天才薬師の激貧ライフ

おもちさん

2、二人暮らしは難しい(脚本)

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〇洋館の一室
  ただいま、自宅で製剤中。
  隣にはアイシャの、食い入るような顔がある。
イアクシル「よし、すり鉢に薬剤1が出来た。 これはまだ中間体だ」
アイシャ「ほうほう。 この赤黒い粉はチューカンタイなんですね?」
イアクシル「こいつを予め作成しておいたゲル状の薬品にまぶして、かき混ぜる。 ねちっこい音が消えるまでな」
  分量は正確に。
  細やかにサジを使い分け、2種の薬品を適量だけ取り出して混ぜ合わせた。
  粘着質な音がネッチネッチと鳴る内に、ゲルの色味が変わり、固くなる。
  そして、不快な臭いが消えた頃には完成だ。
イアクシル「よし出来たぞ。 ちょっと舐めてみろ」
アイシャ「えぇ! こいつをですかッ!?」
イアクシル「別に毒物じゃない。 ついでに薬にもならんがな」
アイシャ「はぁ、そっすか・・・」
  アイシャが震える指を伸ばし、薬剤の小さな小さな欠片をつまみ上げた。
アイシャ「ハァ・・・ハァ・・・」
アイシャ「頑張れ、私! ここが死に場所と心得よ!!」
イアクシル「だから、危険物じゃねぇっての・・・」
  アイシャは覚悟を決めたらしく、勢いつけて口に放り込んだ。
  閉じた瞳が除々に開くと同時に、強張った身体も力が抜けていく。
アイシャ「美味しい・・・。 これ、焼豚の味だ!!」
イアクシル「ソックリだろ?」
アイシャ「見た目はすんげぇグロいけど、味はめちゃクソ美味いです! 流石は師匠!!」
イアクシル「ふふん。伊達に天才薬師と呼ばれてないさ」
  大好評ということで、オレは余り物の薬草を束でテーブルに乗せた。
イアクシル「じゃあ、この薬剤をオカズに薬草を食え。 草だけで食おうとするなよ、悶絶するからな」
アイシャ「えっ?」
イアクシル「腹が膨れたら、歯を磨いてさっさと寝ちまえ。 夜更かししてもロクな事無いからな」
アイシャ「いや待って・・・」
イアクシル「さぁて今日も働いた、腹ペコだ。 いただきまぁす――――」
アイシャ「待ってくださいよ!」
  アイシャがテーブルを拳で叩いた。
  それこそ叩き割りそうな勢いで。
イアクシル「どうした、不満か?」
アイシャ「まさかとは思いますが、これがご飯じゃないですよね? 晩御飯は別にあるんですよね!?」
イアクシル「そんな用意があると思うか?」
アイシャ「そんなぁ、あんまりだーーッ! 収容所だってもっとマシなもん出しますよ!!」
イアクシル「嫌なら実家に帰れよ。 別に止めたりはしないさ」
  このアイシャ、実は伯爵令嬢という、やんごとなき身分のお方なのだ。
  普段の振る舞いから全く信憑性ないが、事実だ。
アイシャ「食べますよ! これが食べられなきゃ、ここで暮らしていけないんでしょう・・・?」
イアクシル「まぁ、そうだろうよ」
アイシャ「だったら食べます、死ぬ気になって! モガモガモガッ!!」
アイシャ「ぎゃああーーッ! 苦すぎて頭痛がーー! なにこれぇーー!??」
イアクシル「だから言ったろうが・・・。 薬剤と一緒に食えと」
  どこか剣呑とした晩餐は終わった。
  アイシャも、一応は腹が膨れたらしい。
アイシャ「うぅ・・・。もう草なんか見たくないぃ! これっきりにしたいよぅ!!」
イアクシル「無茶すんな。 故郷に帰って贅沢三昧したら良い」
アイシャ「それはダメです! 師匠を説得できるまで帰る訳にはいかないんです!」
  コイツと親父、つまり伯爵様は、妙にオレを気に入ったようだ。
  この前の手紙なんか、100万ディナという大金で釣ろうとした。
  もちろん、一切手を付けずに突っ返した。
  受け取ったが最後、この強引な親子の誘いを断れなくなるハズだ。
イアクシル「何度も言うが、オレは故郷を離れるつもりはない」
アイシャ「お母様が残したお屋敷を守りたい、でしたっけ?」
イアクシル「そうだ。 だから、どんな条件を出されても、お断りだ」
アイシャ「でも、私は諦めませんから!」
アイシャ「それにホラ、ご飯だって完食しました! 乙女魂をフルパワーですよ。 思いの丈が伝わりましたよね?」
イアクシル「そうか。 じゃあ歯を磨いて寝てしまえ」
アイシャ「反応が雑ーーッ!?」

〇暗い廊下
  夜更け。
  不意にもよおしたオレは、1人でトイレに向かっていた。
  すると客室、アイシャに貸し与える部屋から、ひっきりなしに話し声が聞こえてきた。
イアクシル「独り言・・・? アイシャのヤツ、まだ起きてんのか」
  薄く開いたドアの向こうは、真っ暗闇だ。
  そして、独り言ではなく寝言であったと分かる。
アイシャ「うぇぇ、草っ草。 もう来ないで草もう入んないからぁ草ッ草草・・・」
イアクシル「どんな夢だ。 つうか、うなされる程に嫌か?」
イアクシル「だったら家に帰れよ・・・と言ったところでな」
  アイシャは決して諦めないだろう。
  柱にしがみついてでも、ここに残ろうとする。
  そんな気迫さえ感じられた。
イアクシル「仕方ない。 今夜は少し残業してやるか」
イアクシル「さすがのオレも、砂糖だの薬草だのをメシにするのは辛いからな・・・」
  こうしてオレは屋敷を出て、付近の森をさまよい歩いた。

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