エピソード16(脚本)
〇学生寮
生徒手帳のアラーム音によって俺は微睡の中から自分の意識を覚醒させる。
〝もっと眠たい!〟そんな本能的な欲求が沸き上がるが、俺はこれを抑えるとベッドから起きだしアラームを止める。
次いでカーテンを開け、外光を取り入れた。
未だに残っていた眠気が消えるのを俺は自覚する。今から新しい一日を始めるのだ。
〇簡素な一人部屋
俺が起床時間に定めているのは午前六時三十分時。高等部の始業開始時間は八時二十分なので、
通学時間を十分としても時間的にはかなり余裕を持って起きていた。
それでも俺は軽いストレッチを済ませ、水分の補給を終えると、早々と身支度を開始する。
顔を洗い、髪を軽く整え、制服に着替える。
そして、パジャマ代わりのTシャツとスウェット、その他下着、それらをランドリー袋に入れて部屋を出る。
これらが俺にとって儀式化した朝に行う一連の動きだった。
ランドリー袋はある程度中身が溜まったら、各階に設けられたランドリー用のシュートボックスから一階の集積室に送る。
当然、袋には利用者の名前、所属寮と部屋番号等の各種情報が記載されたタグが付いており、
洗濯後はこのタグ情報を元に返却されるシステムとなっている。
また生徒達が出すゴミだが、こちらはランドリー袋とは違い専用のシュートボックスは存在せず、
生徒は自分の出したゴミを一階の集積所まで直接持っていく必要があった。
これは寮内の美化に直接関わることなので、利便性よりも教育性を考慮してのことだ。
手軽にゴミを出せないとなれば、ゴミそのものを出さないようにするのが人間という生き物だからだろう。
俺の部屋はランドリーもゴミもまだ出すほどではないため、今日は手ぶらで一階に向う。
〇大きい施設の階段
この時代、教科書の類は全て電子書籍化してパソコンにインストールされており、
一昔のようにわざわざ書籍の束を教室に持ち込む必要はない。
そのパソコンも杜ノ宮学園では教室用と寮での自習用と生徒一人に対して二台用意しており、
授業で学んだ内容、メモや注意点等のデータも学園内の高速ネットワークを通してリアルタイムで同期されるため、
極端に言えば生徒は身一つだけで充分なのだ。
もっとも、体育で使う運動着等は洗濯で定期的に本校舎と寮を行き来することなるため、
俺も通学用の鞄やイベントで使うデイパックは持っている。
いずれにしても杜ノ宮学園では電子化が進んでおり、生徒の多くは身軽な格好で登校するのが常だった。
〇警察署の食堂
一階に降りた俺は共同トイレで生理現象を片付けると時間を確認して食堂に向う。
個室のユニットバスにもトイレはあるが、可能な限り共同トイレを使用するのが掃除を減らすコツだった。
現時刻は六時五十八分、朝の食堂利用可能時間は七時より八時の一時間なので丁度良い頃合いである。
昼食はわざと遅らせる俺だが、朝食は開始直後を狙っている。朝のピークは七時半を過ぎた頃だからだ。
厳密な開始時間には少し早いが、食堂には既に何人かの先客がおり、
黙々と今日のメニューであるスクランブルエッグとバターロールパンを食べていた。
俺も生徒手帳で朝食の申請を行うと、トレイを持って空いている席に座る。
この申請は食事数の管理もあるが、朝の点呼も兼ねている。
七時五十分までに申請がされなかった場合には自動で理由を確認するメッセージが送られ、
それでも返事がなければ、看護師資格を持った管理職員が個室に赴いて直接生徒の安否を確認するのである。
生徒が連絡も出来ないほど体調を悪化させていた場合の処置だ。
もっとも、生徒の多くは、そうなる前に自主的に医務室に出向くだろうし、学園側もそれを奨励している。
感染症問題もあり、学園側は生徒の健康に関しては最善を尽くしていた。