ヒーローウォーズ

まゆほん

第二話 アーカイバ(脚本)

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〇ゆるやかな坂道
  獣王グランノールとの熾烈な戦いを経て、3人は木葉の言う古書店に向かっていた。
凪「でも、便利なものだね」
凪「物語の主人公たちを出したり、消したりできるんだね」
木葉「まあね。武器持った連中がこの日本の街中を歩いてたら、そりゃ、まずいからね」
紗羅「本当に召喚士になったみたい!」
木葉「まあ、私のカナギの場合は、無意識下での共有が出来ているから、ピンチの時は自動的に私を守ってくれるわ」
紗羅「へぇ~。凄いんだね。イグマにも出来るかな・・・?」
木葉「どうかな。主人公と作者のフィーリングが高まらないと無理じゃないかしら」
凪「あいつ、扱い難しそうだよな」
紗羅「そんなこと無いよー。ほら、私達をちゃんと守ってくれたじゃない?」
凪「うーん。どうだかなあ」
  そうこうしている内に、三人は古書店の前まで来た。
木葉「ここね。さあ、入りましょう」

〇古書店
凪「うわ・・・・・・。カビくさ・・・・・・」
紗羅「凄い。雰囲気あるお店だね・・・・・・」
木葉「ここにあの人がいるはずだけど・・・・・・」
???「おや。若い方が三人も。これは珍しい・・・・・・」
???「そちらの二人は確か・・・・・・」
木葉「ちょっと、あなた。ちゃんと聞かせてもらうわよ」
???「ええ。何なりと。私の知っている事であれば・・・・・・」
木葉「茶化してくれるわね。こっちは死にそうになってたって言うのに!」
木葉「とぼけないでよ!あの本を無作為に配って、互いに殺し合わそうとしてるんでしょ、あんた!」
木葉「私以外にもこの子にも渡してるし、他の奴にも渡しているでしょ!」
木葉「そいつが召喚した物語の主人公に私達は殺されそうになったのよ!」
???「なんと。そのようなことが・・・・・・」
木葉「知らなかったわけじゃないでしょ!私達を狙うように仕組んだのはあんたなの?」
???「そんな、滅相もありません」
???「私はただ自分の物語の主人公を現実の世界に召喚できるのは素晴らしいことだと思って、皆さんにその本を渡しているだけなのですよ」
木葉「ふんっ。白々しい・・・・・・」
???「そちらのお嬢さんも召喚できたのでしょう?素晴らしい事です」
紗羅「う、うん。そうだけど・・・・・・」
木葉「でも、現にあの本を悪用している奴がいるのは確かだし、どうにかしなさいよ!」
???「そうは仰いましても、私もあの本は物語を書く人々に渡してしまいましたし・・・。もうその本はその人々のものですから」
木葉「そんなに多くに渡したって言うの!」
???「ええ。それはもうこの街には書き手は多いですね。物語を書こうとしている全ての人にあの本を渡すのが私の使命ですからね」
木葉「信じられないっ!あれを悪用する奴がいるって考えられないのっ?」
???「本を、主人公達をどう使おうと、その人達次第ですからね」
木葉「何てやつ。自分に責任がないってこと?とんだサイコパスね!」
木葉「こんな奴、警察につき出そう!」
凪「ちょ、ちょっと待ってよ!物語の主人公を召喚できるなんて警察に言っても僕らが頭がおかしいと思われるだけだよ」
木葉「そ、そうだけど。じゃあ、どうすれば良いのよ?」
凪「そもそも、そんなに多くの人があの本で戦士達を召喚していたら、もっとこの街は混乱して、ニュースになっていても良いと思うんだ」
木葉「そりゃあ、そうね」
凪「だから、そこまで多くの人が召喚できるわけでは無い」
凪「あと、あのグランノールとか言う奴は、明らかに目的をもって僕達を狙って来てたと思う」
凪「その目的を明らかにするのが先決じゃないかな?」
木葉「うーん。ただの戦闘狂にも見えたけど。確かにあいつを操ってた奴の真意が知りたいわね」
凪「ええと、店主さん」
アーカイバ「私の事はアーカイバとでもお呼びください。何でしょう?」
凪「アーカイバさん。今、言われたように不特定多数の書き手の人にあの本を渡しているんですよね?」
アーカイバ「はい。仰る通りです」
凪「でも、その全員が主人公召喚が出来るわけじゃないんでしょう?木葉も苦労していたみたいだし」
アーカイバ「それはもう。主人公に思い入れがある、というか、その人物とのシンクロとでも言いましょうか、」
アーカイバ「強い思い入れが無ければ、召喚は出来ません」
凪「うん。だったら、やっぱり、そんなに多くの人が召喚できているわけではなさそうだ」
凪「あと、彼らにとって、他の主人公や書き手を殺すことは何か意味があるのかな?」
アーカイバ「それは何とも言えませんが・・・・・・」
アーカイバ「書き手の方々は自分の作品を出来るだけ沢山の人に見てもらって、自分の作品が一番優れていると証明したいのではないでしょうか?」
木葉「そんな理由で人を殺すのっ!?」
アーカイバ「私はあくまで読み手の方なので、書き手の方々の心境がどれほどなのかは分かりませんが・・・・・・」
アーカイバ「主人公召喚される書き手の方は、特に思い入れが強いはずです。そう思っていても不思議ではないのでは・・・・・・?」
木葉「ふざけないでっ!私達がそんな事を思うわけないでしょ!」
アーカイバ「そうそう。言い忘れましたが、召喚した主人公と、あなた方、書き手の精神は繋がっています」
アーカイバ「主人公が死ねば、その書き手の精神も崩壊することになります」
木葉「つまり、書き手も死んでしまうということ・・・?」
アーカイバ「はい。残念ながら。そして、それは外傷もなく、言わば脳死のような状態になるのです」
木葉「やっぱり、コイツ、とんでもなくイカレてるわね!」
木葉「そんなの人を殺しても、犯人だとバレないじゃない!」
アーカイバ「この本の性質上、それはどうしようもない事なのです」
アーカイバ「でも、考えてみても下さい」
アーカイバ「自分の主人公が殺される、つまり、自身の物語を否定されるというのは死に値するほど苦しいことではないでしょうか?」
木葉「意味わかんないわよっ!」
凪「アーカイバさん。もう一つ聞かせてください」
アーカイバ「はい。何でしょう?」
凪「あなたの目的は、出来るだけ多くの書き手にその本を渡すと言うことでしたよね?」
アーカイバ「はい。その通りです」
凪「それで、あなたは何を望んでそんな事をしているんですか?」
アーカイバ「私はただの本好きな店主ですよ。そんな大それた望みは持っておりません」
アーカイバ「ただ、至高の物語を紡ぐ主人公を垣間見る。それだけで私は満足なのです」
凪「・・・・・・」
木葉「こんな奴と話しても時間の無駄よ。行きましょう!」
凪「う、うん・・・」
アーカイバ「そう。言い忘れておりましたが・・・」
アーカイバ「その本は、ただ主人公の名前だけを書いて、召喚するだけのものではありません」
アーカイバ「物語というものは結末までを描いて完結するものなのです」
アーカイバ「つまり、主人公が最終的にどうなるか、までを描き切らないと終わらないということです」
凪「完結までを書かないとどうなるんですか?」
アーカイバ「そうですね。そうなった場合は残念ながら、その本に魂を吸い取られてしまいます」
凪「ちょ、ちょっと待って。何でそんな肝心なことを言わなんだよっ!」
アーカイバ「さて。物語を書く方なら完結までを描くのは当然でしょう?」
アーカイバ「もっとも、この本に書かれる主人公達は既に現実世界に干渉してしまっております」
アーカイバ「物語の中だけで完結しようもありません。つまり、この現実世界を舞台に具現化された主人公達の物語を描いてほしいのです!」
凪「ど、どういうことだよ?」
アーカイバ「つまり、もう物語は始まっているのです」
アーカイバ「この現実に召喚されるという主人公達の舞台の元に完結までの道のりをあなた達自身で描いてほしいのです」
凪「僕らで導くってどういう事なんだ?」
アーカイバ「それは私自身にも分かりません」
木葉「あのグランノールって奴が私達を襲ってきたのもそのせい?あいつらが描く展開が私達の抹殺だとしたら・・・」
アーカイバ「有り得なくもないですね。書き手の方がそう思われるのであれば」
凪「あなたは書き手の誰かが結末までを書くのを望んでいるということですか?」
アーカイバ「はい。先ほどもお伝えした通り、私の望みは至高の物語を読むことにあります」
アーカイバ「あなた達の誰かがその至高の物語を描き上げると信じておりますので」
凪「・・・」
凪「行こうか。もうここには用はない」
木葉「そうね」
  凪達、三人は古書店を後にした。
アーカイバ「・・・」
  古書店の奥の方からメイド服を着た仮面の女がひっそりと姿を現した。
???「・・・良かったのでしょうか?」
???「私の事はお伝えしなくても?」
アーカイバ「フッ。まだ貴女は出番ではありませんよ」
アーカイバ「彼らの物語が進めば、自ずと出番は回ってくるものです。それまで、我々は彼らの物語を見守っておきましょう」
???「はい。仰せのままに」

〇ゆるやかな坂道
  三人は古書店を後にして、街中を歩いていた。時刻はもう夕方になっていた。
凪「あのアーカイバっていう店主のことだけど・・・」
木葉「ええ。奴がきっと黒幕よね」
紗羅「えっ。どういうこと?」
木葉「あれだけ怪しさプンプンだったじゃない!」
木葉「自分が至高の物語を読むために、書き手の魂まで奪うって言ってるのよ!」
木葉「黒幕、というか既に自分の目的をばらしてしまってるけど・・・」
紗羅「じゃあさ、私のイグマと、木葉のカナギであの人を懲らしめるっているのはどう?」
木葉「それで物語の展開として納得するなら良いけど」
木葉「そもそも、あそこで主人公召喚は出来なかった」
紗羅「そうだったんだ」
木葉「私も警戒して確かめようとしたんだ。けど、駄目だった」
木葉「だから、話はそんなに簡単に済むことは無さそうね」
凪「それでこれからどうする?このままだと、またあのグランノールって奴に襲われるぞ?」
紗羅「それにあの本を結末まで書かなきゃ、魂を奪われるんだよね?」
紗羅「そう言えば、木葉ちゃんはカナギの物語を結末まで書いたの?」
木葉「・・・書いたのは書いた」
木葉「けど、アーカイバも言ってたでしょ。既に主人公達はこの現実世界に干渉している」
木葉「それを踏まえた上での物語を完結させないといけない」
木葉「つまり、この現実世界のゴタゴタを終止符を打たなきゃ誰も物語を完結させれないってことよ」
紗羅「はぁ~。何だか複雑なことになったね~」
凪「つまり、僕らでこのゴタゴタを解決させる手段を考えないといけないわけだ・・・」
木葉「そう。で、手始めにあの戦闘狂よね。きっとまた襲ってくる」
木葉「それで提案なんだけどさ・・・」
木葉「紗羅さん。とりあえず、あのグランノールって奴が私達を狙っている間は一緒にいない?」
木葉「ほら、二人で居れば、あいつらも簡単には襲ってこないと思うし」
紗羅「いいよー!」
紗羅「私、いま一人暮らしだし、全然、泊ってもらっても構わないよー」
凪「え、えーと、僕は・・・」
木葉「あなたは別に居ても居なくてもいいわ」
凪「そ、そんな言い方・・・」
木葉「あなたもアーカイバから本を貰えば良かったんじゃないの?少しは戦力になる主人公を召喚できたんじゃないの?」
凪「い、いや、僕は・・・」
紗羅「そうだよー。私も凪の物語の主人公、見てみたい!」
凪「僕はあくまで読み手だよ。小説は読むけど、自分の書くのは全然駄目だから・・・」
木葉「はあ。使えないわね・・・」
凪「う・・・、傷つくなあ」
紗羅「まあ、凪も一応、男の子なんだし、一緒に居てくれた方が良いよ」
凪「そ、そうかなぁ」
紗羅「うんうん。今日は二人とも私の家においでよ。きっと、楽しいよ!」
木葉「え。この人も居るの・・・?」
紗羅「大丈夫。凪は一応男の子だけど、無害だから」
凪「本当に傷つくから止めて・・・」
木葉「まあ、しょうがないわね。私にはカナギが居るから、いざとなったら、切り裂いてもらえば良いだけだし」
凪「ていうか、この二人と一緒に居ると、主人公を持っていない僕が一番、危険な気がしてきた・・・」
凪「あ。そうだった!!」
木葉「え。なに?まだ何かあるの?」
凪「あ、いや・・・。今日、大学のレポートの提出日だった・・・」
木葉「はあ。びっくりして損した。ていうか、こんな時までお勉強なんて、あなたは真面目ね・・・」
凪「しょ、しょうがないだろう!僕らは学生なんだし、勉強するのは当たり前だろう!」
紗羅「凪は昔から真面目ちゃんだよねー。それで今からレポート書くの?」
凪「いや。レポート自体は済ませてて、後は教授に提出するだけ」
凪「だから、僕は大学に戻るけど、二人は先に家に帰ってて」
紗羅「大丈夫?一人になったら、グランノールに襲われない?」
凪「ああ。すぐ行って帰ってくるだけだし、大丈夫だよ。それに一応、男の子ですから」
紗羅「う、うん・・・。気を付けてね」
紗羅「じゃあ、晩御飯作って待ってるからねー!」
凪「ありがと。じゃあ、行ってくる!」
木葉「・・・」
木葉「あなた達、付き合ってるのよね?」
紗羅「え。付き合って無いよ・・・」
木葉「え。本当に!?」
木葉「なんか今の会話とか恋人関係っぽかったけど・・・」
紗羅「そ、そんなこと無いよ。凪とは幼馴染で、小さい頃から仲良かっただけだから・・・」
木葉「はっ!これが噂に聞く幼馴染で、恋人に発展するかしないかの恋愛ものの展開ね。リアルでは初めて見たわ」
紗羅「そ、そんな・・・!」
木葉「ごめんね。余計なことを言って。温かい目で見守らせて頂くわ」
紗羅「もー!そんなんじゃないのにー!」

次のエピソード:第三話 獣王と鬼斬り

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