第二話 後編 金兵衛、こがねの餅を食らわんとするのこと(脚本)
〇古めかしい和室
欲に目が眩んで
乞食坊主西念の死体から
お金を盗んだ金兵衛
しかし
手にしたお金は
思っていた大金では無かった!
追い詰められた
金兵衛は・・・
金兵衛「くっ 何とかするんだ」
突然、あたりを鬼火が
かこみました
西 念「ヒヒヒヒ どうしたね 金兵衛さん」
金兵衛「西念! こっちの西念は死んだままだ」
金兵衛「まさか亡霊になったのか?」
西 念「あたしの金が盗られるっていうのに 成仏なんぞ出来やしないよ」
西 念「きっちり刃物の創が体についているねえ これじゃあ病気で死んだなんて 通らないよねえ」
西 念「逃げられやしないよ 金兵衛さんは捕まって 死罪になるのさ」
状況は最悪
金兵衛はしばらく
西念の瘦せこけた死体を
眺めていましたが・・・
金兵衛「・・・(考えろ! 黄表紙の主人公ならどうする?)」
金兵衛の頭脳が
フル回転しています
金兵衛「ううっ ならば」
西 念「ならば その出刃包丁で自殺でもするかい? ヒヒヒヒ」
金兵衛「こうするのさ」
西 念「苦し紛れに放火する気かい? 放火は磔獄門だよ ヒヒヒヒ」
が、金兵衛は西念の遺体の脇で
火を焚き続けるだけでした
金兵衛「いいころ合いだ 真打の出番だぜ」
金兵衛はそういうと
表戸と裏戸をすこし開けたのでした
冷たい風が吹き込んできます
金兵衛「うう冷てえ 良し準備万端だ 後は火の始末をして っと」
何故か金兵衛は西念の長屋を
出ていったのでした
西 念「なんだいそりゃ? 祟る相手がいなきゃ 出てくる意味もないよ」
西念の亡霊も消えてしまい
部屋には西念の遺体がすきま風に
吹かれるだけでした
〇城下町
数日後
家を出た大家さんを
呼び止めるものがあります
金兵衛「大家さん どうもおはようございます」
大家さん「おお、金兵衛じゃないか 西念のお見舞いはどうしたね?」
金兵衛「奴の好物 あんころ餅をたくさんもって見舞いに 行ってまいりました」
大家さん「そりゃ西念もよろこんだろうね」
金兵衛「天にも昇る心持だったんでしょう ぐっすり眠ってしまいました」
大家さん「そりゃあ良かった お前を見舞いに行かせて正解だったね」
金兵衛「ありがとうございます おっといけない 忘れるところでした」
大家さん「ん、なんだいそりゃ?」
金兵衛「西念からたまった家賃を預かって 来たんですよ。 あ、俺の家賃もあわせて払いますんで」
大家さん「感心、感心 まあ今後も西念の世話をみてあげなさい」
金兵衛「ははは 心得ました!」
金兵衛「これでしばらく大家さんも長屋には 顔を出さないだろうな」
金兵衛「西念の長屋にもどるとするか」
こうして金兵衛は
体よく大家さんを長屋から遠ざけたのです
〇古めかしい和室
金兵衛「さてと もうできたかな」
西 念「あたしの金を勝手に 使いやがったね! 許さないよ!」
金兵衛「家賃は払うものだし 俺の分の家賃は・・・ まあ、お駄賃だよね」
西 念「勝手なことを言うんじゃない!」
金兵衛「おおっ! いい感じで出来上がった 見てみな」
西 念「ごまかされないよ! ん、」
西 念「何だこりゃーー!」
金兵衛「ミ💛イ💚ラ」
西 念「・・・・・・」
あまりのことに
西念は言葉も出ません
金兵衛「まあ本当は魚とかを さばいてから焼いて干す 焼き干しというんだよ💛」
金兵衛「ははは! 勉強になったかな?」
西 念「あたしは干物か!」
西 念「他人の金を奪う 他人の体はミイラにする お前いったい何なんだ?」
金兵衛「わたし救世主アルよ」
西 念「はあ、救世主?」
金兵衛「おっと もたもたしていちゃいけない! 時(トキ)は金なり佐渡島ってやつだ」
金兵衛は
表に飛び出して行ってしまいました
〇古びた神社
金兵衛「それじゃあ皆さん よろしくお願いいたします」
町のはずれにある廃寺
金兵衛は何やら人を集めています
金兵衛「あっちもきれいに こっちもきれいに あちこち皆きれいに よろしくーー!」
どうやら
お寺を改装しているようです
金兵衛「おっといけない 大家さんのことを 忘れてた」
金兵衛「黄表紙だと 唐突に信心がわいてきて どっかに行くのがお約束だね」
金兵衛「まあ適当に 巡礼の旅に出ますとでも書いとけば 勝手に感動してくれるだろ」
〇古めかしい和室
このごろ
金兵衛の姿が見当たらない
不審に思った大家さんが
長屋を覗いてみると
大家さん「もぬけの殻か ん?」
そこには
書置きと一朱銀が置いてありました
「大家様
このたび私こと金兵衛と僧侶西念は
一念を発起し信仰の道を究めるべく
巡礼の旅に出立いたします
大家様のお顔を見てしまうと
心が乱れると思いますので
黙って旅立ちます
どうぞお許しください
金兵衛より」
大家さん「うむ、金兵衛の奴 西念の世話をしているうちに 大きく成長したようだな」
厳格で知られる大家さんの頬に
感動の涙が流れ続けるのでした
〇神社の本殿
それから
数日のち
金兵衛によってスッキリと
改装された元廃寺の前を
町人が通りがかりました
町人「いつの間にか ボロ寺がすっかりきれいになってらあ ん、看板?」
町人「何々 「金運向上開運祈願 西念上人」 なんだいそりゃ?」
なにやら分かりませんが
好奇心旺盛な江戸っ子のこと
中にはいってみると・・・
西念のミイラが出迎えてくれました
町人「で、出たーー!」
金兵衛「アイヤー 何を騒いでいるアルか?」
町人「あんた誰だい?」
金兵衛「この寺を任されています 金大好(キンタイコウ)いいます 気軽に金さんとよぶアルよ」
町人「何だかめちゃくちゃだが 金さんとやら この気味悪いのは何だい?」
金兵衛「金運向上霊験あらたか 西念上人さまアルよ」
金兵衛「西念上人は貧困に苦しむ衆生を なんとか救済したいと願いました」
金兵衛「そして厳しい修行をして見事に 即身成仏 みなさんの言う木乃伊(ミイラ)になったのです」
町人「なんだか因業の果てに死んだ亡者みたいで とても霊験あらたかとは思えないねえ・・」
金兵衛「だったらこれを見てみるアルよ」
町人「一朱銀じゃねえかよ ん、歯形がついているみたいだな これがどうかしたかい?」
金兵衛「満願成就木乃伊(ミイラ)に なられた西念上人は」
金兵衛「月に一度、口から一朱銀がこぼれ出る のです」
町人「マジかよ!」
金兵衛「一朱銀がこぼれ出るときに歯形がつきます 調べてみるアルよ」
町人「ぴたりと合う これは・・・本物だ!」
元々、西念が噛んでのみこんだ
一朱銀です
歯形があうのは当然
しかし事情をしらない町人は
まんまと騙されてしまいました
金兵衛「ご利益あるアルよ お守り、お札、手ぬぐい、巾着袋 いかがアルか?」
町人「乗るしかないこの大波に! みんな買うぞ!」
金兵衛「あざーすアルよ」
噂が噂をよんで
「金運向上開運祈願 西念上人」は
押すな押すなの大繁盛となりました
こうして
金兵衛のたくらみは成功し
あっという間に大金持ちになりました
〇屋敷の大広間
やがて金兵衛は金大人と名乗り
巨大な邸宅を構えるまでになっていたのです
金兵衛「支配人 先月の売り上げはどうなっているアルか?」
使用人「金大人 これが先月の売上です」
金兵衛「順調に上がってますね ですが内藤新宿のあたりが良くない もっと積極的にお願いしますアルよ」
使用人「かしこまりました では早速指示をだしておきます」
使用人「ところで吉原の太夫から 「会いたい」と文がきておりますが いかがしましょうか?」
金兵衛「切り餅(五十両)でも文といっしょに 送っておくように 忙しくて遊ぶ余裕ないアルよ」
使用人「承りました 手前からは以上です」
金兵衛「いつもありがとう よろしく頼むアルよ」
金兵衛「女中さん今日は上がって ご両親に顔を見せてあげると いいね」
女中「よろしいのですか? わたしは住み込みで奉公していますのに」
金兵衛「もちろんアルよ たまには羽を伸ばすアルね」
女中「ありがとうございます お食事は座敷に用意してありますので」
配下の支配人と女中をさがらせて
金兵衛(金大人)は
邸宅にひとりとなりました
金兵衛「アイヤー 儲かりすぎて 金さん困っちゃうアルよ💛」
金兵衛「ちょっくらメシでも食うかアルよ」
金兵衛「・・・良く考えたら」
金兵衛「ひとりの時まで「アルよ」は いらねえよな」
金兵衛「まずは灘の生一本を グイっと」
金兵衛「くぅーー! 染みるねえ」
金兵衛「それから流行りの牛鍋をパクリ! うん、ンまい! これぞ勝利の味」
とその時です
「・・・やっと一人になったね・・・」
「・・・うらめしや
金兵衛よ決して許さぬぞ・・・」
部屋には鬼火が舞い
不気味な声が響きます
金兵衛「ははは ちゃっちい演出だな 西念」
金兵衛「よう 久しぶりだな」
西 念「この恨み 晴らさでおくものか」
西 念「あたしの恨みがこもった 黒い波動で殺してやる!」
金兵衛「まあまあ 怒ると体に良くないよね」
西 念「体はミイラにされたし そもそもとっくに死んでいるよ!」
金兵衛「そりゃお気の毒に」
西 念「お前がミイラにしたんだろ!」
金兵衛「そう言えば 怒ったときは当事者同士じゃなくて 第三者に話すと良いらしいよ」
金兵衛「だれかそういう相手はいないの?」
西 念「お前だけを追い続けてきたんだ 相談相手なんかいるわけないよ」
金兵衛「そんなに俺のことを思ってくれるなんて」
金兵衛「うれしい💗」
西 念「からかうなーー! あたしの黒い波動を食らってみろ!」
金兵衛「おおっと危ない つまり・・・」
西 念「次は外すものか!」
金兵衛「俺の秘密を知っているのは お前だけってことだな? 西念」
西 念「えっ!」
なにやら意味ありげな
言葉をいいつつ
金兵衛は一枚の紙きれを
ふところから出したのです
金兵衛「これなーんだ?」
金兵衛「高野山の大僧正に作ってもらった 特製退魔の護符だ ちなみに一枚千両な」
西 念「何!」
金兵衛「どんな悪霊も イチコロってやつよ」
西 念「一人になったのは おびき出すための罠か!」
金兵衛「わざと一人きりになって 相手をおびき出す 黄表紙あるあるだよね」
金兵衛「ハイ、悪霊退散💗」
金兵衛は隠し持っていた護符で
西念の亡霊を浄化したのでした
金兵衛「あばよ西念 いい夢見ろよ!」
金兵衛「やっぱり ケチケチ金を貯めるだけじゃあ 小金もちで終わるんだよね」
金兵衛「こうやって頭を使い 金に金を産ませてはじめて 黄金もち(こがねもち) だよね」
金兵衛「さーて邪魔するものは誰もいない 後はゆっくりと」
金兵衛「黄表紙でも読むかねえ」
おしまい
いつもしろりんを読んで頂いております
わからんでございます❣️😆
私、これの元の話は知らないのですが、
江戸の雰囲気良く出てるな〜❤️と
思いました❣️タイムスリップ気分が味わえる‥😆
ところで質問です❣️
tapnovelには赤表紙の画像しか無いんですよね💧😅
私もしろりん最終回で使ってるんですが、
赤表紙って実は桃太郎やカチカチ山やさるかに合戦等
の子供向けおとぎ噺でしたっけ‥❓
こちらは、、凄い面白いですね!ジャンルが歴史になっていますが、もしかして実在する人物ですか?幽霊がめちゃくちゃ自然に会話してたり牛鍋出てきたりとんでもサクセスストーリー?とでも言うのでしょうか!話の運びがなんとも落語で読んでて心地良いです
下敷きの「黄金餅」から、どんどん金兵衛さんが自由にヤンチャしていって奔放に話が展開してからのお見事な着陸。これぞ本歌取りですね!古典と現代のハイブリッド、楽しませてもらいました!