第2章 第4巻(脚本)
〇事務所
私、AIなんです──
影野 華「送った本人の私ですら意味わからないよ・・・」
必死なりすぎて、周りが見えなくなって暴走した自分を呪いたい。
先輩営業マン「影野ー 朝頼んだ発注の数量を変えたいんだが、まだ間に合うかな?」
影野 華「あっ、え・・・いや・・・あの──」
先輩営業マン「え、もしかして飛ばしちゃった? まずいよー、至急電話しておいてよ!」
先輩営業マン「普段はこんなことなかったから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
影野 華「はい・・・本当にすみませんでした」
返事が来ないことなど、友達でもないのだから大したことではないはずなのに、私の希望はメッセージを待ち続けた。
影野 華「仕事の真面目さだけが取り柄だったのに、これじゃただのドジっ子──」
運命という歯車が逆回りしているような気分で、息が苦しくなった。
〇駅のホーム
影野 華「やっぱりメッセージ来てないなぁ・・・」
今日、何度スマートフォンを見ただろう?
今日、何度マッチングアプリ『フレンズ』を開いただろう?
影野 華「仕事でもミスしちゃうし、焦ると本当におバカさんになっちゃうんだな私」
影野 華「本当にあのときの人が、あの人だったかすら不安になってきちゃった」
そう思い、もう一度マッチングアプリを開いて『彼』のページを見る。
影野 華「あれ?! 最終ログインが今日になってる・・・」
影野 華「これでもう無視されてるの確定だよね・・・」
影野 華「というか、あんなに優しい人ならいい人が見つかってその人と上手くいってるんだろうな・・・」
影野 華「はぁぁぁ──」
大きなため息をついたおかげで、少しは後悔が和らいだ気もする。
影野 華「とりあえず変なメッセージを送ったことは、しっかりと謝ろう」
影野 華「変なこと言ってごめんなさい──」
メッセージを送ると、ホームに電車が来た。中は帰りのサラリーマンでごった返している。
私は止まない不安とスマートフォンをバッグに入れ、電車に乗った。
〇女の子の一人部屋
一向に返事が来ない──。
部屋のなかに鳴り響く、芸人の無理した笑い声が不安を駆り立てる。
影野 華「ん~、どうしよう。 これ以上メッセージ送ったらさすがにしつこいよね」
そんな気持ちとは裏腹にメッセージを入力していた。
影野 華「何度も連絡しちゃってごめんなさい」
送信した後、自分が謝ってばかりなことに気が付いた。
影野 華「お礼が言いたいのに、どうして謝ってばかりいるんだろう私・・・」
影野 華「気持ちを相手に伝えることってこんなに難しいことだったんだね・・・」
誰に言うわけでもなく、自分に向けてぼそっと独り言を呟く。
影野 華「思い返せば、島にいた頃はそんな経験どこにもなかったなぁ」
言い訳を自分自身にしても、返ってくるのはメッセージではなく、虚しさだけだった──
影野 華「とりあえずお風呂はいろ・・・」
この時、『彼』は有頂天にいて、私は何もない暗闇にいた。
私が知るよしもないが──
〇女の子の一人部屋
なにも始まっていないのに、勝手にゴールしようとしている自分が許せなかった。
もうこれで最後にしよう──
私にとって三度目の正直に出るのは、一か八かの賭けどころか、勝ち目のない戦いだった。
影野 華「でも、やる前から諦めたくない。 最後くらい正直な思いをちゃんと送らなきゃ」
影野 華「返事がほしいです、お願いします──」
まともに話したこともない相手に、ここまで積極的になる自分が途方もなく恥ずかしかったが、これが私の本心だ。
メッセージが送信される──
影野 華「ああ、なんかすごくすっきりした」
昨日の寝不足と、緊張や不安の連鎖で体力は全く残っていない。
目を閉じた瞬間、意識が薄れ眠りについた。