エピソード2:地雷(脚本)
〇ビルの裏通り
???「そこ、踏まないで」
後ろから袖を引かれ、地面に付くすんでのところで足を止めた。
女の子「おじちゃん、踏まないで そこ、踏まないで」
袖を引いたのは、小さな女の子だった。
「踏まないよ」
出していた足をその場に戻すと、女の子は袖を離した。
女の子が『そこ』と言った場所を見るが、何もないように見える。
「ここに何かあるのかな」
女の子「何もないよ」
「でも、踏んだら駄目なんだね」
女の子「うん」
何もないらしい場所を「踏んではいけない」と守る女の子。
これは彼女の遊びなのか、彼女の中のルールなのか。
「踏んでしまったらどうなるんだい?」
女の子「踏まないで」
「踏まないけど、君はずっとここにいるわけじゃないだろう?
その間に、誰かが来て踏んでしまうかもしれない」
女の子「踏まないよ」
「え?」
女の子「誰も踏まないよ」
どういうことだろうか。
何もないけれど、誰も踏まない場所。
それは、皆が意図して踏まないのだろうか。
何もないのに?
「みんなは踏まないのか」
女の子「うん」
「おじちゃんは踏みそうになってしまったよ。そういう人は他にはいないのかい?」
女の子「いないよ」
「そうなのか」
誰も踏む気が起きないような何かがあるのだろうか。
もう一度その場所をまじまじと見てみる。
しかし、ただのコンクリートで、目印となるようなものなどなく、周りにも看板も、ポスターも、落書き一つない。
女の子「おじちゃん、踏んだら駄目だよ 怖いからね、駄目だよ」
「ううむ。そう言われると踏みたくなるところだけれど・・・」
女の子「駄目だよ」
「そうだね、駄目なんだね。なら、やめておこう」
女の子「うん、そうして」
彼女に別れを告げて、迂回することにした。
あの場所はどうして踏んではいけないのか、踏んだらどうなるのか、何が怖いのか、何が駄目なのか。
なぜ、皆は踏まずに済んでいるのか。
何もわからないが、踏んではいけないらしいので踏まないことにした。
社会など、世間など、そういうものだ。
理由など知らずとも、そうだと言われればそうする。
所詮、そういうものに揉まれてきた、しがない『おじちゃん』だ。
多数決に身を任せておこう。
道を外れると、怖いから。
踏んではいけない場所、子供の遊びではよくあるなーと思いながら読んでいたのですが、主人公同様に不安とモヤモヤを抱えてしまいました。この子の正体は、その場所は、考えれば考える程モヤモヤが増しますね。。