ギャル、憑依します

結花ユイ

第一話「謎の憑依屋」(脚本)

ギャル、憑依します

結花ユイ

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〇教室
  学校生活は地獄だ。
  中でも、放課後の教室は特に。
  教師の目が届かない生徒だけの空間。
ヒナ「地味子さ~ん、帰るの~?」
ユキ「帰る前にお金貸してくれない?」
ミサコ「・・・・・・」
  いつものようにタカるクラスメート。
  それを遠巻きに見るクラスメート。
ヒナ「いいでしょ? 地味子さんメイクもしないし、オシャレもしないんだからお金かからないじゃん」
  いいながら、ヒナとユキがミサコの鞄をあさり始める。
ミサコ「あ・・・や、やめ・・・」
ユキ「はぁ? 何? 何か言ってる? 声小さすぎて聞こえないんですけど~」
  ギャハハと下品な声が教室に響く。
ミサコ(嫌だ、怖い・・・早く帰りたい・・・)
ヒナ「あんま入ってないね~ ま、今日はこれだけでいっか~」
  数枚の千円札を抜き出すと、ミサコの財布を床にポイと投げ捨て、ヒナとユキは教室を出て行った。
ミサコ(どうして私ばっかり・・・)
  悔しさと惨めさと恐怖を抱えたまま、ミサコは誰もいなくなった教室を出た。

〇女の子の一人部屋
  高校に入学して早々、クラスのカーストは
  あっという間に築き上げられ、
  ミサコは最下層に位置づけられてしまった。
ミサコ(いじめられたくないのに・・・)
ミサコ(でも・・・嫌って言えない・・・ そんなこと言ったら、もっといじめられる・・・)
  学校では完全に孤立してしまったミサコ。
  救いは、SNSだけだった。
ミサコ(あ、この動物の画像カワイイ・・・ いいねしておこう)
  画面をスクロールしながら、ミサコはお気に入りの投稿にいいねを付けていった。
  すると、投稿の中に怪しげな文言の書かれた画像が現れた。
ミサコ(・・・これ、何だろう? 私、こんなアカウントフォローしてたっけ・・・?)
  【現状に満足できず、変わりたいと願っているあなたへ】
ミサコ(何かのプロモーション投稿なのかな・・・?)
  普段のミサコならそれ以上気にも留めなかっただろう。
  だが、今の彼女はその怪しげな投稿にもすがりたい思いだった。
  ミサコはその投稿をタップし、詳細を調べ始めた。
  【自分を変えて問題解決! 憑依屋・サエ】
ミサコ(憑依屋・・・? 何? どういうこと・・・?)
  【いつもの自分じゃ言えないこと、出来ないことが叶っちゃうかも?】
ミサコ(いつもの自分じゃ言えないこと。 もし、あいつらに嫌だって言えたら・・・)
ミサコ(ううん、何考えてんだろ。 こんな広告、嘘に決まってる・・・)
  ミサコは広告を閉じようと画面を操作する。
  しかし、誤って通話ボタンをタップしてしまった。
ミサコ「えっ」
  スマホが呼び出し中の画面に切り替わる。
ミサコ「あ、違う、間違えて──」
サエ「やっほ~サエでーす!」
  通常通話ではなく、あろうことかビデオ通話を選択してしまったらしく、
  スマホの画面には金髪で分厚いまつげがついているギャルの姿が現れる。
ミサコ(え、え、この人が憑依屋・・・?)
サエ「依頼の電話だよね~? やったー! じゃ、さっそくなんだけどあなたのことと依頼内容教えて!」
  かかってしまったものは仕方が無い。
  ここまで来てしまったのなら突き進もうと
  変な諦めがミサコの中で芽生える。
ミサコ「え、えっと・・・ミサコです。 その、いじめを解決してほしくて・・・」
サエ「いじめ? あんたいじめられてんの? まじか、最悪じゃん。 え、どんなことされてんの?」
ミサコ「えっと、地味とかブスとか言われたり、あとお金取られたり・・・」
サエ「ひどっ! 最悪じゃん、そんなやつらぶっ飛ばしてやればいいのに」
ミサコ「そ、そんなの無理です! もっといじめられたらって思うと、怖くて・・・」
サエ「なるほどー、それでウチに憑依の依頼をしたいんだね」
サエ「わかった、そいつらにガツンと言い返してやるよ!」
ミサコ「え、あの、でも言い返したりなんかしたら・・・」
サエ「じゃあさっそく契約を結んでもらおうかな」
ミサコ(ど、どうしよう・・・ 話がどんどん進んでいっちゃう・・・)
ミサコ(言い返したりなんかしたら絶対もっと大変なことになるのに・・・)
ミサコ(うん、そうだよ・・・ だって、この人もギャルだもん・・・)
ミサコ「あ、あの、待ってください・・・ やっぱりいいです・・・ごめんなさい、さっき話したことは忘れてください」
サエ「え? なんで?」
ミサコ「わ、私みたいな人間をからかうためにやってるんですよね・・・」
サエ「は? なにそれ?」
ミサコ「憑依なんて現実的じゃないし、そもそもあなた、ギャルじゃないですか」
ミサコ「それに、会わないでことをすすめるのも おかしいし・・・」
サエ「カッチーン! 憑依の力は本物だしギャルだからからかうって超偏見じゃない?」
サエ「会えないのは勘弁してよ。 今、足ケガして入院してんの」
  言われると、たしかにサエは病室にいるようだった。
サエ「っていうか、契約しますって言ってよ。 そうすれば今すぐにでも憑依の力を見せてあげるから」
ミサコ「契約、します・・・?」
サエ「はい、言ったね。 じゃあ今から憑依しま~す」
  サエはそう言うと、何か祈るようなポーズ をとった。
  それと同時に、ミサコの体に悪寒が走る。
ミサコ「さ、寒い! なに?」
  次の瞬間、ミサコの意識が途絶える。

〇女の子の一人部屋
  ハッと意識が戻ると、ミサコは椅子に座り、勉強机の前にいた。
ミサコ「あれ、私、たしかベッドにいたはずなのに・・・え、なにこれ!」
  机の上にはノートが広げられており、そこには明らかにミサコのものではない字体で『ホンモノでしょ?』と書かれていた。
ミサコ(どういうこと・・・? まさか、これが憑依?)
  慌ててサエに電話をかけるとすぐに出た。
サエ「どう? どう? 信じてくれた?」
ミサコ「信じるも何も、一体どうなってるんですか・・・?」
サエ「だから、憑依だよ。 さっきウチがミサコに憑依したってこと」
サエ「この力使って、絶対にウチがいじめから救うからね!」

〇教室
ミサコ(サエさんは、憑依してほしいときに 強く願ってって言ったけど・・・)
  放課後、不安を覚えながら帰り支度をして いるミサコの元へ、ユキとヒナがやってくる。
ユキ「今日はもっとお金持って来てくれた?」
ミサコ「あ、えっと・・・」
ヒナ「金だよ、金!」
ミサコ(や、やだ・・・サエさん、サエさん、助けて・・・!)
  ミサコの体が一瞬ブルっと震える。
ヒナ「昨日さー、いいカンジのコスメ見つけたんだけど、お金足りなくて買えなかったんだよね~」
ユキ「だから、地味子さんにお金もらえると嬉しいんだけど?」
ミサコ「は?」
ヒナ「え?」
ユキ「な、何よ、その目」
ミサコ「あんたらその顔面なんだから化粧品に金なんてかけなくてよくない?」
ヒナ「え、え・・・?」
  ミサコの始めての反抗に、ヒナ、ユキならず教室内がざわついた。
ミサコ「はぁ、カツアゲみたいなダサいことしてる暇があるならバイトでもすれば?」
ミサコ「んで、その金でその腐った性格丸出しの汚い顔面キレイにしなよ」
ヒナ「な、何言ってんの?」
ユキ「地味子が調子のってんじゃねーよ!」
  ガンッとユキがミサコの机を蹴るが、彼女は怯むこと無く鼻で笑った。
ミサコ「まじダサすぎ。 そうやればこっちがびびるとでも思ってるわけ?」
ミサコ「この際はっきり言っておくね、ウチはあんたらみたいな根性ブスのおもちゃじゃないの。だから、金輪際カツアゲはお断り」
ミサコ「わかったなら、さっさと家帰ってお顔の メンテナンスしてあげれば? 化粧厚すぎて肌荒れしてるからね」

次のエピソード:第二話「無断憑依」

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