怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード58(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇旅館の和室
  宿の客室でひとり、俺は総二郎が戻るのを待っていた。
  時刻は20時近く。日はとっくに暮れている。
茶村和成「・・・・・・」
茶村和成(なにか・・・、あったんだろうか)
  窓から外を眺めながら、総二郎の行方を思案する。
  外に街灯はほとんどなく、粛々とした夜闇から波音だけがかすかに聞こえてくる。
茶村和成(もし、このまま朝まで総二郎が帰って来なかったらどうする?)
茶村和成(俺はここでただ待っているだけでいいのか・・・?)
茶村和成「・・・あー、くそっ」
  どうにもならない状況をやきもきする気持ちに頭を抱える。
茶村和成(・・・いったん落ち着こう。 焦っても仕方ない)
  横目に映る外界の暗闇をじっと見つめていると寒気がして、身震いした。
茶村和成(・・・トイレ)

〇旅館の受付
  立ち上がり、ふすまをそっと開ける。
  トイレは共用らしく部屋の外にある。
茶村和成(廊下、暗いな・・・)
  周囲を見回すが、電気のスイッチらしきものは見当たらない。
茶村和成「・・・仕方ない」
  今、宿には俺以外の客はおらず、宿の主人であるおじいさんと俺しかいない。
  おじいさんがいるであろう部屋から漏れ出ている光を頼りに、俺は壁伝いにトイレへと向かった。
  その途中。
茶村和成「・・・ん?」
茶村和成(・・・話し声?)
  明かりのついた部屋の隣を横切ろうとしたとき、中からなにかを話しているおじいさんの声が聞こえた。
  どうやら誰かと電話をしているようだ。
茶村和成「・・・・・・」
  特に気にせず過ぎ去ろうとした瞬間、俺は耳を疑った。
「・・・はい、・・・そうです。薬師寺さま」
茶村和成「────!」
茶村和成(・・・今、なんて?)
  ゆっくりと息を吐き、物音を立てないように気をつけながらふすまに聞き耳を立てる。
「・・・承知致しました。 ・・・はい、はい。なるほど」
茶村和成「・・・・・・」
「・・・ええ、その少年でしたらうちにおります」
茶村和成「・・・!」
  俺のことだ。直感的に理解した。
茶村和成(どういうことだ・・・!?)
「なるほど・・・、かしこまりました」
「・・・はい、すぐにいらっしゃるのですね。 お待ちしております。では」
茶村和成「!!」
  ガチャリと電話が切られ、部屋の中でおじいさんが立ち上がる気配がする。
茶村和成(やばい、こっちに来る!)

〇旅館の和室
  慌てて部屋に戻り、その場に座り込んだ。
  先ほどの出来事について考える。
茶村和成(なんの電話だったんだ? 「すぐにいらっしゃる」・・・?)
  しかしそんな暇もなく、廊下からこの部屋に近づく足音が聞こえた。
  ふすまがノックされる。
茶村和成「・・・はい」
  俺は平静を装いながら、なんとか返事を絞り出した。
  がらりとふすまが開かれる。
  そこには、にっこりと微笑んだおじいさんが立っていた。
茶村和成「・・・どうかしましたか?」
茶村和成(耐えろ・・・。動揺を悟られるな・・・)
宿屋の主人「ああ、いやね。 退屈してるんじゃないかと思ってねぇ」
茶村和成「いえ・・・、そんなことないですよ」
宿屋の主人「この町じゃ若い観光客なんて珍しくてね。 よかったら談話室で一緒に話さんかね」
茶村和成「・・・・・・」
宿屋の主人「どうかしたのかい?」
茶村和成「! いえ・・・、ありがとうございます」
宿屋の主人「いやいや。じゃあついておいで」
茶村和成「あ、俺、トイレに寄ってから向かうので、先に行っていてください」
宿屋の主人「おお、そうかい。わかったよ」
  とっさに口をついて出た言葉。
  おじいさんは特に怪しむそぶりもなく、さっきまでいた部屋に戻っていった。

〇女子トイレ
  その姿を見届けたあと、俺は最低限の荷物を手に取り足早にトイレへと駆け込んだ。
茶村和成(よく、わからないが・・・。 このままここにいるのはヤバい気がする)
茶村和成(どうする? くそっ、総二郎の奴はなにしてるんだ)
  と、そのとき。
  少し開かれた窓の外から足音が聞こえてきた。
茶村和成「・・・?」
  ひとりやふたりのものじゃない。
  少なくとも5人以上・・・?
  そっと窓の外をのぞき見る。
茶村和成「!!」
  黒い装束を身につけた集団が、淡く光を放つ提灯を携えながら道を歩いているのが見える。
  彼らの顔にはそれぞれ狐の面がつけられていた。
茶村和成(こっちに向かってきている・・・)
茶村和成(狙いは俺・・・!?)
  総二郎が帰ってこない以上、あいつらに捕まるのはまずい気がする。
茶村和成「・・・・・・」
茶村和成「迷ってる暇は、ないよな・・・!」
  狐面の集団はやはり、俺がいる宿屋の前で止まった。
  インターホンの音が鳴り響く。
  それを聞くのが早いか、俺は窓から外へ身を滑らせた。

〇けもの道
  音を立てないよう慎重に着地したのち、すぐに体勢を立て直して宿の裏手の林を駆け抜ける。
茶村和成「はあっ・・・、はあっ・・・」
  しばらくして、後ろから「逃げたぞ!」「追え!」といった怒号が響いてきた。
茶村和成「・・・!」
茶村和成(とにかく今は逃げるしかない!)

〇けもの道
  そのまま、数十分は走っただろうか。
茶村和成(もう、さすがに・・・、限界・・・だ)
  ぜえぜえと息をしながら地面にへたり込む。
  人目を避けようと山の中を登ってきたため、
  だいぶ体力が奪われてしまった。
茶村和成「ハア・・・、ハア・・・」
茶村和成(これからどうするか・・・。 薬師寺家へ乗り込んだとして、薬師寺がどこにいるかはわからない・・・)
茶村和成(まずは総二郎を探してどうにか合流をはかるほうが得策か?)
茶村和成「・・・考えろ・・・、今、どうすべきなのか・・・!」
「いたか!?」
「人が通った痕跡がある! 近いぞ!」
茶村和成「!?」
茶村和成(な・・・、もうここまで!?)
  少し離れた位置に、提灯の明かりが光っている。
  俺を追ってきた奴らだ。
茶村和成「くそっ・・・」
茶村和成(もっと奥へ・・・!)
  一心不乱に山を駆け上がる。
  木々の隙間をかいくぐり、視界を塞ぐようにかかった木の葉をかき上げた瞬間・・・
「和成!!」
茶村和成「ッ!?」
茶村和成「・・・って、総二郎!? よかった・・・、無事だったのか」
榊原総二郎「ああ・・・、世話をかけてすまない」
茶村和成「どうしてたんだ? 日暮れまでに帰って来ないから心配してたんだぞ」
榊原総二郎「どこからか計画が漏れて、戻った際に俺も捕らえられてしまってな」
茶村和成「!? ・・・本当に、よく無事だったな」
榊原総二郎「隙を見て逃げてきた」
榊原総二郎「それに和成こそ無事でよかった。 どうしてここにいる?」
茶村和成「追われて山に登ったら偶然ここに・・・」
榊原総二郎「・・・それはすまなかったな。 危険な目にもあっただろう」
  総二郎は申し訳なさそうに目を伏せた。
茶村和成「お互い様だ。気にするなよ」
茶村和成「でも、よく俺の居場所がわかったな」
榊原総二郎「それは・・・。 昼に石を渡したのを覚えてるか?」
榊原総二郎「あれには特殊な術式を施してあって、所持している者の位置がわかるようになっている」
茶村和成「え! そ、そうだったのか・・・」
榊原総二郎「ああ。さっそくだがついてきてくれ」
榊原総二郎「計画が吾妻にバレた以上、悠長なことはしていられなくなった」
榊原総二郎「準備もなにもないが・・・。 これから廉太郎のところへ向かう」
茶村和成「!!」
榊原総二郎「廉太郎は、本家の裏にある洞窟の中にいる」
榊原総二郎「無数の霊脈が交わるこの島で、最も力が集まる場所・・・、”門”(ゲート)」
榊原総二郎「それが存在する場所」

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