第3話 雨と幼き日の記憶(脚本)
〇スナック
その日、私は
彼のお母さんの元へ来ていた
なぜだか、そこに行きたいと思ったから
圭の母「わざわざ来てくれてありがとうね」
友川 亜希「急にお邪魔してすみません 行く場所が ここしか思いつかなくて」
圭の母「でも、目が見えないのに どうしてこの場所が?」
友川 亜希「最近・・・少しずつだけど・・ カメラのシャッターのように 風景が頭の中に浮かぶんです そしたら、ここにたどり着きました」
圭の母「不思議な力ね もしかして、 ケンカでもしたのかしら?」
友川 亜希「ケンカはしてないんですけど・・・ 恥ずかしくなって それで家出てきちゃって」
友川 亜希「お母さんには話してないんですけど 私たち2人は ある儀式をしないと・・・ 仕事できなくて・・・」
〇屋敷の書斎
最近、彼はずっと上の空だ。
あの病院の帰り以来、
ずっと考え込む時間が増えていた
友川 亜希「ちょっと圭さん! 話聞いてます?」
田川 圭「ごめん・・・ちょっと考え事してた」
友川 亜希「なんか、最近ずっと上の空ですよね?」
田川 圭「・・・なぁ、亜希? この前の話なんだけど・・・」
友川 亜希「あっ・・・お客さんが来る・・・」
子供「お姉ちゃん!」
友川 亜希「あれ? キミはあの時、病院にいた子?」
子供「うん!この前はありがとう 僕、視力戻ったんだよ」
友川 亜希「良かったね あれ?でも、なんでこの場所が?」
田川 圭「俺が教えたんだ。 どうしても、亜希に会いたいって この子が言うからさ」
子供「お姉ちゃんにどうしても 渡したいものがあって」
子供「これ、お姉ちゃんにあげる・・・」
友川 亜希「いい香りがする~ありがとう」
子供「あっ、パパとママがきたみたいだ! 今度、お姉ちゃんに会いたいって 言ってたから連れてきていいかな?」
友川 亜希「・・・パパと・・・ママ・・・?」
田川 圭(・・・亜希?また顔色が・・・)
友川 亜希「うん・・・今度、紹介してね?」
子供「じゃあ、また来るね!」
友川 亜希「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
田川 圭「亜希?大丈夫か?」
友川 亜希「ごめんなさい、 ちょっと立ちくらみかなぁ・・・ 先に部屋戻ってる」
亜希はそう言って
部屋と上がっていった
病院の時といい・・・
何が起きてるのか・・・
〇部屋のベッド
誰しも、
思い出したい記憶と
思い出したくない記憶がある
私は・・・どっちなのだろう・・・
友川 亜希(・・・パパ・・・ママ・・・)
田川 圭「亜希・・・大丈夫か? さっきの子供の話だけど・・・」
友川 亜希「圭さん~? どうされましたのぅ?」
田川 圭「お前・・・何やって・・・?」
友川 亜希「え~? たまにはぁ、 お酒飲みたくなるときもあるんですよぉ」
田川 圭「いい加減に飲みすぎだろ?」
友川 亜希「あれ? 今日、雨あんまり降ってないのに ウィスキーの香りするの??」
田川 圭「最近、多少の雨なら 儀式しなくても この距離ぐらいなら 匂いがわかるように なったんだ・・・」
友川 亜希(あれ?なんだろ・・・ 心臓がドキドキする・・・ 飲みすぎたかな・・・)
田川 圭「あの病院の時からおかしいし、 お前に一体、何があって・・・」
友川 亜希「そ、そうだった! 私、買わなきゃいけないものが あったから買いに行ってくるね!」
田川 圭「お、おい!亜希!」
田川 圭「アイツ・・・携帯・・・ 忘れていってる・・・」
〇スナック
友川 亜希「それで・・・ 逃げ出したっていうのか・・・ わたしもわかんなくなっちゃって」
圭の母「あはは! あなたたちって・・・ 似てるというのか、 不器用すぎるのか・・・」
友川 亜希「わたし、なんか変なこと言いました?」
圭の母「亜希さん? 良かったらご飯食べて行かない? あなたに 圭のこと話さななきゃと思ってるの」
〇綺麗なキッチン
彼のお母さんに誘われて
彼の実家に来ていた
私には周りは見えない
けど、
懐かしい匂いが体を駆け巡った
圭の母「この家に女の子が来るなんて 何年ぶりかしら」
圭の母「味は保証できないけど 良かったら食べて?」
友川 亜希「いただきます ・・・美味しいです・・・すごく」
圭の母「良かった。 実はこのカレーね、 女の子に 食べさせたのは2回目なのよ」
友川 亜希「・・・え?」
圭の母「昔、 圭がまだ小さかった頃 女の子を連れて帰ってきたの あの時も 雨がすごく降ってたわね」
そう言って
懐かしい話をし始めた
それは私が忘れたことない
忘れたくなかった記憶と同じだった
〇綺麗なキッチン
圭(少年)「ただいま~」
圭の母「おかえりなさい こんな土砂降りなのにどこ行ってたの? あら? そちらの子は?」
亜希(過去)「・・・こん・・・にちは・・・」
圭(少年)「あっ、さっき公園で仲良くなってさ 雨降ってきたから 連れてきちゃった 家に帰りたくないって泣いてたから」
亜希(過去)「・・・お邪魔・・・します・・・」
圭の母「圭が友達を連れてくるなんて珍しいわね お腹すいてない? カレー作るけど、食べていく?」
亜希(過去)「・・・はい・・・」
圭(少年)「僕の母さんのカレー ちょっとクセが強いけど許してね」
亜希(過去)「・・・平気・・・ うちのママ、 ご飯なんて作ってくれないから」
圭の母「味は保証しないけど、どうぞ」
亜希(過去)「・・・いただきます・・・ 美味しい・・・! レトルト以外のカレー初めて食べた!」
圭の母「あなたのお母さんは?」
亜希(過去)「ママはいつも病院にいて、 知らないおじさんと イチャイチャしてて ほとんど、家に帰ってこないです」
圭の母「そうなのね 圭の友達なら大歓迎よ! またここに来ていいからね」
圭の母「それより、明日は大丈夫? 出かける予定にしてるけど?」
圭(少年)「夕方でもいいかな? この子と 明日も遊ぶ約束しててさ」
圭の母「ちゃんと夕方までには帰るのよ あの人、怒らせたらやばいから・・・」
圭(少年)「・・・わかってる・・・ カレー食べて、雨落ち着いたら 彼女送っていくよ」
亜希(過去)「あの公園まで 送ってくれたら大丈夫だから」
圭の母「明日は 夕方って伝えておくわね」
〇綺麗なキッチン
圭の母「結局、その子が どうなったかはわかんないんだけどね」
友川 亜希「・・・・・・ごめんなさい・・・」
圭の母「亜希さん?急にどうしたの? 変な話しちゃったかしら・・・」
友川 亜希「・・・違うんです・・・ 私を・・・覚えてくれてる人がいたのが びっくりで・・・」
圭の母「やっぱり、 あなたはあの時の子なのね? 顔は見えなかったけど あなたと 会ったときにそんな気がしたの」
友川 亜希「私は 顔がわからないのに・・・ ・・・ごめんなさい・・・」
友川 亜希「1つ聞いてもいいですか? あの雨の日、なぜ・・・ 来なかったんですか・・・?」
圭の母「あの翌日の朝、 私の元夫が・・・ 圭に暴力をふるってしまったの」
友川 亜希「・・・暴力?・・・」
圭の母「子供を守る一心だった私は 無理やりに親戚にあの子を預けたの。 正直、怪我がひどくて 外に出れる状態ではなかった」
圭の母「あなたと遊ぶ約束をしてると言ってたけど 彼の身に危険を感じた それから あの子が嗅覚がわからないと言い出したの」
圭の母「病院で検査したら 鼻は折れてなくて 嗅覚や味覚の障害は恐らく 精神的に 追い詰められたことで起きたものと」
友川 亜希「圭さんが私を覚えてないのは・・・ 精神的によるショックと 思い出したくない記憶だからって 意味ですね」
友川 亜希「私にだって、 思い出したくない過去はあります 思い出さなくてもいいと思うし」
友川 亜希「・・・私の目も・・・ なりたくて なったわけじゃないし・・・ 思い出したくないし・・・」
圭の母「あなたがあの場所に来た理由は ・・・あの子に会うためだったのね 亜希さん、話してくれない? あなたの思い出したくない記憶」
〇屋敷の書斎
あれから数日・・・
亜希は帰ってこないままだった
携帯は置いたまま。
彼女が家を空けることは
今までなかった
田川 圭「・・・はい・・・すみません・・・ 今日は店を休業してます・・・」
田川 圭(・・・どこにいるんだよ・・・)
田川 圭「・・・もしもし・・・母さん? え? 今から・・・わかった、いくよ!」
〇山中のレストラン
俺は急いで外に出た
亜希は実家にいる・・・
不安と虚しさが
俺を焦らせていた
子供「あっ!お兄ちゃん!」
田川 圭「キミはあの時の? お姉ちゃんは 今、ここにいないよ?」
子供「そっか お姉ちゃんに会いたいっていうから 連れてきたんだけど」
なんだ・・・この匂いは・・・?
今日は雨は降っていない
俺はなぜわかるんだ?
謎の女性「あの~お尋ねしたいんですけど こちらに女の子がいませんか?」
謎の女性「これをくれた女の子にお礼が言いたくて」
田川 圭「・・・すみません・・・ どちら様かわかりませんが 今、出かけてて留守なんです 日を改めて来てはいただけませんか?」
謎の女性「・・・そうですか・・・ せっかく会えると思ったのに」
子供「ねえ? パパが呼んでるから今日は帰ろう? また会えるよ、きっと」
謎の女性「戻ったらこれを 渡してくれませんか?」
謎の女性「・・・また来ます・・・」
子供「お兄ちゃんまたね!」
田川 圭「母さん?ごめん、 今からそっちに向かうよ」
〇綺麗なキッチン
久しぶりの我が家だった
何も変わりはしない
そして、
そこには数日ぶりに
亜希の寝顔があった
圭の母「来てくれたのね」
田川 圭「・・・亜希は?」
圭の母「疲れてたみたいだから こちらで預かってたのよ 今は ぐっすり眠ってるわ」
田川 圭「母さん・・・俺は・・・ 亜希のこと昔から知ってるのかな?」
田川 圭「聞こうとするんだけど、 ずっと 怖くて聞けないんだ・・・ 母さん、何か亜希から聞いてたら・・・」
圭の母「圭、良く聞いて? 記憶と言うのは 人に聞くんじゃなくて 自分で思い出すものよ 思い出したくないことも あるかもだけど」
田川 圭「亜希が言ってたんだ 思い出したくても、 思い出さないほうがいい ときもあるって・・・ 俺は・・・」
圭の母「・・・あなたは、思い出さなくていいの? なぜ、彼女があなたの元に来たのか? ・・・知らなくていいの?」
田川 圭「・・・俺は・・・」
知らなくてもいいのか?
亜希があの雨の日に来たこと。
シガレットの箱を持っていること。
俺が忘れてる記憶のこと。
圭の母「圭、私と約束をして? 彼女の手を離さないであげて! 彼女の傍にいてあげて 彼女を守ってあげて」
田川 圭「・・・母さん? 何かを知ってるのか?」
圭の母「・・・それは彼女の口から真実を聞きなさい」
〇街中の公園
亜希(過去)「どうして・・・来ないの? ずっと待ってるのに・・・なんで・・・?」
亜希(過去)「ねぇ?そこにいるのは誰・・・ 見えないんだよ・・・あなたのこと?」
医者「お前は私の・・・」
謎の女性「あなたは・・・私の・・・」
過去の少年「・・・」
亜希(過去)「ねぇ・・・待ってよぉ・・・ 私はずっと・・・あなたを・・・」
〇部屋のベッド
夢を見た・・・
まだ忘れていなかった幼い頃の記憶・・・
だけど・・・思い出して・・・どうなるの?
田川 圭「目、覚めたか?」
友川 亜希「・・・ここは私の部屋?」
田川 圭「・・・おかえり・・・」
友川 亜希「・・・圭さんが連れて帰ってきたの?」
田川 圭「母さんから連絡があって 迎えに来てくれって 頼まれたんだよ 携帯置きっぱなしだった」
友川 亜希「・・・ごめんなさい・・・ 迷惑かけちゃって」
田川 圭「無事で良かったよ、 帰って来ないから心配だった」
友川 亜希「ねぇ、店は?」
田川 圭「ちょっとだけ休業してた 俺、1人じゃ何もできないし 電話があったりとか 来客がきたりはあったけどね」
友川 亜希「来客?」
田川 圭「ああ、あの子が来たんだよ 亜希に会わせたいって人がいるって 言ってた」
友川 亜希「・・・ねえ?・・・ 手に何か持ってる?」
田川 圭「店の前で渡されたんだ 亜希に渡してくれって なんだろ 人形?」
友川 亜希「・・・人形・・・?」
友川 亜希「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」
田川 圭「あ、亜希!」
友川 亜希「いやぁぁぁぁぁぁ・・・ やめて・・・ 思い出したくない・・・ 思い出したくない・・・」
田川 圭「おい、亜希!しっかりしろ!」
友川 亜希「思い出したくない・・・ 思い出したくない!!!」
田川 圭「亜希!」
俺はとっさに怯える亜希を抱きしめた
なぜ、その行動をしたのか
俺にはわからない
ただ、
どこかにまた行ってしまうのではないか
また携帯を置いて消えてしまう?
そんな
不安にかられていた
友川 亜希「・・・えっ・・・圭さん?・・・」
田川 圭「今は思い出さなくていい ゆっくりでいい 思い出したくない記憶は 誰にでもあるさ 俺にも忘れたい記憶はある」
友川 亜希「・・・圭さん・・・私・・・」
田川 圭「でも、 俺は・・・お前を思い出すから・・・」
その時はまだ知らなかった
亜希の
怯えた過去の記憶。
そして、
俺の記憶は・・・