〇空

〇開けた交差点
凛子「・・・・・・」
「凛子ちゃん!?」
凛子「はい？」
三田村「俺だよ、三田村！」
三田村「ひろしの幼馴染」
凛子「あぁ、三田村君 久しぶり」
三田村「傘もささないでどしたんだよ？」
三田村「ひろしに迎え頼もうか？」
凛子「いや・・・ ひろしとは、今喧嘩してて」
三田村「連絡できないほど大喧嘩なのか？」
凛子「・・・・・・」
三田村「あーもう・・・分かった！」
三田村「じゃあそこのカフェでも入ろう コーヒー奢るよ」

〇レトロ喫茶
凛子「──ってことがあって・・・」
凛子「頬叩いて、出てきちゃった」
三田村「そうだったのか」
凛子「ひろしの言う『心の声』っていうのは よく分かんないけど」
凛子「本人は真剣だし 嘘には思えなくて」
三田村「確かに、信じがたいけど」
三田村「でもそれなら 万引きの件も納得いくな・・・」
三田村「返信が来ないのも分かる」
凛子「・・・はぁ」
三田村「・・・あいつ、変わってるだろ？」
凛子「え？」
三田村「昔からずっと ヒーローになるって騒いでてさ」
三田村「まさか大人になってもこうだとはなぁ」
三田村「俺は、幼馴染だから慣れてるけど」
三田村「凛子ちゃんは嫌じゃない？」
三田村「なんでひろしと付き合ってんの？」
凛子「私？」
凛子「・・・そうだなぁ」
凛子「ひろしに初めて会った 大学生の頃の話してもいい？」
三田村「うん」

〇大学の広場
　　私、小さい頃から
　　ずっと看護師を目指してて
　　夢は叶ったんだけど
　　第一志望の大学には落ちたの
　　気持ちを切り替えられないまま
　　滑り止めの学校に入って
　　始めの頃は新生活にも慣れなくて
　　ずっと沈んでた

〇中央図書館
　　その日は授業が午後からで
　　学校近くの市立図書館にいた
凛子（そろそろ学校行かなきゃ）
凛子「あ！」
　　誰かとぶつかって
　　荷物が水たまりに落ちた
　　些細なことだったんだけど
　　気持ちが、折れそうになった
凛子（なんで上手くいかないの？）
　　なんで・・・
「──あのっ！」
「聞こえてます？」
凛子「え？」
ひろし「荷物！ 落ちましたよ!?」
凛子「あ、あぁ。拾います」
　　そのとき
　　一緒に荷物を拾ってくれたのがひろし
ひろし「うわっ、けっこう染みちゃってるね」
ひろし「あー、ノートはもう使えないかな ぐしょぐしょ・・・」
凛子「手が汚れますよ、私が拾いますから」
ひろし「いや二人の方が早いでしょ」
ひろし「看護学ノートってことは隣の大学かぁ」
凛子「・・・はい」
ひろし「これから授業でるの？」
凛子「一時から午後の講義なんです」
ひろし「え、時間あんまりないじゃん！」
ひろし「もしよければ 俺のノート一冊持ってく？」
凛子「え、いいですよ。大丈夫です」
ひろし「平気平気」
ひろし「ちょうど名前だけ書いて 使ってないやつがあるんだ」
凛子「でも・・・」
ひろし「はい、これ」
ひろし「安物で悪いけど」
凛子「・・・ううん、」
凛子「助かります。ありがとう」
凛子「本当は、ノートどうしようか 困ってたんです」
ひろし「そっか。ならよかったよ！」
凛子（ん？）
凛子（この表紙に書いてある文字・・・）
　　ＨＥＲＯＳＨＩ
凛子（・・・へろし？）
凛子「あの、この文字何ですか？」
ひろし「うわ、ごめん！」
ひろし「ひろしって俺の名前」
ひろし「消したほうがいいよね？」
凛子「それは、別にいいんですけど」
凛子「ひろしさんですよね？ アルファベット間違ってますよ？」
凛子「これだと」
凛子「へろしです」
ひろし「いや、合ってるよ」
凛子「?」
ひろし「ＨＥＲＯはな、英語で読むんだ」
ひろし「だから『へろ』じゃなくて 『ヒーロー』」
ひろし「ヒーローと書いてひろし！」
ひろし「俺さ」
ひろし「実はヒーロー目指してるんだ」
凛子（あ・・・この人、馬鹿かもしれない）
ひろし「濡れたノートは残念だったけど」
ひろし「これがあれば大丈夫！」
ひろし「また勉強頑張れるよ！」
凛子（でも・・・）
　　真面目に話すひろしに
　　すごく元気をもらって
　　それをきっかけに連絡先交換したんだ

〇レトロ喫茶
凛子「──絶対本人に言いたくないけど」
凛子「あの時から」
凛子「ひろしは私のヒーローなの」
三田村「へえ、そんな事があったんだ」
三田村「ひろしはさ・・・」
三田村「すごい馬鹿なとこあるけど」
三田村「いい奴なんだよな」
凛子「うん・・・」
凛子「三田村君、ありがと」
凛子「これを思い出せてよかった」

〇空

〇大きな公園のステージ
敵のボス（ひろし）「くそっ、次は覚えてろよ！」
敵のボス（ひろし）（凛子と喧嘩した日以来）
敵のボス（ひろし）（心の声が聞こえない）
敵のボス（ひろし）（エンパシオンは 挫折したときに能力を失った・・・）
敵のボス（ひろし）（俺も、同じなのかも）

〇更衣室
「並野さん、今少しいいですか？」
ひろし「ああ」
松田「実は俺、このバイト 来月で辞めようと思ってて」
ひろし「え!?」
ひろし「どうしたんだよ急に」
松田「あ、嫌になったとかじゃないですからね」
松田「この前劇団で 主役の代役やったじゃないですか」
松田「ほら、並野さんに助けてもらったやつ」
松田「あれの評判よくて」
松田「次回正式に 主演もらえることになったんです」
松田「なので」
松田「そっちに専念しようかなーと」
ひろし「すげえ!! よかったな」
ひろし「松田君、頑張ってたもんな」
松田「はは、照れるな・・・」
松田「次のヒーロー役には 並野さんのこと推しとくんで！」
松田「頼みますね」
ひろし「あー、それなんだけど」
ひろし「実は俺も今別の仕事考えてて」
松田「えーー!?」
松田「まじか・・・」
松田「勝手な意見ですけど」