〇教室
ミサコ（・・・記憶が、ない）
　　昨日の放課後、寒気を感じてからの記憶が
　　ミサコにはなかった。
　　気がついたときは、家のベッドで横になっていたのだ。
ミサコ（サエさん・・・昨日、何を言ったんだろう）
ミサコ（クラスメートの視線が痛い・・・ 絶対何か言ったんだよね・・・）
ミサコ（はぁ・・・昨日、何があったか知りたかったのにサエさん、既読すらつかない・・・）
ミサコ（サエさん、返信してよー・・・）
　　ガンッ
　　必死にスマホを見つめサエからの返信を待っていると、ふいにミサコの机が揺れた。
ヒナ「地味子さ～ん、昨日はどうも～」
ユキ「昨日いただいたありがた～いアドバイス通り、昨日はちゃぁんとお肌のお手入れしたよ？」
ミサコ「え・・・？」
ミサコ（ど、どういうこと？ サエさんが何か言ったのかな・・・）
ミサコ「あ、あの、ごめんなさい・・・私、なんのことかわからなくて・・・」
ヒナ「とぼけてんじゃねーよ！」
　　ガンッ
ミサコ「ひっ！」
ユキ「化粧もおしゃれも無縁な地味子のくせに笑わせないでよね」
ヒナ「なんだっけ？ 腐った性格丸出しの汚い顔面キレイにしなよ・・・ なぁんて言ってくれちゃってたよね？」
ミサコ「え・・・わ、私が・・・？」
ユキ「じゃぁあんたはちょ～根性腐ってるってことだよねぇ。 だってウチらよりブスじゃん？」
ヒナ「ハッキリ言い過ぎだよ～」
ユキ「みんなはどう思う？ 地味子さんがうちらよりブスだと思う人～？」
　　その問いに、クラスメートがおずおずと手を上げ始める。
ヒナ「あれ～？ みんな地味子さんの方がブスだって」
ヒナ「それなのに、ウチらに説教しちゃった感じ？」
ユキ「超ウケるんだけど～ 地味ダサ子が調子のってんじゃねーよ！」
ヒナ「ほら、昨日みたいに言い返せるなら言い返しなよ、ほらほら」
　　ヒナとユキは言いながらミサコに詰め寄る。
ミサコ「・・・っ」
　　何も言えないミサコは、思わず席を立ち上がり、教室を走り去った。

〇屋上の入口
ミサコ（どうしよう・・・）
ミサコ（今から教室に戻るべき・・・？）
ミサコ（でも、どんな顔して戻ればいいんだろう・・・）
ミサコ（ああ、もう最悪だよ・・・ こんなことなら、憑依なんてお願いしなければよかった・・・）
　　後悔の念に駆られるミサコの手に握られたスマホが僅かに震えた。
ミサコ（サエさんだ・・・！）
　　ようやく来たサエからの反応に、ミサコは直接話すべきだと判断し、通話ボタンを押した。
サエ「あれ～？ この時間って学校じゃないの？ あ、今日休み～？」
ミサコ「そ、そんなことより！ 昨日のこと、なんなんですか？ なんで言い返しちゃったんですか？」
サエ「言い返したってか、もうカツアゲしないでって頼んだだけだよ」
ミサコ「ち、違いますよね？ ブスとかなんとか言っちゃったんでしょう？」
サエ「あー・・・言ったかもだけど、事実だしね～」
ミサコ「そんなこと言ったら、余計にいじめられるってわかんないんですか？」
ミサコ「おかげで、私は朝から詰め寄られるしブスって言われるし・・・」
サエ「え？ ウソ、そんなことになってんの？ まじゴメン」
ミサコ「そんな軽い謝罪なんて聞きたくないです！　所詮、あなたにはわからないんですよ・・・」
ミサコ「ギャルで、可愛くて、なんでも言えちゃうような人に私の気持ちなんて・・・」
サエ「待って待って、落ち着いて！」
サエ「ごめん、暴走しすぎたし、ミサコの今後のことちゃんと考えてなかった、それはウチの責任」
サエ「だからさ、もう一回チャンスもらえない？」
ミサコ「い、嫌ですよ・・・ これ以上何されるのかわからないし・・・契約解除してください・・・」
サエ「え、ちょ、ちょっと待ってよ！」
　　電話口からサエの声が聞こえ続けていたが、ミサコは思い切って通話終了のボタンを押した。
ミサコ（はぁ・・・本当にこれからどうすればいいんだろう・・・）
　　非常階段でうなだれるミサコ。
　　と、背中がゾクリとした。
ミサコ（こ、この感覚・・・まさか・・・）
　　抗おうとしたものの、ミサコの意識はそのまま遠のいた。

〇屋上の入口
ミサコ「勝手に憑依しちゃってゴメン、でもウチがしたことの責任はちゃんと取りたいからさ」
　　ミサコに憑依したサエは、ミサコのスマホ に向かってそう呟き教室へと戻っていっ た。

〇教室
　　休み時間になるタイミングを見計らい、サエは教室に戻りミサコの席へ座る。
　　ザワつくクラスメート。
　　サエは思わず苦笑してしまう。
ミサコ（昨日は気づかなかったけど、嫌な空気だなぁ・・・ミサコはいつもこんな空気の中過ごしてるんだ・・・）
ユキ「あれぇ？ 地味子さぁん？」
ヒナ「あのままてっきりサボるのかと思ったけど戻ってくるなんて度胸あるじゃ～ん」