第6話 敵の思惑(脚本)
〇ボロい倉庫
アレク「ここがそうか。前のアジトより綺麗だな」
アレク「俺なら定例会議なんて中止にするが、この手の輩は見栄が命だ」
アレク「俺たちに怯えて中止したんじゃ示しが付かない。必ず集まってくるはずだ」
怪しい人影「おい聞いたか? 組織の店が若い女一人に潰されたらしいぜ」
怪しい人影「おっかねえ話だ。どんなゴリラだったんだろうな?」
怪しい人影「噂じゃ丸太みてえな腕してたって話だぜ。ゴリラどころかオークだぜ」
アレク「あいつが聞いたら顔を真っ赤にして怒ってただろうな」
アレク「さて、読み通り会議があるとわかったところで」
アレク「パーティと洒落こむか。招待状は持ってないけどな」
見張りの男「おい止まれ!」
アレク「夜にそんなデカい声を出すな。近所迷惑だぜ」
見張りの男「つまらねえ減らず口を叩いてんじゃねえぞ!」
見張りの男「ここに来たってことはお前も組織の下っ端なんだろ?」
アレク「お前と同じな」
見張りの男「ふん。少しは肝が据わってるみてえだな。嫌いじゃねえぜ」
アレク「男に好かれても嬉しくないね」
見張りの男「言うじゃねえか、この野郎!」
見張りの男「お前みたいな奴なら大歓迎、と言ってやりてえが、すんなりここを通すわけにはいかねえ」
見張りの男「合言葉は?」
アレク「ない」
見張りの男「何だと?」
アレク「ないと言ったんだ」
見張りの男「なるほど」
見張りの男「どうやら本当に組織の人間みたいだな」
見張りの男「人が悪ぃよな。こんな引っ掛け問題みたいな試し方するなんてよ」
アレク「それだけ用心深いってことなんだろ」
見張りの男「店を一つ潰されたあとだから余計にな」
見張りの男「通っていいぜ。今度奢ってやるから飲みに行かねえか?」
アレク「女がいるなら考えてもいい」
見張りの男「いいねえ! 好き物を用意してやるよ! 朝まで楽しくやろうぜ、兄弟!」
見張りの男「それとも俺と二人が良かったか?」
アレク「勘弁してくれ」
〇ボロい倉庫の中
アレク「野郎ばかりでむさ苦しいな。長居してたらイカ臭くなりそうだ」
幹部「お前らよく集まってくれた」
幹部「もう耳に入ってるだろうが、組織の店が何者かに潰された」
幹部「若い女がやったって話だが、俺はバカでかいオークがやったんじゃないかって思ってる」
「がはは! 違ぇねえ!」
「おっかねえオークだぜ!」
アレク「なるほど。ユーモアのセンスはあるな」
幹部「おかげで組織は大打撃を被った」
幹部「店を潰したふざけた奴を痛い目に遭わせるのは当然として、他にもやることがある」
「それで俺たちを呼んだんだろ?」
「何をすればいいんだ、旦那?」
幹部「話が早くて助かるぜ」
「と、扉が!?」
「おい旦那! これは何の真似だよ!?」
幹部「何、簡単な話だ」
幹部「使えねえお前らを消すことにしたのさ」
「な、何だと!?」
「それはどういう──」
「ぎゃあああ!」
幹部「鈍い奴らだ。そんなんだからいつまで経っても下っ端なんだ」
幹部「てめえらの間抜けが原因で足が付いたんじゃ組織の名折れだ」
幹部「代わりのチンピラはいくらでもいる。一人残らず消えてもらうぜ」
「ふ、ふざけんな! こんな真似してタダで済むと──」
「うぎゃあああ!」
幹部「喋ってる暇はねえぞ」
幹部「よし、そうだな。お前ら殺し合え。生き残った一人は特別に助けてやる」
幹部「俺は高みの見物をさせてもらうぜ」
「く、クソ! 組織の傘がねえんじゃお終いだ!」
「や、殺るしか、殺るしかねえんだ!」
幹部「良いぞその調子だ! 最後の一人になるまで殺し合え!」
アレク「おいおい野郎同士で乱交パーティか? とんでもないところに来ちまったぜ」
「うおおお! 死ねええ!」
アレク「野郎と無理心中なんてごめんだ」
「ぐはっ!」
アレク「さて、趣味の悪い催しをした根暗顔は、あそこか」
幹部「ん? 何してる? お前も奴らと殺し合え」
アレク「熱い夜を過ごす相手はレディだけだと決めてるんでね」
幹部「中々面白い奴だ。俺に話でもあるのか?」
アレク「ポーンを囲わないでキングが孤立してるんだ。狙いに来るのは当然だろ?」
幹部「ほう。脳味噌の代わりに豚のクソでも詰まってる奴らばかりだと思ってたんだがな」
アレク「概ね正解だ。俺を除けばな!」
幹部「ふん。少しはやるようだな」
アレク「避けたか。ただの事務員ってわけじゃなさそうだ」
幹部「出世してから現場に出る機会が減ってたところだ」
幹部「運動不足解消のついでに相手をしてやる!」
アレク「運動不足にしては良い動きだ。昔スポーツでもやってたのか?」
幹部「減らず口を! 余裕をこいていられるのも今のうちだけだ!」
アレク「ぐはっ!」
アレク「ば、バカな! 闇魔法だと!? お前どこでこの力を!?」
幹部「組織が取引してるのは人間だけじゃないってことさ」
アレク「お前らまさか魔族と!?」
幹部「おっと、お喋りはこれまでだ。そろそろ頃合いか」
アレク「ぐっ!」
幹部「お前は使えそうだが生かしておくと面倒なことになりそうだ」
幹部「おい始めろ!」
「はい!」
〇ボロい倉庫の中
アレク「また放火か! ワンパターンな奴らめ!」
幹部「お別れだ。最後のときを楽しむといい」
アレク「クソ! 待て!」
「ひいい! 火が! 火があぁあ!」
「一人は助けるって話じゃなかったのかよ!?」
アレク「あのバカども踊らされやがって!」
アレク「こいつらが死んだところで心は痛まないがあの根暗顔の良いようにされるのは気に入らないな!」
アレク「死にたくなかったらここから外に出ろ!」
「ど、どこの誰かは知らねえがありがてぇ!」
「こ、今度こそ足を洗う! 洗ってやるんだ!」
アレク「世話が焼ける連中だ」
アレク「さすがに死んだ連中まで連れ出すのは無理だな。俺も急いでここを出るか」
アレク「なっ! 壁が!?」
アレク「チンピラの死体と一緒に丸焼きはごめんだ!」
アレク「仕方ない。やるしかないか!」
〇ボロい倉庫
〇港の倉庫
アレク「ここまで来れば一安心か」
アレク「年々バテるのが早くなってるな。年は取りたくないもんだ」
アレク「あの根暗顔はどこに──」
アレク「ぐはっ!」
幹部「あの場を逃げてきたか。悪運の強い奴だ」
アレク「くっ、お前」
幹部「よくよく考えてみると妙でな」
幹部「お前の動きは訓練を受けたそれだった」
幹部「お前憲兵だろ?」
アレク「何寝惚けたこと言ってるんだ? こっちが眠たくなってくる」
幹部「ふん。ここで長話をするつもりはない」
アレク「ぐふっ!」
幹部「話はアジトでじっくり聞いてやる」
幹部「おい、こいつを運び出せ」
見張りの男「へい!」
アレク「お、お前は──」
見張りの男「へへっ、また会ったな、兄弟」
見張りの男「話は聞かせてもらった。兄弟が憲兵だったなんて裏切られた気分だ」
見張りの男「あとでお前のケツに事情を訊くのが楽しみだぜ」
アレク「や、やれやれ。今日は永い夜になりそう、だな」
〇作戦会議室
アレク「んっ──」
アレク「ここは一体?」
アレク「動けない。両手足を椅子に縛られてるのか」
見張りの男「おう、起きたみてえだな」
見張りの男「全然目を覚まさねえから俺のキスで起こすところだったぜ」
アレク「寝起きにゴリラ顔か。ここはジャングル、ってわけじゃなさそうだな」
見張りの男「シケたところだよな。気を利かせてベッドくらい用意してくれてもいいのによ」
アレク「生憎俺にそっちの趣味はないぜ」
見張りの男「釣れねえこと言うなよ、兄弟」
見張りの男「お前から話を聞き出せって上がうるせえんだ」
見張りの男「洗いざらい話せって言っても、どうせ口を割るつもりはねえんだろ?」
見張りの男「だったら最初から割れてるケツに話を聞いたほうが良さそうだ」
アレク「全部話すって言っても聞かなそうだなこれは」
見張りの男「夜は長えんだ。たっぷり楽しませてもらうぜ」
アレク「おい待て──」
リンス「そうはさせませんよ!」
見張りの男「ぐはっ!」
リンス「無事ですか! アレク先輩!」
アレク「お前は、お嬢ちゃんか? どうしてここに?」
リンス「話はあとです! 急いで逃げましょう!」
リンス「それともお邪魔でしたか?」
アレク「いや、助かった。それよりその格好はどうしたんだ?」
リンス「こ、これは込み入った事情がありまして」
リンス「そんなことより急いで逃げましょう! 今縄を解きますね!」
アレク「やれやれ。男に縛られるとは災難だったな」
アレク「女が相手なら大歓迎だったんだがな」
リンス「言ってる場合じゃないですよ!」
リンス「まったくもう! 私を差し置いて一人で行くなんて無謀にもほどがあります!」
アレク「このヤマは俺一人で十分だと思ったんだ。除け者にしてすまなかった」
リンス「あれ、やけに素直ですね。気持ち悪いです」
アレク「反省してるのに酷い言われ様だな」
リンス「それだけ日頃の行いが悪いんですよ。今回も少佐が教えてくれなかったらどうなってたことか」
アレク「なるほど。レティの差し金だったか。鈍いお前にしては良い働きだと思った」
リンス「助けられておいてその言い草は何ですか!」
アレク「今のは俺が悪かった」
アレク「そんなことよりカスディアについてのほうが問題だ」
リンス「そんなことって何ですか!」
アレク「落ち着け。真面目な話だ」
アレク「カスディアには魔族と繋がってる疑いがある」
リンス「えっ!? でも魔族は魔王が倒されたあとはおとなしくしてるって話じゃ」
アレク「実際はそうじゃなかったってことだ」
アレク「まったく、一度俺たちが痛い目に遭わせ、いやこの話はいいか」
アレク「問題はカスディアが魔族と関わっているなら、軍の上層部も怪しいってことだ」
リンス「そ、そんな。それじゃ私たちだけじゃどうしようもないじゃないですか」
アレク「その通りだ。一人で首を突っ込んだ俺の軽率だった」
アレク「このことをレティに伝えてくれ。あいつのことだ。あとは上手いことやってくれる」
リンス「お前はって、先輩はどうするつもりですか?」
アレク「俺はこのまま探りを入れる。やられたままは趣味じゃないんだ」
リンス「そんな! さっき一人で動いてやられたばかりなのに何言ってるんですか!」
アレク「ちょっと油断しただけだ。次はこうはいかない」
リンス「私も付いて行きます。一人で行かせたりなんてしません」
リンス「大体自分が置かれてる状況を把握してますか? ここがどこだとか、今何時なんだとか」
アレク「見当は付く。大方連中が使ってるアジトの一つに連れ込まれたんだろうな」
アレク「お前は俺が連れ去られるのを見て、アジトを割り出そうと尾行してきた」
アレク「俺を助けるのはそのあとがいいと判断した」
アレク「時間は、感覚からして気を失ってから一、二時間と言ったところか。違うか?」
リンス「せ、正解です」
アレク「俺を攫ったのは想定外の出来事。急遽手近にある隠れ蓑に連れ込んだと言ったところか」
アレク「お前がここまで来られたということは、警備はそれほど厳重じゃないはずだ」
リンス「うっ、それも正解です」
アレク「だとすれば先ずやるべきことは根暗顔の幹部を捕まえることだ」
アレク「俺にしようとしたことをそっくりそのまましてやらないとな」
リンス「先輩のこと見くびってました。伊達にその年まで憲兵をやってるだけのことはありますね」
アレク「年の功ってやつだ。わかったならお前は行け。ここは俺一人で十分だ」
リンス「──それは上官命令ですか?」
アレク「そうだ」
リンス「了解しました。私はスカーレット少佐の元へ向かいます」
アレク「それでいい。あとママに俺の家に来るように伝えてくれ」
リンス「ママさんにですか? わかりました」
リンス「──気を付けて下さいね」
アレク「これでいい。あいつにこのヤマはまだ早い」
アレク「さて、さっさとあの根暗顔をとっちめるとするか」
〇怪しい部屋
「ぐわっ!」
「ぎゃわっ!」
アレク「あとはお前だけだな」
幹部「くっ、貴様どうやってここに!?」
アレク「こう見えて幸運の女神に愛されてるんでな。遣わされたのは乳臭い小娘だったけどな」
幹部「おのれ! 作戦が決行される直前でこんなことになるとは!」
アレク「作戦か。どんなことをするのか詳しく教えてくれないか?」
アレク「いや、どうせ訊いても口を割るつもりはないんだろ?」
アレク「だったら最初から割れてるケツに話を聞いたほうが良さそうだ」
幹部「何をふざけたことを! 死ね!」
アレク「同じ手は二度も食わないぜ」
幹部「ぐぬっ! これしきのことで!」
アレク「今ので倒せるなんて思ってないさ」
幹部「がはっ! こ、この俺がこんな奴に──」
アレク「一丁上がりだな。お前には訊きたいことがあるからな。しばらく付き合ってもらうぜ」
〇英国風の部屋
幹部「むぐっ!」
アレク「さて、それじゃ早速尋問といきたいところだが」
チンピラ「むーっ! むーっ!」
アレク「お前がいるのを忘れてた」
アレク「おい待て。床が濡れてるのはお前の小便か?」
アレク「人の家で粗相するとはふざけた奴だぜ!」
チンピラ(お前がずっと縛ったまま放置するからだろうが!)
アレク「お前の処分は後回しにする」
アレク「この罪だけで二十年はブタ箱にブチ込んでやるからな!」
チンピラ(小便ぶちまけただけで二十年は重すぎねえか!?)
アレク「お前は寝てろ! この小便野郎!」
チンピラ「むぐっ!」
アレク「よし、それじゃ話を聞かせてもらおうか」
幹部「ぷはっ! ふん! 何を聞いても答える気はないぞ! さっさと殺せ!」
アレク「来たな。入ってくれ」
ママ「こんばんは、アレクちゃん。リンスちゃんに言われて来たけど何かあったの?」
アレク「カスディアのチンピラを捕まえたんだ。話を聞こうにも何も喋らないの一点張りで困っててな」
ママ「あらそうなの。大変ねえ」
アレク「そこでママの出番だ。こいつが洗いざらい話したくなるように説得してくれないか?」
ママ「そういうことならお安い御用よ!」
ママ「──ちなみにどこまでして良いのかしら?」
アレク「何をしてもいい。ここでママがすることは罪に問わない」
ママ「そういうことなら任せて! たっぷり可愛がって、いや説得してあげるわ!」
幹部「おい待て何だお前は? 何をするつもりだ!?」
ママ「もう! カマトトぶっちゃって!」
ママ「何って言ったらナニに決まってるでしょ?」
幹部「ふざけるな! おいこいつを何とかしろ!」
アレク「どうやら立場がわかってないようだな」
幹部「な、何とかしてください! お願いします!」
アレク「ならさっさと全部吐け。俺はともかくママは気が短いんだ」
ママ「もう! アレクちゃんのイジワル!」
アレク「何だ今の音は!?」
リンス「アレク先輩! 大変です!」
アレク「お前か。今の爆発は何だ?」
リンス「町が大変なことになってます! 急いで来てください!」
幹部「どうやら始まったようだな」
アレク「どういう意味だ? お前何を知ってるんだ!?」
幹部「もう察しは付いてるんだろ? 俺たちカスディアは魔族と取引をしていたんだ」
アレク「取引だと!? この町をどうするつもりだ!?」
幹部「支配するんだよ。俺たちカスディアと魔族でな」
幹部「そのために色々と準備を済ませてきた。軍の上層部は間抜け揃いだぜ。金を積めばすぐに言うことを聞いてくれた」
幹部「いや、妻と娘がどうなっても、何てことも言ったっけか? はっはっはっ!」
アレク「このバカ野郎が。お前たちは利用されたんだ。魔族が人間を生かしておくはずがない」
幹部「そんなわけあるか。奴らは契約の証として力を分け与えてくれた。これからは魔族と仲良く──うぐっ!」
幹部「な、何だ? 体の力が抜けて、うぎゃあ!」
リンス「い、一体何が──」
アレク「こいつが余計なことを話そうとしたら死ぬように魔法が仕込まれてたんだ」
アレク「まんまと利用されやがって。バカどもが」
リンス「それより先輩! 町が!」
アレク「今行く。ママ、ここは任せてもいいか?」
ママ「任せて。もう一人の子はどうするの? このまま逃がしちゃう?」
アレク「知っていることを全部話すように説得してくれ。手段は問わない」
ママ「いやん! そういうことなら是非もないわ! たっぷりと可愛がっておくわ!」
リンス「あ、あの、ママさんは一体何を?」
アレク「ここでの話は聞かなかったことにしろ。いいな?」
リンス「わ、わかりました」
ママ「お楽しみはこれからよぉ!」
見張りとママの個性が凄すぎ😁
リンスはヒーローの素質ありますね👍
おおっ、大立ち回り回!
…の一方で、見張りの男のキャラというか性癖というかが濃ゆいですねーw と思っていたら、ママがさらにその上を……「説得」内容が気になりますww