ただ、癒されたかっただけなのかもしれない…

真弥

日常(脚本)

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真弥

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〇オフィスのフロア
  オフィスの中は誰もおらず、窓の外を見ればすっかり陽は落ちてしまっている。
松永 唯花「今日も、残業しちゃった。 早く帰らないと斗真も帰ってるかもしれない」
  唯花は今同僚の斗真と同棲していた。
  営業で忙しい斗真のために、毎日の家事は必然的に唯花の仕事になっている。
片丘課長「松永、まだ残っていたのか? あとは俺がやるから、もう帰れ。ここのところずっと残業してるだろう」
松永 唯花「片丘課長、お疲れ様です。 すみません。 今から帰ろうと思っていたところです」
片丘課長「そういえば和坂は?」
松永 唯花「あ、その。 彼女は今日はどうしても外せない用事があるからって定時で帰りました」
片丘課長「は?あいつのミスだろ。 ちゃんと責任取らせるのも指導係の仕事だぞ?」
松永 唯花「彼女にはまたちゃんと話しておきます。 それじゃあ、お先に失礼します」
片丘課長「あぁ、おつかれ。 ゆっくり休め」

〇開けた交差点
松永 唯花「疲れた・・・。 でもこのあと帰って、食事の支度して、洗濯もしなきゃ・・・」
具平 紘「松永さん、お疲れ様です。 今、仕事終わりですか?」
松永 唯花「紘く・・・じゃなかった。 具平くんこそ、今帰りなの?」
  具平くんは、妹の家庭教師をしていた事があって、癖で下の名前で読んでしまう。
  彼もたまに唯花のことを名前で呼ぶことがある。
具平 紘「俺は30分前に斗真さんと別れてスーパーに寄って、その帰りです」
松永 唯花「お疲れ様って、袋の中身ビールだけ?」
具平 紘「いや、料理はもう作ってあるんですけど、肝心のコイツを買い忘れてて。 なんなら飲みますか?冷えてますよ?」
松永 唯花「嬉しい申し出だけど、急いで帰らないと。斗真、もう家についてる頃だろうしね」
具平 紘「斗真さん、先に帰ってるなら料理とかしてくれてたりしないんですか?」
松永 唯花「斗真が? まさか。今頃シャワー浴びてビール飲んでだらけてるんじゃないかな」
具平 紘「そんな・・・。唯花さんだって疲れてるのに。 言ってみたらどうですか?たまには料理でもしないのかって」
松永 唯花「ええっ? 無理だよ。喧嘩になって終わりね。 そんな言い合いに体力も気力も使う余裕ないからねぇ」
具平 紘「唯花さんは昔から、優しすぎるから」
松永 唯花「そんなことないよ。 料理は好きだし、美味しいって言ってもらえたらそれで満足するから」
松永 唯花「あ、斗真からメール。 『お腹すいた』だって。 じゃあ、具平くんまた明日ね」
具平 紘(いつも無理して、それでも笑ってるんだよな・・・。 俺なら、ちゃんと唯花さんを癒してあげられるのに)
  急いで帰っていく唯花の背中を紘は切なげ無表情で彼女を見送る。

〇玄関内
松永 唯花「ただいまー。あ、斗真今シャワー浴びてるんだ」
松永 唯花(また靴下床に脱ぎっぱなし。 どうして洗濯カゴに入れてくれないんだろう)
波原 斗真「あ、おかえりー。 腹減ったよ。飯まだ?」
松永 唯花「今帰ったばかりなんだから。 ・・・今から作るから」
波原 斗真「早くな?俺今日すごく忙しくてへとへとなんだ」
松永 唯花(そんなのお互い様だよ)

〇おしゃれなキッチン
波原 斗真「先に飲んでていい?」
松永 唯花「どうぞ。 簡単に作るから、あっちで待ってて」
  唯花は冷蔵庫から肉や野菜を取り出して、お酒の当てになるものを作り始めた。
波原 斗真「んまい。 疲れが取れるわー。飯もうまいし、優しいし。 ほんと、唯花っていいお嫁さんになれるよ」
松永 唯花(お嫁って・・・。 斗真のお嫁さんになったら、ずっとこんな生活を・・・?)
  斗真が言ったなんとなくの台詞に、唯花はなぜか気が重くなっていた。
波原 斗真「おー、待ってました。 唯花も、早く食べようぜ」
松永 唯花「こっち片付けてからにするから先に食べてて」
松永 唯花「お待たせ・・・って、斗真寝ちゃったの? そんなところで寝てたら風邪引くよ」
  満腹になった斗真はリビングの床に転がって寝息を立てている。唯花は斗真を起こして寝室に行くように促した。
  テーブルの上を見れば、すでに料理はほとんど残っておらず、唯花は小さくため息をついて片付けを始めた。
松永 唯花「なんだか食欲も無くなったし、今日は早々に片付けて寝よう」
  茶碗を片付け洗濯機を回して、唯花はようやく、お風呂に入れた。そのあとベッドに倒れるように寝入ったのだった。

〇オフィスのフロア
  翌朝、唯花はいつも通り朝早く出勤してデスク周りの掃除をする。
和坂 未来「おはようございます、松永先輩。 昨日はすみません。祖母の具合が悪くてお見舞いに行かなきゃだめで・・・」
松永 唯花「おはよう。 それはいいんだけど、昨日のミスの振り返りと反省しておこうか」
和坂 未来「えー、昨日のは私のミスじゃなくて、新人の私に大事な仕事を押し付けた課長の責任ですよ!」
松永 唯花「新人って、もう1年も経つんだし、仕事はどんどん覚えてもらわないと困るのよ?」
和坂 未来「仕事にも向き不向きがあります! 先輩も、私がちゃんとできないってわかってるならフォローしてくれればいいじゃないですか」
松永 唯花(フォローしようとしたら、口を出すなとか、信用してもらってないのが辛いとか泣くくせに・・・どうしろって言うの?)
片丘課長「和坂くん。いつまでも新人気分じゃ困るよ」
和坂 未来「課長・・・ 私だってちゃんと指導してもらえていたらあんなミスしなかったと思うんです。私ばかり責めるのは間違ってませんか?」
片丘課長「・・・呆れてものが言えないよ。 松永くん、すまないけど彼女の指導係として頼むよ」
松永 唯花(えー、丸投げですか? こんな新人類の指導なんて無理ですよって言いたいけど、指導係だから仕方ないのかな)
松永 唯花「和坂さん、とりあえず就業時間だから、今日の仕事進めましょう」
和坂 未来「はーい。 あ!私、営業課にこの書類届けてきまーす」
  未来は笑顔であっという間にオフィスから出て行ってしまった。
片丘課長「新人類の扱いが分からないよ。 胃薬買い足しておこう」
松永 唯花「私にもその胃薬分けてくださいね・・・課長」

〇オフィスの廊下
和坂 未来「斗真さーん」
波原 斗真「あ、えーと、唯花の課の和坂さんだっけ?」
和坂 未来「未来ですよぅ。 覚えてくださいね」
波原 斗真「あ、あぁ。覚えたよ、覚えた」
和坂 未来「ほんとですかぁ?じゃあ、私のこと名前で呼んでください」
波原 斗真「あ、でも職場だし」
和坂 未来「好きな人には名前で呼んで欲しいんです!」
波原 斗真「えっ?す、好きって」
和坂 未来「だって斗真さん、営業のエースじゃないですか。憧れてる子たくさんいるんです!だから、その子たちより仲良くなりたいんです!」
波原 斗真「面白い子だね、きみ。 えーと、未来ちゃん?」
和坂 未来「呼び捨てでいいですよ?」
  グイグイと強気なアプローチをする未来に、斗真は困惑するが満更でもない様子だ。
具平 紘「斗真さん、次のアポイントの約束、そろそろじゃないですか?」
波原 斗真「あ、やばい。 紘、資料用意してあるか?」
具平 紘「大丈夫です。ここにあります。 早く行きましょう!」
和坂 未来「もーっ、邪魔が入っちゃった。 まぁ、斗真さんと松永先輩って長い春って感じだもん。私が入る隙はありそうね」
和坂 未来「オールマイティな松永先輩から、素敵な彼氏を奪ったら、どれだけ優越感を感じるだろう。楽しみだなー」
  未来は去って行った斗真たちの背中を見送りながら、斗真を振り向かせるための思考を巡らせていた。

〇開けた交差点
  営業先との打ち合わせを終え、斗真と紘は会社までの道を仕事の話をしながら歩いていた。
波原 斗真「なかなかいい手応えだったな」
具平 紘「斗真さんのプレゼン、先方すごく喜んでましたよ。さすがです!」
具平 紘(営業成績トップは伊達じゃない。 仕事では本当に尊敬する。 でも、もう少し唯花さんにも思いやりを持ってくれたらいいのに)
具平 紘「ね、斗真さん。仕事のストレスってどうやって発散してますか?俺は料理をしてます」
波原 斗真「ステレス発散に料理? さらにストレスが溜まりそうじゃないか?料理なんてめんどくさいし」
具平 紘(その面倒なことを唯花さんは、斗真さんのために文句も言わずにやってるのに・・・。 なんて言い草だよ)
波原 斗真「俺は料理とか絶対無理。大体男の俺がしなくても、唯花が料理好きだし、自分からやるって言ってるから任せてるよ」
具平 紘「今の時代、料理ができる男って、結構モテるんですよ?」
波原 斗真「へぇ、そうなのか? まぁ、仕事もできて家事もしてくれる彼氏なら重宝されるだろうな。紘はそういう相手いないのか?」
具平 紘「そういう相手?」
波原 斗真「尽くしたい相手ってことだよ」
具平 紘「いますよ」
波原 斗真「えっ?マジか。 誰だよ相手は。片思いならうまく行くよう協力してやるぞ?」
具平 紘(それなら・・・ 唯花さんを俺にください。 ・・・なんてな。そんなこと言えるわけないか)
具平 紘「もし助けがいりそうな時はよろしくお願いします」
波原 斗真「おう、任せとけ」

〇オフィスのフロア
和坂 未来「雨やまないなぁ・・・。今日はこのあと合コンがあるのに、髪が湿気でまとまらないのよね」
松永 唯花「和坂さん、仕事後のことより今は今日中に片付けなきゃいけない処理のことを考えてね。 終業迄に終わるようにしなきゃ」
和坂 未来「えぇっ! これだけの処理を今日中にとか無理ですよ。明日来てやればいいじゃないですか」
松永 唯花「そういうわけにもいかないのよ。明日の会議で必要な書類もあるし。 ほら、ここ間違ってる」
  唯花の指摘に、未来はめんどくさそうに書類の修正を始める。
松永 唯花(天気が悪いせいか、朝から頭痛がするのよね。薬飲んでこよう)
  唯花は給湯室に向かった。
和坂 未来(こんなの終わるわけないっての。 松永先輩も課長もいないし、この隙に帰っちゃおうかな。どうせ後30分で定時だし)
  未来は辺りを見回して誰もいないことを確認すると、パソコンもたちあげたまま荷物を持ってオフィスを出て行った。
松永 唯花「あれ?課長だけですか?和坂さんどこに行ったんだろう」
片丘課長「僕が戻ってきた時には誰もいなかったよ?パソコンも立ち上がったままだし、トイレにでも行ってるんじゃないか?」
松永 唯花「そうですね。終業まで時間もないし、さっさと仕事進めなきゃ」
片丘課長「松永、顔色が悪いけど大丈夫か?」
松永 唯花「片頭痛みたいなんですけど、さっき薬を飲んだので大丈夫です。気にかけていただいてありがとうございます」
片丘課長「無理はするなよ?あと少しで定時だし、今日はもう帰った方がいいんじゃないか? たまには和坂にでも残業させたらいい」
松永 唯花「彼女が残業するとは思えませんし、明日必要な資料もまだ準備できていないみたいで。だからそれをチェックしてから帰ります」
片丘課長「そうか。 しかし、和坂はまだ戻らないな」
  唯花は未来の机の上を見て未修正の書類や、中途半端な資料を自分の机に移動させた。
松永 唯花(うわ、全然進んでない。 和坂さんが戻ってきたら分担してやらないと間に合わないかも)
片丘課長「松永、今タイムカードを確認してきたんだが、和坂はすでに退勤してるぞ」
松永 唯花「えっ?本当ですか? そういえば彼女の荷物もないですね。 まさかパソコンも落とさずに帰るなんて・・・」
片丘課長「まいったな。 仕事の方はどうなってる?」
松永 唯花「期日を見て至急の案件が3件ありますね。 この2つは私がやりますが、それで手一杯です」
片丘課長「分かった残りは僕がやろう」
  2人は定時前の時計を見てため息をつきながら、無言で仕事を始める。
松永 唯花(また頭痛もぶり返してきたけど、これだけは終わらせなきゃ。 今日も残業確定だわ・・・)

〇開けた交差点
松永 唯花(やっと終わった。課長が手伝ってくれなかったらもっと遅くなっていたかも。和坂さんのこともあるし、憂鬱)
松永 唯花(なんだか頭痛も酷くなってきた。今日は料理とか無理だ。斗真に適当に買って済ませてもらおう・・・)
  唯花は斗真に「体調が悪いので夕飯は適当に済ませて欲しい」とメールを入れた。
  折り返しきたメールは、「じゃあ、今から外で食べてくる」という内容のものだった。
松永 唯花(なんだか、ちょっと虚しくなってきた。心配させたいわけではないけど、全く心配されないのも辛い)
  斗真からの返信に唯花はどっと疲れを感じた。頭痛はどんどん強くなってくる。
具平 紘(あれ?前を歩いているの唯花さんじゃ・・・。またこんな遅くまで残業してたのかな? なんだかフラフラしてないか?)
具平 紘「松永さん、お疲れ様です」
松永 唯花「あ・・・紘くん。 お疲れ様・・・」
具平 紘「どうしたんですか?すごく顔色が悪いですよ!」
松永 唯花「え? あ・・・ちょっと頭痛がするだけ。 大丈夫だよ」
具平 紘「全然大丈夫そうに見えませんよ。 タクシー拾いますから、ちょっと待ってて」
松永 唯花「えっ、タクシーなんて。 そんな距離もないし勿体無いよ・・・」
  唯花が引き止めるのも聞かず、紘は通りに走るタクシーをあっという間につかまえた。
具平 紘「唯花さん、ほら乗って」
  紘に言われるままタクシーに乗り込んだ唯花は、紘にお礼を言いかけたが隣に乗り込んできた紘に驚く。
松永 唯花「えっ?紘くんも乗るの?大丈夫だよ、私1人で帰れるから・・・」
具平 紘「そんな真っ青な顔して何遠慮してるんですか!家まで送ります。斗真さんに届けたらすぐ帰りますよ」
  怒りながら心配してくれる様子に、唯花は少しホッとした。
松永 唯花(心配されるってなんだか照れ臭いけど嬉しいものなんだな・・・。 でも正直歩くのも辛かったから助かるよ・・・)
具平 紘「斗真さん家にいないんですか?なんなら迎えにきて貰えばよかったのに」
松永 唯花「斗真、ご飯食べに出かけたと思う。 夕飯作れそうになかったから」
具平 紘「は?斗真さん、唯花さんがこんな状態だって知らないんですか?」
松永 唯花「・・・どうだろう? 頭痛がすることは伝えたけど・・・」
  辛そうに目を閉じた唯花を見て、紘は口をつぐんだ。
具平 紘(頭が痛いって言ってたもんな。声とか響くんだろう。黙って寝かせておいてあげよう)
  唯花のマンションの住所を伝えて、ゆっくり発進し始めたタクシーの中、紘は黙って唯花の顔を見ていた。

〇玄関内
  チャイムを鳴らしたが反応はない。
具平 紘(斗真さん、外に食べに行くって言ってたもんな。誰もいないのか)
具平 紘「唯花さん、鍵出しますよ? 大丈夫ですか?」
松永 唯花「ん・・・」
  タクシーの中で寝てしまった唯花は相変わらず顔色が悪いままで、紘は彼女を負ぶって彼女の家の前まで来ていた。
  なんとか鍵を取り出して、紘は家の中に入り、真っ暗だった玄関の電気のスイッチを探り当てをつけた。
具平 紘「玄関で寝かせとくわけにいかないし、リビングに連れていくか」
  以前遊びに来たことのある場所で、勝手は分かっていた紘はリビングまで入り、ソファに唯花を横たわらせた。

〇綺麗なリビング
具平 紘「唯花さん、大丈夫ですか? お薬飲みますか?」
松永 唯花「ん・・・・・・? あ、紘くん?私・・・、」
具平 紘「勝手に家の中に入ってすみません。 唯花さん寝ちゃったから・・・」
松永 唯花「え、嘘。 ごめん・・・」
  唯花は慌ててソファから起きあがろうとしてバランスを崩す。
松永 唯花「きゃっ、」
具平 紘「唯花さんっ、」
  ソファから落ちた唯花は、紘に抱き留められる形で助けられた。
松永 唯花「ご、ごめんねっ。 私ったらそそっかしい・・・」
具平 紘「・・・知ってますよ笑 でも、唯花さん今体調悪いんだから無理しないで」
  紘は唯花を支え起こし、ソファに座らせ・・・
  離れる瞬間、思わず彼女をギュッと抱きしめていた。
松永 唯花(え・・・ 私、紘くんに抱きしめられてるの?)
松永 唯花「ひ、紘くん?」
具平 紘「すみません。 あ、頭痛薬ありますか?水持ってきますね」
  紘は慌てた様子で唯花から離れ、キッチンへ向かっていく。
松永 唯花(今の、なんだったんだろう・・・ 頭が痛くてまともに考えられないけど・・・)
具平 紘「ハイ、お水。 薬、キッチンの棚のところにあったから一緒に持ってきました」
  唯花は渡された薬と水を受けたり素直に飲んだ。
具平 紘「しばらく休んだ方がいいですよ。斗真さんが帰ってきたら説明しときますんで」
松永 唯花「ん・・・ありがとう、ごめん、ね」
  紘は、間も無く寝息を立て始めた唯花を言葉もなく見下ろしていた。
波原 斗真「おわっ、紘? なんでお前がここにいるの?」
具平 紘「こんばんは。 斗真さんにメールしましたけど気づきませんでしたか?」
波原 斗真「マジか。 すまん、気づかんかった。 わざわざ唯花のこと送ってくれたんだな。 ありがとう」
具平 紘「松永さん、最近残業も多いみたいだし、疲れてるみたいですね」
波原 斗真「まぁな。新人の教育も任されてるって言ってたしなぁ」
具平 紘「ここじゃ風邪引くと思うんで、斗真さんお任せしていいですか?」
波原 斗真「お、おう。 ちょっと寝室に寝かせてくるわ」
  斗真は唯花を抱き抱えてリビングの隣の部屋へ運び込んだ。
波原 斗真(紘のやつ、なにか様子が変だったな・・・)

〇おしゃれなキッチン
  斗真がリビングへ戻ってくると、キッチンの方で物音がしたので向かってみると紘がキッチンの前に立っていた。
波原 斗真「ど、どうした?」
具平 紘「勝手にすみません。 松永さん、目が覚めたらお腹空くんじゃないかと思って雑炊でもと。 斗真さんも何か作りましょうか?」
波原 斗真「いや、俺は食べてきたからいいよ。 それに唯花なら何か適当に作って食べるだろうし、紘がそこまでしなくても・・・」
具平 紘「俺、料理するの好きだし、ささっと作れるんで。食材少しもらってもいいですか?」
  強引な紘の様子に戸惑いながらも、斗真は紘に任せることにした。
具平 紘「じゃあ、これ冷蔵庫に入れておきますね。 俺、そろそろ帰ります」
  手際よく料理を終えると、紘は早々に帰って行った。
波原 斗真「アイツ、もしかして・・・」
  斗真は一瞬頭に浮かんだ考えを即座に否定し、冷蔵庫からビールを取り出してリビングに戻った。

次のエピソード:小さな歪み

コメント

  • 日常の小さな無理が積み重なっていって、ラストでは決壊寸前まで張り詰めた不穏な雰囲気が漂い始めて・・・。流れるような自然な語り口が読みやすく、最後まで一気読みしました。男女四人の思惑や駆け引きが気になります。次の展開が楽しみです。

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