第二夜 雨と子供と⋯(脚本)
〇病院の待合室
その日、突然、彼が倒れた
目が見えない私はどうすることもできなくて
彼のお母さんにお願いをした
圭の母「ありがとう、亜希さん」
友川 亜希「私は別に何もしてません⋯ 私じゃ、どうしようもできないから お母さんにしか連絡できなくて」
圭の母「いいのよ、 こんな、私でもあの子の力に なれるなら、いくらでも頼ってちょうだい」
友川 亜希「⋯はい」
圭の母「ねぇ?亜希さんは どうして圭のもとに来たの?」
友川 亜希「⋯いきなりなんですか?」
圭の母「私、あなたとどこかで 会った気がしてならないの⋯」
子供「ご、ごめんなさい!」
少年らしき子供が横を通り過ぎたとき
不思議な匂いがした
それは恐怖なのか?
どこかで私が感じたことある匂いだった
圭の母「亜希さん、大丈夫?」
友川 亜希「⋯えっ? あっ、はい平気です 私、見えてないから 避けることもできなくて」
圭の母「⋯そう⋯」
圭の母「ごめんなさい、仕事から呼び出しだわ あとはお願いしていいかしら?」
友川 亜希「⋯はい、わかりました またご連絡します」
〇総合病院
圭さんと2人で病院を出た
相変わらず今日もまた雨が降っている⋯
友川 亜希「良かったですね、検査異常なくて」
田川 圭「迷惑をかけた、すまない」
友川 亜希「⋯実は私のせいかなって思ったから。 いつも、あんなに力使わせてるから 無理させたんじゃないかなって」
田川 圭「⋯大丈夫だよ⋯お前のせいじゃないさ」
田川 圭「それより、なぜか浮かない顔してるな?」
友川 亜希「えっ⋯私の表情わかるんですか?」
田川 圭「いや⋯なんというか⋯ 雰囲気っていうやつかな」
友川 亜希「実はさっき⋯ 病院で子供とぶつかったんです」
〇病院の待合室
子供「ご、ごめんなさい⋯」
〇総合病院
友川 亜希「⋯その子から⋯ なぜか、悲しいようで でも、どこかで感じたことある 匂いがして」
医者「⋯2度とはない⋯2度とは⋯」
友川 亜希「⋯な、なに⋯この⋯匂い⋯」
田川 圭「おい?亜希、大丈夫か? お前、顔色が⋯」
田川 圭「おい!亜希! おい!しっかりしろ!」
なにが起きたのかわからなかった
亜希はそのまま意識を失った
さっきの男と
なにか関係があるのだろうか?
〇病院の診察室
その日、夢を見た気がする⋯
顔は思い出せないが⋯
あの夢は⋯たしか⋯
謎の女性「⋯だから⋯どうしてですか! どうして、この子がこんな目に!」
謎の男「だから、今の段階では 私たちにはどうしようもできなくて⋯」
謎の女性「そ、そんな⋯ 今から多感な時期なのに⋯ こんなことって⋯!」
謎の女性「あなたたちがあんな⋯しなければ! この子は⋯この子は!」
〇屋敷の書斎
亜希を連れて帰ったあと、
俺は1人⋯工房にいた
雨の日に必ず亜希に異変が起きる
そして⋯
彼女はなぜ現れたのか
田川 圭(なぜ⋯亜希はここへ来たんだろ? なぜ、これを⋯)
田川 圭「はぁ~ 考えてもわからない⋯ 俺は何かを忘れているのか⋯」
田川 圭(俺はアイツと会ったことがあるのか? いつ、どこで⋯?)
〇男の子の一人部屋
何度も俺はあの日を思い出す
そう⋯あの時も⋯雨が降っていた
友川 亜希「⋯さん⋯はぁ⋯はぁ⋯さん⋯」
田川 圭「まだ熱があるな⋯ しかし、なんでこの子は こんな雨の中を歩いてたんだろ」
家の前で助けていた子を
俺は自分の部屋で看病していた
なぜ、この子は
雨の中で倒れていたのか⋯
田川 圭「ん?⋯なんだ⋯これは⋯」
田川 圭「⋯シガーレット⋯の箱? シガーレットの箱⋯ なんで、彼女が持っているんだろ?」
友川 亜希「んっ⋯あれ⋯ここは?」
田川 圭「気がついたようだね 雨の中、君は倒れていたんだ」
俺はとっさに持っていた
シガーレットの箱を隠した
友川 亜希「ごめんなさい⋯あの⋯そこに 誰かいるんですか?」
田川 圭「キミは⋯目が見えていないのかい?」
友川 亜希「⋯はい⋯ 助けていただいてありがとうございます 私は友川亜希 あなたは?」
田川 圭「圭⋯田川圭っていうんだ」
〇部屋のベッド
目を覚ますと、圭さんの匂いがした
顔は見えなくても
彼がいるのがわかるようになってきた
雨の日だけ匂いが強いから
田川 圭「目が覚めたか?」
友川 亜希「⋯圭さん? あれ、私の部屋? なんで?」
田川 圭「いきなり倒れたんだよ」
友川 亜希「ありがとうございます 迷惑かけてごめんなさい」
友川 亜希「圭さん? またウィスキー飲んだの? 最近、よく飲むよね」
田川 圭「最近、少しだけ 匂いがわかるようになってきたんだ 雨の日限定だけどな」
田川 圭「⋯それより、何があったんだ? さっき、横を通り過ぎた医者に なにかあるのか?」
友川 亜希「分かんないんです 急にあの人が横を通ったとき ⋯すごく寂しい気持ちになって⋯」
友川 亜希「そしたら、なんか急に 息が苦しくなっちゃって⋯ なんだろ⋯あれ⋯涙?」
田川 圭「これで拭いて⋯」
友川 亜希「このハンカチ⋯好きなんですね いつも使ってるイメージだから」
田川 圭「母からもらったものだからな」
友川 亜希「お母さん⋯? ねぇ? もう1回、あの病院に行って 会いたい男の子がいるんだけど⋯ ついてきてくれません?」
〇病院の待合室
田川 圭「こんにちは」
子供「あれ? 昨日、ぶつかったお姉ちゃん?」
友川 亜希「よく覚えてたね、私の事。 あー、そっか。 眼帯してるから目立つよね」
田川 圭「このお姉ちゃんが 君に会いたいって言ってたから キミはなぜ病院に? 具合でも悪いのかい?」
子供「僕ね⋯来週になったら 目の手術をするんだ わかってはいるんだけど 急に怖くなって⋯」
友川 亜希「⋯そっか。誰だって手術は怖いよね 実はね、私も目が見えないんだ」
子供「⋯やっぱりそうなんだね ねぇ?真っ暗って怖くないの?」
友川 亜希「最初は怖かったかな でも、ある時⋯怖くなくなったの 1人は寂しいけど 誰かがいるって分かれば慣れたかな」
子供「⋯お姉ちゃんは家族いるの?」
友川 亜希「お母さんの顔は忘れちゃった ⋯でも、今は 大事な人が近くにいるから 怖くないよ」
田川 圭(⋯大事な人⋯?)
友川 亜希「大丈夫!きっとあなたの手術は 上手くいくからね ほら、お姉ちゃんと握手しよう」
友川 亜希「来週って母の日だよね? お母さんになにかプレゼントした?」
子供「⋯何がいいかわかんなくて。 ママさ、香水が好きなんだよね でも、香水ってわかんなくて」
田川 圭(⋯やな予感しかしないんだが⋯)
友川 亜希「わかった! 私が用意してあげる ママの好きな匂い! 手術当日に持ってきてあげるね」
〇屋敷の書斎
工房に戻ったあと、
亜希はいつものように香水瓶を
用意している
⋯予感しかない⋯
田川 圭「⋯⋯それで俺はどうすればいいんだ?」
友川 亜希「⋯圭さんにはいつもどおりに 香水を作ってほしいの」
田川 圭「今日はあんまり雨が降ってないから 匂いは微妙だぞ?」
友川 亜希「⋯大丈夫⋯ 圭さんなら作れるわ、きっと」
田川 圭「⋯だから⋯早くしてくれよ⋯ 間がもたれると、 集中力がなくなるんだよ」
友川 亜希「もう!せっかちなんだから!」
田川 圭「⋯わかったよ⋯なんとか作れそうだ」
友川 亜希「じゃあ、お願いね 私、工房のほう、片付けてきます」
田川 圭(はぁ~ 毎回毎回、キスするこっちの身に なってみろ⋯)
田川 圭「⋯また⋯聞けなかったな⋯」
俺はシガーレットの箱を
再び、ポケットにしまいこんだ
〇病院の待合室
当日、俺と亜希は
病院の待ち合い室で
少年と待ち合わせをしていた
今日は母の日だったな
田川 圭「キミが探してた香水見つけてきたよ」
子供「えっ⋯本当に持ってきてくれたの?」
友川 亜希「うん! この香水、探すの大変だったんだよ! ほら、嗅いでみて」
子供「ママの使ってる香水と同じだ! ありがとうお姉ちゃん」
友川 亜希「きっと、キミは大丈夫だよ ママがそばにいてくれるからね」
子供「うん」
医者「おー、ここにいたのか、探してたんだぞ」
友川 亜希(はぁ⋯はぁ⋯やっぱり⋯そうなのね⋯)
田川 圭(⋯亜希?)
医者「おや、この子の知り合いかい?」
子供「先生、僕⋯手術を受けるよ! ちゃんと、僕の目、治るよね?」
医者「もちろんさ、私が責任を持って⋯ おや?」
医者「⋯キミ?⋯どこかで⋯?」
友川 亜希「⋯いえ、人違いです!」
田川 圭「おい!亜希!⋯失礼します⋯」
医者「あの子はどこかで⋯?」
〇総合病院
突然、走り出した亜希を追った
あの医者は
亜希を知っているようだった
亜希とこの病院になにかあるのか
ただ、今は病院と彼女の関係よりも
逃げ出した亜希を
止めるのに必死だった
田川 圭「はぁ⋯はぁ⋯亜希、待ってって!」
俺は亜希を呼び止め、
震える彼女の体を抱きしめた⋯
まるで泣いている子供のようだった
友川 亜希「圭さん⋯ごめんなさい⋯私⋯ 思い出したくても⋯ 思い出したくないのかもしれない」
田川 圭「俺と⋯亜希は⋯似てるな 俺は思い出したくても 思い出せないんだ」
田川 圭「なぁ、亜希? なぜ、お前はあの時⋯来たんだ?」
友川 亜希「なんのことです?」
田川 圭「もしかして⋯俺を訪ねにきたのか? 俺はお前と会ったことがあるのか?」
友川 亜希「⋯偶然じゃないですか? あの時、雨が降ってて 道に迷ったから⋯家見つけて⋯」
田川 圭「⋯これ?なんでお前が持ってるんだ?」
友川 亜希「どうして⋯圭さんがそれを⋯?」
田川 圭「あの雨の日⋯ なぜ、お前がきたのか知りたいんだ 俺は⋯お前をしってるのか? 知ってるなら教えてくれよ」
〇山中のレストラン
そう、あの日も
激しい雨が降っていた⋯
私はずっと探していた
あの人を。
友川 亜希(やっと・・・見つけた・・・ 間違いない・・・この匂いは⋯)
田川 圭「今日は雨かぁ・・・ ん?誰かそこにいるのか?」
ねえ、私はね⋯探していたの⋯
ずっと、ずっと昔からあなただけを
田川 圭「お、おい!キミ、大丈夫か?! おい!目を覚ませ、おい!」
突然、
目の前で倒れた少女。
冷えきった体・・・
息苦しい呼吸・・・
傘もささずに歩いてきたのだろうか?
友川 亜希「はぁ・・・はぁ・・・はぁ⋯」
田川 圭「仕方ない このままだと風邪をひくな ・・・部屋へ運ぶか・・・」
ねぇ?あなたは
私の事⋯覚えてるのかな⋯