バディ・ザ・アローン

ひであき

第5話 アレクの日常(脚本)

バディ・ザ・アローン

ひであき

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〇ヨーロッパの街並み
リンス「昨日は酷い目に遭いました」
リンス「先輩の言う通りお酒は控えないとですね」
リンス「それにしても夜まで別行動だなんて、先輩は何をしてるんでしょうか」
リンス「まさか例の薬を使って仕事中の昼間から! だとしたら許せません!」
リンス「とっちめてやらないと!」

〇西洋の街並み
リンス「先輩! いるのはわかってますよ! 出てきてください!」
リンス「なんて大人しく出てくるわけないですよね」
リンス「そういうときはこれの出番です」
リンス「居留守されても対応できるようにこっそり合鍵を作った甲斐がありました」
リンス「こんな真昼間から不埒な行為をしてるなんて許せません! 観念してもらいますよ!」

〇英国風の部屋
リンス「憲兵団です! 動かないでください!」
リンス「って、あれ? 誰もいない?」
チンピラ「むーっ! むーっ!」
リンス「ああ、あなたはいたんですね。あなたのことはどうでもいいです」
リンス「おかしいですね。てっきりしけ込んでるものと思ってましたが」
リンス「あなた先輩がどこに行ったか知りませんか?」
チンピラ「むぐぐっ! むーっ!」
リンス「その様子じゃ知らなそうですね。お邪魔しましたー」
チンピラ「むーーーっ!」

〇ヨーロッパの街並み
リンス「まったく、一体どこをほつき歩いてるんでしょうか」
リンス「そうだ! あの人なら何か知ってるかも!」
リンス「一人で行くのは恐いけど、そんなこと言ってたら憲兵は務まりませんよね」

〇怪しげな酒場
リンス「ご、ごめんください」
ママ「まだ開店前って、あら! リンスちゃんじゃないの!」
リンス「す、すみません。まだ開店前なのにお邪魔して」
ママ「そんなの気にしなくていいわ! 私たちの仲じゃないの!」
ママ「それより聞いたわよ? 昨晩は大暴れしたそうね。若いのにやるじゃない!」
リンス「さすが情報屋。耳が早いですね」
リンス「いやいや! えっ!? もしかして昨日の話って広く知れ渡ってる感じですか!?」
ママ「あなたが暴れたってことは私しか知らないわ。アレクちゃんから直接聞いたのよ」
リンス「先輩ここに来たんですか?」
ママ「ついさっきね。あなたに手を焼かされてるってぼやいてたわ」
リンス「それはこっちの台詞です!」
ママ「うふふ。仲が良さそうで何よりだわ♪」
リンス「先輩がどこに行ったか心当たりはありませんか?」
ママ「どこって、ああ、そういうこと。アレクちゃんってばあなたには何も話してないのね」
リンス「何の話ですか?」
ママ「あなたたちの関係に横槍を入れるのは野暮でしょうけど、相棒のあなたが何も知らないのはフェアじゃないわよね」
ママ「アレクちゃんなら町外れの教会にいるはずよ。用があるなら行ってみるといいわ」
リンス「教会? アレク先輩が? 神様に祈るような人には見えませんけど」
ママ「行ってみればわかるわ。私に言えるのはこれだけよ」
リンス「そ、そうですか。教えてくれてありがとうございます」
ママ「どういたしまして。アレクちゃんのこと、よろしくね」
リンス「は、はい。失礼しました」

〇ヨーロッパの街並み

〇結婚式場の前
リンス「ママさんが言ってた教会は、ここですよね」
リンス「ここに先輩が来るイメージが湧かないのですが」
アレク「おい、そんなに腕を引っ張るな」
リンス「うわっ、本当にいた!」
リンス「でも何してるんでしょうか?」
子供「放せよ! アレクおじさんは俺と遊ぶんだ!」
子供「いいや! 俺と大人のお姉さんの話をするんだ!」
アレク「俺みたいなおじさんを取り合ってどうする。取り合うなら女にしろ」
子供「お、女となんて遊べないし! あいつらすぐに文句を言ってくるんだ!」
アレク「今のうちに慣れておけ。女のわがままを受け入れるのが男だ」
子供「遊ぶなら大人のお姉さんがいいよな」
アレク「お前はすっかりマセガキになったな」
子供「嫌だ! 遊ぶならアレクおじさんがいい!」
子供「昔みたいに肩車してよ!」
アレク「お前を肩車したら腰をやりそうだ」
リンス「先輩と子供のセットって珍しいですね。なんか意外」
シスター「こら、あんたたち。アレクちゃんを困らせるんじゃないよ」
子供「えー? アレクおじさん物知りだから遊んでて楽しいのに」
子供「大人のお姉さんの口説き方教えてよ!」
シスター「聞き分けのない子はご飯抜きだよ!」
子供「ご、ごめんなさい! 言う通りにするから許して―!」
子供「飯抜きにされたら死んじゃうよー!」
シスター「わかったなら掃除をしてきなさい。そしたらおやつを食べさせてあげるからね」
子供「やったー! アレクおじさんまたね!」
子供「教えてもらった通り水風船でおっぱいの感触を再現してみるよ!」
シスター「まったく困った子たちだよ」
アレク「子供は元気が有り余ってるくらいが丁度いいさ」
シスター「いつもありがとねえ。あの子たちが元気になったのはアレクちゃんのおかげだよ」
アレク「気にしないでくれ。次は休みの日に顔を出す。ガキどもの相手はそのときにするよ」
シスター「あの子たちに伝えておくよ」
シスター「水風船の件はそのときにじっくり聞かせてもらうからね」
アレク「あのエロガキ。シスターの前で言うなってあれほど言ったのに」
シスター「何か言ったかい?」
アレク「いや何も」
アレク「あんたも年だ。くれぐれも無茶するなよ」
シスター「アレクちゃんも無茶するんじゃないよ。もう若くないんだからね」
シスター「何かあったらあの子たちが悲しむよ。もちろん私もね」
アレク「レディの気遣いだ。ありがたく受け取っておくよ」
リンス「あっ! こっちに来る! 隠れなきゃ!」
アレク「ん? 今誰かいたような」
アレク「気のせいか」
リンス「良かった。バレずに済んだみたいですね」
シスター「おや、どちら様で?」
リンス「あっ! えっと、私は怪しい者ではなくてですね!」
シスター「ああ、その格好。アレクちゃんの同僚さんだね」
リンス「そ、そうなんです! アレク先輩にはいつもお世話になっています!」
シスター「そうかいそうかい。アレクちゃんが同僚さんにここを教えるなんて珍しいねえ」
リンス「そうなんですか?」
シスター「孤児の相手をしたり、教会に寄付をしてるなんて、柄でもないから言えないって言ってたのにねえ」
リンス「アレク先輩が!?」
シスター「おや、聞いてなかったのかい?」
リンス「い、今のは間違いです! 本当あの人素直じゃないですよね!」
シスター「宵越しの金は持たない主義だなんて言って、毎月給料の半分を寄付してくれるからねえ」
シスター「うちは感謝してるけど、何だかいつ死んでもいいように生きてるみたいで心配になるよ」
リンス「アレク先輩が、そんなことを」
シスター「自分の傍にいる人間はみんな死ぬって言って、普段は誰も寄せ付けないからねえ」
シスター「このあいだも相棒が死んだって言うじゃないか」
リンス「ローガン中尉のことですね」
シスター「アレクちゃんは月に一度は必ずお祈りに来るんだよ」
シスター「寄付のついでだなんて言ってるけど、相棒を死なせたことをずっと悔んでるんだろうね」
リンス「──アレク先輩」
シスター「詳しいことは知らないけど、若い頃にも大切な人たちを亡くしたみたいでね」
シスター「年に一度大きな花束を持ってくるんだよ。それはもう大きな花束をね」
シスター「それを祭壇に飾って、一日中祈ってるんだよ」
シスター「その背中がね、寂しそうで見ていられなくてね」
シスター「昔何があったんだろうねえ」
リンス「──」
シスター「今度はアレクちゃんと一緒においで」
シスター「ご飯を作ってたからこんな格好してるけど、そのときは正装で歓迎するよ」
リンス「はい。お話を聞かせてくれてありがとうございました」

〇西洋の街並み

〇ヨーロッパの街並み
リンス「考えてみたら私アレク先輩のこと何も知らないんですよね」
リンス「あの人自分のこと話すタイプじゃないし、聞いてもはぐらかすだろうけど、裏であんなことしてたなんて」
リンス「もう少し優しくしてあげたほうがいいのかな」
リンス「でも甘やかしたらダメなタイプだし、いきなり優しくしたら怪しまれますよね」
リンス「あれは、アレク先輩とスカーレット少佐?」
リンス「こんな時間に二人で何を。やっぱりそういう関係だったとか?」
リンス「あそこは、ママさんのお店ですね」
リンス「ということは仕事の話ですね。それはそうですよね。これから組織の拠点に乗り込むわけだし」
リンス「こんな邪推をするから恋愛脳とか言われるんでしょうね」
リンス「いやいや、仕事の話なら私を除け者にするのはおかしくないですか?」
リンス「乗り込んで問い詰めないと!」
リンス「いやでも、私がいないときにしかできない話をしてるのかも」
リンス「ここは盗み聞きをするしかありませんね」
リンス「こんなこともあろうかと」
リンス「この格好ならバレませんよね」
リンス「何を話してるかは知りませんけど、私だけ除け者にするなんて許しませんからね!」

〇怪しげな酒場
ママ「いらっしゃいませー!」
リンス「こ、こんばんはー」
ママ「あらリン──」
リンス「わわっ! しーっ! しーっ!」
ママ「?」
スカーレット「お前が私を飲みに誘うなんて珍しいな」
アレク「たまには上司と親睦を深めないとな」
ママ「ああ、そういうこと♪」
リンス「そ、そういうことなんです」
ママ「一名様ね。カウンタ―席が空いてるわよ」
リンス「あ、ありがとうございます」
スカーレット「お前に誘われたときは驚いたぞ。明日は槍の雨が降るな」
アレク「それだけで済めばいいがな」
スカーレット「私と二人になるのをあんなに恐がってたくせにな、アレクお兄ちゃん」
アレク「その呼び方はもう止してくれ。こそばゆい」
リンス「アレクお兄ちゃん? 実の兄妹ってわけじゃないですよね」
リンス「そういえば少佐のお父さんのお世話になってるとか言ってましたね」
リンス「家族ぐるみの仲、ということなのでしょうか?」
ママ「小猫ちゃんは何を飲むの?」
リンス「あっ、えっと、ミルクをお願いします」
ママ「私じゃミルクは出せないわよ?」
リンス「そ、そういう意味じゃなくてですね」
ママ「冗談よ。せっかく酒場に来たならお酒を頼んで欲しいんだけどね」
リンス「私は諸事情でお酒を飲むわけにはいかないんです」
ママ「あら残念。次は飲んでもいいときに来てね」
リンス「はい。そうさせてもらいます」
スカーレット「そういえば組織の息がかかった店が匿名の通報で摘発されたぞ」
アレク「それは知らなかった。善良な一般人に感謝だな」
スカーレット「捕まった連中は若い女にやられたと口を揃えているそうだ」
アレク「物騒な話だ。最近の若者は何を仕出かすかわからないな」
スカーレット「悩みの種だ。もっとスマートにやって欲しいものだ」
リンス「何ですか二人して私の悪口ばかり!」
ママ「はいお待たせ。ホットにしておいたわよ」
リンス「あ、ありがとうございます」
リンス「いけないいけない。冷静にならないと」
アレク「これは独り言だが、このあと連中の拠点に乗り込むつもりだ」
スカーレット「酒の肴には不釣り合いな独り言だな」
アレク「連中の尻尾を掴むあと一歩のところまで来てる」
アレク「ローガンの死を無駄にしないためにも、この好機を逃す手はない」
アレク「お前にはいつも面倒をかけてすまないと思てる」
スカーレット「独り言に返事を期待するな」
アレク「そうだったな」
スカーレット「リンスとは上手くやれてるのか?」
リンス「!」
アレク「あれはとんだ暴れ馬だ。扱いに困ってる」
リンス「むかっ!」
アレク「真面目に見えてがさつで色気もない。あやすのも一苦労だ」
リンス「むかむかっ!」
アレク「だが筋は良い。あいつは良い憲兵になる」
リンス「!」
アレク「褒めたら調子に乗るから面と向かって言えないがな」
リンス「本当はそんなこと思ってたんですね。素直じゃないんだから」
スカーレット「私が素養アリと判断して組ませたんだ。当然だ」
アレク「あいつを見てると、昔を思い出すよ」
アレク「若さと希望に満ちていた頃の自分を。死んでいった仲間たちのことも」
アレク「髪を下ろした姿なんかあいつそっくりで、度肝を抜かされた」
アレク「そんなはずないってわかってるのにな」
スカーレット「私がリンスとお前を組ませた理由は他にもある」
スカーレット「お前が守った世界の新芽はここまで成長したんだ」
スカーレット「もっと胸を張って生きて欲しい」
アレク「俺は過去に囚われた男だ。先のことなんて考えちゃいない」
アレク「酒を飲んで、行きずりの女を抱いて、余分な金は使い切る」
アレク「あとは死に方をどうするかだな」
スカーレット「アレク!」
アレク「酔いが覚めた。今日は貸しにしておいてくれ」
スカーレット「酔いが覚めた、か」
スカーレット「何も頼まずに出て行ったくせによく言えたものだ」
ママ「フラれちゃったわね」
スカーレット「そういう話じゃないさ」
スカーレット「今はもう、そういう話じゃない」
リンス「な、何か聞いてはいけない話を聞いちゃったみたいですね」
リンス「あれが大人の会話というものなのでしょうか?」
リンス「色々気になることはあるけど、バレる前にお暇して──」
スカーレット「盗み聞きとは趣味が悪いぞ、リンス」
リンス「ええっ!? ば、バレてる!」
スカーレット「それで変装したつもりか? アレクのバカは気付かなかったみたいだがな」
リンス「こ、これは違うんです! 何ていうかその」
スカーレット「あのバカのことだ。どうせろくに自分の話をしていないのだろう?」
スカーレット「それにやきもきしてあとを尾けていた、といったところか」
リンス「さすが少佐。全部当たってる」
スカーレット「奴と組んだ者は誰もが通る道だ」
スカーレット「私もそうだった」
リンス「アレク先輩と組んでいたことがあるんですか!?」
スカーレット「新米の頃にな。相棒と呼び合えるほどの期間ではなかったがな」
リンス「でもアレク先輩と組んだ人はみんな死ぬって」
スカーレット「私は生き残りだ」
スカーレット「いや、死んだも同然か」
リンス「それはどういう──」
スカーレット「私のことはいい。それよりこれからパーティがあるのだろう?」
リンス「パーティ? ああ、そういう。はい。これから出席してきます」
スカーレット「時間指定の現地集合を指示されたのではないか?」
リンス「はい。それが何か?」
スカーレット「やはりな。同じ手口を繰り返す。年を取ると新しいことはできなくなるのだな」
リンス「あの、話がよく」
スカーレット「わからないなら教えてやる」
スカーレット「奴がお前に伝えた時間と場所は嘘だ」
リンス「えっ、それってまさか!?」
スカーレット「察しの通りだ」
スカーレット「奴は一人で片をつけるつもりだ」

次のエピソード:第6話 敵の思惑

コメント

  • リンスのやってる事、ほぼストーカー・・・😅
    アレクの孤高感も出てていいですね😃

  • アレク深掘り&リンス空転回、とても見応えがありました!再登場のママの存在感や、マセガキの発言などが効果的なアクセントになってますねw

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