逢いたくて770

山本律磨

終章(脚本)

逢いたくて770

山本律磨

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〇豪華な王宮
  『ミカド・・・』
  『ミカドにあらせられまするか?』
称徳帝「誰じゃ?」
  『おのれに刃向かう貴族を粛清し、天啓を偽り怪僧に世を委ねんとする魔性の女帝』
称徳帝「そう思いたくば思うがよい」
称徳帝「我は我なりにこの国の歪みを正さんとした」
称徳帝「誰にも頼らず、たった一人で」
称徳帝「だが安心せよ。最早この命は尽きる」
称徳帝「たった一人で、この世を去る」
称徳帝「故に刺客など恐ろしゅうない」
男「・・・」
称徳帝「魔性の女帝か」
称徳帝「よかろう。魔物の力、見せてくれよう」
称徳帝「あの男から受け継いだ『力』を・・・」

〇先住民の村
竹芝「如何にも我は武蔵の鬼、竹芝!」
竹芝「すめらの太子をかどわかしたる者なり!」
竹芝「されど仲麻呂!うぬも申したであろう!」
竹芝「この者は国を禍に導く不徳の太子!」
竹芝「忌まわしき女帝の未来を憂う我が志が何故分からぬか?」
仲麻呂「ものいうな獣めが!」
仲麻呂「内親王は私が教育する!」
仲麻呂「天下は私が導く!」
仲麻呂「下賤の輩が出る幕などない!」
仲麻呂「そも、何が国を憂うだ?」
仲麻呂「色香に迷いたる俗物が命惜しさに女を盾に逃げおおそうとしているだけではないか」
竹芝「・・・」
姫「違う・・・」
姫「竹芝は言ってくれた」
姫「私と同じものを見ると」
姫「芝居はもうよい」
姫「そなたの命は必ず救う」
姫「故に私と都に・・・」
姫「・・・竹芝」
仲麻呂「内親王殿下の聖なる玉体を盾にするとは。まこと畏れ多き蛮族よ」
竹芝「聖なる玉体?奸臣が、思ってもない事を言うな」
仲麻呂「フッ・・・」
姫「芝居であろう?」
姫「逃げるための芝居であろう?」
竹芝「見るな」
竹芝「俺を見るな」
姫「え?」
竹芝「俺も、もうお前の顔など見たくない」
竹芝「お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶になった」
竹芝「あまつさえ村まで焼かれた」
竹芝「この上、命を奪われるなどまっぴらだ」
姫「竹芝」
竹芝「俺を見るなと言っている!」
姫「ひっ!」
竹芝「次は傷では済まさぬぞ」
竹芝「振り返れば首を落とす」
姫「守ると言ったではないか」
姫「同じ道を行くと言ったではないか」
竹芝「思い直す」
竹芝「俺達の行く道は、そんな穏やかな道じゃなかった」
竹芝「だから俺を見るな」
竹芝「しかと前をみろ」
姫「・・・え?」

〇黒
  『あの男を見ろ』
  『俺達を笑っている』
  『俺を、お前を、民を、おのれ以外の全てを見下し嘲笑っている』
  『あんな男にこの国を任せちゃいけない』
  『俺達の未来を委ねちゃいけない』

〇先住民の村
仲麻呂「射よ」
衛士「え?」
仲麻呂「殿下ごと、射よ」
衛士「な、何を仰られます・・・」
仲麻呂「玉体は既に鬼に弄ばれ穢れ果てたようだ」
仲麻呂「左様な者に次の王たる資格はない」
仲麻呂「ミカドには私から言い伝えておく。この国の為だ」
仲麻呂「禍の太子を鬼ごと祓い清めよ!」
衛士「は、ははーッ!」
竹芝「いいか。これからお前が進む道は奴らとの戦いだ」
竹芝「民の為、国の為、前だけを見て歩け」
竹芝「もうおんぶはしない」
竹芝「代わりにこれをやる」
姫「こんなものいらない・・・」
竹芝「頼んだはずだぞ」
竹芝「俺と同じものを見てくれと」
仲麻呂「何をしておるか!太政大臣藤原仲麻呂が命ぞ!疾く射殺せ!」
「うおおおおおッ!」
姫「竹芝・・・」
竹芝「さあ、一緒に徳を積もう」
竹芝「鬼を討って王になれ・・・」
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
竹芝「討てーーーーッ!阿倍子ーーーーーッ!」
姫「阿倍子って・・・」
姫「阿倍子って言うなーーーーーーーッ!」

〇白

〇先住民の村
「・・・」
仲麻呂「・・・」
姫「・・・」
竹芝「それでいい阿倍子」
姫「だから・・・阿倍子って言うな」
竹芝「ははっ・・・」
姫「鬼は・・・」
姫「鬼はこの阿倍内親王が討ち果たした」
姫「この手で成敗した」
仲麻呂「クッ・・・」
姫「それでもなお、穢れた我を討ち果たすか?」
姫「この玉体を砕くと申すか?」
姫「ならば・・・」
姫「受けて立つ!」
仲麻呂「・・・」
仲麻呂「恐れ入りましてございます」
仲麻呂「者ども、控えよ!」
「はっ!」
姫「何をしておるか・・・」
姫「疾く火を消せ!早く民を救うのじゃ!」
「は、ははーッ!」
姫「聞け!」
姫「新たなる世はこの我が作る!」
姫「必ず天平らかなる世を作ってみせる!」
姫「・・・」
姫「これでよいか?」
姫「礼には及ばぬぞえ。我は積善の姫じゃからのう」
姫「ただどうしても礼がしたいと申すなら」
姫「歌ってたもれ」
姫「あの、瓢箪の歌を」
姫「今度はちゃんと聴くから」
姫「だから歌って・・・」

〇黒
  『歌って・・・』

〇豪華な王宮
称徳帝「さあ、参れ。刺客よ」
男「刺客・・・?」
称徳帝「藤原の残党か?豪族の手の者か?」
男「いや。俺はただお礼を言いに」
称徳帝「お礼?」
称徳帝「施しの礼を言いに、わざわざ危険を冒して宮中に忍び込んだと?」
称徳帝「左様な戯言信じると思うてか?」
男「いえ、施しと申しまするか・・・」
男「命を救って頂いたお礼を」
称徳帝「命を・・・救った?」
称徳帝「それは・・・」

〇先住民の村
村人「こ、これは?」
姫「持っておるがよいぞ。毘盧遮那仏の加護が込められた仏具である」
姫「きっとこの子の成長を見守ってくれよう」
村人「おありがとうございます・・・」
姫「また会おう」

〇豪華な王宮
称徳帝「そなた、あの時の童か!」
男「はい。この数珠のお陰であれ以来病気一つせず生きて参りました」
称徳帝「よ、容貌の御加護までは行き届かなかったようじゃな」
男「はい?」
称徳帝「何でもない」
男「でも丁度よかったです。数珠をお返しするのが間に合いました」
称徳帝「どういう意味じゃ?」
男「生きて下さい」
男「都人がどう噂しようと、貴族が何と記そうと、あなた様は村を救ってくれました」
男「一人の衛士が都の姫を連れ帰り幸せに暮らした」
男「お二人を称え、村ではそう言い伝えております」
称徳帝「ふむ、ただの言い伝えか」
称徳帝「まあ、有難く受け取っておこう」
男「じゃあ俺はこれで。次はミカドの健やかなるをお祈り申し上げます」
称徳帝「さて、どうであろうの。衛兵が来ぬうちに行くがよい」
男「では・・・」
「早う故郷に帰りたい~♪」
称徳帝「え?」
「七つ三つある酒壺に~♪さした直柄の瓢箪が~♪」
称徳帝「ま、待て!」
男「はい?」
称徳帝「何故その歌を知っておる?」
男「え?」
称徳帝「瓢箪の歌!竹芝がうたっていた歌じゃ!」
称徳帝「まさか!」
男「これ、村の歌ですよ」
称徳帝「え?」
男「村の誰もが歌えまさあ」
称徳帝「・・・」
称徳帝「・・・そうか」
称徳帝「ふふっ」
称徳帝「そうだったのか。誰でも歌えたのか」
男「へえ。うちのカカアも倅も歌えますぜ」
男「歌って差し上げましょうか?」
男「早う故郷に帰りたい~♪」
称徳帝「そなたの口から聴いてものう・・・」
男「まあまあ、そう言わずに」
男「早う故郷に帰りたい~♪七つ三つある酒壺に~♪さした直柄の瓢箪が~♪」
称徳帝「・・・」
竹芝「西から風吹きゃ東へひらり~♪北から風吹きゃ南へひらり~♪」
称徳帝「・・・」
称徳帝「西から風吹きゃ東へひらり」
称徳帝「北から風吹きゃ南へひらり」
称徳帝「そうじゃな」
称徳帝「生きてみようぞ」
称徳帝「生き抜いてみせようぞ。竹芝」

〇皇后の御殿
  菅原孝標女、更級日記より
  タケシバ異聞~称徳孝謙皇帝の疵~
  完

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