大家さんに命令されて見舞いに行ったらヤバいことになりました

内田 今日―

第一話 前編 金兵衛、見舞いを申し付けられるのこと (脚本)

大家さんに命令されて見舞いに行ったらヤバいことになりました

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〇血しぶき
  「ああ、どうしてこんなことに」
  「ヤバい、何とかするんだ」
  「何とか・・・」

〇城下町
  夕暮れの江戸
  木枯らしが下町を駆け抜けていきます
金兵衛「やれやれ 今日もつかれたぜ」
  一日の仕事を終えて
  魚を売って歩く
  俸手ふりの金兵衛が
  長屋にもどってきました
金兵衛「売れるのは一番安いイワシばっかりだ 家賃もしばらく払ってないし 不味いぜこりゃあ」
金兵衛「楽しみの黄表紙(当時のラノベのような読物)だって手が出ねえや」
金兵衛「はあ、金さえあれば 貧乏なんて苦にならないんだが」
  一人暮らしで
  娯楽は黄表紙を読みふけるだけ
  絵にかいたような貧乏暮らしです
金兵衛「ともかく大家さんに会ったらヤバいね 素早く自分の長屋にもどって・・・」
大家さん「おお、金兵衛じゃないか ちょうどよいところで会った」
金兵衛「こりゃあ大家さん。お疲れ様です。 家賃は明日、いや近日中には払いますんで へへへ・・・」

〇城下町
大家さん「うむ家賃も大事だが お前の隣に住んでいる西念がな」

〇城下町
金兵衛「女体化でもしたんですか?」
大家さん「「のたいか」 何だいそれは?」
金兵衛「男の体が女の体に変転しちゃったー! あまりの事にこんな事やそんな事 裏に表にもう大変💗 です」
大家さん「馬鹿者! いい年して黄表紙ばかり読んでいるから そんなふうになるんだ!」
金兵衛「すみません」
  黄表紙(当時のラノベのような読物)は
  ダジャレや語呂合わせを集めた
  ごく薄い本から始まり
  金兵衛の時代には合巻と呼ばれる
  長編ものにかわり
  内容も高いストーリー性と
  扇情的、猟奇的、反社会的内容に
  発達していました
大家さん「西念は風邪で寝込んでいるんだ! 金兵衛!  おまえ見舞いに行ってこい!」
金兵衛「嫌ですよ 俺はあいつと馬が合わないんでね」
大家さん「なるほど どうしても今すぐ家賃を払いたいと?!!」
金兵衛「お見舞い大好き💗 今いきまーす!」
  言い残すと金兵衛は
  西念の長屋へと走っていきました

〇城下町
金兵衛「嫌な事引き受けちまったなあ しかも相手が乞食坊主の西念・・・」
金兵衛「俺も西念も貧乏だが 西念のやり口は受け付けないぜ」
  金兵衛は
  乞食坊主の西念のことを
  思い起こしました
西 念「南無お金 南無お布施 南無お金 南無お布施・・・」
呉服屋の女将「お店の前に居座らないでください ほかのお客様の迷惑ですから」
西 念「南無お布施 南無お金 南無南無南無南無南無南無 お布施お布施お布施お布施 お金お金お金お金お金お金 ・・・」
呉服屋の女将「分かりました!  お布施します だからどこかへ行ってください!」
  執拗にお布施をねだる西念に
  呉服屋の女将は根負けしてしまい
  小銭を西念に渡したのです
西 念「ご浄財ありがとうございました 今後もごひいきに ヒヒヒヒ」
金兵衛「てな感じで 信仰や商売というよりタカリだな」
金兵衛「当然 町内で一番の嫌われ者だ」
金兵衛「大家さんの言いつけじゃしかたない 形だけ見舞って即退散だな」
  ドンドン!
  西念の住む長屋のとびらを金兵衛はたたいています
金兵衛「西念さーん お見舞いにきましたよー! いませんね? いないですよねー!」
金兵衛「返事なし これにてお見舞い終了」
西 念「いますよ・・・ゴホゴホ」
金兵衛「なんだよ西念 いるならいるで いないと言えよ」
西 念「ゴホゴホ、あんた何いってるんだい? こっちは風邪で寝こんでいるんだよ」
金兵衛「そいつはいけない ゆっくり寝てな んじゃ、これで!」
  そうそうに帰ろうとする金兵衛
  が、西念が袖をつかんではなしません
西 念「おおかた大家さんに言われて 形ばっかり見舞いに来たんだろう?」
金兵衛「ま、そうだけど だから何だってんだ!」
西 念「きちんと見舞わないで帰ったら がんこ者の大家さんのことだ さぞかし怒るだろうねえ」
金兵衛「お前、俺を脅すつもりか?」
西 念「あたしはあんころ餅が好きでねえ どっさり腹いっぱい食べたいもので へへへ、お待ちしております」
  言うだけいって西念は
  自分の長屋にもどってしまいました
金兵衛「こ、この野郎」
  西念の嫌味な口ぶりに
  金兵衛は腹を立てましたが
  大家さんに告げ口されては
  かないません
  結局のところ金兵衛は
  あんころ餅を買って
  再び西念を見舞いにいくことに
  なったのです

〇古めかしい和室
  再び西念の長屋にきた金兵衛
  しかし部屋は真っ暗でした
金兵衛「何だこりゃ 真っ暗じゃねーかよ!」
西 念「ゴホゴホ 灯りをつけると金がかかるんですよ そんなことも知らないんですか」
西 念「で、あんころ餅は?」
金兵衛「おう どっさり買ってきてやったぜ」
西 念「ゴホゴホ ご苦労さん あんたはもう帰っていいですよ」
金兵衛「あ? 何だって」
西 念「これで「見舞いは済ませた」と 大家さんに言えるだろう だからこれでお見舞い終了」
西 念「ゴホゴホ あたしはゆっくりあんころ餅を食べることにするよ さあ帰った帰った」
金兵衛「買ってもらったあんころ餅を独り占めとは なんて野郎だ」
  怒った金兵衛は西念の長屋を飛び出して
  自分の長屋にもどりました

〇古めかしい和室
金兵衛「あー! 腹がたつ! 守銭奴め!」
  金兵衛はとなりにいる西念に
  聞こえるように文句を言いましたが
  となりからは何の反応もありません
金兵衛「しょうがない お気に入りの黄表紙でも読んで 忘れるしかねーや」
金兵衛「柄木田未来(からきたみらい)の 悪漢もの これだねえ」
金兵衛「博打とは 深き淵を是非もなく跳ばんとする。 只この一事のみ。拙者の心得と知れ」
金兵衛「「跳ばんとする。只この一事のみ」 この台詞痺れるねえ」
  そのとき
  灯りのついていない西念の部屋から
  一筋の光がさしこんできたのです
金兵衛「あれ なんか今、光ったよな」
金兵衛「確かに光った 西念の部屋からだ」
金兵衛「あいつケチだから 「灯りはつけない」って言っていた 妙だな」
  不審に思った金兵衛は
  壁のふしあなから西念の部屋を
  のぞいてみたのです

〇古めかしい和室
西 念「ゴホゴホ うっ! 血を吐くようじゃ あたしも終わりだね」
西 念「あたしが死んだら 貯めた金は どうなるんだろう?」
  吐血した西念
  その前にはあんころ餅と
  一朱銀(当時の高額通貨)が
  山盛りになっていました
西 念「誰にも渡さない 誰にもやるもんか」
西 念「あたしの金」
西 念「誰にも渡さない」
  ゴリゴリ
  ごくり
西 念「あたしの金」
西 念「誰にも渡さない」
  ゴリゴリ
  ごくり
西 念「絶対に 絶対に 渡すもんか」
  何と西念は貯めこんだ銭を
  あんころ餅にのせて
  すべて食べてしまいました
西 念「これでもう誰もあたしの金を とれやしない」
西 念「ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ うぅっ!」
  西念はしばらく笑っていましたが
  突然、たおれて動かなくなりました

〇古めかしい和室
金兵衛「ななな 何だこりゃー!」
金兵衛「さっきの光は 西念の金が光っていたのか!」
金兵衛「つか 乞食坊主が何で あんな大金を持っているんだ?」
金兵衛「いやいや 吐血してた 吐血!」
金兵衛「それどころじゃない ありゃ死んでいるだろ!」
金兵衛「情報量が多すぎて どうしていいのか分かんねーぞ!」
金兵衛「と、とりあえず 大家さんに話を・・・」
金兵衛「・・・・・・」
金兵衛「話をして それでどうなる?」
金兵衛「ちょこっと大家さんにほめられて ささっと西念の弔いをやって とっとと元の生活にもどるだけだ」
金兵衛「で最後は西念と同じ パタンって死んじまう」
金兵衛「今、となりには だれも知らない金が 有るんだ」
  江戸時代
  現代よりも厳しい刑罰が
  用いられていました
  死体から金を奪うことは・・・
金兵衛「良くて遠島 悪くて死罪 だよなあ」
金兵衛「・・・・・・」
金兵衛「まあ、俸手ふりのそのひぐらしだって 悪くはないよな」
金兵衛「黄表紙でも読んで 正直まっとうに生きる これだよね」
金兵衛「・・・・・・」
  ふと足元に落ちている
  お気に入りの黄表紙に
  目が行きました
金兵衛「・・・・・・俺は」
金兵衛「俺は 黄表紙の主人公みたいに 自分に正直に生きる」
金兵衛「俺は「跳ぶ」ぜ」
  金兵衛は仕事道具の出刃包丁をもって
  長屋を出ていきました

〇古めかしい和室
金兵衛「西念は・・・ やっぱり息をしていない」
  西念は
  死体となって倒れています
金兵衛「ならばこうだ!」
  金兵衛は俸手ふりらしく
  手慣れた所作で
  出刃包丁をふるいました
  そしてむごたらしくも
  西念の体からお金を取り出したのです
金兵衛「ハアハア、やった やっちまったな うっ! これは?」
金兵衛「何てこった 思ったより少ない これじゃあ・・・」
  遠目に見えたお金の山
  手にしてみれば一掴みの銭でした
金兵衛「ああ、どうしてこんなことに 欲に目が眩んじまった」
金兵衛「ヤバい、何とかするんだ 何とか・・・」
  欲に目が眩んだ
  金兵衛はどうなるのか?
  
  前編 終了

コメント

  • どうも❣️内田様、わからんです。
    いつもしろりんがお世話になっております❣️
    ギャ、しまった
    さっき読んだのは後編だったのか
    先に読んじゃった🤣ノシ⭐︎⭐︎
    今度は時間のある時に順に読みますね❣️
    😘💕ちな、西念みたいな喋り方する人好きです❤️
    小朝さんみたい

  • すみません後半を先に読んでいました
    こちらは落語をベースに作られているのですね!
    黄表紙!昔歴史の授業で習った覚えが

    確かに大衆本と考えるとラノベの元祖なのかも!

    私もホラーや和風のお話好きで書いてます👍
    歴史は疎いですが好きです

  • これは凄いですね!古典落語を下敷きに、現代的なテイストをふんだんに盛り込まれていてすごく魅力的です。黄表紙≒ラノベ、の解釈、斬新ですが正鵠を射ていますねww

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