ただ、癒されたかっただけなのかもしれない…

真弥

また、なの?(脚本)

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真弥

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〇綺麗なリビング
松永 唯花(今日は久々斗真と一緒にご飯が食べられる。 ゆっくり話ができるわ)
松永 唯花「斗真、ご飯できたよ」
波原 斗真「あぁ・・・」
  リビングに来た斗真は硬い表情をしており、料理を前にして座ったが、手をつけようとしない。
松永 唯花「どうしたの? 体調悪い?」
波原 斗真「いや、食べるよ。 ・・・いただきます」
松永 唯花(どうしたんだろう?ビールも出さないし、元気ない。和坂さんとのことちゃんと聞きたいのに)
松永 唯花「どうかな?味とか・・・」
波原 斗真「不味ければ食べないよ」
松永 唯花(えっ?何、今の言い方)
  思いやりのない斗真の言葉に、唯花は傷ついた。苛立ちが募っていく。
波原 斗真(料理の味がわからない・・・。 唯花は、もしかして紘と浮気してるのか? あんなふうに2人でいつも会ってたのか?)
  お互いにモヤモヤしたまま、けれど相手に話しかけることもできず、場の空気はどんどん重たくなっていく。
松永 唯花「あ、あのね。少し前、斗真映画館とか行った?」
  最初に動いたのは唯花だった。
  思い切って話を振ってみる。
波原 斗真「映画・・・? あぁ、いったけどそれがどうした?」
松永 唯花「だ、誰と?」
波原 斗真「別に誰でもいいだろ。 唯花こそ・・・」
松永 唯花(何、その言い方。こっちはまだ信じられないから聞いてるのに。開き直ったみたいに答えてくる)
波原 斗真「なぁ、その・・・ 唯花は紘と時々会ってるのか?」
松永 唯花「えっ? 会うことはあるけど・・・」
松永 唯花(いきなり何を言い出すんだろう。 同じ会社にいるんだから会うこともあるに決まってる)
波原 斗真「それって・・・浮気ってことだよな?」
  斗真の口から出てきた不審な言葉に、唯花は驚きの声を上げた。
松永 唯花「はぁ? どうして私が紘くんと浮気だなんて、そんなこと思うの?」
波原 斗真「会社だけじゃなくて、何度も2人で会ってること、見た奴がいるんだよ。 俺だって、2人が親密そうなところ見たんだから!」
松永 唯花「親密って・・・ 斗真だって知ってるじゃない。紘くんは私の妹の家庭教師をしていたって。だから、話をすることくらいあるよ」
波原 斗真「じゃあ、なんで俺の知らないところでデートしたりするんだよ」
松永 唯花「デ、デート?そんなのしてないよ」
波原 斗真「嘘をつくなよ!未来ちゃんがお前と紘が2人きりで公園でデートしてたって」
松永 唯花「未来ちゃん? ずいぶん親しそうに彼女の名前を呼ぶのね・・・」
波原 斗真「え?」
松永 唯花「斗真、和坂さんのこと、いつから名前で呼ぶようになったの?」
波原 斗真「なんだよ。今そんな話してないだろ。 唯花と紘の話をしてるんだぞ?話を逸らすなよ」
松永 唯花「逸らしてないよ。むしろこれから本題だよ。 私は浮気なんて誓ってしていない。紘くんとは偶然会って一緒に散歩をしただけ」
松永 唯花「それから、彼の妹とも知り合いだから夕食に誘われて、紘くんとまこもちゃんと3人でご飯を食べたことはあるわ」
松永 唯花「でも、やましい事なんて何もない。昔の知り合いと親しく話して何がいけないの?」
波原 斗真「なんで俺に黙ってたんだよ」
松永 唯花「わざわざいう必要もないと思っただけよ。 斗真だって全てを話したりしないでしょう?」
波原 斗真「俺は隠し事なんてしてない」
松永 唯花「隠し事はしていない? じゃあ、どうしてただの会社の同僚と、2人きりで映画に行ったこと言わなかったの?」
波原 斗真「映画?」
松永 唯花「私、斗真と和坂さんが一緒に映画館に行ったの知ってるのよ」
波原 斗真「それは、未来・・・和坂さんがチケットが無駄になるからって誘ってくれただけで」
松永 唯花「ランチにも無理矢理誘ったんでしょう?」
波原 斗真「無理やりなんて誘ってないよ。 いつだったか遅れて食事をとりに行くって話をしたら私も行きたいっていうから」
松永 唯花(斗真が嘘をついている様には見えない。斗真が言うならきっとその通りなのかもしれない。でも、斗真にははっきり断って欲しかった)
波原 斗真「な、なぁ。 本当に紘とは何もないんだよな?」
松永 唯花「しつこいよ。 紘くんはただの友達」
松永 唯花「斗真こそ、和坂さんのことを好きになったのなら、ちゃんと言って。私二股とか絶対許さないから」
波原 斗真「和坂さんとは何もない。 金遣いも荒いし、感謝とかされないし。 そもそも彼女のことは最初からなんとも思ってないよ」
松永 唯花「これからは誘われてもふたりきりで会ったりしないで」
波原 斗真「わ、分かった」
松永 唯花「私も、紘くんとは必要以上に2人きりにならないようにするから」
波原 斗真「う、うん」
松永 唯花「あり得ないと思うけど、もし、もしね、今の約束をお互いが守れなかったら、その時は一度距離を置こう」
波原 斗真「きょ、距離を置くって?」
松永 唯花「私達、ダラダラと5年も付き合ってきたよね。お互いを思いやる気持ちも昔よりなくなって、喧嘩することだって増えた」
波原 斗真「それは、でも・・・」
松永 唯花「長く一緒にいたからこそ、見えなくなってしまった部分もあると思う。 一度距離を置いて考える時間を待ってもいいのかなって」
波原 斗真「そ、それはお互いに約束を守れなかったときだろ?」
松永 唯花「そうだね」
波原 斗真「じゃあ、大丈夫だよ。 俺は絶対唯花を失いたくないから。 だから、浮気はしない。お互いを思いやる気持ちもちゃんと持つよ」
松永 唯花「うん。 私も、努力する」
  努力、と無意識に口にしたことで、唯花は心の中に違和感を覚えた。
松永 唯花(好きな人と一緒にいるのに、努力する? それって、どうなんだろう)
松永 唯花(もちろん思いやる気持ちを忘れたらダメだけど、無理をするのもちがう気がする)

〇オフィスのフロア
並木 葉子「おはようございます!」
松永 唯花(だ、誰?)
  いつもの時間にオフィスに出勤した唯花は、オフィス内にいる見知らぬ女性に驚いた。
並木 葉子「初めまして。今日からこちらでお世話になる並木です。よろしくお願いします」
松永 唯花「新しい方なんですね。 初めまして。松永と言います。よろしくお願いします」
  未来とは違った明るさと、ハキハキとした印象に唯花は妙にホッとした。
松永 唯花(和坂さんのことがあるから、ちょっと心配したけどすごく真面目で仕事ができそうな人だ)
松永 唯花「並木さんは事務の経験はあるんですか?」
並木 葉子「はい。前職は衣料品メーカーで経理部にいました。一般的な事務作業でしたら問題なくできると思います」
松永 唯花「それは嬉しいな。即戦力ですね」
片丘課長「おはよう。 もう挨拶は終わったみたいだな」
松永 唯花「課長。急な人事だったんですね。びっくりしましたよ」
片丘課長「あぁ、和坂さんが急に辞めてしまったからね。慌てて派遣会社に頼んだんだよ」
松永 唯花「えっ?和坂さん辞められたんですか?」
片丘課長「元々更新時期が来月だったからね。更新しない旨を伝えたら、昨日派遣会社から昨日付で退職すると連絡があったよ」
松永 唯花「本当に急ですね」
片丘課長「まぁ、いてもいなくても仕事に支障なかったからな。まぁ、和坂さんのことは置いといて、松永は並木さんの指導を頼むよ」
松永 唯花「はい」
並木 葉子「よろしくお願いします」
松永 唯花(和坂さんが急に辞めたのは驚いたけれど、斗真とのことが気になって仕事に支障が出そうだったし・・・)
松永 唯花(彼女には申し訳ないけど、ホッとしたかも)
波原 斗真「ゆ、じゃなかった松永さん。 ちょっといい?」
松永 唯花「波原さん、どうされました?」
  突然事務課のオフィスに現れた斗真に、唯花は驚いた。

〇オフィスの廊下
  斗真に促されて、唯花は廊下に出てきて2人向き合った。
松永 唯花「何かあったの?」
波原 斗真「み、和坂さん辞めたんだって?」
松永 唯花「そうだけど。 なに?心配なの?」
波原 斗真「いや、その。さっきこんなメールが届いてさ・・・」
  斗真に見せられたスマホのメールには、
  『話があります。会いたいです』と書かれてあった。
波原 斗真「なんか、嫌な感じがするんだよな」
松永 唯花「斗真はどうしたいの? 和坂さんに会いたいの?」
波原 斗真「会いたいわけないだろ。面倒な匂いしかしないよこれ。でも無視したら、それはそれでやばい気がして」
松永 唯花「知らないよ。 斗真が自分で考えて行動すればいいでしょう?」
波原 斗真「考えた。 考えて、だからここにいる」
松永 唯花「は?」
波原 斗真「唯花、頼む! 待ち合わせ場所に行ってくれないか?」
松永 唯花「なんで私が? いやよ、私だって会いたくないもん」
波原 斗真「唯花言っただろ?もう彼女には会って欲しくないって。だったら、代わりに誰か行ってもらうしかなくて。でも他に頼めないし」
松永 唯花「な、なによ、それ。 どうして私が斗真の尻拭いをしなきゃダメなの?」
波原 斗真「な、頼む! この通り」
  両手を合わせて深々と腰を折る斗真を、唯花は呆れた表情で見下ろす。
松永 唯花(確かに斗真が行ったところで、面倒が大きくなる気しかしない。 でも私だって、彼女に会うのは怖い・・・)
松永 唯花「仕方ないから私が話を聞いてくる。 でも1人で行くのは不安だから、紘くんに一緒に行ってもらうよう頼んでもいい?」
波原 斗真「あ、なんでそこで紘?」
松永 唯花「女同士だとしても、何考えているかわからない人に会いに行かなきゃ行けないんだよ?男性の方が安心だし。私男友達とかいないし」
波原 斗真「う・・・、仕方ないか。 でも、話をつけたらすぐに連絡してくれよ?間違っても紘と必要以上の接触は避けてくれ」
松永 唯花「勝手な言い分ね」
波原 斗真「悪いと思ってるよ」
  項垂れる斗真を前に唯花は大きくため息をつく。仕事中でもあったことからひとまず2人はオフィスに戻った。

〇カウンター席
  未来が指定した場所に、紘と共に訪れた唯花は、相手がまだ来ていないことに少しホッとして小さくため息をついた。
松永 唯花「紘くん、ごめんね面倒なことに巻き込んで。 他に頼れる人がいなくて・・・」
具平 紘「構いませんよ。 1人で来ないでよかったです。何が起こるか心配だし」
  2人は入り口がよく見える席に座って未来が来るのを待っていた。
松永 唯花「遅いね」
具平 紘「約束の時間18:00でしたよね」
  約束の時間を既に1時間もすぎている。
松永 唯花「ちょっと斗真に連絡してみるね」
  唯花は斗真にメールを送ったが、しばらく待っていても返信がない。
具平 紘「斗真さん、何かあったんでしょうか?」
松永 唯花「分からない。ちょっと電話してみるね」
  呼び出し音は鳴り続けているが、斗真が電話に出ることはなかった。
松永 唯花「意味がわからない。 でもここでこうしてても仕方ないからお店を出よう」
具平 紘「そうしましょう。斗真さんは家で待っているんでしょう?家まで送りますよ」
松永 唯花「ありがとう」
  2人は未来を待つのを諦めて店を出た。

〇綺麗なリビング
波原 斗真「誰だ?こんな時間に」
  ドアスコープから覗いた先には、未来の姿があった。
波原 斗真(!? なんで、未来ちゃんがここにいるんだ?今唯花たちと会っているはずじゃ・・・)
和坂 未来「斗真さん。一度だけ顔を見せてくれませんか?」
  ドア越しに聞こえてくる未来の声は必至の様子で訴えかけてくる。
波原 斗真「ごめん。和坂さん。 俺、もうキミとは2人では会えないよ」
和坂 未来「分かってます。 唯花さんとの約束なんでしょう? いま唯花さんとちゃんと話して、もう一度だけ会うことを許してもらいました」
波原 斗真(唯花が、会うことを許した? あれほど2人で会うのを嫌がっていたのに?)
波原 斗真「唯花もそこにいるのか?」
和坂 未来「今は私だけですけど、すぐにくると思います」
波原 斗真「それじゃあ、悪いけど唯花が来るまでそこで待っててくれないか?」
和坂 未来(そう簡単には騙されてくれないのね。 単純なところが斗真さんらしくて良かったのに)
和坂 未来(こうなったら、ここを開けなきゃダメになるようにすればいいのよ)
  ドア越しに苦しそうな息遣いが聞こえてきた。斗真はスコープから覗き見て、未来が胸を抱えてしゃがみ込んでいることに気づいた。
波原 斗真(えっ、どうしたんだ? 具合でも悪くなったのか?)

〇マンションの共用廊下
波原 斗真「未来ちゃん、大丈夫か?」
和坂 未来「く、苦しいです・・・。胸が急に・・・」
  胸を押さえて蹲る未来の肩に手を置き、斗真はゆっくり背中を撫ぜた。
波原 斗真「だいじ・・・⁈」
和坂 未来「斗真さんっ!」
  突然斗真の首に抱きついてきた未来を支えきれず、斗真は未来ごと尻餅をつく形で後ろに倒れた。
波原 斗真「ちょっ、み、和坂さんっ!」
和坂 未来「未来って呼んでくれてたのに。 どうして私じゃなくて松永先輩を選ぶんですか?」
波原 斗真「何を言ってるんだ。選ぶも何も、最初から俺が大切にしてるのは唯花だけだ」
和坂 未来「嘘よ。 斗真さんが松永先輩を大切に思うのは、自分のお世話をしてくれる人だからでしょう?」
波原 斗真「そんなことは、ない。 俺はちゃんと・・・」
和坂 未来「なんなら、斗真さんにとって唯花さんは彼女じゃなくて母親なんじゃないですか?」
波原 斗真「や、やめろ・・・」
和坂 未来「松永先輩も、気付いていると思いますよ・・・ ね、松永先輩」
  抱き合って倒れている2人の前に、唯花が立っていた。
松永 唯花「待ち合わせ場所は、うちだったの?」
和坂 未来「いいえ。 斗真さんのことだから、私と会わずに済まそうとすると思ってました。でも、私を待たせたままにもできない」
和坂 未来「面白いですよね。こんなに予想通りに事が運ぶなんて。計算外だったのは、松永先輩の戻りがちょっと早すぎたことかな」
波原 斗真「唯花、違うから! 俺は会わずにいるつもりだった。彼女が具合が悪くなって・・・」
松永 唯花「うん。 しっかり騙されてたね。 また、なの?って感じでおかしくなるよ」
波原 斗真「ゆ、唯花!」
松永 唯花「とりあえず、和坂さん。 話があるなら、聞くけど?」
和坂 未来「もう用事は済んだからいいです。 斗真さん、松永先輩これからも2人仲良くしてくださいね」
  未来は斗真から離れて立ち上がる。2人にとびきりの笑顔を向けて帰っていく。
  唯花を通り過ぎる瞬間、未来は小さく囁いた。
和坂 未来「陽子さん、とても綺麗で仕事のできる女性でしょう?斗真さんがフラフラしないといいですね・・・」
松永 唯花(えっ?今なんて言ったの・・・)
  はっきりとは聞こえなかったが彼女が口にしたヨウコという女性の名前に、唯花は今朝会ったばかりの並木葉子を思い出していた。

〇オフィスのフロア
  翌朝、唯花はいつもより早めに出勤した。
  昨夜は疲れ果て、斗真と話す気力もなく休み、今朝は斗真が起きてくる前に家を出た。
並木 葉子「松永さん、おはようございます」
松永 唯花「な、並木さん?ずいぶん早いんですね。 まだ始業1時間前ですよ?」
  並木陽子がオフィス内の机の拭き掃除をしているのをみて唯花は驚いた。
並木 葉子「早起きが趣味なんです。出勤前にランニングして、シャワー浴びてからくるんですよ」
松永 唯花「すごい。健康的だね。だからスタイルもいいんだ。きちんとしてる」
並木 葉子「性分なんでしょうね。長女で下に3人男ばっかで自然と世話を焼くのが癖になってて、家事とかそれなりにやりますし・・・」
松永 唯花「そうなの。私も長女だけど、並木さんには敵わないわ。弟さんたちは幼いの?」
並木 葉子「下から10歳、15歳、20歳です。 男って本当だらしないっていうか・・・私がいないと生活レベルガタ落ちですよ」
松永 唯花「分かる! で、ついつい手を出しちゃって、ダメンズ製造機とか言われるの」
並木 葉子「ぷ、わかります。 私も同じです。でも、私がしないと家は荒れるし放置できる性分でもなくて」
松永 唯花「損な役回りよね」
  今までの後輩が未来のような子だったこともあって、並木さんに対しても少し不安だった。
  けれど、お互い似ているところもあるせいか、話は弾むし、素直に楽しいと唯花は思った。
片丘課長「おはよう。松永くん。至急で笑いが昨日頼んでいた資料が予定より早く必要なんだが準備できるか?」
松永 唯花「課長おはようございます。 何時までに用意すればいいですか?」
片丘課長「1時間後の会議で必要なんだ」
松永 唯花「1時間?いますぐ始めます」
  唯花はデスクに行き、パソコンを立ち上げ資料の作成に取り掛かかった。
並木 葉子「松永さん、データの整理は私がするのでこっちのパソコンに送ってください」
松永 唯花「あ、大丈夫?」
並木 葉子「大丈夫。なんとかなりますから」
  唯花は、葉子に言われた通りにデータを添付して葉子のパソコンに送った。
  2人は集中して資料作成に取り掛かった。
松永 唯花「よし。こっちは終わったわ。 並木さんの方はどうですか?」
並木 葉子「こっちも終わりました。そちらに送りますね」
  唯花は送られてきたデータを確認して、その丁寧でわかりやすくまとめられた内容に感心する。
松永 唯花「並木さんすごい。 わかりやすくまとめられてる」
並木 葉子「ありがとうございます。こういうの嫌いではないので、また何かあったら指示してください?」
松永 唯花(すごい。同じ派遣でも、レベルの差が歴然だわ。彼女なら正社員でもやっていけるのに・・・)
松永 唯花「課長、終わりました。データパソコンに送りましたので確認お願いします」
片丘課長「ありがとう。思ったより早かったな。2人とも助かったよ」
松永 唯花「ね、今日のランチ一緒に食べに行かない?」
並木 葉子「喜んで。 私越してきたばかりでこの辺りは詳しくないので嬉しいです」
  2人はランチの約束をして、通常業務をこなしていった。

〇カウンター席
松永 唯花「お腹すいたね。 何を食べようかな。 並木さんは何にする?」
並木 葉子「葉子でいいですよ。できれば松永さんとは親しくなりたいので私も唯花さんって呼んでいいですか?」
松永 唯花「もちろん。じゃあ、お互いに敬語は無しでいきましょう?その方が親しみやすいでしょう?」
並木 葉子「そうですね・・・じゃない。そうね。 私結構たくさん食べるの。唯花さんは何食べます?」
  2人はメニューを見ながら違う料理を選んでシェアすることにした。
店員「お待たせしました」
  次々に運ばれてくる料理がテーブルを埋めていく。そのほとんどは葉子が頼んだものだった。
松永 唯花「すごい。本当にたくさん食べるのね。それでそのスタイルキープしてるのは感動する」
並木 葉子「燃費がいいんでしょうね。 食べないと力出ないっていうか。 それより唯花さんは、それで足りるの?」
松永 唯花「普通だよ。逆にこっちは燃費悪いみたいで、あまり食べなくても太っちゃうのよね」
並木 葉子「すごく華奢に見えるけど? ま、早速食べましょう。昼休みの時間は決まってるしね」
  2人は他愛のない話をしながら楽しい時間を過ごした。
  ちょうど店に入ってきた斗真に気づき、唯花はハッとして俯いた。
波原 斗真「唯花、ここで食べてたんだ?」
松永 唯花「斗真は今からランチなの?」
波原 斗真「あぁ。このあと営業先に行かなきゃいけなくてゆっくり食べられないけどな」
松永 唯花(なんだかうまく笑えない。昨日のことを思い出してなんとなくしんどい)
波原 斗真「あ、れ?もしかして・・・葉子?」
  不意に斗真が唯花と一緒にいた葉子に気づき声をかけてきた。
松永 唯花(えっ?斗真、葉子さんと知り合いなの?)
並木 葉子「お久しぶり。 すごい偶然ね。唯花さんとも知り合いだったの?」
波原 斗真「あぁ。今一緒に暮らしてる。 ・・・葉子は、その制服、ウチのだよな?」
並木 葉子「えぇ、先日から唯花さんと同じ課に派遣としてきたの」
波原 斗真「相変わらず根無草みたいな仕事してるんだな」
並木 葉子「正社員として閉じ込められているより、いろんなスキルを身につけて、自分を高く評価してくれる職場で稼ぐのが性に合ってるの」
波原 斗真「変わってないな、その考え方」
松永 唯花「えっと、2人は知り合いなの?」
並木 葉子「あぁ、すみません。波原さんとは学生時代にお付き合いしていたんです」
松永 唯花(えっ?元カノ?)
並木 葉子「でも、私が気が強くて可愛くないので振られてしまいました。別れてから再会するのがこのタイミングっておかしいですね」
波原 斗真「本当久しぶりだよな。全然変わってないから安心したよ」
並木 葉子「唯花さん、そろそろ出ませんか?お昼休み終わってしまいますよ」
松永 唯花「あ、あ、そうだね。 じゃあ、斗真お先に」
波原 斗真「あぁ。またな」

〇開けた交差点
  会社までの帰り道、葉子は斗真の話は全くしなかった。彼女の口ぶりから本当に久しぶりに会ったのが分かる。
松永 唯花(和坂さんのことが終わったと思ったら、今度は元カノ出現って。 落ち着く暇がないってこのことね)
  葉子と斗真のことが気になりつつも、唯花は平静を装い仕事へと戻った。

次のエピソード:抜け出せない沼のように

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