第1章 第3巻(脚本)
〇一人部屋
部屋に戻った俺は、すぐマッチングアプリを確認をしていた。
山田 総一朗「さーてと。 どんな女性からメッセージきてるかな? また前みたいに・・・」
山田 総一朗「いかんいかん 諦めない心が大事なんだ・・・ 怖いけど、見ていこう」
『優しくて、包容力のある人がタイプです』
『お金はあるから、側にだけいてほしい』
『大人のドライブデートがしたいな』
山田 総一朗「そんなモデルさんみたいな顔なら、こんなところで俺みたいなやつ探さないでしょ・・・」
山田 総一朗「実家暮らしで年収も普通以下、挙げ句には見た目がこれなのに『マッチング率92%』ってどういうこと・・・」
山田 総一朗「女性と出会いたくて登録したのに、女性不信になりそうだ。 あとメッセージは3通かぁ」
山田 総一朗「あれ? なんだこのメッセージ──?!」
影野 華「あなたは人間ですか?」
他のメッセージとは、明らかに違う文面に数秒間硬直した。
今川 隆太「プロか素人か──」
俺は今川の言葉を思い出し、このメールに何かがひっかかった。
山田 総一朗「ま、ま、まさか、・・・な・・・」
山田 総一朗「とりあえず返事をしてみよう。 ん~、何て返事を送ればいいんだろう。 『はじめまして!』かな? それとも『やっほー』とか?」
山田 総一朗「いや、待てよ・・・? よくわからないけど、素直に聞かれたことに答えるか──」
俺は『どうも、はじめまして人間です。』
と、挨拶と聞かれたことを打ち込み送信した。
そこから寝るまで、ずっと気にしてスマートフォンを確認していたものの、返事は来なかった。
山田 総一朗「イタズラか・・・。 よくわからないし、また次を探そう。 電気を消して、目を閉じた」
〇明るいリビング
山田 総一朗「おはよう」
山田 園花「おっはよー!」
母さんの作り置きが俺の分もテーブルにおいてある。
言葉には出せないが、優しい妹だ。
山田 総一朗「そういや、母さんの体調はどうか聞いてるか?」
山田 園花「なんか検査結果があんまりよくなかったみたいで、もう少し入院するって~ 今日、帰りに着替えとか持ってくつもりだよ」
山田 総一朗「そうか、よろしくな。 あ、そうだ!聞きたいことがあるんだけどさ」
山田 園花「変なこと聞いたら怒るよ? それで、なーに?」
胃が痛くなる思いでお腹に手を当てつつ、変なことを聞くことにした。
山田 総一朗「もし初対面の異性に、『人間ですか?』って聞かれたらどう思う?」
山田 園花「とうとうお兄ちゃん、壊れちゃったんだね 妹は悲しいのです」
山田 園花「まぁ変な人だとは思うけど、その人はその人なりの『理由』があって、そんなこと言ったんじゃないのかなぁ」
山田 園花「て、ことでお先いってきまーす! 電気消し忘れないでね」
山田 総一朗「理由・・・か。 ってどんな理由ならそんなこと言うんだ?」
山田 総一朗「返事もないし、とりあえず俺もそろそろ行こう」
50通あった中で、あんな変な文面のメッセージが一番気になっていることに俺は気付いていなかった。気付くわけもないが──。
〇オフィスのフロア
今川 隆太「あははっ──、また朝から本当に笑わせないでよ。お腹痛くなっちゃうよ」
俺は(自称)プロに昨日の『人間ですか?』というメッセージのことを話した。
今川 隆太「それ、絶対からかわれてるって! なんだよ、『人間ですか?』って。 もちろん『宇宙人です』って返事したんだよね?」
山田 総一朗「そんなわけないだろー。 ちゃんと挨拶と、『人間です』って送ったよ」
今川は更に大きな笑い声をあげた。
「今川!就業前とはいえいい加減にしないか! あまりにもうるさいと始末書書かせるぞ!」
今川 隆太「おーっと、やばいやばい。 でも返事きてないなら、きれいさっぱり忘れて次いきましょ!じゃ、俺はこれで!」
山田 総一朗(ま、今川の言う通り、返事きてないし今日も仕事頑張りますか~)
社内では、私用の携帯はマナーモードにしているため俺は”あのメッセージ”に返事がきていることに気が付かなかった。