ゲーム小説の書き方講座

坂井とーが

3限目 あなたの小説をもっと面白くする方法①(脚本)

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〇講義室
  ※『おもしろい』の定義は、作品のジャンルによっても異なります。この章でNGとした設定を悪いと断定する意図はありません。
蕾太「先生、宿題の小説持ってきたぞ! ハラハラドキドキの学園物だ!」
小雪「ふむ。あらすじは──」
  『主人公は高校3年生までにテストで80点取らないと、先生にすごく怒られることになった
  だから、一生懸命勉強して、テストで80点取ることに成功する』
小雪「・・・・・・」
小雪「つまらない! 読みたくない!」
小雪「なんとかゼミから届くマンガか!?」
蕾太「いや、なんとかゼミのマンガはわるくないでしょ!? なんとなく、読んじゃうし!」
小雪「まあな。教材の販促のためのマンガとしては優れている」
小雪「だが、君が書くべきは、もっとおもしろい小説なのだよ」
蕾太「でもさ、そんなのどうやったら書けるんだ?」
小雪「そのためのテクニックを、これから伝授しよう」

〇講義室
小雪「では、あらすじを最初から見ていこう。 『主人公は高校3年生までに』」
小雪「――期限が長い!」
蕾太「はい!?」
小雪「制限時間が年単位とは、悠長だな。 これでは、物語に緊迫感が出ない」
小雪「その制限時間を、爆弾の起爆時間に置き換えてみたまえ」
小雪「3分後に爆発する爆弾なら、物語の中に危機感を演出できる。だが、あと2年は爆発しない爆弾など、ただの置物だ」
蕾太「たしかに・・・」
小雪「物語をおもしろくするには、効果的な時間制限を設けることだよ」
小雪「数年後のテストなら、なんとかなる気がする。今すぐ猛勉強を始める必要もなく、いまいち緊迫感が出ない」
小雪「だが、テストが24時間後なら、どうだ?」
蕾太「24時間!? ヤバッ! 24時間後に大事なテストなんかあったら、大変だ!」
小雪「焦るだろう」
小雪「『今すぐ手を打たなければ、間に合わない!』」
小雪「このような切迫感は、人間の感情を昂ぶらせる」
蕾太「たしかに!」
小雪「というわけで、問題のテストは24時間後だ」
小雪「これで主人公はもう、本筋をそれて退屈な日常を送っている暇はなくなった」
蕾太「じゃあ、主人公が勉強をしようと思いながらもついついサボってマンガを読み始めたシーンは、カットしないと!」
小雪「・・・リアルだな」
蕾太「まあいい、次だ。 『テストで80点取らないと、』」
小雪「――目標が低い!」
蕾太「ええ!? いや、80点は難しいよ!?」
小雪「人によってはそうだろうな。 だが、高校のテストで80点を取れる人は大勢いる」
小雪「定期テストなら、必死で勉強すれば決して不可能な点数ではないだろう」
小雪「目標にするなら、100点以外ありえない」
蕾太「いや、それは無理だろ!」
小雪「あたりまえだ。 主人公が『実現可能そうな目標』を達成して、何がおもしろい」
小雪「不可能なことに挑戦するからこそ、ハラハラしながら見ていられるのだ」
小雪「失敗の確立を上げろ。主人公は最後に成功するかもしれないし、失敗するかもしれない」
小雪「成功への期待と、失敗への不安。 その間を揺れ動く感情が、読者を物語に惹きつける」
小雪「たとえば 英才教育を受けたエリートがT大に行く話は、立派ではあるがおもしろい物語ではない」
小雪「成績ビリの落ちこぼれがT大合格を成し遂げるからこそ、おもしろい物語として成立しているのだ」
蕾太「じゃあ、主人公をクラスで一番勉強のできない奴にしろってこと!?」
蕾太「そいつが100点。 ・・・・・・無理だ。 俺だったら諦めて寝る」
小雪「逃げられないぞ。主人公だからな」
蕾太「え?」
小雪「主人公はどんなことがあっても、物語から逃げられない。主人公が逃げたら、その物語は終わってしまうのだから」
小雪「『俺は諦める。毎日だらだら過ごすんだ』 小説の後半で主人公がずっと寝ていたら、物語は破綻だ」
小雪「だから、物語には主人公が逃げ出せないための構造が必要だ」
蕾太「逃げ出せない構造か」
小雪「立ち向かうしか方法がないから、主人公は必死になって抗うのだ」
小雪「たとえばそれは、どこまでも追いかけてくる怪物」
小雪「脱出不能の危険な迷宮。 家族や大切な人に迫る危機」
小雪「主人公が逃げ出せば、きっと、もっと酷いことになる」
小雪「だから、○○点取れなければ『先生にすごく怒られる』では」
小雪「――代償が小さい!」
小雪「ミッションに失敗した主人公が何も失わないのであれば、主人公は簡単に物語から降りられる」
小雪「失敗しても問題のない状況で、ハラハラドキドキはしないだろう」
小雪「主人公が失敗したときの代償は、大きいほど効果的だ」
小雪「たとえば、『死』」
蕾太「死!?」
小雪「そうだ。 目標を達成できなかったときにすべてを失うのでなければ、その物語はまだ甘い」
小雪「それくらい、主人公を追い込むのだ」
小雪「面白い物語というのは、主人公に対して残酷なものだ」
小雪「目標が簡単に達成できるようではいけない。主人公が苦しめば苦しむほど、物語はおもしろくなるのだから」
蕾太「・・・なんだか、心苦しいな」
小雪「手加減してはならない。作者は、主人公に最も恨まれる人間にならなければ」

〇講義室
小雪「さて。 これで、物語の前提部分は出来上がった」
  修正前→『主人公は高校3年生までにテストで80点取らないと、先生にすごく怒られることになった』
  修正後→『クラスの落ちこぼれが、24時間後のテストで100点取れなければ、死ぬ』
小雪「うむ。さっきよりはマシになったな」
蕾太「でも、執筆の難易度は跳ね上がったぞ。 いったいどうやって続きを考えればいいのか・・・」

次のエピソード:4限目 あなたの小説をもっと面白くする方法②

コメント

  • めちゃめちゃわかりやすいです!
    主人公の目標の達成への動機づけが目標達成できなければ大きな代償を払わないといけない、という……。参考になります!

  • 「枷を意識しろ」という教えを聞いたことはあるのですがイマイチ理解・実現できていなかったので、わかりやすい具体例がありがたいです。
    「主人公をできるだけ苦しめろ」というのもよく聞きます。枷と通じるところがありそうに感じました。

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