第2章 第1巻(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
影野 華「な、、なにこれ・・・?」
地方の離島から就職するために上京してきた私は、都会の街並みに呑み込まれていた。
幼い頃、何度か親に連れてきてもらった気はするが、もうずいぶん昔の話なのでほとんど覚えていない。
あのときは、お父さんとお母さんがいた。
影野 華「でも、今は私一人だけ・・・」
誰も頼れない。考えれば考えるほど、より一層不安が私を襲った。
影野 華「えっと、借りた物件は確かこっちだよね・・・」
人はたくさんいるのに、
誰も知らない人。
急いでいる人、外国人、怖い人・・・
地元だったら、歩いている人に道を尋ねることくらいは出来るのだろうが、ここは私にとって異世界だった。
影野 華「とりあえずお巡りさんに道を聞こう・・・」
警官「あー、そこなら次の角を右にいったところの右手にあるよ」
忙しいのは分かってる。大変なのも分かってる。でもどこか冷たく感じてしまう。
田舎の駐在所にいたお巡りさんは、
警官「えっと、地図で確認するからちょっと待ってね」
警官「今教えた道順だけど、もし不安なら近くだし着いていこうか?気を付けていくんだよ~」
時間に余裕があるくらいこと分かってる。覚えられるくらい地域の人が少ないからだということも分かってる。
それでもお巡りさんですら冷たく見えてしまった私は、不安と緊張で逃げるように入居先へ飛び込んだ。
〇団地のベランダ
誰もいない家──。
何もない部屋──。
分かりきっていたいたはずなのに、いざ自分が体験すると途方もなく寂しさが込み上げてくる。
影野 華「私はここで頑張るって決めたんだ。 見ててね、お父さん──」
島にいる母の大反対を押し退け、
亡き父に誓ってここにきた。
絶対に諦めない。
どれだけ辛くても、寂しくても頑張るんだ。
ベランダへ出て外の空気を吸ったら、少し気持ちが落ち着いたのか急にお腹がすいてきた。
影野 華「そう言えば、朝からなんにも食べてないなぁ」
影野 華「まだ冷蔵庫もないし、今日はコンビニのお弁当にしようっと」
影野 華「道も覚えたいし、家の周りをちょっと散歩しよう」
そろそろ日も暮れてしまう。
暗くなる前に帰りたかったので、急いで部屋を飛び出した。
〇渋谷のスクランブル交差点
影野 華「やっぱり私、バカだなぁ・・・ 方向音痴だし・・・」
お弁当を買って、少し周辺を見るつもりが迷子になってしまった。
影野 華「もう暗くなっちゃった・・・」
夜の街は、私を更なる恐怖へ陥れた。
温めてもらったお弁当ももう冷たくなってきている。
影野 華「あ!あの交番!お昼に道を聞いたところだ!」
影野 華「よかったぁ。確か次の角を曲がって──」
急に私の前へ立ちふさがる男性。
すごく嫌な予感がする──。
ホスト「こんばんは~」
私は恐怖と戸惑いで返事が出てこない。
それにも関わらず、男性は話を続ける。
ホスト「君、可愛いねー!よかったら一緒に飲まない?ほら、もう夜だし一人じゃ危ないしさ」
ホスト「ま、急にそんなこと言われても困るよね。 だから今度一緒に飲みたいから番号教えてよ!」
私だってバカじゃない。
この人の思惑ぐらいなんとなく分かる。
影野 華「あっ、あのっ・・・」
言葉に詰まる私を尻目に、男性は更に話しかけてくる。
ホスト「君くらい可愛かったら、たくさんお金も稼げるよ。話だけでいいから聞いてくれない?」
影野 華(イヤだ──)
言葉には出せなかったが、表情に出たのだろう。その瞬間、相手の態度が一変した。
ホスト「ちっ、下手に出てりゃいい気になって無視かよ。お前みたいな田舎女、変態オヤジしか興味ねぇよ」
この後、何かされるのだろうか。
怖くて身体が動かない──。
ホスト「なんてね。そういうこと言う危ないやつも多いから、俺が──」
男性の右手が私の腕を掴もうとする。
そのときだった──
山田 総一朗「うわぁっ!おっとっと・・・」
通りすがりの熊さんみたいなサラリーマンが、ホスト風の男性に体当たりした・・・ように私には見えた。
山田 総一朗「す、すみません。お怪我はありませんか?」
もちろんわざとではない。
偶然当たってしまったのだが、体格差でホスト風の男性はよろけていた。
ホスト「ちっ、いてーな。 ったくどいつもこいつもうぜーわ」
大衆の面前で、イケてない男性に恥をかかされたと思ったのかホスト風の男性はそそくさと雑踏へ消えていった。
影野 華「あっ、あっ・・・ありが──」
お礼を言いたかったが、サラリーマンはもうそこにはいなかった。
影野 華「とりあえず急いで帰ろう・・・」
私は脇目もふらず、自宅へ走って帰った。