1話(脚本)
〇走る列車
響「(10年付き合っていた彼女と別れた)」
響「(もう互いの親とも挨拶を済ませた後だった)」
響「(これから籍も入れ、式の段取りについても前向きに話そうと思っていた)」
響「(でも別れた。ホントあっけなく)」
響「(油断してたんだ。彼女との関係は永遠だって、このまま順調に進むと思ってた)」
響「(あの日出張が取りやめになり、同棲しているマンションに帰ると知らない男がいた)」
響「(それが、俺と彼女の関係が終わった瞬間だった)」
響「(アイツは俺に愛情を感じなかったと言った。それがずっと不満だったらしい)」
響「(・・・・・・・・・ああ、そうだ。10年も過ごしてたら昔のような愛情なんてない)」
響「(アイツがいる生活が当たり前だっただけだ)」
響「(そんな思考が・・・・・・何度も反芻しては消えてを繰り返したせいでひどく胸焼けがする)」
響「(気が付くと、車内のアナウンスが目的地の到着を告げていた)」
〇ホームの端
響は北風を遮らない静かな駅に降り立つと、目的地を目指した
〇一軒家の玄関扉
庭も玄関もよく見ると細かい手入れがされていて、あまり汚れている様子はない
響は1人になって、色々な事に気づくようになっていた
〇シックなリビング
響「(実家に着いたのは12月30日の夜)」
響「(毎年迎える実家での新年、なんとなくの習慣が今回はかなり気が重い)」
響「(家族と会わないといけないのは嫌だった)」
響「(10年間家族もアイツの事はずっと見てきた。残念な結果だが話さない訳にはいかない)」
響「(晩飯の席には去年より少し皺が増えた弟の優(ゆう)と、背筋が年々丸くなる母親、新聞を広げ微動だにしない父親が座っている)」
響「(優が、食卓の話題を引っ張っていた)」
響「(結婚生活二年目の優は、出産予定の子供の事や夫婦生活の事など話題がなかなか尽きない)」
響「(だから俺は食事が終わる前に、無理やり会話に割って入った)」
響「悪い、大事な話があるんだ」
響「(優は俺なんて眼中にないようで、あからさまに不機嫌そうな顔をしたが気にせず続ける)」
響「みんな知っているその・・・・・・彼女とさ・・・・・・別れたんだ」
その言葉で賑やかだった食卓が静まりかえる
それは全員がショックのあまり言葉が出ない、意図しない静寂だった
響「はぁー」
響「(食事が終わり実家の戸棚に眠っていたウイスキーを1人呷る(あおる))」
響「(焼き付くような強い刺激が喉から胸へ通り過ぎた)」
響「(思ったほど家族からのバッシングは強くなかった)」
響「(アイツとはずっと家族ぐるみの付き合いだったから、なんて言っていいか分からない様子で)」
響「(親は俺にあからさまに気を遣っているように見えた)」
響「(ただ、優だけは俺を責めた)」
響「(優が今の奥さんと出会う前から顔見知りだった彼女だ。言いたくなるのもよくわかる)」
響「「兄貴は、いつも面倒くさがって大事な事を見ようとしない」か・・・・・・」
響「俺だって見えるもんなら、アイツの心の中を見たかったけどな」
響「(アイツの声が、顔が、身体が、匂いが、頭の中から消えない)」
響「(10年・・・・・・・・・学生時代からの付き合いだ)」
響「(人生が80年だとして、八分の一をアイツと一緒に過ごした。それはもう・・・・・・帰ってこない)」
響「(アイツは今・・・・・・あの間男(まおとこ)と仲良くやってんだろうか)」
響「(一緒に年を越すんだろうか・・・・・・)」
響「だからなんだよ。なんだよ・・・・・・馬鹿らしい」
響「(考えるのに疲れてウイスキーの瓶を勢いよく傾けると、もう酒は残ってなかった)」
〇黒
響「(12月31日・・・・・・今日はずっと寝てたいくらいだったが、昼頃母親に呼び出された)」
響「そういや、買い漁ってたな・・・・・・これ」
響「(少し動かすだけで筋肉痛になりそうなデカいダンボール箱には、バラバラに積まれた漫画本があった)」
長くお付き合いしていた人との別れって、後からじわじわといろんな感情が湧き上がってきますよね。響さんは気持ちをどうコントロールするのか、それともできないのか、気になりますね