LEDのささやき

ゆきつばき

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〇渋谷のスクランブル交差点
  12月24日。街は聖なる夜に浮き足立っている。
  そんな街を静かに、しかし賑やかに見下ろすもの達がいた。
オレンジ色の光「今年も浮かれてるなあ」
赤色の光「毎年毎年よくも飽きねえな。まあ、こういうの嫌いじゃないけどな」
青色の光「見ていて面白いわよね」
オレンジ色の光「はは、確かにな!」
  大勢の人がひっきりなしに、昼間と見まがうほど明るく、カラフルな道を行き交う。
  楽しそうにはしゃぐ少女達。仏頂面の作業着の男性。絵に描いたように幸せそうなカップル。
  普段から人通りの多い道ではあるのだが、イルミネーションの下にいる彼らの顔はいつもと違った表情に見えた。
青色の光「そういえば今年もたくさんいたわね、そこのジュエリーショップに入っていく人」
オレンジ色の光「それはあれだな、いわゆる大勝負ってやつだな」
赤色の光「毎年いるアレな?よくわかんないけどさ」
青色の光「あそこに行く人達好きなのよね。みんな入る時にも出る時にも笑ったり怒ったり泣いたりしてるから」
赤色の光「まあこの時期は特に多いよな」
オレンジ色の光「何年前かは忘れたが、ビンタされてしょぼくれて帰っていった奴いたよな?」
赤色の光「なんか女連れた男が違う女に会って大騒ぎしてた事もあったよな」
青色の光「やたら大勢で踊り出したこともあったわよね?うるさかったわねあれ」
オレンジ色の光「それ以外にも『リアジュウボクメツ!!』とか叫んでるのがいたりな」
赤色の光「フラッフラになってその辺に倒れてたりな」
「・・・・・・・・・」
青色の光「なんかあれねぇ、いつも言ってるけど」
「人間って難儀だよなあ〜・・・・・・」
  やれやれ、と言った具合に通りを見渡すと、大きなビニール袋を持ったスーツの男性が走って行くのが彼らの目に入った。
会社員「・・・・・・あ、もしもし?うん、買えたよ、今から帰る」
会社員「・・・・・・うん、うん、じゃあ先に隠してから、寝たの確認して───」
オレンジ色の光「・・・・・・あの袋を持ってる人間も結構いるよな?」
青色の光「そうね、何かしら?毎年見てるけど見当がつかないのよね」
  それは少し離れた場所にあるおもちゃ屋の袋だった。
  だが彼らにそんな事は分からない。その店は彼らがいる場所からは見えないものだったから。
赤色の光「あれ持ってる人間、俺は嫌いじゃない。皆優しい顔してるしな」
オレンジ色の光「はしゃいでる子供も好きだもんなあ、お前」
青色の光「あなた見た目によらず穏やかよね。私も嫌いじゃないけど、もう少し緩急のある人間の方が好きだわ」
赤色の光「お前は趣味が悪いんだよ」
青色の光「あら、ひどーい」
オレンジ色の光「ははは、まあまあ。二人の言ってる事は分かるよ」
オレンジ色の光「普段見ている人間達も色々な表情をしているけど、この時期は特にそれがはっきりしてる気がするよな」
  オレンジの言葉に、うんうんとブルーが大きく頷く。
青色の光「そう、それよ!そういう事よ!面白いじゃない、思いっきり笑ったり怒ったりしてる人間!」
赤色の光「お前の『面白い』は完全に見世物としての面白いなんだよな・・・・・・」
青色の光「何よ、ここから動けないんだからそれくらい楽しみにしててもバチは当たらないでしょう?」
赤色の光「それはそうだけど・・・・・・」
オレンジ色の光「でもなんで、この時期はそんな風に見えるんだろうな?・・・・・・やっぱり───」
青色の光「それは、ねえ」
赤色の光「やっぱあれだろ」
  揃って視線を落とす先には、大きなクリスマスツリーと電飾でライトアップされた街路樹がキラキラと輝いている。
  それらの脇を通る人々は各々にきれい、と感嘆の声を上げたり、写真を撮ったりしてその輝きを楽しんでいた。
青色の光「エンターテイナーよねえ、いつもこの時期ずっと休みなしじゃない?感心しちゃうわ」
オレンジ色の光「お?」
青色の光「何よ?」
オレンジ色の光「いやあ・・・・・・」
赤色の光「『私も綺麗って言われたい』とでも言うのかと」
青色の光「いやよ、なんでそんなまじまじ見られなきゃならないの」
青色の光「そもそも私は最初から綺麗よ」
  言いながら彼女が光ると一気に人波が動き出した。のろのろと進む車達は居心地が悪そうだ。
少女A「あ、青になった!早く行こう!」
少女B「イルミネーション楽しみだね、ここからでもすごく綺麗」
少女A「うん!楽しみだねー!」
  少女達は溢れかえる人混みの中、横断歩道を駆けて行く。
青色の光「ほら行った行った。あなた達もこんな人数、ここで留まられたら困るでしょう?」
  オレンジとレッドは黙って頷く。
オレンジ色の光「・・・・・・でもあれかもな、一度あんな感じに飾られてみたいかもな」
赤色の光「本気で言ってんのか?」
オレンジ色の光「緑とかピンクとかでカラフルな信号機とかどうだ?目立つんじゃないか?」
赤色の光「完全に悪目立ちだな」
青色の光「事故増えそうね」
オレンジ色の光「はは、手厳しいな!」
青色の光「それだったらあの木についてる綺麗な球とかリボンとかつけてもらいたいわ!可愛いじゃない!」
赤色の光「だから俺らじゃ悪目立ちなんだって」
青色の光「難しいわねー、私達はそのままが一番ってことかしら」
オレンジ色の光「シンプルイズベストってやつだな!」
赤色の光「まあそんなとこだろ」
赤色の光「・・・・・・まあ、飾られるなら普通に白色がいいけど」
青色の光「何よ、なんだかんだ希望はあるんじゃない」
オレンジ色の光「素直じゃないな!」
赤色の光「うるさいな」
  深夜だというのに星も見えない街では、普段からどこもかしこも明かりが騒がしい。
  だけどその夜は誰もがそれを忘れてしまう。人間達も、街も、照らしている明かりそのものすらも。
  これは、特別な夜に佇む、特別じゃない光の話。

コメント

  • 発想がとても良かったです。
    まさか人間を見てこんな会話をしてただなんて。笑
    でも、人がたくさんいたら、その分人間模様も多くて楽しそうだとは思います。

  • LEDたちに心があったら実際にこんな会話してそう(笑)電球の世界にも、ランクがあるのかな。トップはやっぱり大々的なイルミネーションで、いちばん下はトイレの白電球とかかしら。想像したらさらに楽しめますね!!

  • 楽しい!楽しかったです。主人公がまさかのLED!視点が好きです。物から見た、人間の姿はあんな感じなのでしょうか、、、聞いてみたいです。

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