エピソード57(脚本)
〇小型船の上
総二郎が俺のもとを訪ねてきて3日後。
約束どおり再び現れた総二郎について行くがまま、俺は今、大海原の真上にいた。
茶村和成「まさか薬師寺家が島にあるとはなあ・・・」
小型のクルーザーに揺られながら、どこまでも広がる青い海を眺める。
榊原総二郎「和成。船酔いは平気か?」
茶村和成「・・・ああ、大丈夫だ」
茶村和成「島まではどれくらいかかるんだ?」
榊原総二郎「うむ・・・。 だいたい2時間半といったところか」
茶村和成「2時間半か・・・」
榊原総二郎「・・・島についても話しておかねばな」
榊原総二郎「俺たちが今向かっているのは、界岐(かいき)島という薬師寺家が保有している島だ」
榊原総二郎「ところで和成、虚世の存在は知っているか?」
茶村和成「ああ」
茶村和成(あの透明でなにもない世界・・・、だよな)
榊原総二郎「界岐島は霊脈の交わる場所に位置していて、虚世に直接つながる門がある場所だ」
榊原総二郎「その門を管理し、薬師寺家は代々此世と虚世、そして彼世・・・。 3つの世界のバランスを調整している」
榊原総二郎「だが・・・」
榊原総二郎「ある事件をきっかけに6柱のうち1柱が消滅して以来、徐々にそのバランスが崩れてしまった」
榊原総二郎「それ以来虚世には彼世へとつながる穴があき、その穴は今もなお巨大化し続けている」
茶村和成「・・・・・・」
榊原総二郎「吾妻(あづま)はこの穴を塞いで世界を正常に戻すために、怪異を利用した実験を繰り返しているのだが・・・」
茶村和成「それを総二郎は止めたいんだよな?」
茶村和成「でも、その必要はあるのか? 話を聞いた感じ、穴は塞ぐべきなんだろ?」
榊原総二郎「・・・やり方が問題なんだ。 言ってしまえば、吾妻は穴を塞ぐためならどんな犠牲を払ってもいいとさえ思っている」
榊原総二郎「何百人、何千人が犠牲になっても・・・な」
茶村和成「・・・なるほどな」
榊原総二郎「まあ、そもそもそんな実験ができるのは吾妻が紛れもない天才である証だが・・・」
榊原総二郎「・・・そして、その実験のひとつがテケテケでな」
榊原総二郎「廉太郎が消滅させたテケテケを復活させ、力を与えることで6柱を人工的に作り出そうとしているのだ」
榊原総二郎「ただ、予想を超えるエネルギーが発生したことでテケテケが暴走し、それを廉太郎が再び無力化したわけだが・・・」
榊原総二郎「この程度では吾妻は諦めない。 奴はこの失敗すらも必要なステップだと考えている」
榊原総二郎「だから今現在も、島では継続して実験が行われているはずだ」
榊原総二郎「そしてテケテケが完成し、虚世の穴を塞ぐ力を得るまでの間、廉太郎が穴の広がりを遅らせる役目を負っているというわけだ」
茶村和成「・・・薬師寺にはそれが可能なのか?」
榊原総二郎「というか、廉太郎にしかできない。 それだけあいつが持つ”狐の力”は強大だ」
榊原総二郎「とは言え相当キツいとは思うがな」
茶村和成「・・・・・・」
榊原総二郎「・・・あいつがひとりで責任を負うのは絶対に間違ってる」
ふう、と息を吐いて総二郎は上着を羽織り直す。
榊原総二郎「天気はいいが空気が冷えるな。 和成も中に戻って休むといい」
茶村和成「そうだな・・・。 もう少ししたら戻る」
榊原総二郎「・・・ああ。俺は操縦士と話をしてくる。 またあとでな」
クルーザーの操縦士も総二郎の協力者のひとりらしい。
「ああ」と短く返事して、俺は水平線に目を落とした。
空は青く澄んで、雲ひとつもない。
茶村和成「・・・・・・」
茶村和成「・・・待ってろよ、薬師寺・・・」
〇島
榊原総二郎「見えてきたな」
茶村和成「・・・・・・」
クルーザーの進行方向上にあるこぢんまりとした島、あれが界岐島らしい。
榊原総二郎「人口二千人程度の島だからな。 島もさほど大きくはない」
〇海辺
徐々にクルーザーの速度が落ち、人気のない浜辺に停泊する。
総二郎は周りを見回して誰もいないことを確認すると、俺に降りてくるように手招きした。
クルーザーから降りた俺を確認し、総二郎はまだ中にいる操縦士に声をかける。
榊原総二郎「ご苦労だった。 以降も手はずどおりに頼む」
操縦士はその言葉に頷くと、すぐにクルーザーを海へと引き返していった。
榊原総二郎「ついてこい」
島の中へと進む総二郎の背を追いかける。
茶村和成(・・・ついに、ここまで来た)
あまり綺麗とは言えない砂浜の上を歩きながら、俺は拳を握りしめた。
〇集落の入口
しばらく歩いていると、まばらに建つ民家が見えてきた。
さらに進むと商店や郵便局もあり、どうやらここらがこの島の大通りといったところらしい。
榊原総二郎「近くに宿を取ってある。 和成はこの島にいる間、観光客のふりをしていてくれ」
榊原総二郎「高校生だと怪しまれるだろうから大学生ということにしておいたぞ」
茶村和成「えっ」
榊原総二郎「俺は本家にいる協力者と話をつけてくる」
榊原総二郎「・・・あそこの山が見えるか?」
言われるがまま総二郎の指す方向に視線をやる。
青々とした山とともに、遠目に見てもわかるほど大きな屋敷が目に入った。
茶村和成「もしかして、あれが・・・」
榊原総二郎「ああ。薬師寺家だ。 廉太郎はあそこにいる」
榊原総二郎「俺は日暮れまでには必ず戻るが・・・。 その間、島民になにを聞かれても絶対に答えるな」
榊原総二郎「薬師寺家は古来からこの島の守り神と深い関わりがあるとされ、神聖視されている」
榊原総二郎「あくまでただの観光客を貫き通せ」
茶村和成「っ・・・、・・・わかった」
榊原総二郎「宿までの道のメモを渡しておく。 俺が戻るまであまり目立つ行動はしないようにしてくれ」
茶村和成「あ、ああ・・・」
榊原総二郎「なに、付近を散歩するくらいなら問題ない」
榊原総二郎「ではよろしく頼むぞ・・・。 ・・・そうだ、念のためにこれを渡しておく」
茶村和成「なんだこれ? ・・・石?」
榊原総二郎「保険みたいなものだ。 肌身離さず身につけておいてくれ」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)