ジビエの姫

山本律磨

ファビュラス!(脚本)

ジビエの姫

山本律磨

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ジビエの姫
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〇山並み
  弓引山 AM10:33
「ヤ―――――――――――――――ッ!」
「ホ―――――――――――――――ッ!」
「ホホ――ッ!ホ――ッ!ホ――――ッ!」

〇森の中
  同、中腹 AM10:36
綾「ひっ!」
  『綾ちゃん』
綾「ししし、宍倉さん!」
綾「だだだ、大丈夫です!」
綾「れれれ、冷静です!」
  『そうか』
  『そっちに追い込んだ』
  『10時の方向から来るぞ』
  『ギリギリまで姿は見えんだろうから充分気をつけて』
綾「はい!気をつけます!」
  『安心しろ。君が仕留めるわけじゃない。一発ぶっぱなせばそれでいい』
綾「・・・」
綾「分かってます」
  『頼んだよ』
綾「・・・ふう」
綾「よし」
綾「装填」

〇山並み
  『狩猟、一年目』
  『仕事、三年目』
  『恋は・・・』

〇森の中
綾「五年目!」
綾「つって・・・」
  『ホーッ!ホホ―――――ッ!』
  『ヤ――――――ッ!ホ――――!』
綾「来る・・・」
綾「こっちに来る・・・」

〇けもの道
  『来る・・・』
  『来る!』
綾「うあああああああああッ!」

〇山並み
  弓引山 AM10:40ジャスト!
  『私が仕留めました!』

〇中庭のステージ
町長「体重60キロ、私よりスレンダー!」
町長「違うか」
町長「いやいや、本当。大きければいいってもんじゃない。これくらいの大きさが一番美味しいんですよ」
町長「我が町が誇る、猪は」

〇お祭り会場
  いのちに感謝~ニワトリ解体教室~
綾「はい。こうやってバケツの湯に浸し、毛をむしってゆきます」
ザ・レディ「おりゃああああああ!」
ザ・レディ「とりゃああああああ!」
綾「そしてこちらのテーブルでは裸になった鶏を手際よく捌いてゆきます」
ザ・レディ「アチョーーーーーッ!」
綾「そしてなんやかんやで出来上がったものがこれです」
綾「こうして一つの命だったものがお馴染みの形になって食卓に並ぶのです」
綾「みなさん。今日のこの光景を忘れないで下さい。生き物に感謝し食べ物を大切にしましょう」
  『フフッ・・・』
  『イノチニカンシャ・・・か』
綾「え?」
姫子「・・・」
姫子「寒っ」
綾「あの人・・・」

〇射的コーナー
テキヤ「姫子てめえええッ!俺が飯休入ってる間に紛れこみやがって!」
テキヤ「プロは出禁だっつってるだろ!」
姫子「あら?私、本職は一介のデザイナーですわ」
姫子「コチラの方はあくまでも趣味」
姫子「そちらこそいい加減、的に妙な小細工などなさらぬように」
テキヤ「ぐぬぬぬ!」
姫子「はい、参加賞」
めっちゃ暑がりな子「ありがとう!これ、お礼」
姫子「あら。これって・・・」
姫子「可愛い」

〇中庭のステージ
梶「つまりは我々『NPO法人あるてみす』が外様ながらも町で活動させて頂けるのは、ひとえに弓引町猟友会の方々」
梶「地元料理店ならびに農家の皆様」
梶「そして何より、山田町長のご理解ご尽力のおかげであると感謝しております!」
町長「いやいや。私は趣味で猟をかじっとるだけ」
町長「ここは室町時代からの狩猟の町。害獣駆除数も全国トップクラス」
町長「ですがご存じの通り地方はどこもかしこも少子高齢化。町が誇る猟友会も、例外ではありません」
町長「こうして東京の若い方々が自然保護を通して町興しを考えてくれている」
町長「いや~感謝感謝ですよ。あるてみす万歳!」

〇うどん屋台
綿貫「チッ。高齢で悪かったな」
綿貫「誰のサポートで猪仕留められたってんだ」
隈川「ぼやくなよ。きょう日、接待ハンティングなんて誰もやらせてくんねえぞ」
鎌井「バブルは遠くなりにけりですね、会長」
宍倉「まあ、時代と世代だよ」
宍倉「越えられねえもんさ」

〇中庭のステージ
梶「さて皆様、弓引町ジビエ祭りも宴たけなわといった所でありますが。ここで宣伝です」
梶「本日はフレンチレストランポンヌフが特別出店を行っております」
梶「何と今そこで焼かれている猪肉こそ、町長自ら仕留めた・・・」
  『うわー!このでっかいパネル何?』
  『町長の写真とイノシシだ~!』
  『でもちょっと野蛮過ぎないかな~?』
  『殺した猪の隣で嬉しそうにして~』
  『ひくわ~~~~~~~~~~~~!』
町長「お、おっほん!」
梶「・・・」
綾「私に任せて」
梶「い、いや。ここは代表の俺が」
綾「ここは広報の私よ」
ややこしい女「命を有難くなんて言ってるけど、こういうの見ると結局は娯楽なのよね~」
ややこしい女「殺して食べるなんて現代人のやることじゃないわよ」
綾「すみません」
ややこしい女「な、何よ~」
綾「失礼。あなた達じゃなくて」
綾「あなたです」
ややこしい男「え?」
綾「アニマルガードの大河原代表ですよね」
ややこしい男「どーも」
綾「ここは町の憩いの場所です。私どもの活動にご意見がおありなら直接お伺いします」
ややこしい男「いやだな~。僕はただ、ここでお茶してるだけですよ」
綾「それで撮りながらですか?」
ややこしい男「そうっすね。偶然、見ず知らずの良識ある女性達が街の野蛮な文化に意見している所を撮影させて頂いてま~す」
ややこしい男「あるてみすさんもチャンネル登録オナシャ~ッス」
綾「意見があるのはあなたでしょう!手下なんか使わないで正々堂々と町の人に向き合えばいいじゃないですか!」
ややこしい女「手下ですって?そっちこそ補助金目当てで田舎に寄生する偽善者じゃない!」
ややこしい女「害獣に困ってるなら麻酔銃で撃って山奥に戻せばいいでしょう!」
ややこしい女「何が感謝よ!ようは面倒臭いから撃ち殺してるだけでしょ!」
ややこしい男「お、いいねいいね~!」
ややこしい男「生配信いってみよ~」

〇中庭のステージ
  『は~い、そういう訳でしてね~』
  『偶然僕と同じ思想の女子二人が、野蛮な動物殺しの文化と偽善のNPO組織に勇気を持って立ち上がりました』
  『ではこの感動的な光景を記録して、我らがアニマルガードも全面的に支援しちゃいますよ~』
綾「勝手に撮らないで下さい!」
  『あれ~顔映されて困るんですか~?』
  『確かにやましいNPOさん達は、面割れちゃ困るんでしょうね~』
綾「そういう問題じゃないでしょう!」

〇うどん屋台
隈川「あいつら・・・言わせておけば!」
綿貫「放っとけ。都会人同士の喧嘩だ」
綿貫「ああいう連中をいなすのも綾ちゃんの仕事なんだろうよ」
宍倉「・・・」

〇中庭のステージ
ややこしい女「私達はモザイクなんていらないわよ!間違ったこと言ってないし!」
ややこしい女「そう。狩猟って超残酷」
ややこしい女「決めた。私、今日からベジタリアンになる」
ややこしい女「私も~!動物も人間も平等!同じ仲間よ!」
  『そうで~す!生きとし生けるもの全部がこの地球号の乗組員!僕たちはみんな仲間なんで~す!』
「OH~!」
「ファビュラ~ス!」

〇商店街の飲食店
姫子「前菜だけで魅了させるなんて流石ね」
吹田「メルシー」
姫子「そしてそれも上質な素材あってこそ」
門田「おう!いつでも取れたて用意してやるぜ!」
姫子「でもこの野菜」
姫子「虫から守って、モグラから守って、鹿や猪から守って」
姫子「沢山の仲間を犠牲にして作っているのね」

〇中庭のステージ
姫子「ああ、ベジタリン」
姫子「なんて無慈悲で野蛮な人たち」
姫子「そう思いませんか?」

〇中庭のステージ
姫子「アニマルガードチャンネルをご覧の皆様」

〇黒
  『は、はい。そういう訳でまた次回~!』

〇中庭のステージ
ややこしい男「クッソ・・・なんなんだよこの女」
綾「・・・」
ややこしい女「ちょっと、何か文句あるんですか!」
ややこしい女「マジ、感じ悪いんだけど」
姫子「まあまあそう仰らずに」
姫子「同じポリコレエイジを生きるレディとしてお互い仲良く致しましょう」
姫子「動物も人間もみんな同じ仲間」
姫子「はい、お友達」
ややこしい女「ぎゃあああああッ!」
ややこしい女「ちょっと!放り投げないでよ!」
「キモイキモイキモイキモイ!」
ややこしい男「くそが!」
めっちゃ暑がりな子「イエーイ!」
姫子「最近の玩具ってリアルね~」
綾「あ、あの」
綾「ご協力ありがとうございました!」
姫子「いえ、趣味ですので」
綾「趣味?」
姫子「有害鳥獣駆除。3頭ですわ」
町長「そ、そうです!人は命の犠牲の上に生きているのです!」
町長「農村こそ、狩猟こそ、命と真摯に向き合う聖域なのです!」
町長「さあ、改めて壇上へどうぞ」
姫子「いえいえ、私はあちらで結構ですことよ」
姫子「ただのVIP席で・・・」
「おーっほっほっほっ!」
町長「さあ、皆様彼女に・・・」
町長「我が弓引町が誇る『ジビエの姫』に盛大な拍手を!」

〇商店街の飲食店

〇うどん屋台
綿貫「姫子の野郎・・・調子に乗りやがって」
宍倉「ほら。駅前で飲み直すぞ」
綿貫「ケッ!」
宍倉「・・・」

〇商店街の飲食店
  『彼女の名は大神姫子』
  『こう見えても猟師』
  『しかも天才ハンター・・・らしい』
  『人は彼女をこう呼んだ』
  『そして彼女もそう呼ばせた』
姫子「う~ん。ファビュラ~ス」
  ジビエの姫

次のエピソード:ロック・ユー!

コメント

  • とても硬派なお話で何だか名作の予感がしました!!
    セリフがとても気が利いていて面白かったです!!
    人魚姫も黒人になる時代に、 新たな偽善があちこちで生まれてるんですね…

  • 野生の鳥獣のみならず、ややこしい害獣たちも華麗に仕留める姫子がかっこよかったです。狩猟を巡るあれこれもイルカやクジラと一緒で色々とややこしいんですね。地元のハンターたちのボヤキや、発言しないハンターの姿もリアルでした。 

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