第十三話 真実、そして(脚本)
〇屋敷の門
〇広い和室
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「有賀双葉か」
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「ここに来る前、資料で読んだな」
初刷 論(はつずり さとし)「警察が有賀さんの話をどうして?」
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「事故とか自殺は『異常死』つってな 警察に届けられるんだよ」
初刷 論(はつずり さとし)「へーそうなんすか」
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「お前、本当にあいつの助手か?」
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「まあいい。 報告書を読む限りでは」
牧村 廉太郎(まきむら れんたろう)「有賀の死は疑いようのない 交通事故だった」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そうでしょうね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「車や道路、遺体を調べても 何も出ないのですから」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「けれど、彼女の事故は──」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「音無雨を『使って』 僕が起こしたものでした」
初刷 論(はつずり さとし)「あの雨って町長さんが 降らせてたんすか!?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そのようなものです」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ご説明します、音無雨の正体を──」
〇桜並木
浜 伊織(はま いおり)「ミストスクリーン?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「とある企業の技術でね」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「高精細の霧を噴出することで スクリーンを作り出せるんだ」
〇田んぼ
吹き上げられたミストに
映像を投影する事で
〇田んぼ
ありもしない幻影を作り出せる
〇桜並木
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「つまり景色を映し出せば」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「道路の流れを錯覚させることも可能だ」
浜 伊織(はま いおり)「所長の事故の原因は それだったのですね」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「仮に、これがスクリーンによる 幻影だとして」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「わざわざ雨を降らす必要はあるかな?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「もちろん、意味はある」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「この町には『音の無い雨』という 民間伝承がある」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「既にある概念に寄せることで、」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「この不可思議な現象を住民に 受け入れやすくしたんだろう」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「さらに、雨のエフェクトを混ぜることで 映像の粗さを多少誤魔化せる」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「そんなとこかな?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ふふ、いいだろう。では次だ」
〇広い和室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「双葉が事故を起こしたあの日」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「僕は哲司さんから、 衝撃の事実を聞かされました」
〇寂れたドライブイン
〇役場の会議室
佐々木 哲司(ささき てつじ)「双葉、遅いですね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「今日は回るところが多いと 言ってましたよ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「なら、しばらく帰ってこないか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「話すなら今しかないな」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎、実は君に言っておかねば ならないことがある」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「な、何ですか。急に」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「双葉のことだ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私はある日、彼女の電話を 偶然聞いてしまった」
〇オフィスの廊下
佐々木 哲司(ささき てつじ)「昼は双葉と打ち合わせだったな」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「会議室にいるとか言っていたが──」
有賀 双葉(ありが ふたば)「ええ、そうです。 すべて、順調です」
佐々木 哲司(ささき てつじ)(この声は双葉だな)
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ふた──」
有賀 双葉(ありが ふたば)「音無雨をダムに沈めれば、 支持率の上昇は確実です」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「──!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「数十年、いえ百年にわたり この地域の人間は我が党に感謝する」
〇役場の会議室
有賀 双葉(ありが ふたば)「言ったでしょう? 議員」
有賀 双葉(ありが ふたば)「測量士の私を秘書に雇えば」
有賀 双葉(ありが ふたば)「もっと上に導いてあげますって」
有賀 双葉(ありが ふたば)「うふふっ」
有賀 双葉(ありが ふたば)「あはははははっ!」
〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「馬鹿な・・・」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「双葉・・・なぜ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「悲しいが、事実だ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「彼女は今も、周囲の町を回っているが」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「それも果たして反対運動のためかどうか」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「我々は騙されていたんだ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「このまま彼女の思うままに させるわけにはいかない」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん。僕はどうすれば」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「音無雨を使おう」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「あのスプリンクラーのもう一つの 機能ですよね?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「イルミネーションで 観光客をもてなすあれを?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ああ。そうだ。 あれで彼女に事故を起こしてもらう」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「なに、死ぬことはないさ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「そして入院中に我々で 彼女の企みを阻止しよう」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「君がこの町をどれくらい 大切に思っているか私は知ってる」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「あんな女に騙されて この町をダムに沈めていいのか?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん。 僕は・・・僕は・・・」
〇田んぼ
結果は、以前お話した通りです
彼女は運悪く、灯油缶の倉庫へ
帰らぬ人となりました
〇広い和室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「全て、僕がやったことなんです」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「彼女が政府の回し者だったとしても」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「死ぬ必要はなかった」
「・・・」
〇桜並木
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私が町長をそそのかして 双葉を死なせた、と」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「ええ、そうです」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「しかし今のは あなたが町長に見せた筋書きです」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「一年前、本当に亡くなったのは」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「本物の佐々木哲司でした」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「なぜそう思う?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「簡単ですよ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「有賀双葉という人間は、 本当は実在しないからです」
〇役場の会議室
町長の話を聞いてすぐに
我々は有賀双葉について調べました
〇おしゃれなリビング
浜 伊織(はま いおり)「はりがふらば?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「有賀双葉、だ。調べられるかい?」
浜 伊織(はま いおり)「ひょっとまっれくらはい」
浜 伊織(はま いおり)「あー、だめだこりゃ。 所長、そいつやってますよ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「どういうことだい?」
浜 伊織(はま いおり)「有賀双葉は5年前に 失踪宣告が出されています」
浜 伊織(はま いおり)「ですが、2年前に本人の申請により 失踪が却下されている」
浜 伊織(はま いおり)「つまり──」
〇黒
浜 伊織(はま いおり)「何者かが失踪した人間に 成り代わってる可能性があります」
浜 伊織(はま いおり)「もちろん、失踪者本人が 出てきた可能性もありますが」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「いや、君が言った通りだろう」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「失踪者が復帰早々バリバリ働く というのは不自然すぎるからね」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「犯罪者がよく使う手でもある」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「十中八九、有賀双葉は偽物だ」
〇桜並木
佐々木 哲司(ささき てつじ)「続きを」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「つまり誰かさんのスタートは、 有賀双葉だったんですよ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「彼女は議員秘書となり、」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「その後、ここの副町長に就任しました」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「しかし、この町を掌握するためには 佐々木が邪魔だった」
〇空
だから、一年前の事件が起きたのです
有賀 双葉(ありが ふたば)「哲司さーん!」
〇農村
佐々木 哲司(ささき てつじ)「どうしたんだい、双葉」
有賀 双葉(ありが ふたば)「実は哲司さんにお願いがあって」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「最近君が忙しいのは知ってる」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私で良ければ手伝おうか?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「本当に? じゃあ──」
有賀 双葉(ありが ふたば)「今日の近隣市町村への挨拶、 お願いしてもいいですか?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「どうしても、こっちで やり残した仕事があって」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「何だ、そんなことか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「じゃあ、私が車で代わりに行くよ」
有賀 双葉(ありが ふたば)「あ、そのときお願いなんですが」
有賀 双葉(ありが ふたば)「先方には赤い車で行くって 伝えてあるんです」
有賀 双葉(ありが ふたば)「年配の方ばかりだし、 目印になるかなって」
有賀 双葉(ありが ふたば)「なので、私の車で行ってもらっても いいですか?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「お安いご用だ」
有賀 双葉(ありが ふたば)「ありがとう、哲司さん」
有賀 双葉(ありが ふたば)「お願いします」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「帰りは遅くなるって 勘九郎に伝えてくれるかい?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「はいっ、わかりました!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「・・・」
有賀 双葉(ありが ふたば)「さようなら」
佐々木 哲司?「哲司さん」
〇役場の会議室
そして、佐々木になりすましたあなたは
町長に音無雨を使わせました
〇田園風景
〇車内
佐々木 哲司(ささき てつじ)「何だ、急に車が・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「うわあああーー!」
〇車内
佐々木 哲司(ささき てつじ)「うう・・・ここは」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「そうか、急に車が横転して──」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「くっ!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「まずい、このままでは」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「扉が開かない!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「駄目だ。火の手が早い!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎・・・双葉・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「弥生子・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「れい・・・か・・・」
〇個別オフィス
そして有賀双葉の死を
町長に報告しました
佐々木 哲司?「ああ。鑑識の結果だな」
佐々木 哲司?「ガソリンと灯油の炎で ほとんど炭になっていたが」
佐々木 哲司?「車のナンバーと焼け残った物から 双葉くんと考えてまず間違いないと」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そう、ですか」
こうして、有賀双葉から
佐々木哲司になることに成功しました
〇桜並木
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「ヒントはそこら中に散らばっていた」
〇古いアパートの部屋
使われていなかった佐々木の部屋
〇綺麗な病室
妻が気づいた手紙の変化
〇山の中
そしてロンくんに追い詰められ
とっさに行った浜くんの変装
〇桜並木
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「これらの点が結ぶ像はひとつ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「君が有賀双葉から成り代わり、 佐々木哲司を演じているということだよ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「須藤真守!」
須藤 真守(すどう まもる)「・・・」
須藤 真守(すどう まもる)「それだけ、かい?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「えっ?」
須藤 真守(すどう まもる)「なぜ私がここに来たのかは?」
須藤 真守(すどう まもる)「なぜ半年で手紙を書くのをやめたのかは?」
須藤 真守(すどう まもる)「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」
須藤 真守(すどう まもる)「答えろ! 一番大事なところだろうが!」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「・・・」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「興味ない、かな」
須藤 真守(すどう まもる)「なん・・・だと」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「この音無雨が何か、 佐々木哲司がどこへ行ったのか」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「僕が興味があった真実はそこだけだ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「議員に関しては町長から 聴取がとれれば明らかになるだろうし」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「正直この町でやることは終わったかな」
浜 伊織(はま いおり)「所長、そいつを刺激しないで下さい! そいつの狙いは──」
須藤 真守(すどう まもる)「興味ない、か。ふふふ・・・」
須藤 真守(すどう まもる)「アハハハハッ!」
須藤 真守(すどう まもる)「ふざけるな!」
浜 伊織(はま いおり)「──!」
須藤 真守(すどう まもる)「私がどれだけ準備したと思っている!」
須藤 真守(すどう まもる)「測量士の資格を取り、議員に取り入り!」
須藤 真守(すどう まもる)「町の建て直しに協力し、 人の娘に手紙を書き続けた」
須藤 真守(すどう まもる)「娘の知人にもなりすまし、 探偵事務所への誘導もした!」
須藤 真守(すどう まもる)「全てお前を呼び寄せるためだよ! 何故わからないんだ!」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「憤ってるところ申し訳ないんだが・・・」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「共に働いたことのある 君にはわかるだろ?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「僕はさ、興味がないことには 一切頭が働かないんだ」
須藤 真守(すどう まもる)「なるほど」
須藤 真守(すどう まもる)「私には興味がない、と」
須藤 真守(すどう まもる)「じゃあもういいか」
須藤 真守(すどう まもる)「とはいえ、君を撃っても仕方ないから」
須藤 真守(すどう まもる)「この責任は──」
須藤 真守(すどう まもる)「部下に取ってもらうことにしよう!」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「彼女は関係ないだろ!」
須藤 真守(すどう まもる)「今、わかったのさ」
須藤 真守(すどう まもる)「人のためになる探偵の、 なにが弱点なのか」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「浜くん!」
須藤 真守(すどう まもる)「それは君に一番近い人間── 君の部下なんだってね」
浜 伊織(はま いおり)「所長、騙されちゃダメです!」
浜 伊織(はま いおり)「こいつの本当の狙いは──!」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「危ない!」
須藤 真守(すどう まもる)「ほら、予想通り」
須藤 真守(すどう まもる)「射程距離、だ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「えっ!」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「はは、いい命中率じゃないか・・・」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「──」
浜 伊織(はま いおり)「所長ーーーーー!」
佐々木さん偽物説は感じてましたが、
双葉もでしたか。なるほどお見事です!👏
須藤…まだまだよくわからない人物ですね…
とても面白かったです👍けど哲司さんが無念すぎる。あと、トリックは成る程と思いました。確かに、ミストに映像を移す技術が実際にありすね、すごい着眼点です!
それにしても須藤はすごく執念深い、まさか堀田をした見返す為に資格まで取るとか…、けど気持ちは少し理解できますね、輝いてる人に自分を認めて欲しいんですよね。
堀田もある意味罪な男ですね。
人を惹きつける力というか何というか。
須藤の狂気は完全に自業自得ですが、それにしても犯した罪が重すぎる。
さて次回、彼に下されるは天罰か…それとも…