エピソード1(脚本)
〇オフィスのフロア
私にはいわゆる「霊感」というやつがある
だから、
ビルの8階の窓を叩かれても特に驚きはしなかった
午後十時過ぎ
ひとりで残業をしていた私は窓に視線をやる
細めに開いたブラインド
窓に逆さまになった人間が張りついている
私はすぐにパソコンに視線を戻す
幽霊なんて別に珍しくない
足が折れたままジョギングする男、エプロン姿で包丁を持った女──
さっきコンビニに行ったときも何人も見かけた
幽霊は理解不能な行動をするが
生きてる人間だって理解不能な行動をする
霊感があるせいで人並み以上にそういったものを見せられて疲れる
私「しつこいな──」
こんなに熱心にアピールしてくる幽霊は珍しい
幽霊「──か」
私「え?」
幽霊が声を発している
そんなことは初めてだった
窓に近づき、耳を澄ましてみる
すると
幽霊「────ろげにでんだいか」
私「いや、なんだよ」
意味不明の言葉
ただ、どこか普通の幽霊とは違う気がした
私はブラインドを完全に開けてみる
すると、窓の上に張りついた女と目があった
私「────!!!?」
私は愕然とした
そこに張りついていたのは
私自身だった
私「な、何で──」
私「ろげにでんだいか」
もう一人の「私」は血だらけのまま意味不明の言葉を繰り返す
血だらけの手で窓を叩く
私はそこであることに気づいた
「私」の手首には私と全く同じ腕時計がはめられている
私は自分の腕時計と見比べる
「私」がはめている腕時計は割れて、私の腕時計より数分早い
そして、秒針は反対方向に進んでいた
私は少しの間、呆然と立ち尽くす
私「────────!!!!」
そして、あることに気づき
急いでオフィスを出る
あれは未来の私だ
どうやったかは私自身分からないが、過去の私を助けようと時間を逆行してきたようだ
ただ、少々そのせいで分かりにくくなっていた
ろげにでんだいか──
反対から読むと「かいだんでにげろ」
オフィス前のエレベーターに目をやると
こんな時間にエレベーターで誰かがあがってきている
私「────!!!!」
腕時計の時刻まであと一分
私は急いで階段の方へと走り出す
「私」は何かの布切れを握っていた
そこには花柄の模様が見えた
あれは先ほどコンビニにいったときに見た幽霊が着ていたエプロンの女──
もとい人間のものだった
まさか生身の人間がそんなことをするとは思わず勘違いしてしまった
理解不能なことをするのは
生きた人間も同じだと分かっていたはずなのに
背後でかすかにエレベーターの開く音がする
私は生まれて初めて自分の霊感に感謝しながら階段を降りていった。
自分の幽霊に助けられたのはいいけれど、あの窓にぶら下がっていた自分の幽霊はどこからきたのか。タイムパラドクスの後味の悪さが恐怖感を増幅させます。いずれにしろ生きている人間の狂気と凶器に勝る怖さは無いですね。
階段でにげろ!、以外とすぐに気付けたので、彼女に危機が迫っているのを感じ、とても臨場感を味わえました。どうか上手くすり抜けていてほしいです。
恐ろしいサスペンスでしたね。
にげられて良かったです😱