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エピソード4:他人事(脚本)

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〇開けた交差点
  ※少々残酷な表現を含みますが、自然の摂理の範囲です。
  ・要素:交通事故、動物の死、人間の死

〇開けた交差点
  鳩が死んでいた。
  車に轢かれたのか、猫やカラスに襲われたのか。
  死因は分からないが、少なくとも後者のような生き物に襲われたのではないかと思う姿だった。
  もげた翼が、少し先の方にぼとりと落ちていた。
  それから、腹か胸か、どこの部位のものかはわからないが、ふわふわとした羽根がそこらに散っていた。
  塊もあった。
  それでも胴体が、腹のあたりを除いて比較的そのままであったため、かろうじて『鳩』とわかる姿をしていた。
  無残ではあったが、その分、冷静だった。
  このような姿であれば、一縷の望みもない。
  弱っている状態で見つけるようなことがなくて良かったと、ほっとしている。
  可哀想と思うからではなく、ただ面倒事を避けられてほっとしている。
  可哀想と思うだけなら、弱っていようと死んでいようとできる。
  けれど、弱った生き物は、それを目の前にしたとき、何か、体の奥の方がざわざわするから嫌いだ。
  きっと、尽きていく命が自分の死まで引き寄せる気がしてならないのだろう。
  その感覚を言葉にして表すのは難しい。
  本能的なものだ。
  この鳩も死ぬとは思っていなかっただろう。
  いつか死ぬことは決まっていても、人の身であれ、それを意識することはそうない。
  僕らはどこかで人が死んでいることも、自分がいつか死ぬこともわかっている。
  けれど、そんなことをいちいち口には出さない。
  不謹慎だの、縁起が悪いだのというのは建前だ。
  ほとんどの人間は関心がない。
  僕もその内の一人である。
  道端で鳩が死んでいる。
  死因はわからないが、酷たらしい姿でそこに転がっている。
  そのことに可哀想とも思わないし、何かしてやろうとも思わない。
  鳩が悲しんでくれと言ったか。
  何か望みを言ったか。
  考えたこともないはずだ。
  ここを通る人間の大半が思うのも、
  「鳩が死んでいる」くらいなものである。
  けれど、そう、もしも自分が死んだときには、誰か悲しむだろうか。
  ──そうなら、悪い気はしない。

〇開けた交差点
  人が死んでいた。
  交通事故である。
  信号を無視したトラックが、横断する人を撥ねたのだ。
  私はその場面を見てはいないが、少し先の方で転がったトラックと、前に群がる人の話で、若い男がそれに轢かれたのだと知った。
  具体的な年齢はわからないが、若くして亡くなるとは不運である。
  しかし、まあ、人も獣もいつでもどこでも死んでいるので、彼もその中の一部に過ぎない。
  私は彼と面識がなく、話に聞くその無残な姿とも、未だ退かない人集りによって対面していない。
  それよりも、私は今日が初出社である。
  生き急いでいる私は、知らない人間の死にかまけていられない。
  どうせ、この人集りのほとんども野次馬で、人の死を見世物として眺めているのだろう。

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コメント

  • 2つの場面と2人の登場人物、いずれも不謹慎ながら深く頷いてしまいました。誰もが胸に抱くであろうモヤモヤ、それを言語化して代弁していただいたという心境です。

  • 読み終わった後、しばらく思案していました。自分だと上手く言語化できない、もどかしさを感じました。
    それらを文字に落とし込めるのは素直にすごいと思いました。

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