徳を積もう!(脚本)
〇SHIBUYA109
半田 良夫「お嬢さん大学生?芸能界興味ある?」
安岡 夏美「えっ?私ですか?」
半田 良夫「そう!可愛いじゃない!君絶対売れるよ!」
安岡 夏美「で、でも私なんか・・・」
半田 良夫「俺の目に間違いはない!君を大女優にしてあげるよ!その気があるのに、今行動しないなんて絶対に、後悔するよ!」
安岡 夏美「あ、親が・・・」
半田 良夫「・・・自分の本音を親に託しちゃいかんよ!で、どう?」
安岡 夏美「じゃあ・・・お願いします」
半田 良夫「よっしゃ〜それじゃ女優になる為のスクールに通おう!」
安岡 夏美「え?スクール?」
半田 良夫「そう!月謝2万円で入学費用は20万円!ローンだって組めるから安心だよ! 売れたらすぐに元を取れちゃうんだから」
安岡 夏美「は、はぁ、」
そんなの嘘に決まってるじゃないか・・
半田 良夫「それじゃ契約書にサインして!」
〇公園通り
鳥頭 吉彦「皆んなで笑うのです!認め合うのです! 決して自分の夢を、目標を差し引いてはいけません!君たちは最強です!」
男性「本当ですか?」
鳥頭 吉彦「本当です!何回も口に出す事で絶対に夢は叶うのです!では最強と口に出して言ってみましょう!」
「・・・・・・・・・」
鳥頭 吉彦「さぁ!恥ずかしがらずに!せ〜のっ!」
「最強です!」
鳥頭 吉彦「その調子!話の続きが聞きたいなら、私のセミナーに参加して下さい!2年後に貴方はなりたい自分になれています!」
男性「参加します!」
鳥頭 吉彦「参加費は10万と少し高いが、夢を叶える為の金額なら安いはず!」
費用を払って自分が掴もうとしてる夢は大丈夫だと錯覚させられている青年達──
女性「10万で夢を叶える事出来るなんて最強よ!」
〇空
〇広い公園
山本 誠「こんなにも、普通に生きるのは難しいものなのか・・・」
山本 誠「少し外を歩いただけで疲れる理由は人混み以外にもあるんだよな・・・」
徳積 助長「どうされました?深刻な顔をしてますね」
山本 誠「あ、いえ、別に・・・」
徳積 助長「分かりますよ貴方の気持ち。人混みを歩いて疲れるのは、周りの悪意に満ちた騒音が耳に入ってくるからですよね?」
山本 誠「わ、わかるんですか?」
徳積 助長「ええ、顔に書いてあります」
山本 誠「苦痛ですよ・・・耳を塞げば嫌な嘘も、雑音も、悪意ある言葉も聞こえてこないのでしょうけど」
徳積 助長「グホッ、でも聞いてしまう。それは貴方が優しい心の持ち主だからですよ」
山本 誠「そんな事は無いと思いますけど・・・」
徳積 助長「いえ、貴方は優しいです。なので、沢山の徳をつむべきです。徳はつめばつむ程に自分らしくいられるのですよ」
山本 誠「貴方は一体?宗教の勧誘ならお断りですよ」
徳積 助長「突然話しかけてすみません。私は様々な人に徳をつんでもらう事をボランティアでしています。宗教の勧誘ではないです。コレを・・」
山本 誠「世界「徳つみ」団体?代表、徳積助長?」
徳積 助長「そうです。徳を沢山つんで笑顔になりましょうをモットーに世界中で活動している団体です」
山本 誠「そ、そうなんですね。(知らないなぁ)」
徳積 助長「良かったら、このチケットどうぞ」
山本 誠「えっ?」
徳積 助長「私の知り合いなんですが、興味があれば覗いてみて下さい。応援したら徳をつむ事が出来ますよ。グホホッ」
山本 誠「あっ!ちょっと!」
山本 誠「・・・・行っちゃったな──」
〇ライブハウスの入口
山本 誠「彼がくれたチケットのライブハウスここだよな・・・少しだけ覗いてみようか」
〇ライブハウスのステージ
山本 誠「放電してるぞ!」
今日はあの、テクノ界の大御所が来ています!
「お呼びしましょう!渋沢戻!」
山本 誠「初めて聞く名だ」
渋沢 戻「・・・・・・・・・・・・」
渋沢 戻「・・・・・・──」
山本 誠「何だ?この間は?あのスプレーは?」
渋沢 戻「構造的な変化は女類の豊潤がもたらした叡智♬」
山本 誠「えっ?えっ?」
渋沢 戻「血の喝采を求める言葉を磁極にて表す、即ち密度を得る🎵」
山本 誠「なんなんだ、この音楽は!」
渋沢 戻「さぁ、ピリオドを用いて終焉の条件を満たした月への尺を求めよう♫」
山本 誠「意味は解らないが、魂がこの音を求めている!」
渋沢 戻「下座に見た暁へ呼応するかのように定率し、厳粛を保つ♫」
山本 誠「だめだ、このメロディーに飲み込まれる自分がいる!」
渋沢 戻「・・・──」
二度と来るか!こんな所!
これにて渋沢戻のコンサートライブを終了致します。
山本 誠「なんて終わり方だ!」
山本 誠「しかし俺は彼の虜になってしまった・・」
徳積 助長「どうでした?彼、凄いでしょ?」
山本 誠「徳積さん!」
徳積 助長「グホホッ、ハマったみたいですね」
山本 誠「次はいつコンサートをするのですか?」
徳積 助長「来月か来年か再来年、あるいは4年後かもしれません。そして彼のチケットはほぼ取れないのですよ。取れたらラッキーです」
山本 誠「そ、そんな・・・」
徳積 助長「落ち込まないで下さい。徳をつみ続ける事で必ずチケットはとれます。今日はCDの販売を行っているみたいなので購入してみては?」
山本 誠「そうなんですね!購入して、家で聴きます!」
徳積 助長「グホホッ──」
〇明るいリビング
山本 誠「よしっ!」
山本 誠「なんて、良いメロディーなんだ、渋沢さんが目の前に、いるようだ!」
山本 光子「朝からこんな曲かけてあなた、大丈夫?」
山本 誠「どう?素晴らしい曲だろ?」
山本 光子「ごめん、理解できない。曲とめてくれない?」
殲滅した後に目標の声を聞く、故に殲滅せよ♬
山本 誠「この良さがわからないなんてガッカリしたよ」
山本 光子「ちょっと私の好みじゃないかな──」
悪意を殲滅♫ 悪意を殲滅♫ アイツも殲滅
山本 誠「俺は今日、決心したんだよ!」
山本 光子「な、何を?」
山本 誠「悪い奴らを殲滅し、徳を積み続ける事をね!」
山本 光子「はぁ、とりあえず曲を止めて──」
山本 誠「今から、悪意の塊を殲滅しに出かけてくる!」
山本 光子「あ、貴方!」
山本 光子「・・・どうしちゃったのかしら?」
〇SHIBUYA109
半田 良夫「チッ!今日はいい子がヒットしないな・・・」
半田 良夫「んっ?」
山本 誠「少女にローンを組ませてスクールに通わせるなんて貴様は悪意の塊!」
半田 良夫「は?」
山本 誠「殲滅!!」
半田 良夫「や、やめてくれ!」
山本 誠「思い知ったか!」
〇公園通り
鳥頭 吉彦「今日も素晴らしい一日を過ごしましょう!」
山本 誠「言葉巧みに少年達を騙しやがって!」
鳥頭 吉彦「なんですか?貴方は?」
山本 誠「うるさい!殲滅!!」
鳥頭 吉彦「な、何を!」
山本 誠「どうだ!二度と人を騙すような事はするな!」
〇明るいリビング
1週間後
山本 光子「貴方来月の24日の結婚記念日なんだけど──」
山本 誠「後にして──」
山本 光子「・・・・・・──」
山本 光子「ねぇ貴方?それ部屋で流すの辞めてくれない?」
山本 誠「部屋中にこの音楽が響き渡るのがいいんじゃないか!」
山本 光子「でも、毎日はちょっと・・・」
山本 誠「そんな事言われるなんて気分が悪い!外に出て来る!」
山本 光子「・・・──」
〇広い公園
山本 誠「まったく、何なんだよ!」
徳積 助長「どうも!山本さん!」
山本 誠「徳積さん!」
徳積 助長「実は渋沢戻の次のコンサートチケットが取れまして・・・お譲りしましょうか?」
山本 誠「は、本当ですか!」
徳積 助長「来月24日の開催なんですけど・・・」
山本 誠「来月の24日。確か結婚記念日だったよな」
徳積 助長「どうしました?都合が悪いのですか?徳をつまなくて良いのですか?」
山本 誠「・・・ええい!かまうもんか!」
山本 誠「チケット下さい!」
徳積 助長「グホッ、いいですよ!また徳をつまれましたな」
山本 誠「ありがとうございます!徳積さん!」
徳積 助長「いえいえ。でも山本さん貴方は今日最後の徳をつみましたので、お伝えしなければいけない事があります」
山本 誠「何ですか?」
徳積 助長「貴方は街中で悪意ある言葉や嘘や雑音に耳を塞ぎたくなるとおっしゃっていましたが・・今の貴方はどうですか?」
山本 誠「今はスッキリとした気分です!きっと、徳を積んでいるからですよ!」
徳積 助長「そうですか、それは良い事です。ですが、貴方がハマっている渋沢さんの曲に今は奥さまが苦痛で耳を塞いでいますよ」
山本 誠「な、なぜそれを──」
徳積 助長「貴方がしてる事は本当に世の為、人の為になる事なんでしょうか?」
山本 誠「ぼ、僕はそう思ってます、アイツらは嘘つきで、最低な人間ですよ!」
徳積 助長「「走れメロス」って小説はご存知ですか?」
山本 誠「読んだ事はありますが、それが何か?」
徳積 助長「あの作品の良さは「友情」「希望」「信念」とか言われていますけど私は違うと思います」
山本 誠「は、はぁ・・・」
徳積 助長「実はですね、最後にメロスは真っ裸になっているんですよ──その意味が分かりますか?」
山本 誠「すいません、何を言ってるのかさっぱり」
徳積 助長「分かりませんか?簡単に言うと作者はバカにしているのですよ。なので、メロスのような人間になるなよ!という戒めでもあるのです」
山本 誠「・・・それは徳積さんの解釈でしょ?」
徳積 助長「そう!でも、メロスは今の貴方にそっくりじゃないですか?自己都合な行動とか、履き違えた正義感とか、冷静に考えてみて下さい」
山本 誠「徳積さん!いい加減にしないと怒りますよ!」
徳積 助長「グホッ、怖い怖い。でも私も仕事なんでバサッとやらせてもらいますよ。山本さん貴方は徳をつみすぎましたね」
山本 誠「徳を積んで悪い事があるのですか?」
徳積 助長「・・・あぁ!山本さん誤解してますよ!」
山本 誠「誤解?」
徳積 助長「私が手伝っているのは徳を「積む」事ではなく、「摘む」事なのです──」
山本 誠「え?摘む?」
徳積 助長「勘違いさせてごめんなさい、でも一瞬で終わりますからね!」
山本 誠「えっ?えっ?」
徳積 助長「では山本さん。サヨウナラ!」
〇本屋
3年後
中目 翔也「夏美さんの書いた本最高っす!」
安岡 夏美「ありがとう!表紙にサインするね♡ハイッ」
中目 翔也「これからも応援して行くっす!」
安岡 夏美「フフッありがとう!」
徳積 助長「グホホッ、こんにちは夏美さん女優は諦めたのですか?」
安岡 夏美「あっ!徳積さん!」
安岡 夏美「そうなんですよ。自分才能ないって思って、でも、もう一つの夢だった小説家にはなる事が出来たんです!」
徳積 助長「それは、素晴らしい!1つの夢にこだわらなかったからですね!」
安岡 夏美「そうかも知れませんね!3年前にスカウトマンに声かけられなかったら、まだ女優への未練があったかもしれません」
徳積 助長「なるほど、なるほど、どこに成功の道があるのか分かりませんね!失敗は成功のもと!っていいますし──」
安岡 夏美「アハハハッ、ですね!お陰で本のサイン会が出来てます!」
〇白
徳積 助長「あっ!そこの貴方、夢や希望は50個以上持ちましょう。1個だけだと叶わなかった時に心の帰る場所がなくなりますよ?」
徳積 助長「えっ?それは無理?大丈夫!生まれ変わってまた夢を叶えていけばいいのですよ──まぁ現世に還る為の徳を積まないといけませんが」
徳積 助長「無責任?私は「様」がつく方の神ではないのでそこら辺の苦情は「神様」にし下さいね。でも、徳を摘みたくなったら私に相談下さい」
〇黒
「死ぬまで」自分らしくいられますよ。
それって最高の贅沢じゃありませんか?
徳積 助長「グホホホッ」
山懸さん
こんばんは!
うわーもうなんか凄いこう、こうゆう皮肉ぽいかんじのちょっと毒が効いてて好きなんですよね!
奥さんと喧嘩したあたりから、ああもう戻れないなと思っていたけどやはり!
ある失敗が大きな目でみると成功への過程だったという場合もあるんですね
社会批評の高い作品ですが、一筋縄では行かないところもありますね!
女優として勧誘された女の子が、却って作家として芽が出るところなど…
何が悪とは言い切れない。
自分も執着しない方がいいと思いつつ… 夢見ちゃいますけど😭
BOTさんは人の悪意を読むのは苦手なのかな? それとも解っていて、徳を積ませたいと言ってるのだろうか? 怖いなぁ😱
令和の喪黒福造とでもいうか、不気味な存在感を放つ徳積さん。薄っぺらい偽善者が大好物みたいですね。一度目をつけられたら最後、さんざん徳を積ませられた後で根こそぎ大鎌で摘まれてしまうのかあ。しかし死神もチケット取ったり本屋に行ったり地味に忙しいですね。