怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード59(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

今すぐ読む

怪異探偵薬師寺くん
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇暗い洞窟
茶村和成「薬師寺!!」
  俺の声に反応して、薬師寺は気だるげにこちらに視線をやる。
薬師寺廉太郎「・・・え、・・・茶村? なんで?」
薬師寺廉太郎「あれ・・・、ん〜? ・・・幻覚かな」
茶村和成「違う!! 正真正銘、俺だ!!」
  俺はこれまであったことを手短かに話した。
  総二郎の助けを借りて島まで来たこと。
  吾妻に計画が漏れ、総二郎がひとりで足止めをしてくれていること。
  一通りの話を聞き終わったあと、薬師寺は「なるほどねぇ」とつぶやいた。
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
茶村和成「わざわざ迎えにきてやったんだ。 ほら、早く行くぞ!」
薬師寺廉太郎「あ、待って待って。ひっぱんないでよ〜」
茶村和成「時間がないんだよ、早く・・・」
薬師寺廉太郎「ごめんねぇ、茶村」
茶村和成「なに・・・」
薬師寺廉太郎「俺は一緒には帰れない」
茶村和成「・・・え?」
薬師寺廉太郎「ここにいなくちゃいけないんだ」
薬師寺廉太郎「・・・ごめん」
茶村和成「なんで・・・」
薬師寺廉太郎「俺の”力”の、責任だから」
茶村和成「責任って・・・、そんな・・・」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
茶村和成「このままお前がここにいちゃ、困る人だっているだろ」
茶村和成「八木さんからも連絡が入ってた。 俺も・・・、お前がいないあの家は広すぎる」
薬師寺廉太郎「・・・ごめんね」
茶村和成「っ、薬師寺」
薬師寺廉太郎「俺がここから動くわけにはいかないんだ」
薬師寺廉太郎「俺がいなくなれば、急速に結界の崩壊が進行することになる」
薬師寺廉太郎「悔しいけど今の俺に策はない。 できることは、これだけだ」
茶村和成「なんで・・・、お前がひとりで全部を抱える必要なんかないんだろ!?」
茶村和成「それに、隠してるつもりかもしれないが・・・、わかるぞ。 ・・・結構しんどいんだろ?」
薬師寺廉太郎「!」
茶村和成「・・・帰ろう、薬師寺」
茶村和成(・・・頼む)
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
茶村和成「薬師寺!!」
薬師寺廉太郎「・・・、俺は・・・」
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「っ・・・!」
  そして──。
  ──薬師寺は、動かなかった。
「どうやら無駄だったようだな」
茶村和成「!」
  投げかけられた声に反応して振り向いた先には、吾妻が立っていた。
茶村和成「っ・・・、総二郎は!?」
吾妻「そこにいる」
  吾妻が自身の背後を顎で示す。
  そこには、数人の狐面の男たちによって手足を押さえつけられている総二郎の姿があった。
吾妻「あの時諦めていればよかったものを手こずらせおって」
榊原総二郎「・・・、クソ・・・ッ」
茶村和成「総二郎!! 大丈夫か!?」
榊原総二郎「和成・・・、すまない」
吾妻「こいつも連れて行け」
茶村和成「!」
茶村和成「やめろ!」
  狐面の男たちが俺の身体を掴み、薬師寺から引きはがそうとする。
茶村和成「ッ・・・、おい! 薬師寺!」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
吾妻「・・・お前も、自分の役目を理解しているようだな」
茶村和成「なあ! 本当にこれでいいのか!?」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「・・・吾妻。客人を雑には扱うなよ」
吾妻「・・・ふん」
茶村和成「薬師寺・・・! 薬師寺!!」
  狐面の男たちによって、俺の身体が薬師寺から遠ざけられていく。
  顔は背けられていて、表情を窺うことはできなかった。
茶村和成「・・・そん、な・・・」
  そして狐面の男たちに拘束されたまま、俺と総二郎はどこかへと運ばれていった。

〇日本庭園

〇和室
  しばらくすると総二郎とは分けられ、俺は屋敷の中の座敷に入れられた。
吾妻「おとなしくしていれば危害は加えん。 また妙な考えを起こさぬように、見張りは立てておくからな」
  そう言うと吾妻はどこかへ行ってしまった。
茶村和成「・・・・・・」
  俺は黙って座り込むと、大きくため息をついた。
  先ほどの薬師寺の言葉が頭の中をぐるぐると回る。

〇黒
薬師寺廉太郎「俺は一緒には帰れない」
薬師寺廉太郎「ここにいなくちゃいけないんだ」
薬師寺廉太郎「・・・ごめん」

〇和室
茶村和成「・・・俺はどうすればよかったんだろう」
茶村和成(俺はただ、友達が苦しんでいるのをほっておけなかっただけだ)
茶村和成(俺には正直あの洞窟の結界の意味はよくわかっていない。 きっと崇高な目的があるんだろう)
茶村和成(でも・・・、あいつのやつれた顔・・・)
茶村和成(あいつがあんなに苦しんでる姿を見たら、やっぱり・・・、ほっておけないだろ)
  悶々と考えているうちに、俺はいつしか眠ってしまっていた。

〇和室
「・・・ま、・・・さい」
茶村和成「・・・?」
「──茶村様。起きてください」
茶村和成「!」
  身体を起こし、声の方を見る。
  いつの間にか窓からはやわらかな日差しが差し込んでいた。
狐面の男「お休みのところ申し訳ございません」
茶村和成「わっ・・・」
  狐面の男。吾妻の部下だ。
茶村和成「・・・なんの用ですか?」
狐面の男「茶村様にお会いしたいという方がいらっしゃいます」
狐面の男「どうか、ついてきてくださいませ」
  よく見ると、座敷の扉は開いていて、眠る前にはいた見張りの姿も消えていた。
茶村和成(俺に会いたい? ・・・いったい誰が)
茶村和成(・・・、警戒するべきなんだろうか・・・)
  一瞬吾妻の罠を疑ったが、もし吾妻が俺をどうにかしたいならわざわざ回りくどいことをせずにここでなんとでもできるはずだ。
茶村和成「あの・・・、俺に会いたいっていうのは誰なんですか?」
狐面の男「申し訳ありません。 私からはお伝えできません」
茶村和成(・・・・・・)
茶村和成(・・・・・・)
茶村和成「わかりました。行きます」
  俺は意を決すると狐面の男に答えた。
茶村和成(誰かはわからないが、会って今より悪くなることもないはずだ)
狐面の男「ありがとうございます」
狐面の男「それでは、こちらへ」
  狐面の男の後ろについて俺は座敷を出た。

〇日本庭園
  狐面の男に連れてこられたのは、先ほどの屋敷から少し離れた位置にあるこじんまりとした2階建ての建物だった。
  静かに佇(たたず)むその建物は、昔ながらの様式美に則ったような厳粛な雰囲気を醸し出している。
狐面の男「私がお連れできるのはここまでです。 中へはおひとりでお進みください」
茶村和成「・・・どうも」

〇古めかしい和室
  引き戸に手をかけ、中へ入る。
  部屋の中は静まり返っていて、生活感のない空間が広がっていた。
茶村和成「・・・・・・」
「こちらに来なさい」
茶村和成「!」
茶村和成(・・・隣の部屋)
茶村和成「・・・・・・」

〇古風な和室
  意を決して隣室につながるふすまを開くと、そこには布団に入ったおじいさんが上半身を起こしてこちらを見ていた。
  見るものを安心させるような、穏やかな笑顔を浮かべたそのおじいさんは、俺の目を見ながらゆっくりと声をかけてきた。
???「こんにちは、茶村和成くん」
茶村和成「え・・・? あ、その、こんばんは」
???「突然呼び出してすまなかったね」
茶村和成「・・・、えっと・・・」
茶村和成(なんで俺の名前を知ってるんだろう?)
茶村和成(この屋敷にいるってことは薬師寺家の関係者なんだろうが、吾妻か薬師寺から聞いたのかな・・・?)
???「僕はこの通り寝たきりでね。 島の外の人間と話ができる機会はめったにないんだ」
???「だから・・・」
???「よければ僕と、すこし話をしてくれないか?」
茶村和成(この人もおそらく薬師寺家の人間なんだろうが・・・)
茶村和成(・・・なんだか、不思議なおじいさんだな)
茶村和成「えっと、話すのはいいですけど、面白い話とかできないですよ?」
???「そういうのじゃない。 ただ、君が普段どんな生活をしているのか、それが聞きたいんだ」
  俺はおじいさんに言われるがまま、布団のそばに腰を下ろした。

〇古風な和室
  おじいさんに促されて、俺はいろいろな話をした。
  島の外の生活はおじいさんにとって新鮮なようで、俺がどんな話をしても、微笑みながら相づちを打ってくれた。
???「学校生活はどんな様子だい?」
茶村和成「学校・・・、ですか」
茶村和成「授業受けて、友達と話して・・・、空手をしているので部活はしてませんけど」
茶村和成「たぶん、普通の高校生って感じだと思います」
???「ふふ・・・、素敵じゃないか」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード60

成分キーワード

ページTOPへ