身代わり人形

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4 捕まる(脚本)

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〇アマゾンの森
  『花の国』は広い
  東西南北の主だった都市から、首都までは馬をとばして1日かかる。
  キュラの生家があるラピス領もまた、首都から遠くはなれた場所に位置していた。

〇外国の駅のホーム
  首都駅
  ”身代わり人形を優遇しすぎる政府”
  
  ”背景に人形への不満か”
  ”工場で爆発──犯人は見つからず”
  
  なお──
  ”列車は速度を落として運行する”
  閑散とした駅のホームで一人、新聞を読む駅員のマリーベル。
マリーベル「能無しどもめ」
???「不用心ね」
アデラ「聞こえていてよ」
  アデラ・ラピス
  ”身代わり人形”にして、キュラの姉。
  知らせを受けてわずか1日足らずで、彼女は首都の土を踏んでいた。
マリーベル(ほう、どうやってこんなに早く?)
  マリーベルは、到着の早さに感心(かんしん)しつつも、表立っては平静の態度を崩さなかった。
アデラ「公(おおやけ)に毒づくものではなくてよ」
マリーベル「ふはは」
マリーベル「良いでしょう? 少しぐらい嘲笑っても」
マリーベル「本当の事だ」
  しばし見つめあい、アデラが目を伏せた。
  視線の先は、遠く延びる軌道(きどう)
  マリーベルは、彼女の言わんとすることを汲(く)み取って、その白い手を取った。
マリーベル「貴女は本当に早く来られた ただ──」
マリーベル「妹御(いもうとご)はもうここには居ない」
アデラ「・・・そのようね」
  キュラを乗せた列車は、すでに首都を離れた後だった。
  アデラはマリーベルの隣へと腰を下ろした。
アデラ「ねえ、マリーベル?」
マリーベル「はい」
アデラ「”身代わり人形”とは、何者なのかしら」
アデラ「なぜ国は、人形の情報を抑制するの?」
マリーベル「”身代わり人形”にまつわる情報は 秘匿(ひとく)される・・・」
マリーベル「私では、お答えいたしかねます」
アデラ「そうかしら、マリー」
  今度はアデラがマリーベルの手を
  両手で握った。
アデラ「答えて」
アデラ「貴女はなぜキュラを行かせたの」
アデラ「貴女なら『答えられた』はずよ」
アデラ「キュラの知りたいこと、疑問(ぎもん)も 全部」
アデラ「そうでしょう?」
アデラ「──私と違って・・・」
アデラ「貴女なら、キュラを引き留められた」
アデラ「マリー、どうして?」
アデラ「どうして、キュラを行かせたの」
マリーベル「その理由は」
マリーベル「あなたが一番、よくご存じのはず」
マリーベル「妹御の『意思』を尊重したいあなたなら」
アデラ「そうね・・・」
アデラ「ごめんなさい」
アデラ「八つ当たりだったわ」
  アデラはベンチから立ち上がり、駅の出口へ足を向けた。
マリーベル「どちらへ?」
「キュラを追います」
マリーベル「そう、ですか」
マリーベル「・・・」
マリーベル「貴女はよく堪(た)えておられる」
マリーベル「私には出来なかったことだ」


〇暗い廊下

〇草原
  開け放たれた列車の窓から、風が吹き込む
キュラ「すごいすごい! 列車が走ってる」
ルーベル「身を乗り出すと危ないですよ」
キュラ「何度乗っても不思議だわ」
キュラ「こんな大きなものが、自走するのよ?」
キュラ「不思議で仕方ないわ」
ルーベル「人の話、聞いてないね」
ルーベル「のんきなお嬢さんだよ。 まったく」
ルーベル「不思議ではありませんよ」
ルーベル「これは水蒸気の力で動いていて──」
キュラ「『蒸気機関』でしょう? 原理は習ったことがあるの」
ルーベル「ご存じなら、不思議がることもありますまい」
キュラ「そうだけれど」
キュラ「でも、やっぱり不思議なのよ」
  風に吹かれる窓枠に両ひじをついて、遠く景色を眺めるキュラ
キュラ「原理を知っていても・・・ 分かった気になれないの」
キュラ「まるでパズルのピースが合わないみたいに」
キュラ「知識と実感が噛み合っていないんだわ」
ルーベル「好奇心は人一倍か」
キュラ「何かおっしゃって?」
ルーベル「いえ 戻りましょう。冷えますよ」
キュラ「あ、待って」

〇暗い廊下
  列車の中
ルーベル(さすがはラピス家。 学者の一族だけあって知識は豊富だな)
ルーベル(知識欲も好奇心も十分、か)
ルーベル(学問への貪欲(どんよく)さで 身を滅ぼさなきゃいいけど)
  ルーベルは、こちらへと歩いてくるキュラヘ視線を向けて、ため息をついた。
ルーベル「よりによって、国家権力の関わる ”身代わり人形”なんて追い求めてさ」

〇ヨーロッパの街並み
マリーベル「いいか、ルーベル」
マリーベル「おまえはキュラについていけ。 そして──」
マリーベル「必要とあれば『消せ』」
ルーベル「『消せ』って・・・いいの?」
ルーベル「アデラ・ラピスが黙ってないでしょ」
ルーベル「ラピス家──大貴族を敵に回すくらい 面倒なことはないよ?」
ルーベル「それに」
ルーベル「アデラとは仲良くしたいでしょ?マリー」
マリーベル「それでも」
マリーベル「妹(キュラ)がどこかで人質ともなれば、 アデラの身動きがとれなくなる」
ルーベル「彼女(キュラ)は足手まといってことね」
マリーベル「もし何事もなく北部のリーベリー城塞へ たどり着いたなら」
ルーベル「その時も?」
マリーベル「・・・」
マリーベル「今、政治は”身代わり人形”推進派(すいしんは)と反対派で揺れている」
マリーベル「それぞれの過激派まで現れる始末だ」
マリーベル「これ以上」
マリーベル「火種が増えては困るんだよ」
マリーベル「頼んだぞ、ルーベル」
ルーベル「はーい」
ルーベル「・・・」

〇レトロ喫茶
  マリーベルの立場を危うくする方法などとりたくはない
  だから手紙を書いた。
  キュラの姉、アデラ・ラピスに
赤い髪の少年「まだ間に合う・・・迎えに来られたし・・・と」
マリーベル「どうした、ルーベル 寝ないのか」
ルーベル「ぼちぼち寝るよ、マリー」
  マリーに内緒で手紙を送った。
  でも、アデラがキュラを引き取りに来る前に、列車は走り出してしまった。
  面倒なことになった。

〇暗い廊下
ルーベル「ん?」
ルーベル(犬?)
  犬とキュラがたわむれている
  犬はしっぽをパタパタとゆらし、キュラも、犬の大きな耳をワシャワシャと撫で付けた
キュラ「なあに、おまえ どこから来たの」
ルーベル「ちょっ・・・何をなさっておいでで?」
キュラ「犬!犬がいたの なつっこいわ。人と遊びなれてる子ね」
???「すみませーん!!うちの犬です」
  あわてて走ってきたのは、水色の髪の青年だった
ペイルトン「はぁ、はぁ、すみません うちの犬が飛び付いてしまって」
キュラ「気になさらないで。犬は大好きよ」
ペイルトン「それはよかった」
ペイルトン「私はペイルトンと申します」
キュラ「私は南部領のキュラ あちらは駅員のルーベル」
ルーベル「どうも」
ペイルトン「どうも。諸事情(しょじじょう)により、列車に乗り合わせました」
ペイルトン「おや、そのぬいぐるみは」
  モコ
ペイルトン「あなたが持ち主だったんですね」
ペイルトン「首都駅で落としたでしょう」
キュラ「なぜご存じなの?」
キュラ「もしかして、あなたが届けてくださった?」
ルーベル「──もうっ」
ルーベル「失礼!」
ルーベル「特段のご用がなければ、一般車へお戻りを」
「・・・」
ペイルトン「失礼しました」
ペイルトン「つい話が弾んで」
  ルーベルはキュラへ向き直った。
ルーベル「さあ、席に戻りましょう」
ペイルトン「警戒されちゃったな」
犬「フゥーン?」
ペイルトン「アデルの出番はまだ先だよ」

〇暗い廊下
  しばらくして
キュラ「ルーベル、どこ行ったのかしら?」
キュラ「あら?」
キュラ「どうしたの?」
  扉の向こうから、話し声が聞こえる
キュラ(ルーベル・・・と、ペイルトンさん?)
ルーベル「あんたが犬を使って爆発物を見つける手伝いをしてるってことは聞いてる」
ルーベル「それがどうして列車に乗っている?」
ペイルトン「ずいぶん尊大だな」
ペイルトン「さすがはお貴族様、といったところか」
ルーベル「僕は駅員だよ」
ルーベル「保安の義務がある。 当然の質問さ」
ペイルトン「・・・君も貴族出身だろう?」
ルーベル「話をそらさないことだ」
ペイルトン「エスコートは上手だけど、駅員の仕事は拙(つたな)い」
ペイルトン「とても不釣り合いだね」
ルーベル「新たに配属されましたので」
ペイルトン「マリーベルさんとは顔馴染みのようだけど」
ルーベル「駅員ですので」
ペイルトン「姉弟かな? とても仲がいいようだ」
ルーベル「ねえ、あんた」
ルーベル「おしゃべりが目的なら他を当たりなよ」
ペイルトン「ふふ」
ペイルトン「そう怒らないで」
ペイルトン「君、マリーベルさんと話すとき、とても良い顔をしているよ」
ルーベル「・・・・・・」
ペイルトン「・・・さて本題だ」
ペイルトン「君は、あのお嬢さんになんの用事がある?」
ルーベル「それはこっちの台詞!」
ルーベル「なんの目的か知らないけど、滅多なことをしたら車外へ放り出すぞ」
  扉の影に隠れて聞いていたキュラ
キュラ(よく聞こえなかったけど 喧嘩してるのは分かったわ)
キュラ(どうしよう、顔を出す? ううん、気まずいわ・・・)
ルーベル「どうしました?」
キュラ「え?いえ、べつに」
ルーベル「まもなく最初の駅ですよ」

〇城の回廊
  始めの駅 ”西部領 ハルー”
ルーベル「出発は三時間後を予定しています」
キュラ「分かったわ」
キュラ「あの・・・」
ルーベル「はい?」
キュラ「街に行っても良いかしら」
ルーベル「良いもなにも──」
ルーベル「お好きになされば良いですよ」
キュラ「そ、そうよね。決めなきゃね。 私が、自分で・・・」
  楽しそうだが、どこか困った様子のキュラ。
キュラ「あの、ルーベルも付いてきて下さる?」
ルーベル「もちろん同行しますが?・・・」
キュラ「よかった!」
ルーベル(なんだ?急に落ち着きがなくなって)
ルーベル(ああ、そうか)
ルーベル(決められていたのか。 どこへ行き、何をするのか)
ルーベル(この人も・・・)

〇市場
  街の中
ルーベル「・・・で」
ルーベル「何でついてくる」
キュラ「仕方ないじゃない アデルが遊びたがってるんだもの」
  犬のアデル
ルーベル(遊びたいのはキュラの方、ね)
ペイルトン「時に」
ペイルトン「お二人はどちらまで?」
キュラ「ええ、と」
  すぐさまルーベルが耳打ちする
ルーベル「無闇に明かすのは危険です」
  ルーベルの言う通り、見ず知らずの人にペラペラと身の上を話すべきではない。
  それはそうなのだが・・・
キュラ(いちいち細かく言われなきゃならないほど『世間知らずのお嬢さん』だと思われているの?)
  ムッとした。
ペイルトン「北部には歴史的な建造物もたくさんありますし」
ペイルトン「貴族がたの観光にも良いでしょうな」
キュラ「貴族?」
ペイルトン「良家のご出身でしょう?」
ペイルトン「蒸気機関の話をされていたのが聞こえまして」
ペイルトン「立ち居振舞いや、学識(がくしき)など 知識階級ならではかと」
キュラ「その理屈で行くと、あなたも貴族になりましてよ?ペイルトンさん」
キュラ「あなたは蒸気機関の知識が一般的でない、とご存じのようだけど」
ペイルトン「私はあなた方へ仕える側の人間ですので」
ペイルトン「話し相手が勤まる程度の知識はあっても」
ペイルトン「仕えられる側とは違いますよ」
  『仕えられる側』
  キュラの脳裏に艶やかな笑顔が浮かんだ
  誰からもかしずかれ、羨望(せんぼう)
  と名声を欲しいままにする”身代わり人形”
  誰からも見向きもされなかった自分
  とは、違う世界の者
キュラ(・・・)
ペイルトン「どうされました?」
キュラ「あ・・・ごめんなさい。 ぼんやりしてしまって」
キュラ「あ、あれはなにかしら」
  キュラを見送って、ペイルトンご呟いた
ペイルトン「あの子も”身代わり人形”に関わっているのか」
ルーベル「なぜ?」
ペイルトン「乗っている列車はあの”リーベリー城塞”行き」
ペイルトン「終点(リーベリー)まで乗るのなら 間違いなく人形の関係者だ」
ペイルトン「もちろん、君もね」
ルーベル「まさか」
ルーベル「・・・関われたなら」
ルーベル「どれ程よかったか」
???「おいっ!どけ!!」

〇市場
キュラ「騒がしいわね」
人「大変だ、駅で事件だって」
人「子どもを人質に立てこもってるって」
キュラ「えっ」

〇城の回廊
人「お前ら、近付くんじゃねぇ」
ペイルトン「お、落ち着いて、話せば分かる」
人「黙れ!!くそが!!調子に乗んなよ」
キュラ「あれが犯人・・・と、ペイルトンさん?」
  そして、人質に取られていたのは
キュラ「ルーベル!?」
キュラ「どうしてルーベルが?」
キュラ「とにかく、助けないと」
  キュラは、相棒をぎゅっと握りしめた。

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