エピソード4(脚本)
〇殺人現場
推理小説には登場してはいけないキャラクターがいる
〇荒廃した街
?「あは、はははははははは」
例えば
一度に数百人を予告なく殺す殺戮者
そんな暴挙を許した時点で探偵は敗北している
〇廃ビルのフロア
警官「ヒィィィ!!」
?「ほら、 お巡りさんが建物を傷つけてはいけないよ」
?「ほら、この距離なら当たるだろう もっとちゃんと狙いたまえ」
例えば
異次元の戦闘能力を持つ者
探偵に犯行を見破られても、探偵や警察を軒並み殺してしまえる様な人間
〇線路沿いの道
?「そこの死体は通り魔にやられたやつです」
?「その通り魔は車に 轢かれてそこで死んでます」
?「轢いた車の運転手がそのまま降りて 警察に通報してたら」
?「突然別の人が線路に立って 電車にミンチにされて」
?「動揺して駆けつけた運転手さんを別の電車がミンチにしました」
?「ということで目撃者の私が やってきたお巡りさんに説明してるわけです」
例えば
度を越し過ぎたトラブルメーカー
複数の事件を引き寄せる害悪
〇殺人現場
これらはが登場する作品も存在こそすれ、
しかし、同時に多くの推理小説好きに
『アンフェアだ』と指摘させる
フェアとアンフェアというただでさえ不安定な天秤をひっくり返し、踏み潰す様な
下手をすれば作品自体を壊しかねない
ある種の危険性を孕んだキャラクターである
〇教室
そして程度の差はあれど──
彼女もまた
”そのタイプのキャラクター”であった
後輩ちゃん「すぅーーー」
後輩ちゃん「はぁーーー」
後輩ちゃん(そう、この感覚だ)
後輩ちゃん(脳の普段使う部分とは別の回路に 酸素《エネルギー》と命令《信号》 が行き渡り、カチリ、とスイッチが入って起動し始める)
後輩ちゃん(眩暈がするような陶酔と 体がほてるような全能感)
後輩ちゃん「想起するのは”昨日のこの部室”だ」
〇教室
後輩ちゃん(脳の記憶庫の中で消えかけていた情報を 寄せ集め、再構築していく)
後輩ちゃん(壁のシミから机の配置、床板の木目に至るまで、頭の中で完璧な立体空間として再現する)
〇教室
後輩ちゃん「出来た、時間は──残り10分か」
後輩ちゃん「問題ないな」
後輩ちゃん「目の前の教室と」
〇教室
後輩ちゃん「頭の中に再現した”昨日の教室を”」
〇教室
後輩ちゃん「”ピッタリと、重ね合わせる”」
彼女のやっていることは
何も特別なことではない
人間は常に記憶と現実を比較して生きている
この人前より髪伸びたな、とか
この道改装されたんだ、とか
当たり前のように過去《記憶》と
現在《視界》を比較する
ただ、その精度が”異常なほど正確なだけ”
1センチ、1ミリ以下の差異でも見逃すことはない
というだけの才能
それが、彼女の不公平
後輩ちゃん(先輩は、コレのことを何て言ってたっけ? そう、確か──)
〇教室
先輩「異常な空間認識能力、記憶力、共感覚 ソレらが織りなして作る異常性」
先輩「推理や調査の段階を踏み飛ばして、 一手で密室を解決できうる反則」
先輩「そうだね、 『密室崩し』とでも言えば良いのかな?」
先輩「世の探偵が欲しがるどころか 忌避する技能だ」
〇教室
後輩ちゃん「そう、『密室崩し』」
後輩ちゃん「あらゆる痕跡を見通す技術」
後輩ちゃんの推理力
=『空間認識』×『超記憶力』×『共感』