ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード17(脚本)

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〇警察署の食堂
麻峰レイ「いたいた。おはよう!」
「ああ! おはよう、レイ。早いね」
  朝食を半分ほど平らげたところで俺は女子生徒に声を掛けられる。
  もちろん、これほど親しげに話し掛けてくれる相手などレイしかいない。俺は笑みを浮かべて挨拶を返す。
麻峰レイ「まあ、君ほどではないけどね。私も朝一で食堂に来たかったんだが、髪を乾かすのに時間が掛かってしまってね」
「え? まさか俺に合わせたの?」
麻峰レイ「ああ。これまで朝食の時に俺を見掛けたことはなかったからな」
麻峰レイ「朝一ならいると思ったんだ。昨日のことが気になっていると思ってさ」
「そうか・・・悪いね、気を使わせて」
麻峰レイ「気にしないでいい。起きる時間は変えていない。シャワーを早めに切り上げただけだから」
  そう告げるとレイは俺の前の席に食事を乗せたトレイを置いて腰を下ろす。
  その際に春の花畑を思わせる芳香が彼の鼻腔を優しく擽る。
  おそらくはレイが使っているシャンプーの香りだろう。
  食事中ではあったが、そこまで主張も強くなく清々しい匂いなので不快感はない。
  むしろ、俺としてはこれまでイメージしていた美少女の香りである。許されるのなら、深呼吸したいほどだった。
麻峰レイ「頂きます。・・・私も女子だからな、ニンニクやチョコレートの匂いばかりではね・・・ふふふ」
「いや、そんなことないって!」
  食事を開始しながらも自嘲気味に皮肉るレイを俺は慌てて否定する。
  もっとも、どちらかと言えば俺自身の心の内を誤魔化すための処置だった。
  油断しているとレイは直ぐに人の考えを見抜いてくるからだ。

〇警察署の食堂
「と、ところで、川島さんは一緒じゃないの?」
麻峰レイ「ああ、ミスズはわりと朝寝坊でね。多分、今起きた頃じゃないかな」
麻峰レイ「なんだ、俺は私よりも彼女の方が気になるのかな?」
  話を逸らすために自分から話題を振った俺だが、レイはそれすらも利用して彼に揺さぶりを掛ける。
「気にはなっているけど、異性としてじゃないよ」
「実は・・・昨日、フレンド登録したら、これから俺がレイに相応しい男か見届ける! みたいなことが書かれていて驚いたんだ」
麻峰レイ「ああ、そういうことか。ミスズはちょっと変わったところがあるんだ。そこが面白くて仲良くなったんだけどね」
麻峰レイ「・・・・まあ、君も慣れてくれば、彼女の可愛らしい魅力に気付くと思う」
麻峰レイ「それに上手く行けば私と合わせて両手に花を実現出来るぞ! どうだ! 男子の夢だろう?」
「・・・俺としては川島さんとも仲良くなりたいけど、両手に花は無理じゃないかな」
「あの子・・・どちらか言うと女の子の方が好きなんじゃない?」
  先程の油断から回復した俺はレイの冗談を軽く流すと、
  いっそのことと、これまで胸にしまっていた疑問をレイにぶつける。
  さすがに内容が内容だけに最後は囁くような音量になっていた。
麻峰レイ「うむ、やはり君もそう思うか。・・・君までそう判断するのならそうなんだろうな」
「・・・レイはどうなの?」
麻峰レイ「前にも伝えたが、私はその辺に関してノーマルだよ。彼女には悪いけどね」
「そう、そうか・・・」
  ちょっとした疑問のつもりだったが、思いがけずに重い展開になってしまい俺は言葉を濁す。
麻峰レイ「・・・まあ、私の見立てではミスズはまだガチでは思う」
麻峰レイ「思春期でちょっと不安定になっているだけだろう。仲の良い男友達が何人か出来ればまた違ってくるさ。ふふふ」
  ばらくは無言で食事を進めていた二人だったが、最後の一口を食べ終えたレイが俺に思わせぶりな笑顔を浮かべて口を開く。
「ん?! その一人の俺がなれと?!」
麻峰レイ「ああ、無理強いはしないよ。でも、俺にとっても悪いことじゃないだろう」
麻峰レイ「女子の友達が増えるわけだし、上手くやれば私を交えて、本当に両手の花も現実味があるぞ!」
「いやいや、俺にそんな器量はないよ。・・・でも、まず俺が親しくなって他の男子を紹介出来るよう頑張ってみよう!」
  ミスズのことは事件と直接関係ないと思われるが、
  レイが男子である自分を相棒に選んだのは、ミスズに共通の男友人を作るためでもあったようだ。
  マイペースで素っ気ない態度が目立つ彼女だが、その実は友達思いであるらしい。
  その役目に選ばれた俺からしても断る理由はない。むしろレイからの信頼の証でもあった。
麻峰レイ「ありがとう、さすが君だ。では、昨日の続きに入ろうか!」
「ああ、その前に一本どうだい!」
  感謝を告げるレイに俺はチョコレートの箱を彼女に差し出す。
  チョコの品種は昨日レイが俺に与えた物と一緒だ。昨日の帰りにコンビニで買っておいたのだ。
麻峰レイ「ふふふ、君はなかなか気が効くな。・・・頂くよ。やはり、君を誘って良かった!」
  チョコを受け取ったレイは口角を上げる独特の笑みを浮かべるが、それはいつもよりも高く上がっているように見える。
「貰ってばかりではね。それで、四人目が出たって?」
  俺も笑顔で答えるとレイに話を促す。
  説明するレイからはチョコレートの甘くも渋い香りが漂う。
  シャンプーの爽やかな匂いも良いが、彼女にはこちらの方が似会っていると俺は再確認するのだった。

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