天才薬師の激貧ライフ

おもちさん

1、ずっとお前(脚本)

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〇明るいベランダ
  窓から外の景色を眺める度に思う。
  オレのご先祖様には見る目があったなと。
  王都から離れた小高い丘にある我が屋敷。
  世情の喧騒とは無縁だ。
  聞こえるのも、鳥のさえずり等の耳に心地良いものばかり。
  顔も知らない祖父から母が譲り受け、そしてオレに引き継がれた古屋敷。
  あちこちガタがきているが、大事にすればまだ住める。
イアクシル「そろそろ湯が沸く頃だな」
  火鉱石で灯した炎が消えた。
  ポットの口からは止めどなく蒸気が溢れ出ている。
  頃合いだろうと思った。
  自家製の茶。
  これは最高級品にも劣らぬ品質だと信じている。
  やはり手間暇かけた分だけ、美味いと言うか、愛おしい。
イアクシル「去年よりずっと良い出来だ。今年は天候に恵まれたからな」
  いきなり口を付けるような真似はしない。
  勿体振るように鼻の傍でカップを揺らし、まずは鼻孔を喜ばせる。
  良い香りだ。
  口内には自然と、豊かな渋みが広がるように思う。
  金は無くとも贅沢は出来る。
  これはオレの持論であり、今こそまさに真骨頂の瞬間だった。
イアクシル「では、いただきます・・・」
  仕事の合間に、人知れず始まる。
  オレの為の、オレだけが愉しむ、上質で静かなるひとときを――――
アイシャ「師匠! 朗報ですよローーホーーッ!!!」
  ――――愉しめないッ!!!
イアクシル「ゲホッゴホッ!」
アイシャ「あら、風邪でもひいたんです?  ダメでしょう、薬師が不養生だなんて。 評判に響きますよ」
イアクシル「お前が驚かすからだろうがッ!」
イアクシル「アイシャ、いつも言ってんだろ!  廊下を走んな、ドアはノックしろ! いちいちやかましく登場すんなッ!!」
アイシャ「ああ、分かってますよ。 でも今ばかりは話を聞いて欲しくって!」
イアクシル「分かってないから注意されてんだろ!  だいたいお前はいつもいつも!!」
  何度繰り返したか分からない説教。
  怒られる方は辛かろうが、実は言う方も辛かったりする。
  特にコイツの場合!
  薬師の弟子を自称するわりにゴリラ腕力で騒がしくするアイシャ!
  いちいち叱る方の身にもなりやがれ!!
イアクシル「はぁぁ・・・。そんで、何をそんなに慌ててたんだよ?」
アイシャ「お客様ですよぅ・・・。薬を売って欲しいって、先程・・・」
イアクシル「ウエッ! ゲホッゴホッ!!!」
アイシャ「師匠!? やっぱり風邪なんじゃないです!?」
イアクシル「おいぃ!! お客様が来たってんなら、もっと早く言えよ!!」
アイシャ「師匠が聞いてくれなかったんですよぅ。 やたらめったら説教しちゃってからに」
  死ぬほど悔しいがごもっとも!!
イアクシル「とにかく応対するぞ、急げ!」
アイシャ「承知しましたぁ!!」

〇暗い廊下
イアクシル「オレはこのまま応接室へ行く。お前はお茶の用意をしろ」
アイシャ「魔ッ茶は朝にお出しした分で終了です、サー!」
イアクシル「クッ・・・。じゃあアレだ、冷水にレモンを絞って、砂糖も入れてだな・・・」
アイシャ「レモンなんて、ここしばらく見てないです。お砂糖も昨晩、ご飯代わりに平らげてます、サーッ!」
  やべぇな。
  もしかして、割とピンチなんじゃねぇか?
イアクシル「仕方ない、氷水を出そう。調合は分かってるな?」
アイシャ「了解でございやす、サーーッ!!!」
イアクシル「任せたからな、しくじるなよ!」
アイシャ「(あれ? どうやるんだっけ・・・)」
アイシャ「(まぁいっか、テキトーで)」
アイシャ「(かつて、偉い人はこう言いました)」
アイシャ「(やってりゃ、その内どうにかなるよ・・・ってね)」

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