添田と袂のオカルト雑誌編集者シリーズ

aza/あざ(筒示明日香)

幕間────『女系家族』 私の家。(脚本)

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〇古風な和室
  気付いてしまった。
  布団の中で、見上げた天井。
  梁の向こうで、爛々と輝く眼に。
  私はすべてを悟った。

〇広い玄関(絵画無し)
  【 私の家。 】

〇新幹線の座席
  祖母が死んだ。
  訃報に私は、実家へ向かった。

〇大きな日本家屋
  私の実家は、田舎のちょっと大きな屋敷で、
  小さいころは大きさの割に人のいない屋敷に怯えた。

〇畳敷きの大広間
祖母「怖がってはいけません」
祖母「付け入れられますよ」
  光の届かない物陰を恐れる幼い私を、祖母がよく叱咤激励したものだ。
  私は、祖母に育てられた。
  母は、私を産んですぐ亡くなったらしい。
  口さがない人の話では、母は首を吊って自殺したそうだ。
  だからかもしれない。

〇畳敷きの大広間
  私は物陰の、
  殊、
  傷だらけの梁が一等恐ろしかった。

〇広い玄関(絵画無し)
おばさん「あれまぁ、」
近所の人「お嬢さんじゃないかぁ」
孫娘「ただ今、帰りました」
  葬式の仕度をしてくれた近所の人と、
  普段は遠くに住む分家のおばさんが出迎えてくれた。
  久々の屋敷は、人が多いせいか私が大人になったせいか特に怖くなかった。

〇古風な和室
  夜、通夜の人々が帰ってから、私も仮眠に床へ就いた。
  祖母は祖母の部屋で眠っている。
  明日には棺に入り、灰になる。

〇古風な和室
  最近の線香は、渦を巻いて下から上へ蚊取り線香のように燃える形らしい。
  とは言え放って置けないので、
  火の番もすべく祖母の部屋の隣室で私は布団に入って────
  夜中の二時を過ぎた辺り。
  私は、『それ』と目が合った。

〇大きな日本家屋
  祖母は戦争で両親と結婚したばかりの夫を失い、
  一人で激動の世に屋敷を守って来たと言う。
  一人で。
  何かに守られているようだった、と専ら噂だったそうだ。

〇古風な和室
  そして、私には父がいない。
  母は自殺する前に付き合っていた男性の影すら無かったと聞いた。
  だから、私が生まれたときは驚いたとか。
  その私を、祖母は中学に上がるとき、全寮制の遠くの学校へやった。
  以降、十年以上、帰っていなかった。

〇古風な和室
  この部屋は母のものだった。
  一本、太く残る擦れた跡は母が首を吊ったときのものだろう。
  だが、他の、幾重にも在る傷は・・・・・・まるで獣の爪痕みたいだった。
  『それ』が、口を開いた。
  「まちわびたぞ・・・・・・」

〇古風な和室
  私は、祖母を守っていたものも、
  母の自殺の原因も、
  私を祖母が追い遣った理由も。
  私の出生の秘密も。
  圧し掛かる重さに、すべて悟った。

〇広い玄関(絵画無し)
  【 了 】

次のエピソード:幕間────取材『近所の老婆の証言』

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