって百合ヶ丘中出身なんだ!」
雪野涼菜「有名なの?」
三浦春人「俺の妹がその学校に通ってるんだよ」
雪野涼菜「へー、知らなかった」
三浦春人「いやこの前言ったから。 お前それでも俺の幼馴染?」
雪野涼菜「真夏にしか興味ないもん」
三浦春人「真夏以外の人間にも興味を示せ!」
雪野涼菜「陽月ちゃんには興味あるよ?」
雪野涼菜「色白で可愛くていい匂いがするんだもん」
雪野涼菜「あれ?胸も結構おおきい〜!」
時任真夏「・・・!」
秋山陽月「ちょ、ちょっと雪野さん・・・」
雪野涼菜「だーかーらー 涼菜でいいって」
秋山陽月「もう・・・」
三浦春人「あっきー気をつけてな〜 こいつマジでめんどい奴だから」
雪野涼菜「あんたに言われたくない」
三浦春人「なにおう!?」
時任真夏「はい、喧嘩はやめ!」
時任真夏「ごめんね。 このふたり、いつもこんな感じなんだ」
秋山陽月「仲がいいんだね」
時任真夏「喧嘩するほどね」
雪野涼菜「・・・」
雪野涼菜「真夏ー!今日夕飯食べに行っていい?」
時任真夏「え?どうしたんだよ突然・・・ 今日じいちゃんいるだろ?」
雪野涼菜「今日は真夏の家でご飯が食べたいの」
時任真夏「いいけど・・・」
雪野涼菜「やったー! おじいには私から連絡しとくから♪」
秋山陽月「・・・」
秋山陽月「じゃあ、私はこっちだから」
三浦春人「俺たちの家と反対方向なんだな」
三浦春人「また明日」
時任真夏「気をつけてね」
雪野涼菜「ばいばーい!」
秋山陽月「・・・・・・」
秋山陽月「時任真夏・・・」
一見普通の人間に見えるけど・・・
微かな魔力を感じる
もし彼が、タルタロスなら・・・
私を陥れ、大切な人を殺した”マゴス”なら・・・
秋山陽月「私は彼を、殺さなければならない──」
出出しの演出が見事で物語にすっと引き込まれました。穏やかに展開していく日常の中で雪野が時折見せる狂気、そして秋月の登場で動く物語に、最期の気になる引き……どれを取ってもハイレベルで実に見事でした!これはすごい……。
ごく普通の高校生の日常描写と、冒頭とラストシーンの雰囲気とのギャップがすごいですね。タルタロスやマゴスといったギリシャ神話や魔法世界の世界観と主人公と仲間たちの関係性がどのように交錯していくのか、興味津々です。かなりの長編大作になるような予感がします。