〇レストランの個室
落合はるか「なんだよ急に」
落合はるか「そうだな――わからん」
三澤梨々花「わからないって・・・ 恋愛小説書いてるのに!?」
落合はるか「別に恋愛ものにこだわってるわけじゃない たまたま企画がそのジャンルにハマっただけだ」
落合はるか「まあ、しいていうなら 自分勝手で面倒くせー感情、かな」
落合はるか「こっちの都合も考えず 心ん中に居座って、うるさく主張する 急になくなって、また現れたりする 迷惑で厄介なもの」
三澤梨々花（歪んだ答えだなぁ・・・ 里見くんの話だとすごくモテたっていうし 苦労したからかな？）
三澤梨々花（でも・・・もしかしたら今のって）
三澤梨々花「それって・・・キリエさんのことですか？」
落合はるか「・・・なんでお前からキリエの話が出てくるんだ？」
三澤梨々花「だ、だって そもそもあの人と先生のことで──」
三澤梨々花「・・・いえ、なんでもないです ごめんなさい」
落合はるか「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
落合はるか「やっぱり何か言われたのか？」
三澤梨々花「え？」
落合はるか「昼間 お前の様子がおかしくなったのはキリエが何か言ったからじゃないのか？」
落合はるか「アイツ、人の神経を逆なでして楽しむ節があるから ・・・悪かったな」
三澤梨々花「・・・なんで」
三澤梨々花「なんで先生が謝るんですか？ 先生は悪くないじゃないですか」
三澤梨々花「確かに気になることは言われたけど それは私のことじゃなくて」
落合はるか「どういうことだ？」
三澤梨々花（しまった・・・つい・・・）
三澤梨々花（言えない・・・言えるわけないよ あんなこと・・・ だって──）
三澤梨々花「先生は・・・キリエさんのことどう思ってるんですか？ まだ好きなんですか？」
落合はるか「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
落合はるか「緑川から何か聞いたのか？」
三澤梨々花「・・・はい、少しだけ」
落合はるか「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
落合はるか「・・・さあな、よくわからない」
落合はるか「勝手で自己中な女だし、煩わしいことの方が正直多い」
落合はるか「でも、どうでもいい存在――ではないかもな」
三澤梨々花（それって・・・やっぱり特別だってこと？）
三澤梨々花（なんで、あんな人―― 先生のこと全然大事に思ってないのに・・・なんで？）
三澤梨々花（本当は全部言っちゃいたい―ー でもそんなの聞いたら・・・言えないよ）
三澤梨々花「ごめんなさい 部外者なのに込み入った質問してしまって・・・」
三澤梨々花「あの・・・私クビですか？」
落合はるか「は？なんで？」
三澤梨々花「だって無断で休んだし 迷惑・・・かけたし」
三澤梨々花「それに先生、時間守らないの嫌いでしょ？」
落合はるか「ああ、嫌いだ」
落合はるか「まあ確かに迷惑は被ったな サボられて予定は狂うし こうしてわざわざ探しに出るハメになるし」
三澤梨々花「ご、ごめんなさい・・・💦」
落合はるか「でもお前がいい加減なヤツじゃないことは つきあいが短くてもなんとなくわかる」
落合はるか「クビなんて考えてねえよ」
三澤梨々花「ほ、ほんとに？」
落合はるか「ああ、実際お前がいて助かってるしな ・・・お前のメシのおかげで調子いいし」
三澤梨々花「・・・え？ 先生、私のごはん・・・好きですか？」
落合はるか「ああ、うまいよ 俺の好みに合ってるしな」
落合はるか「たまに口調がオカンみたいになるのは 面倒くせーけどな」
三澤梨々花（わ、笑った・・・！ うそ、はじめて見た・・・）
落合はるか「・・・なんだよ 埴輪みたいな顔して」
三澤梨々花「えっ、いえ、あああの、その」
落合はるか「なんでどもるんだよ ヘンなヤツ」
三澤梨々花（どうしよう・・・すごくうれしいかも）
三澤梨々花（それに、なにこれ・・・ 心臓おかしい・・・胸がどきどきする）
三澤梨々花（笑ったの見て、びっくりしたから？ それとも不意打ちでほめられたから？）
三澤梨々花（ううう、わかんない・・・！ わかんないけど──）
落合はるか「それにこの前熱出して面倒かけたしな これで相殺ってことで」
落合はるか「それにハイジも懐いてるみたいだしな」
三澤梨々花「えっっ！ な、懐いてる気がしないんですけど・・・？」
落合はるか「でもケアさせてるだろ？ 本気で気に入らなきゃ、指一本触れさせないからな」
三澤梨々花（どこの女王様よ・・・）
落合はるか「まあそういうわけだから 引き続きよろしく頼む」
三澤梨々花「は、はい！ こちらこそよろしくお願いします・・・！」
落合はるか「・・・なんか急に元気になったな」
三澤梨々花「そ、そうですかね・・・💦 は、話聞いてもらったからかも ありがとうございました！」
落合はるか「別に 結果的に励ましたのは紅さんだろ」
三澤梨々花「それもありますけど・・・でも」
三澤梨々花（さっきの・・・ 先生の笑った顔、見られたからかも・・・）
落合はるか「ま、元気になったならいいけど じゃあ食ったら帰るか 乃梨子さんも待ってるだろうし」
三澤梨々花「はい」

〇白いアパート
三澤梨々花「送ってもらってありがとうございました。 夕飯もごちそうさまでした！」
三澤梨々花「あの・・・どうなるかわからないけど 先生の言う通り、落ち込むのは 全部試してからにします」
三澤梨々花「アドバイスもありがとうございました」
落合はるか「ああ、頑張れば 里見のことはこっぴどく振ってやって構わないし」
三澤梨々花「そ、そんなことしませんけど💦」
三澤梨々花「でも自分の気持ちは正直に伝えます 里見くんにも、美森にも」
落合はるか「ああ じゃあ、また水曜にな」
三澤梨々花（また・・・水曜に、か ただの挨拶なのに・・・なんかうれしい ヘンなの）
三澤梨々花（また、見れるかな、先生の笑った顔・・・ なんだろ、このくすぐったい感じ）
九堂修也「・・・りーちゃん」
三澤梨々花「ひゃっ!? えっ、修兄!?」
三澤梨々花「なっ、なんでここにいるの!?」
九堂修也「こんな時間まで何してたの・・・」
九堂修也「ていうか今のヤツ、誰!!」
九堂修也「男・・・男だったよな!? どういうことだ!? 何がどうなれば見知らぬ男の車に乗って帰ってくるんだ!?」
三澤梨々花「えっ、ええと、そのあの人は──」
九堂修也「どういう関係だ!? まさかつきあってるとか―― 名前は！年は！住所は！職業は!!! どこで知り合った!?」
三澤梨々花「ちょ、ちょっと修兄ちゃん 腕離して、痛い・・・！」
落合はるか「おい！　あんた何して──」
三澤梨々花「せっ、先生!? 帰ったんじゃ・・・」
九堂修也「先生だと!?」
三澤乃梨子「ちょっと！ 迷惑なんで夜遅くに騒がないでくれます!? 二階にまで聞こえ──」
三澤乃梨子「えっ、修也!?　 あっ――梨々花!!」
三澤乃梨子「・・・と、え？ なんで？」
九堂修也「・・・この男知り合いか？乃梨子」
三澤乃梨子「えっ💦」
三澤乃梨子「ええ・・・・・・まあ・・・」
九堂修也「・・・ねえ君」
九堂修也「ちょっと話がしたいから、顔貸してもらえるかな？」