第1章 第1巻(脚本)
〇一人部屋
ピピピピッ・・・ピピピピッ・・・
山田 総一朗「ん~・・・もう朝かぁ。 さて準備するかぁ」
新卒で入社して、三年が経った。
仕事は普通の中小企業。平凡な毎日。
部屋から出て階段を降り、
顔を洗って歯を磨く。
1日の始まり。普通の朝だ。
山田 真紀子「おはよう。朝ご飯できてるわよ。 冷めないうちに食べなさいね」
山田 総一朗「なぁ、母さん。俺も良い年なんだ。 自分のめしくらい自分で作るよ。 弁当とかも正直恥ずかしいって・・・」
大学に入学した俺は、一人暮らしを始めた。
就職後は、会社に近い場所がいいだろうと探していた。
その矢先に母が倒れた。
障害が残ってしまった母は、気丈に振る舞っていたが介護が必要だった。
だから実家に戻ってきたのだ。
山田 真紀子「だめよ─? いつもカップ麺ばかりじゃない。 全くだらしないお腹ね」
父は母の障害に耐えられず、他の女性と消えた。
見栄っ張りな父だったから、たいして何も思わなかった。
あと、こいつ。
元気が取り柄の俺の妹。
山田 園花「おっはよ─!! ママ、お腹空いたぁ~」
優しい母と、無邪気な妹。
明るい毎日を送っていた。
そんなときだった・・・。
山田 真紀子「あなた、いい人いないの? そろそろ結婚とか・・・」
山田 総一朗「あぁ、またその話かぁ。 でもいないものはいないんだよ母さん。 彼女すら──」
言いかけている途中に、ヤジが飛んでくる。
山田 園花「よく見てよママ、お兄ちゃんのこのお腹。 相手もいないのに妊娠してるかもしれないよ」
山田 園花「彼女どころか、告白されたこともないもんね!魔法使いにでもなりたいんじゃない?」
山田 総一朗「彼女がいないことに、なんの問題があるんだよ。俺は独身貴族を謳歌してるのさ」
山田 真紀子「はぁ・・・私、孫の顔見られるのかしら──」
後ろから、母の哀しみに満ち溢れた重たいタメ息が聞こえた。
山田 総一朗「じゃあ、そろそろ会社行くね」
『孫を見せてあげることができない』──
俺はそそくさと出社した。
〇オフィスのフロア
山田 総一朗「おはようございまーす!!」
まだ勤務開始時刻まで20分くらいある。
上司に挨拶をしたあと自分のデスクに座った。
今川 隆太「おはよーっす!山ちん、今日も元気だねぇ」
同期の今川が声をかけてきた。
社内で一番の女たらしだが、仕事はよくできる。
山田 総一朗「おはようー! 唐突だけどなんだけどさ、モテる秘訣教えてよ」
今川 隆太「まず、痩せよう!あと髪を切ろう! ファッションもトレンドに気を遣って・・・」
今川 隆太「あ、何より出会わなきゃだめかな。 社内の女性は山ちんの印象、優しいおデブさんで定着しちゃってるし!!」
今川 隆太「でも安心して。 世の中の人間の半分は女性だから。 数撃ちゃ当たるって! 俺なんて毎週土日は大忙しだよ~」
山田 総一朗「相変わらずすごいね。 どうやってそんなに知り合うの? 合コンとか、ナンパとか? まさか出会い系・・・?」
今川 隆太「出会い系?そんなの時代遅れだよ。 援助交際目的の女性しかいないって。 それよりいまは──」
今川 隆太「マッチングアプリ。 これ一択!」
山田 総一朗「ああ、見たことあるけどあれも出会い系でしょ?」
山田 総一朗「そもそもイケメンの今川くんだから会えるってだけじゃない? なんか気が重くなってきたよ・・・」
今川 隆太「やる前から諦めない。 笹田課長もよく言ってるでしょ? さーて、仕事頑張りますか~」
マッチングアプリ・・・か。
帰ったら登録だけしてみようかな。
さて、今日も頑張ろう。
俺はデスクのパソコンを立ち上げ、仕事を始めた。
〇電車の座席
「あっ・・・すみません」
電車が揺られる度に、誰かとぶつかってしまう。いつも帰りは満員だ。
俺はスマートフォンを取り出しネットニュースを見ていた。
山田 総一朗(『昨日もあの選手ホームラン打ったのか・・・』 『鉈で殺人未遂・・・怖い世の中だなぁ』)
よく見慣れた光景の中に突如それは現れた。
『登録者数50万人突破!相手のいない可愛い女性があなたを待っています』
『マッチングアプリ フレンズ』
山田 総一朗(『これって、今川が言ってたやつだよな・・・』)
モデルのような女性が、出会いを求めている。自分に自信のない俺はすぐに画面を閉じた。
今川 隆太「やる前から諦めない」
スマートフォンをしまった後も、今川の言っていたことが頭のなかでこだまする。
山田 総一朗(まぁ、登録だけなら・・・してみようかな)
これからどんな未来(女性)が待っているのかと思うと、俺は期待と不安で胸がいっぱいだった。