第7話 届け、初めての歌(脚本)
〇テレビスタジオ
MC「じゃあ、お二人には自己紹介をしてもらいましょう!!」
四宮 夏樹「『オレンジ芸能プロダクション』から来ました『ヴァイスキルト』のナツキです」
神埼 咲「サ、サクヤです!! 皆さん、本日はよろしくお願いします!!」
MC「それではさっそく歌ってもらいましょう!! 『ヴァイスキルト』で『陽だまりの中で笑う』!!」
〇テレビスタジオ
神埼 咲(大丈夫、大丈夫・・・ 隣には四宮君もいる)
神埼 咲(私は、一人じゃない!!)
神埼 咲「すぅ──」
神埼 咲「♪~」
神埼 咲(私、今歌えてる!! 歌えるんだ、歌っていいんだ!!)
四宮 夏樹「♪~」
「♪~」
逆井 拓(どうして、どうしてだ!! お前がいる場所はここじゃないだろ!?)
逆井 拓(その歌声、その表情──)
逆井 拓(俺達だけに向けるものだろ!?)
神埼 咲(この緊張さえ、心地いい。 私の歌をもっともっと──)
逆井 拓(やめろ、これ以上は──)
神埼 咲(もっと──)
逆井 拓(やめてくれ──)
神埼 咲(もっと歌いたい!!)
神埼 咲「♪~」
逆井 拓「さ・・・」
逆井 雪「落ち着け、撮影中だぞ」
逆井 拓「ッ!」
逆井 雪「今は耐えろ」
逆井 拓「・・・わかった」
逆井 雪(咲・・・)
逆井 雪(俺達の歌姫──)
〇テレビスタジオ
MC「ありがとうございました!! 二人とも綺麗な声ですね、これはデビューが楽しみです!!」
MC「私もさっそくファンになっちゃいましたよ!!」
四宮 夏樹「ありがとうございます。 そういってもらえると俺達も嬉しいです」
MC「以上『ヴァイスキルト』のお二人でした!!」
「ありがとうございました!!」
〇コンサートの控室
四宮 夏樹「お疲れ!! 大成功じゃん!!」
神埼 咲「よ、良かったぁぁぁぁ・・・」
控え室に戻り、力が抜けたのか思わずその場に座り込んだ。
四宮 夏樹「そんなに不安だった?」
神埼 咲「不安だったよ。 でも──」
神埼 咲「四宮君が居てくれたから歌いきれたんだよ」
四宮 夏樹「神埼さんってさらっと恥ずかしいこと言うね」
四宮 夏樹「あと、さ・・・ 四宮君って言うの辞めない?」
四宮 夏樹「同じユニットなんだしさ・・・。 ナツキって呼んでよ」
神埼 咲「い、いいの!?」
四宮 夏樹「いいに決まってるだろ?」
神埼 咲「ナツキ君!!」
四宮 夏樹「君か・・・ まあいいか」
四宮 夏樹「サク。 これからもよろしくな」
目の前に差し出された手を私は強く握り返した。
神埼 咲「こちらこそ、改めてよろしくね!!」
私達はしばらくお互いに握手をしたまま笑いあった。
〇コンサートの控室
神埼 咲「そうだ!! 私、行きたいところがあったんだった」
四宮 夏樹「え?」
神埼 咲「ナツキ君も一緒に来て欲しいな。 二人に紹介したいから!!」
四宮 夏樹「ああ、なるほど。 いいよ。俺も挨拶に行きたかったし」
〇コンサートの控室
ガンッ
部屋中には壁に何かを強くぶつけた音が響き渡った。
逆井 拓「ふざけんなよ!! 何で咲が歌ってんだよ!?」
逆井 拓「おかしいだろ!? 何でだ、何でだよ!!」
逆井 雪「・・・・・・」
逆井 拓「何でずっと黙ってんだよ。 雪は嫌じゃないのかよ!?」
逆井 拓「咲が人前で歌ってんだぞ!? 今日はスタッフや他のグループだけしかいなかったが、あの歌声が世間に出るんだぞ!?」
逆井 拓「耐えられるのか!? 俺らが何年も守ってきたもんだろ!?」
逆井 雪「拓」
突然、目の前には握りしめすぎて血だらけになった手が差し出された。
逆井 拓「おまえ、それ・・・」
逆井 雪「あの瞬間、俺がどれだけの思いで耐えていたかわかるだろ?」
逆井 雪「俺が、どれだけあいつの歌が──いや、あいつが好きかも知ってるだろ!?」
逆井 雪「叫んでどうにかなるのか!? 物にあたって、なんとかなるのか!?」
逆井 拓「・・・・・・ごめん」
逆井 雪「いや、俺も言い過ぎた。 お前も同じ気持ちなのに」
逆井 拓「ああ。 俺も咲が大好きだ」
逆井 拓「だからこそ、どうしていいかわかんねぇよ・・・」
逆井 雪「・・・そうだな」
コンコンッ
逆井 拓「こんなときに誰だよ」
逆井 雪「俺が出る。 はい、今開けます」
ガチャッ
神埼 咲「拓君、雪君!!」
逆井 雪「咲!? おまえ、どうしたんだよ」
逆井 拓「咲!?」