早瀬くんは人体模型

せんぶり

❶Sole Survivor(脚本)

早瀬くんは人体模型

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〇黒
  人間の身体をバラバラにする理由──
  そうする事で興奮を覚えるから?
  存分に恨みを晴らすため?
  死体の身元を隠したい?
  ──今回はコンパクトにして運びやすくするため
  でも僕の場合は
  バラバラにされてる側なんだけど
  そして
  そもそも人間でもない

〇黒背景

〇事務所
兄貴「何だ?」
組員「バイク便なんすけど」
組員「差出人不明なんすよ」
兄貴「どーせ組長のお楽しみグッズだろ」
兄貴「その辺に置いとけ」
組員「うす」
兄貴「で、あの女どうした?」
組員「しっかり働かせてますよ」
兄貴「また逃げねぇだろうな?」
組員「へい、相当痛めつけたんで!」
兄貴「やっぱ体に教え込まねぇと──」
組員「どうしたんすか兄貴──」
組員「な、何だテメェ!」
組員「どうやって入りやがった!?」
早瀬ハル「どうやってって」
早瀬ハル「アナタが運び入れてくれたんじゃないですか」
組員「はぁ!?」
兄貴「おい兄ちゃん」
兄貴「配信者か何かかい?」
兄貴「どこにカメラ隠してる?」
兄貴「最近の若いモンは怖いもの知らずだねぇ」
兄貴「極道おちょくってタダで帰れると思うんじゃねーぞ!」
早瀬ハル「極道?」
早瀬ハル「女性をいたぶる変態サークルの間違いでは?」
組員「テメェぶっ殺す!」
兄貴「そこを一歩も動くんじゃねぇぞ」
早瀬ハル「わかりました」
早瀬ハル「棒立ちは得意なんです」
早瀬ハル(だって)
  人体模型ですから
早瀬ハル「ちゃんと体に教え込まないとね」

〇黒
  僕の名前は早瀬ハル
  さっき言った通り
  人体模型です

〇渋谷のスクランブル交差点
  訳あって
  人間の姿で悪い人たちを殺しています
  殺人には少し慣れたけど
  人間の暮らしにはまだまだ慣れません

〇渋谷のスクランブル交差点

〇渋谷のスクランブル交差点
  今のはフォークダンスでしょうか?
  ずっと学校にいたので外の世界は分からない事ばかりです

〇ハチ公前
タカオ・ルナクレシェンテ「どーもぉ!」
タカオ・ルナクレシェンテ「タカオ・ルナクレシェンテでーす!」
タカオ・ルナクレシェンテ「聴いてください!」
早瀬ハル(なんだろう、あの人)
タカオ・ルナクレシェンテ「クソッたれな世界に堕とされ」
タカオ・ルナクレシェンテ「傷つき足掻く僕たちは」
タカオ・ルナクレシェンテ「どこから来て」
タカオ・ルナクレシェンテ「どこへ行くのか」
タカオ・ルナクレシェンテ「Woohoo~」
  どこから来て
  どこへ行く

〇学校の屋上
  ──三ヶ月前
  ある生徒が学校の屋上から飛び降りた
「待てよ」
君島カオリ「また邪魔しに来たの?」
???「邪魔?」
???「飛び降りようとする人間を止めるのは善良な市民の務めだろ?」
君島カオリ「何が善良な市民よ」
君島カオリ「人を苦しめる悪魔でしょ」
君島カオリ「私はもうこの衝動を抑えるのに疲れたの!」
君島カオリ「いい加減終わりにさせて」
???「それは無理な相談だな」
???「お前の魂は特別だ」
???「手首を切ろうが、首を吊ろうが」
???「毒を飲もうが、病気になろうが」
???「俺が死なせない」
君島カオリ「あっそ」
君島カオリ「じゃあ私は好きにさせてもらうから」
君島カオリ「あ、そうだ」
君島カオリ「なんで飛び降りる人間は靴を脱ぐか、知ってる?」
???「え?」
君島カオリ「長生きしてるクセに知らないんだ」
???「なっ!」
???「し、知ってるつーの!」
???「ガキが大人を舐めやがって」
???「待ってろ、今思い出すから」
???(えーっと)
???(お、動画があるぞ!)

〇テレビスタジオ
マナー講師「靴を履いて自殺を図るのは、それが天国行きであろうと地獄行きであろうと、先方に土足で踏み入る行為ですので失礼にあたります」
マナー講師「グッドマナーでレッツフライ!」

〇学校の屋上
???(何だこりゃ!)
???「待てよ~」
???「あと少しで思い出せそ──」
???「って、おい!」

〇黒

〇教室の外
???「たまげたなコリャ」
???「落下してぶつかった拍子に」
???「魂の一部が分離してコイツに宿ったのか」
  え、僕の事ですか?
???「あぁ、待ってろ」
???「話せるようにしてやるよ」
???「どうだい」
???「自由を手に入れた気分は」
???「人体模型くん?」
早瀬ハル「変な、感じです」
???「だろうな!」
???「俺も長年生きてるけどこんなの初めてだよ」
???「あぁコイツは」
???「お前の産みの親みたいなモンだ」
???「で、今日から俺が育ての親!」
???「詳しい事は後で説明してやるよ」
君島カオリ「・・・」
君島カオリ「逃げるわよ!」
早瀬ハル「え?」
君島カオリ「いいから来て!」
???「無事だったか」
???「相変わらず悪運が強いね」

〇まっすぐの廊下
早瀬ハル「何で逃げるんですか?」
君島カオリ「アイツは危険だからよ!」
君島カオリ「ところでアナタ」
君島カオリ「本当に人体模型?」
君島カオリ「文化祭のお化け屋敷で」
君島カオリ「服を着させられて飾られてた、あの?」
早瀬ハル「はい」
早瀬ハル「その後あのゴミ捨て場に運ばれました」
君島カオリ「そ、それは気の毒に」
君島カオリ「ここに隠れましょう!」

〇理科室
早瀬ハル「あ!」
早瀬ハル「この実家のような安心感は」
早瀬ハル「やっぱり理科室だ」
早瀬ハル「また戻ってこられて嬉しいなぁ」

〇理科室
君島カオリ「色々聞きたい事あるよね?」
早瀬ハル「さっきぶつかった時」
早瀬ハル「断片的に伝わってきた事があります」
早瀬ハル「人間を」
早瀬ハル「殺したいんですよね?」
君島カオリ「・・・」
君島カオリ「そう」
君島カオリ「私はずっと」
君島カオリ「人を殺したかった」

〇手
  幼少からの殺人衝動
  私はそれを必死に抑えてきた
  アキトは──
  あの化け猫は
  ウチで飼ってた猫なの
  アイツは私の衝動に気付き
  事あるごとにそそのかそうとした

〇理科室
早瀬ハル「でも惑わされなかった」
早瀬ハル「そして」
早瀬ハル「他人を傷つける事より自ら死を選んだ」
君島カオリ「私は異常なのよ」
君島カオリ「だからアキトみたいな奴の声が聞こえる」
君島カオリ「でも不思議」
君島カオリ「アナタとぶつかってから」
君島カオリ「あの衝動がさっぱり消えてるの」
君島カオリ「私の魂の一部」
君島カオリ「あの黒い部分が」
君島カオリ「アナタに移ったっていうのは本当?」
早瀬ハル「さぁ」
早瀬ハル「僕は人体模型だから」
早瀬ハル「人間的な感情ってよく分からなくて」
アキト「そ」
アキト「だからお前が気に病む必要はねぇよ」
アキト「これからはまっとうな人生を歩めるぜ?」
君島カオリ「化け猫め!」
君島カオリ「彼の妖気を辿って来たのね!」
アキト「あ?」
アキト「んな事するかよ」
  ──じーぴーえす?
アキト「妖気って」
アキト「漫画の読み過ぎじゃねぇの?」
君島カオリ「て、テクノロジーかぶれの妖め!」
君島カオリ「一体なにを企んでるの?」
アキト「お前の殺人衝動は相当な力を秘めてる」
アキト「たぶらかして良いように使おうと思ってたが」
アキト「感情のない人体模型に入っちまった」
アキト「もうどうしようもねぇ、お手上げだ」
君島カオリ「本当?」
アキト「ホントだホント」
君島カオリ「じゃあ」
君島カオリ「これからどうする?」

〇大きな木のある校舎

〇一戸建て

〇シックな玄関
君島カオリ「両親は海外出張でいないから」
アキト「久しぶりの我が家!」
君島カオリ「なんでアンタまで!」
アキト「元々、先に住んでたのは俺だぞ」
アキト「入れよ!」
君島カオリ(アイツだけでも殺しておけばよかった)

〇可愛らしい部屋
君島カオリ「しばらくはウチに泊まって」
君島カオリ「今後の事はゆっくり考えましょう」
早瀬ハル「ありがとう君島さん」
君島カオリ「こちらこそ、えっと」
君島カオリ「なんて呼べばいい?」
早瀬ハル「うーん」
君島カオリ「あ、これは」
君島カオリ「私が推してるアイドル」
君島カオリ「彼を見てると」
君島カオリ「衝動で押しつぶされそうな心が」
君島カオリ「少し軽くなるの」
早瀬ハル「いい名前だね」
君島カオリ「そう?」
君島カオリ「じゃあ借りちゃう?」
早瀬ハル「君島さんが良ければ」
君島カオリ「うん、これからよろしくね」
君島カオリ「早瀬くん」

〇シックなリビング
アキト「どうなった?」
早瀬ハル「この家に置いてもらう事に」
アキト「そうか」
アキト「じゃあここからは男同士の話だ」
アキト「ズバリ言う」
アキト「アイツは近いうちに死ぬ」
早瀬ハル「え!?」
アキト「魂の分離はそれほど危険だ」
早瀬ハル「じゃあ早く戻してあげて!」
アキト「いいのか?」
アキト「ただの人体模型に逆戻りだぞ」
早瀬ハル「少しの間でしたけど楽しかったし」
早瀬ハル「最後に人間の優しさに触れられましたから」
アキト「ま、それは置いといて」
アキト「魂を戻すって事は」
アキト「殺人衝動も一緒に、って事になる」
早瀬ハル「あっ」
アキト「結局アイツは死を選ぶ」
早瀬ハル「どうすれば」
アキト「実はな」
アキト「ひとつだけアイツを救えるモノがある」

〇ハチ公前
タカオ・ルナクレシェンテ「それは愛~」
  違う、殺人だ
  人を殺す事で衝動を発散させる
  これは魂の浄化作業
タカオ・ルナクレシェンテ(あの人)
タカオ・ルナクレシェンテ(さっきからずっといるな)
タカオ・ルナクレシェンテ(しかもあんな真剣な表情で)
タカオ・ルナクレシェンテ「はっ」
  ──もしやスカウトの方!?
タカオ・ルナクレシェンテ(きっとそうだ!)
タカオ・ルナクレシェンテ(キタキタキタッ)
タカオ・ルナクレシェンテ(俺の時代キターーーッ)
「ハル」
「アキト」
アキト「どうだった?」
アキト「俺の『死を運ぶバイク便作戦』は」
早瀬ハル「うん、まぁ」
早瀬ハル「驚いてはいたよ」
アキト「だろ、だろ!」
早瀬ハル「でも相手がよそ見してる間に身体を繋げるの」
早瀬ハル「結構大変だったんだけど」
アキト「ば~か」
アキト「こういうのは遊び心が大事なんだよ」
アキト「あと」
アキト「来る途中でコレ拾ったぞ」
早瀬ハル「あっ」
早瀬ハル「どうりで聞こえ辛いと思った」
早瀬ハル「これでよし」
アキト「で、ここで何してんだ?」
早瀬ハル「あの人が気になって」
アキト「あー、ありゃ」
アキト「夢追い人だな」
早瀬ハル「夢追い人?」
アキト「人間ってのは慎ましく生きていくだけじゃ物足りない欲深い生き物なんだよ」
アキト「時に身の丈に合わない夢や理想を追う」
アキト「そのために他人を蹴落としたり」
アキト「妬んだり、羨んだり」
アキト「挙句、思い詰めて死んだりな」

〇学校の屋上
  君島さんは夢や理想を追ったのか?
  違う
  彼女は普通になりたかっただけだ
  周りの人たちを傷つけたくなかっただけだ

〇ハチ公前
  気高く、優しい人間だ

〇シックなリビング
早瀬ハル「人を殺す?」
アキト「あぁ」
アキト「お前の中に入ってる殺人衝動を消すには結局それしかない」
アキト「ゼロになるまで殺しまくる」
アキト「アイツには内緒でな」
早瀬ハル「そんな」
早瀬ハル「彼女がずっと守ってきた大切な人たちを?」
アキト「そうは言ってねぇよ」
早瀬ハル「え?」
アキト「アイツが傷つけたくないのは」
アキト「殺される理由のない善人だ」
アキト「だがこの世には」
アキト「むしろそれが人のためになるような」
アキト「どうしようもないクズが」
アキト「悪人がいるんだよ」

〇ハチ公前
タカオ・ルナクレシェンテ(届いてますか、スカウトの方!)
タカオ・ルナクレシェンテ(俺の魂の叫びが──)
  !!
「増えてる!」
「しかもめっちゃプロデューサーっぽい!」
「間違いなく敏腕音楽プロデューサーだろ!」
タカオ・ルナクレシェンテ(売れた)
タカオ・ルナクレシェンテ(母ちゃん俺売れたよ!)
アキト(ありゃ売れねぇな)
アキト「そうだ」
アキト「残業のお知らせ」
アキト「今夜はもうひと暴れする」
  人体模型には夢も理想もない
  だけど唯一確かな衝動がある
  これをどう使う?
  ──決まってる
  僕はこれからも悪人を殺す
  この魂を返すために

次のエピソード:❷Master of Puppets

コメント

  • 読む前の印象ではもっとダークな作風を想像していたのですが、ダークヒーローな作風に程よくコミカルなシーンが入っていて、とても読みやすく感じました…!
    早瀬くんの人体模型的な振る舞いも良い味を出していました!

  • 後れ馳せながら拝読しました。
    粗読み動画でも見ましたが、やはり自分で読むとしっかり入ってきますね!冒頭はダンボールにバラバラで入って運ばれてきたんですね。
    本編も引き込まれる設定で面白かったですが、タカオが面白すぎました😂確かにプロデューサーっぽい~!

  • 面白かったです!
    キャラや設定に深みがあって、引き込まれました😍
    話運びが丁寧でテクニカルで、めちゃくちゃ上手いですね!👏
    スラスラ読めてあっという間に終わっちゃいました!
    タカオまた出てきてほしいですね🤣

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