第1話 いるはずのない生き物(脚本)
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
生島宗吾「な・・・んだこれは」
生島宗吾「俺は何を見せられているんだ・・・?」
小鳥遊遥「ふふ、奇跡ってやつだね」
俺の目の前で、得体の知れない生き物が
ゆっくりと蠢いた。
〇明るいリビング
生島佳奈「あれー? お父さんスーツ着てる!」
生島佳奈「めっずらしー」
生島静枝「お父さん、 今日は面接を受けにいくんですって」
生島佳奈「マジで!」
生島佳奈「前の水族館をクビになってから、 ずっと家に引きこもってたのに!」
生島宗吾「クビになったんじゃない、 こっちからやめてやたんだ」
生島宗吾「それに、 親に向かって引きこもりとはなんだ」
生島佳奈「ずーっと家にいたのは事実じゃん」
生島宗吾「・・・あのな」
生島佳奈「ねえねえ、次の仕事って何やるの? スーツだし、先生とか、 サラリーマンとか?」
生島静枝「お父さんが飼育員以外できるわけないじゃない。また水族館ですって」
生島佳奈「ふーん、今度はどこ? イルカが有名なとこ? 大きなピラルク飼ってるところもいいよね」
生島宗吾「・・・まだよくわからん」
生島佳奈「わかんないって、 これから面接なんだよね?」
生島宗吾「新しく作られる水族館なんだ」
生島宗吾「・・・こんな生き物を飼う予定らしい」
俺は懐から数枚の写真を出して娘に渡した。
生島佳奈「何これ」
写真を見て娘は沈黙する。
その気持ちはよくわかる。
俺も、写真を見た時、
同じセリフを吐いた。
生島佳奈「・・・こんなの、水族館にいたっけ?」
〇水族館前(古生物水族館ver)
斎川理央「生島さん、こちらです!」
生島宗吾「こんにちは」
斎川理央「対面では初めまして、ですね。 改めて自己紹介します」
斎川理央「ジョブコーディネーターの斎川です」
斎川理央「投資家、堺ひろこ氏の支援する若き挑戦者のために、必要な人材を集めてマッチングすることを、主な業務としています」
生島宗吾「必要な人材、ね。 俺はこの水族館のために呼ばれたわけだ」
俺は看板をちらりと見た。
そこには『古生物水族館Paleorium』と
書かれている。
生島宗吾「ずいぶんと荒唐無稽な水族館のようだが」
斎川理央「だからこそ、ですよ。 こちらの水族館で飼育する生き物は、 常識ではありえないものばかり」
斎川理央「伝説の飼育員と名高い、 生島さんでなければ管理できないでしょう」
生島宗吾「本当にそんなものがいれば、の話だが」
斎川理央「ふふ、それは見てのお楽しみですね」
〇水族館・トンネル型水槽(魚なし)
館内に入るとすぐに展示スペースが目に
入ってきた。
シンプルなデザインの黒い壁にはところどころ、水槽を覗くことができる窓があいている。
斎川理央「ここが展示室になる予定です」
生島宗吾「水槽はあるが・・・まだからっぽなんだな」
ホールはしんと静まり返っていた。
水族館特有の水の流れる音や、エアポンプの低いうなり声は聞こえてこない。
斎川理央「まだ、何を入れるか全然決まってないですからねえ」
生島宗吾「何を入れるか決めずに、 箱だけ先に作ったのか?」
斎川理央「ええ。うちの博士は、そうでもして追い込まないと、動いてくれない問題児ですから、あはは」
生島宗吾「それは、笑って言うことじゃないだろう」
斎川理央「そうですねえ、あはは」
生島宗吾「水族館は、ただ水槽を並べればいいというものじゃない」
生島宗吾「水道管や排水路、スタッフの導線も考えて設計しておかなければ、とても運用できる建物にならないぞ」
斎川理央「まあ、 そこは生島さんの伝説の手腕でなんとか」
生島宗吾「伝説、伝説と・・・ 俺は何でもできる神様じゃない」
斎川理央「ご謙遜を! 深海魚から巨大魚まで、 多数の水棲生物の飼育に成功し、」
斎川理央「トリトングループを世界最高の水族館に 押し上げた立役者じゃないですか」
生島宗吾「・・・・・・」
斎川理央「こっちがバックヤードの入り口です。 研究室に向かいましょう」
〇古生物の研究室
斎川理央「こちらが研究室になります」
生島宗吾「こっちは稼働しているんだな」
室内には、顕微鏡をはじめとした機材や
薬品が並べられていた。
がらんとしていた展示室とは違い、
生活感がある。
斎川理央「小鳥遊博士、 飼育員候補の方をお連れしましたよ」
小鳥遊遥「ええっ、もうそんな時間?」
小鳥遊遥「今いく・・・あ・・・うわっ!」
がしゃ、どすん、と派手な音をたてて
白衣の男が転がり出てきた。
ずいぶんと若い。
大学生・・・
いや、高校生と言っても通るだろう。
斎川理央「博士、大丈夫ですか?」
小鳥遊遥「いたぁ・・・ちょっと擦りむいた」
小鳥遊遥「・・・えっと・・・あなたが?」
生島宗吾「生島宗吾(いくしまそうご)だ。 先月まで、トリトンアイランドで主任飼育員をしていた」
小鳥遊遥「アイランド? トリトングループの水族館の中でも、一番大きい所じゃない。 そんなにすごいところで働いてた人なんだ」
生島宗吾「君が・・・その、この水族館の研究者なのか? まだ未成年のようだが」
小鳥遊遥「ボクの名前は小鳥遊遥(たかなしはるか)」
小鳥遊遥「若く見えるのは自覚してるけどね、ちゃんと投票権は持っているし、半年前から飲酒も合法になった。博士号も持ってる」
生島宗吾「二十歳になったばっかり? それで博士号は無理だろう」
小鳥遊遥「もちろん、 国外の飛び級制度を利用してとったんだよ」
斎川理央「学位を取ったのが十五歳、 論文が認められて、 博士号をもらったのは十八歳でしたっけ」
斎川理央「ついでに、ここの水族館を堺氏から提供されたのが三か月前です」
生島宗吾「すさまじい天才というわけか・・・」
小鳥遊遥「あなたも、仕事のできる人みたいだ。早速お願いしたい仕事がいくつもあるんだけど」
生島宗吾「待った」
小鳥遊遥「何を?」
生島宗吾「俺はまだ、 この水族館で働くとは言っていない」
生島宗吾「今日は、ここで飼育しているという、 とんでもない生き物・・・ それが本物なのか確かめに来た」
小鳥遊は、それを聞いてにやりと笑った。
小鳥遊遥「あなたは、信じられない?」
生島宗吾「当たり前だろう。 こんなモノは、日本・・・いや、世界のどこを探しても生きているわけがない」
小鳥遊遥「じゃあ、見せてあげる」
小鳥遊は、部屋の奥へと向かった。
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
操作用のモニターとキーボード、
その横には3Dプリンタにも似た大きな機械が置かれている。
だが、そのプリント用の透明な箱の中には正体不明の液体が満たされている。
小鳥遊遥「これがボクの発明品、『ゲノムエディタ』と『生体3Dプリンタ』だよ」
生島宗吾「ゲノム・・・ 遺伝子組み換えでもするのか?」
小鳥遊遥「そんなおままごとをするために、 この機械を作ったわけじゃない」
小鳥遊遥「ゲノムエディタを使えば、 絶滅した生物の遺伝情報を解析してDNAを再現することができる」
生島宗吾「なに・・・?」
小鳥遊遥「そして、データをこの『生体3Dプリンタ』に流し込むと、」
小鳥遊遥「DNAをもとに細胞を培養して配置し、 生き物を丸ごとプリントできるんだ」
生島宗吾「は・・・?」
小鳥遊遥「ちょうど一体、 培養準備が終わったところだから、見てて」
小鳥遊は楽しげにゲノムエディタを操作した。
すぐに生体3Dプリンタが動き始め、
培養液の中に絶滅したはずの古生物の姿を描き出す。
生島宗吾「な・・・んだこれは」
生島宗吾「俺は何を見せられているんだ・・・?」
小鳥遊遥「ふふ、奇跡ってやつだね」
俺の目の前で、約五億年前のカンブリア紀に絶滅したはずの生物『ハルキゲニア』がゆっくりと動き出した。
古生物を題材にした小説。
「こう言うのを待っていた!」と嬉しくなってしまいました^^;
陸棲・水棲問わず古生物好きの私にはたまらない作品です!
自分も趣味の段階ですがこう言う小説を書けたらなぁと思ってます。
説得力がありました。それとグラフィックが綺麗ですね。
テーマが大好きな分野で、予告から楽しみにお待ちしておりました!
まさかバイオプリンタで復元するとは…