バディ・ザ・アローン

ひであき

第2話 暗躍する組織(脚本)

バディ・ザ・アローン

ひであき

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〇城の廊下
リンス「おはようございます。アレク先輩」
アレク「おはよう。寝起きの機嫌は良いみたいだな」
リンス「ご挨拶なことで」
リンス「それより昨日の話ですけど、たった今上申書を提出してきました」
アレク「仕事が早いな。これでお互い嫌な思いをしなくて済みそうだ」
アレク「今日が最後の一日だ。コーヒーを奢ってやる。砂糖とミルク付きでな」
リンス「結構です。私コーヒーはブラックでしか飲めませんので」
アレク「それは残念だ。最後に大人の流儀を教えようと思ってたんだがな」
リンス「何か勘違いしていませんか?」
リンス「私、アレク先輩とのコンビを解消するつもりはありませんから」
アレク「何だって? なら上申書に一体何を書いたんだ?」
リンス「アレク先輩は余裕のある大人の男性でとっても素敵な方だって書いて提出してきました」
アレク「なるほど、ジョークの才能はあるみたいだ。今頃レティが腹を抱えて笑ってるだろうな」
「あははは! あのぐーたらが素敵ときたか! 上手くやれそうで何よりじゃないか!  ぷくく!」
アレク「まったく、部屋の外まで筒抜けだ。こういうところは昔と変わらないな」
リンス「スカーレット少佐と随分親しいんですね」
アレク「レティの父親には世話になったからな。レティはそのついでだ」
アレク「まあいい。俺と一緒にいれば気持ちも変わってくるはずだ」
アレク「見回りに行く。コーヒーの話は無しだ」
リンス「私のほうから願い下げです」
アレク「酒の席をご希望か? あと十年早いぜ」
リンス「そういう意味じゃないですから!」
アレク「やれやれ。朝っぱらから子供の声は頭に響くな」
リンス「何か言いましたか!?」
アレク「何も。すぐに出る。化粧を済ませておけ」
リンス「もうばっちりしてますから!」
アレク「そいつはすまなかった。お子様のすっぴんと化粧は区別が付かなくてな」
リンス「化粧してるみたいにすっぴんも綺麗だって意味ですか?」
アレク「捉え方は人それぞれか。ポジティブなのは良いことだけどな」

〇巨大な城門
リンス「今日は町の外の見回りですか?」
アレク「シマに城門も含まれてるからな。一応見ておくのも仕事だ」
リンス「ぐーたらな人だと思ってたら仕事はちゃんとするんですね」
アレク「仕事で手を抜くのは流儀じゃない。女を口説くときもな」
リンス「どうだか。それより先を急ぎましょう」
アレク「気の強いお嬢ちゃんだ。あんまりつんけんしてると男が寄って来なくなるぜ」
リンス「これくらいで寄って来なくなるような男なんて私から願い下げです!」
アレク「その意気だ。強気な女に尻込みするような玉無しは相手にするな」
アレク「男は度胸だ。女の強気を笑い飛ばすような器のデカい男がお前には相応しい」
リンス「アレク先輩みたいなですか?」
アレク「俺の話じゃない。新しい相棒にはそういう男を選べって話だ」
リンス「またその話。さっきも言いましたけど私は──」
リンス「あっ、魔物が!」
アレク「止めろ。武器を仕舞え」
リンス「でも魔物が!」
アレク「いいから言う通りにしろ。これは命令だ」
リンス「──了解いたしました」
アレク「奴に背を向けるな。視線を下にしてゆっくり後ろに下がれ」
リンス「何をするつもりですか?」
アレク「見ていればわかる」
リンス「引き返していきましたね」
アレク「そういうことだ。連中も人間を相手に戦いたいなんて思っちゃいないんだ」
アレク「戦いは避けられるならそれに越したことはない」
リンス「町の目と鼻の先まで迫った魔物を放っておいていいんですか?」
アレク「ここは城壁の外。連中の庭だ。部外者は俺たちのほうだ」
アレク「庭をウロついただけで襲われたんじゃ連中も堪ったもんじゃない」
アレク「俺たちの出番は連中が町のなかに入ってきたときだ」
アレク「それ以外は見て見ぬ振りがお互いのためだ」
リンス「意外ですね。容赦なく叩き斬るイメージでした」
アレク「無益な殺生は趣味じゃないんだ」
アレク「食うためなら殺すのも辞さないけどな」
リンス「あの魔物、見るからに肉質が硬そうですしね」
アレク「そういう意味で言ったんじゃないが、まあいい」
アレク「場所を移そう。ここじゃ立ち話はできそうにないからな」
リンス「ま、まさかいかがわしいところに連れていく気じゃ」
アレク「お子様の恋愛脳には付き合い切れないな」

〇城壁
リンス「ここからだと町が見渡せるんですね!」
アレク「やれやれ。子供と一緒にいる気分になるな」
リンス「何か言いましたか?」
アレク「いや、楽しんでるようで何よりだと思ってな」
リンス「平和な景色ですね。二十年前までこの世界が魔王の脅威に晒されていたなんて嘘みたい」
アレク「その頃は生まれてなかったんじゃないか?」
リンス「子供の頃から両親にずっと聞かされてきましたから! 世代じゃない若者もみんな知ってます」
リンス「三人の仲間と共に魔王を倒し、世界に平和をもたらした勇者ユリウス。彼と彼の仲間の死がこの平和の礎になっています」
リンス「魔王亡きあと狂化から解放された魔物たちはおとなしくなり、魔物による被害は激減しました」
リンス「アレク先輩の無益な殺生を嫌う志が体現できる時代を作ってくれた偉大な方々なんですよ」
リンス「その中でも勇者ユリウスは私の、じゃなくて、今でも若者の憧れの存在なんです」
リンス「先輩も少しは見習ったらどうですか?」
アレク「そうだったな。勇者サマには泣いて感謝しないとな」
アレク「俺みたいなあぶれ者が職に就ける時代を作ってくれたことにな」
リンス「そういうことです。わかったのなら目の前にいるレディにもっと優しくしましょうね」
アレク「レディ? ちんちくりんなら目の前にいるんだがな」
リンス「誰がちんちくりんですか誰が!」
リンス「私これでも脱いだらすごいんですからね! アレク先輩が今まで子供扱いして悪かったって謝るくらいに!」
アレク「体が立派なら大人だって考え方がまだまだ子供なんだ」
アレク「乳を揺らすだけで喜ぶのは童貞だけだ。男心を掴みたいなら大人の色気と所作を身に付けるんだな」
リンス「そ、そんな。士官学校で私に寄って集ってきた男子はみんな童貞だったんですか?」
アレク「それはどうだか知らないが、色気がないくせにやけに自信たっぷりな理由がよくわかった」
アレク「他の場所を見て回るぞ。乳を揺らすのはほどほどにしておけ」
リンス「うーん。アレク先輩みたいなろくでなしより童貞のほうがいいかもしれませんね」
リンス「これからも乳を揺らしていくことにします!」
アレク「──もう好きにしろ」

〇ヨーロッパの街並み
リンス「今日はママさんのところに寄って行かないんですか?」
アレク「毎度開店前に顔を出したら迷惑だ。次に行くときは夜だ」
リンス「昨日の今日じゃ新しい情報も入ってないでしょうしね」
アレク「そういうことだ。捜査は足で稼ぐ。地道が近道だ。頼るばかりじゃ主体性のない大人になるぞ」
リンス「最期の余計な一言がなければ納得できるのに」
リンス「年を取るとみんな説教臭くなるんですね」
アレク「寄る年波には逆らえないんだ。お前もこの年になればわかる」
「うわああ! 誰か助けてくれー!」
「な、何この風!? 急に、きゃあああ!」
リンス「今の騒ぎは一体!?」
アレク「どこかのバカが町中で魔法をぶっ放したみたいだな! 行くぞ!」
リンス「はい!」

〇崩壊した噴水広場
アレク「むしゃくしゃしてやったにしても酷い有様だな!」
リンス「アレク先輩! あそこ!」
暴れる男「ひゃははは! 力が! 力が溢れ出して止まらねえ!」
暴れる男「全部だ! 全部メチャクチャにしてやる!」
リンス「何ですかあの人!? 明らかに正気じゃないです!」
アレク「例の魔法薬をキメてハイになってやがるんだ! これ以上被害が拡大しないように取り押さえるぞ!」
リンス「そういうことなら私に任せてください!」
リンス「閃け! 氷の刃! アイシクルエッジ!」
暴れる男「あ、足が! 俺様の足が凍って!」
リンス「身動きを封じました! 今です!」
アレク「上出来だ。三つ編みにお下げして机にかじり付いてただけじゃなかったんだな」
暴れる男「ぐ、ぐはっ! てめえよくも!」
アレク「脂肪が邪魔して決定打にならなかったか! それなら!」
暴れる男「がはっ!」
リンス「見事な太刀筋でした。ただのぐーたらじゃなかったんですね」
アレク「お前が生まれる前から剣を握ってるんだ。これくらいは朝飯前だ」
暴れる男「へ、へへっ、俺一人をどうしたところで無駄だぜ。もう戦いは始まってるんだからよ」
アレク「何だと? おい! それはどういう意味だ!?」
暴れる男「答える義理はないね。ぐふっ!」
リンス「あ、アレク先輩、その人もしかして──」
アレク「死んだ。用法と用量を守って正しく薬を使わなかったせいだろうな」
リンス「そ、そんな」
アレク「クソ! こんなチンピラの手に渡るほどブツが出回ってるとはな!」
アレク「カスディアの外道ども! 必ず見付け出して全員ブタ箱にブチ込んでやる!」
リンス「カスディア。違法魔法薬の製造と売買で手配されている犯罪組織のことですね」
リンス「せっかく勇者ユリウスが世界を平和にしてくれたのに、今度は同じ人間が敵になるなんて」
アレク「てめえの私腹を肥やすために他人を食い物にする。人間様ってのはご大層な生き物で何よりだぜ!」
アレク「こんな有様じゃ世界平和なんぞのために死んだ連中が浮かばれねえぜ! クソが!」
リンス「あ、アレク先輩」
アレク「すまない。女子供の前で喚き散らすなんてみっともない真似をした」
アレク「他の憲兵が来るまで現場を保存する。お前は野次馬の対応を頼む」
リンス「り、了解いたしました」
アレク「俺としたことがつい熱くなっちまった」
アレク「俺のこんな姿を見たらお前は笑うだろうな、ローガン」
アレク「いや、ローガンに限った話じゃないか」

〇ヨーロッパの街並み

〇城の廊下

〇上官の部屋
スカーレット「犯人の制圧ご苦労だった」
スカーレット「お前たちが現場に急行してくれたおかげで死者はゼロだ」
スカーレット「怪我をした者はいるが、全員軽傷だそうだ」
スカーレット「アレクにしては良い仕事をしたな」
アレク「お褒めに与り光栄だ。上官殿」
スカーレット「お前がどうしてもと頭を下げるならデートくらいは行ってやってもいいぞ?」
アレク「レディからの誘いに乗るのが紳士だが、またの機会にする」
スカーレット「そうか? 女は待たせすぎると逃げてしまうぞ」
アレク「逃げ出す寸前まで待たせるくらいが丁度良いんだ」
スカーレット「お前はすぐ逃げ出すくせによく言えたものだ」
アレク「耳が痛いな。それで、何かわかったことは?」
スカーレット「ない。犯人が生きていれば何か聞き出せたかもしれないがな」
リンス「カスディアが関わっている以上、ことは思っている以上に重大です」
リンス「即刻捜査本部を設置してカスディアを叩くべきです!」
スカーレット「残念ながらそれはできない」
リンス「そんな! 一体どういうことですか!?」
スカーレット「上から待てがかかった。証拠がない以上は動くな、とな」
リンス「証拠って、それを探すのが私たちの仕事じゃないですか!」
アレク「了解だ、ボス」
リンス「アレク先輩!?」
スカーレット「くれぐれも余計な真似はするなよ」
アレク「わかってる。行くぞ」
リンス「ちょっと待ってください! 納得がいきません! アレク先輩ってば!」

〇城の廊下

〇ヨーロッパの街並み
リンス「アレク先輩! 待ってください! ねえってば!」
アレク「何だ騒々しい。腹が減ってるのか? キャンディーを買ってやるからおとなしくしてろ」
リンス「わーい!」
リンス「ってなりませんから!」
リンス「私あんなの納得がいきません!」
リンス「幸い犯人以外の死傷者は出ませんでしたが、今回は運が良かっただけで次はわかりません!」
リンス「町もあんな有様になって、犯人も明らかに様子がおかしかったのに、証拠不十分だから何もするなだなんて」
リンス「上に厳重抗議してきます!」
アレク「その上から待てがかかってるんだ。何を言ったところで決定は覆らないさ」
アレク「あるいは生意気だってことで年寄りと羊しかいない町に左遷なんてこともあり得るかもな」
リンス「そ、そんな。カスディアが絡んでるのは明らかなのに何もできないなんて」
リンス「上は一体何を考えてるんでしょうか」
アレク「鈍い奴だな。まだわからないのか?」
リンス「どういう意味ですか?」
アレク「そのカスディアが上に圧力をかけたんだ」
リンス「な、何の話ですかそれ? 一体どういうことですか!?」
アレク「質問が多いな。ボードに書き切れないぞ」
リンス「真面目に答えてください!」
アレク「カスディアはお前が思っている以上にこの国の奥深くまで根を張ってる」
アレク「この国のお偉いさんの何人かがお世話になるくらいにな」
リンス「そんな! それじゃ軍の上層部も──」
アレク「そういうことだ」
アレク「俺とローガンは奴らの野放しを見過ごせずに独自に捜査を進めてたんだ」
アレク「おかげで軍の中じゃ厄介者扱いだ」
リンス「そ、それじゃさっきのやり取りは」
アレク「表向きだ。レティは立場上やれとは言えない。ここから先は俺の独断というわけだ」
リンス「そういうことだったんですね! だったら初めからそう言ってくださいよ!」
アレク「何だ、やけに嬉しそうだな」
リンス「アレク先輩が上に怯える腰抜けじゃなくて安心しました」
リンス「カスディアが見過ごせないのは私も同じ気持ちです」
リンス「必ず奴らの尻尾を掴んで踏ん反り返ってる上の連中に一泡吹かせてやりましょう!」
アレク「意味がわかって言ってるのか? このヤマに関わればクビどころか死ぬかもしれないんだぞ」
リンス「脅してるつもりなら無駄ですよ」
リンス「言ったじゃないですか。もしものときの覚悟はできてるって」
リンス「生半可な覚悟でこの仕事に就いたわけではありません」
リンス「相手が誰であろうと悪事は見過ごせない。人々の暮らしを脅かす悪党は成敗してやります!」
アレク「なるほど。レティが若い頃を思い出すと言っていたのはこういう意味だったのか」
リンス「何の話ですか?」
アレク「何でもない。その様子じゃ俺が何を言っても付いてくるつもりなんだろ?」
リンス「当たり前じゃないですか!」
リンス「私がこの大事件を解決するまで足を引っ張らないでくださいね、アレク先輩!」
アレク「子守じゃなくて調教のほうだったか。じゃじゃ馬どころかとんだ暴れ馬だ」
リンス「さあ、行きましょう! アレク先輩!」
アレク「手綱を握るのは苦手なんだがな」

次のエピソード:第3話 捜査開始

コメント

  • アレクの悪態に慣れてきたリンスの成長に👍

  • リンスが、前話よりも会話の切り返しが巧みになり、アレクへの親しみも増した感じですね!何やら、2人にとっても良いバディ感が!

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