小さな歪み(脚本)
〇開けた交差点
松永 唯花「紘くん!」
具平 紘「唯花さん。そんなに急いでどこかに行くところですか?」
松永 唯花「ちょっと散歩してたの。 貴重なお休みだから家で燻ってるのもね。で、紘くんを見かけて声をかけたってわけ」
具平 紘「俺も散歩です。 人間も光合成した方がいいって聞きましたしね」
松永 唯花「光合成って・・・笑」
松永 唯花「そういえば、この間は迷惑かけてごめんね。キノコのおじや美味しかったよ。ありがとう」
具平 紘「大したことはしてませんよ。 冷蔵庫のもの勝手に使ってすみません。お口にあったのならよかったです」
松永 唯花「すごく美味しかったし、癒されたよ。 体調の悪い時に自分で作って食べる気にはならないから助かった」
具平 紘「ですよね。 俺もそうだから分かります。 また、いつでも頼ってください。家政婦行とか得意なんで」
松永 唯花「家政婦業って・・・笑 紘くん語彙力おもしろい」
具平 紘(良かった。昨日より元気そうだし顔色も良い)
具平 紘「そういえば、斗真さんは?一緒に出かけたりしないんですか?」
松永 唯花「斗真はフットサルに行ってるの。 学生の頃からのメンバーと毎週出かけてる」
具平 紘「見に行かないの?」
松永 唯花「うーん、ルールとかよく分からないし。 彼女が見にくるのって、他の人達も気をつかうかなって」
具平 紘「俺も学生時代にバスケしてたけど最近は全然だな。休みの日ってのんびり過ごすのが好きだから」
松永 唯花「ふはっ、おじいさんみたいよ」
具平 紘「酷いなぁ、こんな若者捕まえて笑 じゃあ、この年寄りに付き合ってお散歩デート付き合ってくれませんか?」
松永 唯花「デ、デート?」
具平 紘「お散歩だから、健全でしょ?」
松永 唯花「だね」
2人は近くの公園に行くことにして歩き出した。
和坂 未来「あれ、松永さんと具平さんだよね。 休日に2人きりで会うなんて、2人ってどういう関係なんだろう?」
和坂 未来「暇だし、つけて行ってみようかな・・・」
未来は公園に向かって歩いていく2人の後をこっそりつけて行った。
〇公園のベンチ
2人は公園のベンチに並んで座った。
暖かな日差しがとても心地よい。
具平 紘「晴れてよかったですよね。 1人だったら昼寝とかしちゃってるかも」
松永 唯花「こんなところで寝たら確実に風邪引くよ。 それよりお腹空いてこない?」
具平 紘「確かに。 そういえば公園の反対側にキッチンカーが出てましたよ。 見に行ってみます?」
松永 唯花「いいね! なんのキッチンカーかな。 紘くんは知ってる?」
具平 紘「確かバーガーだった気がするけど、今ならなんでも食べられる気がする」
2人は公園の出口に向かって歩き出した。
〇公園通り
具平 紘「さっきの公園に戻って食べましょうか」
松永 唯花「そうしよう。結構大きなハンバーガーだよね。匂いからすでに美味しそう」
松永 唯花「そういえば、紘くんって普段から料理するんだっけ?」
松永 唯花(おじや本当に美味しかった。 誰かに作ってもらう料理ってそれだけで嬉しいし美味しく感じるけど、あれは本当に美味しかった)
具平 紘「まぁ、親が共働きで忙しかったし、妹がいましたからね。夕飯は俺が作ることが多かったですよ」
松永 唯花「そうだったね。 えぇと、まこ・・・まこもちゃんだっけ。 妹さん今どのくらいになったの?」
具平 紘「生意気盛りの小学5年生です」
松永 唯花「え、もうそんなになる?あの頃は小学校に入るか入らないくらいじゃなかった? 大きくなったねぇ」
具平 紘「小さい頃は素直で可愛かったですけどね。今や母親みたいに口うるさく干渉してきますよ」
松永 唯花「お兄ちゃん大好きなのね。 紘くんあの頃から年下の子にも優しかったもんね」
具平 紘「大好きっていうか、過干渉っていうか。 最近も一人暮らししている俺のアパートに女性の影がないか探りに来たとか言ってたんで」
ドン引きですよとため息をつく紘の様子がおかしくて、唯花は普段になく笑った。
松永 唯花(こんなに笑ったのはいつぶりだろう。 今日は外に出て、紘くんに偶然会えてよかった)
具平 紘(昨日辛そうだったけど、今日は笑顔も見れて良かった。唯花さんをもっと笑顔にしたいな、俺が・・・なんて)
2人は公園のベンチに戻り、早速ハンバーガーにかぶりついた。
穏やかな土曜日の午後はこうして時間が過ぎていった。
和坂 未来(何を話しているかまでは、分からなかったけど、2人とも会社にいる時より親密に見えたな。これって斗真さんも知ってるのかしら)
〇オフィスの廊下
和坂 未来「斗真さーん!」
波原 斗真「ん? あぁ、未来ちゃん。相変わらず元気だね」
和坂 未来「はい。元気だけが取り柄なので! 斗真さんは今から外回りですか?」
波原 斗真「いや、昼を食べ損ねたから、今からちょっと飯食いに行くところ」
和坂 未来「偶然ですね。私もお昼食べ損ねちゃって・・・。一緒に行ってもいいですか?」
波原 斗真「あぁ、いいよ。未来ちゃんは何が食べたい?」
和坂 未来「そうですね、通りにできた洋食のお店まだ行ったことがないんです。そこはどうですか?」
波原 斗真「分かった。じゃあ、行こう」
和坂 未来(実はもうランチは済ませちゃったんだけど、こんなチャンス滅多にないもの。外出のことはメールで松永さんに伝えておけばいっか)
〇カウンター席
和坂 未来「内装も可愛らしいお店ですね」
波原 斗真「オープンキッチンになって、カウンター席から料理してるところを見られるのがいいな。これどこのメーカーに頼んだんだろ」
波原 斗真「窓も大きくて光が店内に入り込んで明るいし・・・」
和坂 未来(可愛い女子と一緒にいて、店内の感想ばっかり。斗真さんってほんと仕事バカだよね)
波原 斗真「先に選んでいいよ」
メニューを未来に渡し、斗真は店内の様子を見回している。
和坂 未来「じゃあ私はサンドイッチで」
波原 斗真「えっ?それだけで足りるの? 俺は・・・ハンバーグにしようかな」
和坂 未来(ランチは済んでるし、これ以上食べたら太っちゃうし)
和坂 未来「うーん、最近食欲なくて・・・」
波原 斗真「何か悩み事でもあるの?」
和坂 未来「実は・・・」
急に泣きそうになっている未来に、斗真は慌ててハンカチを差し出した。
波原 斗真(こんな人目のあるところで泣くとかありえないだろ。俺が泣かしたみたいじゃないか)
和坂 未来「すみません。 優しい言葉をかけてもらって気が緩んだみたいです」
波原 斗真「俺でよかったら相談に乗るよ」
和坂 未来「ありがとうございます。 でも職場の愚痴を言うみたいで・・・」
波原 斗真「愚痴なら誰でも言ってるって。 この場だけの話ってことで聞くからさ」
店員「お待たせいたしました」
波原 斗真「とりあえず、飯食いながら話聞くよ。ほら、美味いよ」
和坂 未来「はい。いただきます」
食事を始めてまもなく、未来は不安そうな視線を斗真に向けてきた。
和坂 未来「実は、私パワハラにあってるんです」
波原 斗真「パ、パワハラ?事務課でか?」
和坂 未来「仕事を覚えるのが遅い私が悪いんですけど、指導してくださる先輩が・・・その、自分のミスを私のせいにしてきたり・・・」
波原 斗真(え?未来ちゃんの指導係って、唯花だよな。 あいつがパワハラ?まさか)
波原 斗真「気のせいじゃないかな?片丘課長も松永も、仕事は真面目だし、指導も丁寧だって信頼されてる人たちだよ」
和坂 未来「で、でもっ。 ちゃんと指導してくださってたら、1年も経つんですから、もっと私だって仕事バリバリにできてるはずですよね」
波原 斗真(いや、それは個人の能力次第だろ。 唯花の残業が増えたのだって、新人の尻拭いが原因って事務課の人間に聞いたことあるし・・・)
和坂 未来「斗真さんは、自分の彼女だから庇うんですか?私、本当に困ってるのに・・・」
波原 斗真「別に彼女だからって庇ってるわけじゃないよ。 まぁ、とにかく愚痴ならいつでも聞くからさ。美味しいもの食べて元気出して」
和坂 未来「もう、いいです。 斗真さんは、松永さんのこと何も分かってないんですよ。この前だって・・・」
波原 斗真「なに?この前って」
和坂 未来「この前の週末、松永さん、具平さんと2人きりで公園デートしていたんですよ」
波原 斗真「え?」
和坂 未来「仲良さそうに話してました。 具平さんって、実は松永さんのこと少なからず思ってますよね」
波原 斗真「紘が、唯花を? そんな、まさか」
波原 斗真(確かにこの前唯花を送ってきた時の様子も・・・。アイツ、本当に唯花のことを?)
和坂 未来(ふふ、動揺してる。 案外わかりやすいんだ。単純なところも可愛いかも)
未来の話に動揺を隠し切れず、斗真は不安気な様子で、2人は食事を済ませて会社に戻った。
〇オフィスのフロア
松永 唯花「和坂さん昼間の無断の外出は困るよ。作らなきゃいけない書類も溜まってたし。どうしても戻れない用事があるなら連絡してしてね」
和坂 未来「すみませーん。お昼に営業の斗真さんに誘われてご飯に行ってたので戻るの遅くなりました」
松永 唯花「斗真と?」
松永 唯花「はい。無理だってお断りしたんですけど、オープンしたばかりのお店を見にいきたいから付き合って欲しいって言われて」
松永 唯花「そう。 新しいお店の内装とか造りとか気にしてたからね。付き合わせてごめんね」
和坂 未来「別に松永先輩が謝らなくても‥ってか、嫌じゃないんですか?彼氏が他の子を誘うとか」
松永 唯花「可愛い外観のお店だったんじゃない?若い女の子連れて行かないと入りづらかったんだと思うよ」
和坂 未来(嫉妬とかしないの?この人。 なんかつまらない)
松永 唯花「さ、終業時間まだまだあるし、仕事頑張ろ」
唯花は席に戻って作業を再開した。
松永 唯花(あぁは言ったけど、私だって斗真と一緒にあの店行ってみたかったな。 ま、斗真のことだから深く考えずに誘ったんだろうけど)
スマホのバイブ音が聞こえて、メールをひらけば斗真から残業で遅くなること、夕飯も済ませて帰るという連絡が入っていた。
松永 唯花(今日は定時で上がれそうだったのにな。今夜は1人ごはんか。 帰りに何か買って帰ろう)
唯花はスマホを閉じて資料に向き直った。
〇開けた交差点
松永 唯花「お弁当にしようかな・・・それとも思い切って外食しようかな」
具平 まこも「お兄ちゃん、早く帰ろうよ。お腹空いたー」
具平 紘「お前が鍋の具を迷ってこんな時間になったんだぞ。全くわがままなんだから」
松永 唯花「前を歩く兄妹の話を聞いてたらお鍋食べたくなってきたな。材料買って一人鍋でもしようかな」
具平 まこも「あれ? ねぇ、お兄ちゃん。後ろにいるのってもしかして・・・」
具平 紘「唯花さん! 気づかなかった。今帰りですか?」
松永 唯花「え?紘くん? じゃあ、隣の可愛い子は・・・まこもちゃん?」
具平 まこも「わぁい、唯花おねーちゃんだ! まこものこと覚えててくれたの?」
松永 唯花「すっかりお姉さんになったね。 びっくりしちゃった。偶然だね。 今日はお兄ちゃんとデートなの?」
具平 紘「両親が2人で温泉旅行に行ってて、こいつのお守りを任されたんで年休取ったんです」
具平 まこも「違うよ!私がお兄ちゃんのお世話に来てあげたの!1人だと『ふせっせい』になるから」
具平 紘「俺は父さんや母さんより料理もちゃんとするし、健康的な生活を送ってるぞ」
松永 唯花「二人とも仲がいいのね。羨ましいわ」
具平 まこも「ね、唯花おねーちゃんも一緒にお鍋食べようよ!」
松永 唯花「え、それは悪いよ。兄妹水入らずでしょ。お邪魔しないわ」
具平 まこも「唯花おねーちゃんならいいよ! お兄ちゃんが喜ぶし」
具平 紘「まこも、お前何言って・・・。 でも、唯花さんさえ良ければ。 お鍋だから大勢の方が楽しいですし」
松永 唯花「ありがとう。 お言葉に甘えようかな」
具平 まこも「やったー! そうと決まれば早く帰ろ。 まこもお腹ぺこぺこだよ」
3人は、紘のアパートに向かって歩き始めた。
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
案内された紘のアパートの部屋は、きちんと整理整頓されていた。
松永 唯花「すごい。紘くんの部屋ってすごくきれい」
具平 まこも「そうなんだよね、片付けがいがないっていうかー」
具平 紘「だからちゃんとやってるって言っただろ? あ、唯花さん。 その辺適当に座ってください」
松永 唯花「ありがとう。 お鍋準備手伝うよ」
具平 まこも「唯花おねーちゃんはお客様なんだから、座ってて。ほら、お兄ちゃんはさっさと準備する。まこもも手伝ってあげるから!」
具平 紘「全く偉そうなんだから。 唯花さんは、ゆっくりしててください」
兄妹2人で仲良く台所に立つ姿を見て、邪魔をするまいと唯花はリビングのテーブルの前に座って2人を見ていた。
松永 唯花(本当に仲良いんだな。 そういえば、唯実は元気にしてるのかな。受験生だったよね。 今度連絡してみよう・・・)
唯花はまこもを見ながら、実家にいる妹の唯実のことを思い出していた。
料理をする音が軽快なリズムとなって聞こえてくる。
見ていると2人とも連携が取れていて、すごく手際がいい。
具平 まこも「お待たせー」
松永 唯花「あ、美味しそう! 急にお腹空いてきちゃった」
具平 紘「さ、早速食べましょう。唯花さん、飲み物何にしますか?」
松永 唯花「ビール!と言いたいところだけど、酔うと眠くなっちゃうからお茶いただけますか?」
具平 まこも「寝ちゃったら泊まればいいよ。 まこもと一緒に寝ようよ!」
具平 紘(えっ、唯花さんがここに泊まる? そんな・・・ 寝顔とか最高だ・・・)
松永 唯花「いやいや、さすがにそれはできないよ。 まこもちゃん。せっかくのお誘いなのにごめんね。彼が家で待っているので帰らないと」
具平 紘「まこもは、またわがまま言うなよ。唯花さんが困るだろ」
具平 まこも「えー! 残念。唯花さんと一緒にお風呂入って寝るの楽しそうなのにー」
具平 紘(お風呂?寝る? うぅっ・・・、是非にと言いたいが、さすがにそれは無理だ・・・)
具平 紘「じゃあ、お鍋食べよう!」
具平 まこも「まこもはジュースで乾杯!」
松永 唯花「いただきます!」
松永 唯花「おいし〜い!」
具平 まこも「お肉柔らかい」
具平 紘「まこもは肉ばっかり食ってないで野菜も食え。ほら」
具平 まこも「ぎゃーっ、お皿にネギ入れないで!」
具平 紘「好き嫌いしてたらダメだぞ」
具平 まこも「ネギ食べなくても、私の成長に何の影響もないの!嫌いなものを食べることのストレスが被害増大!」
松永 唯花(2人の掛け合いが楽しくて、料理が美味しくてすごく幸せ。そういえば、こんな風に誰かとする食事が楽しいって気持ち忘れてたな)
2人との食事が楽しければ楽しいほど、唯花の心に違和感が滲み出てくる。
その正体に気づくのが怖くて、唯花はいつも以上にはしゃいでいた。
〇綺麗なリビング
紘の家から帰ってきた唯花は、まだ帰らない斗真を待たずに先にベッドで休んでいた。
物音に驚いてリビングを覗き見ると、床に斗真が寝転がっている。
松永 唯花「斗真?そんなところで寝ないで、スーツがシワに‥う、お酒くさい」
松永 唯花「斗真ったら残業の後に、飲みに行ったのね。もー。起きてったら」
斗真を抱え起こそうとして、唯花は斗真からお酒とは別の甘ったるい匂いがすることに気づいた。
松永 唯花(接待でクラブにでも行ったのかな。 でも、この香りどこかで・・・)
波原 斗真「唯花〜っ、愛してるよぉ〜」
酔っ払って抱きついてくる斗真をやんわりと退け、唯花はスーツの上着を脱がした。
松永 唯花「寝室に行って寝てってば」
波原 斗真「うーん、無理ー、動けねー」
斗真を寝室に運ぶのは諦め、毛布をかけてやる。
松永 唯花(きっと朝から二日酔いね。シジミのお味噌汁作っておかなきゃ)
斗真が実家にいる頃、二日酔いの朝は、母親がしじみ汁を作ってくれていたそうだ。
同棲してからは、唯花にもそれを求めてきた。料理をすることが嫌いではなかった唯花は言われるまましじみ汁を作っている。
唯花はキッチンに移動してしじみ汁を作り始めた。
〇おしゃれなキッチン
松永 唯花(今では当たり前になっていて、なんとも思わなかったけれど、斗真の望むことを私は私なりに叶えているつもり)
松永 唯花(でも、私が具合の悪い時、疲れている時、斗真から気遣われたことってあったっけ?)
松永 唯花「いやだ私ったら何を考えているんだろう。営業で忙しい斗真を支えてあげたいって思っていたから、家事はしようって決めたのに」
松永 唯花(最近紘くんから優しくされて、彼の言葉に感化しちゃったみたい)
松永 唯花「斗真は今も営業の成績トップをキープしてて頑張ってるし、応援してあげなきゃ。 私のことも変わらず好きでいてくれる」
松永 唯花(それで十分じゃない・・・)
唯花は出来上がったしじみ汁の鍋をリビングのテーブルにお椀と共に置いておいて寝室に戻った。
〇オフィスの廊下
波原 斗真(ちょっと二日酔いで頭は痛いけど、しじみ汁美味かったなぁ。やっぱり二日酔いの朝はしじみ汁だよな)
和坂 未来「斗真さーん、おはようございます」
波原 斗真「あぁ、おはよう。 昨日はお疲れ様」
和坂 未来「いえ、お役に立てたのならよかったです。昨日は先方の社長さんに結構飲まされていたけど大丈夫ですか?」
昨夜の残業のあと、斗真は現在営業をかけている新規案件の社長から飲みに誘われた。偶然居合わせた未来が付き合ってくれたのだ。
波原 斗真「若くて可愛い子が一緒で、しかも未来ちゃん盛り上げ上手だから、社長凄く喜んでたよ」
和坂 未来「あー。でもあの社長さん、ちょっと手癖が悪いのが困りますね」
波原 斗真「え!もしかして嫌なことされた?ごめん。俺気付いてあげられてなくて」
和坂 未来「今度そういうことがあった時に、助けてくれたら許してあげます」
波原 斗真「と、当然だよ。ちゃんと教えて。絶対守るから」
和坂 未来「えへへ。嬉しい。 ・・・そういえば、昨日帰るの遅かったけど、松永先輩大丈夫でした?」
波原 斗真「なにが? でも二日酔いしてたけど、しじみ汁飲んでちょっと頭痛も良くなったんだよな」
和坂 未来「しじみ汁?普段から常備してあるんですか?」
波原 斗真「いや、俺の母親がさ、二日酔いの時に必ずしじみ汁作ってくれるんだけど、同棲するようになってからは唯花が作ってくれるんだよ」
和坂 未来「えっ? 二日酔いの時はわざわざ?」
波原 斗真「そうだけど?」
波原 斗真(そんなに驚くことかな?しじみ汁なんて作るのに手間なんてないだろうし。唯花は文句言ったこともないけど・・・)
和坂 未来「そんな、旦那とか子供でもないのにわざわざ作るなんて、唯花さんってよっぽど料理が好きなんですね。私にはできないですよ」
波原 斗真「そ、そうかな? あいつは料理が趣味みたいなもんだから。 毎日食事も作ってくれるし、洗濯とか掃除とか、家事が好きなんだよ」
和坂 未来「えー? 結婚もしてないのに、家政婦みたい。 斗真さん尽くされてますねぇ」
波原 斗真「ま、まぁ、同棲して俺だって色々してるからね。お互い様だよ」
和坂 未来「えー、唯花さんいいなぁ。私も斗真さんに尽くされたいです」
波原 斗真「ははは・・・」
和坂 未来「あ、そろそろオフィスに戻らないと課長にどやされるので。また飲みに誘ってくださいね」
波原 斗真(今の話、ちょっと刺さったな。 唯花が何も言わないから、なんとも思わなかったけど・・・。そういえば俺家のこと何かしてるっけ)
波原 斗真「やべ・・・。何もやってなくね?俺・・・」
斗真は、未来の言葉にモヤモヤしたまま仕事に戻ることになってしまった。