ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード5(脚本)

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〇おしゃれな教室
  今日最後の授業が終わり、教師が去ると教室はそれまで抑圧されていた若さと自由を発散させるかのように活気に包まれた。
  商業区画のカフェで提供されているケーキの話で盛り上がる女子のグループや、
  昨日の夜に配信されたアニメの最新話について語り合う男子達等、いずれも話題は様々だが、
  多くの生徒達がこれからやってくる放課後という自由時間を待ちわびているようだった。
長野トキオ「今日の放課後、暇だったらまたうちに見学に来ないか?」
  そんな中、身支度を整えていた俺も男子生徒の一人から声を掛けられる。
  顔を上げて確認するとクラスメイトの長野トキオ(ながの ときお)が立っていた。
  長野は寮の部屋が隣という縁から親しくなった間柄で、俺にとってはこの学園に転入して初めて出来た友人らしい友人だ。
  いわゆるオタクと呼ばれるタイプの人物だが、コミュニケーション能力はむしろ俺よりも高いようで、
  転入したばかりの頃は何かと積極的に助けて貰っていた。
  彼はプログラミング部に所属しており、俺にも入部を薦めている。
  なので、長野の言う『うち』とはプログラミング部の部室のことである。
  もっとも、部活動の多くは研究と称して既に配信されている人気ゲームで遊ぶことであり、
  見学とは『一緒にゲームをやろう』という誘いを意味していた。
「ああ、悪い長野、今日は予定があるんだ。でも、あのゲームは俺も気に入ったから、そのうちにリベンジさせて貰うよ!」
長野トキオ「そうか、じゃ、また今度な」
  少ない友人である長野からの誘いだったが、俺は窓際に座るレイを見ないように意識しながら理由を曖昧にして断る。
  これから放課後はレイと一緒に靴事件の捜査を開始することになっているし、
  更に彼女との取り決めでこの捜査は可能な限り二人だけの秘密としていた。まさか長野が犯人とは思わなかったが、
  どこに事件の関係者がいるか知れないからである。幸いなことに長野も無理に誘う気はないらしく素直に引き下がってくれた。
横山ミズキ「はい。お待たせ、ホームルームを始めるよ」
  丁度、長野とのやり取りを終えたところで教室内に張りのある若い女性の声が響き渡る。
  二年G組の担任教師である横山ミズキ(よこやま みずき)が入って来たのだった。
  それを合図に私語は一瞬で消え、立っていた生徒達も素早く自分の席に戻る。
  杜ノ宮学園は全寮制の私立校であるだけに規律には厳しいのである。
横山ミズキ「学園の総合連絡でも流しているから、もう知っている生徒もいると思うけど、一応この場でも伝えておくね、」
横山ミズキ「最近、門限ぎりぎりまで寮に帰らない生徒が増えているらしいの、」
横山ミズキ「学園内にいればセーフと思わないで用事がないなら可能な限り早く寮に戻りなさい。そうじゃないと課題が増えるかもしれないよ!」
  教壇に立った横山は早速とばかりに連絡事項を伝える。威厳を出そうとしているのか背筋を伸ばして胸を張っているが、
  彼女はこの学園の教師陣の中では比較的若く、話し方もフレンドリーなため、
  教師というよりは親戚のお姉さんといった雰囲気を醸し出している。
  特に横山が好む白いブラウスと黒のタイトスカートの組み合わせは、
  彼女が持つ胸高な上半身と引き締まった腰、更には絶妙な曲線を描く臀部のラインを強調させるため、
  ただそこにいるだけで思春期の男子生徒とっては刺激の強い存在だった。
  そんな女教師なので男子生徒が横山に与えたニックネームは『モンロー先生』である。
  このニックネームを長野から聞かされた時、俺は『モンローって誰だ?』と思ったものだったが、
  ネットの検索サイトで調べて出て来た画像を一目見ただけで納得する。
  百年近く前に世界的な人気を誇ったアメリカの女優マリリン・モンローが出て来たからだ。
  そもそも人種が違うので横山とモンローの容姿が瓜二つと言うほど似ていたわけではない。
  だが、その肉感的な体形とそこまで完璧ではない中途半端な美から溢れ出る現実感のある色気が近視感を覚えさせるのだ。
  おまけに横山の担当学科は英語である。誰が最初に名付けたかは知らないが優れたセンスも持っていたと認めるしかない。
「課題はヤダー!」
横山ミズキ「なら、早めに寮に帰りなさい! このクラスの生徒が門限を破った時は私からも特別課題を出すからね!」
  前方に座っていた女子生徒の一人が代表するように答えると、
  横山は笑顔を見せながら窘めるように警告する。それを受けて教室全体は苦笑に包まれた。
  もちろん、生徒の言葉に即興で返したのだから横山の警告はノリから出た冗談だろう。
  だが『モンロー先生』は、その外見とは異なり学業指導に関してはスパルタ気味だった。
  もし、自分が担任を務める二年G組から門限破りが出た場合には連帯責任として、
  本当にクラス全員に特別な課題を出す可能性がある。それがわかっていたからG組の皆は苦笑となったのだ。
横山ミズキ「あ、それと。最近、身の回りの品が紛失するという報告も増えているらしいの」
横山ミズキ「皆も気を付けてロッカーや下駄箱の鍵は面倒くさがらずにしっかり掛けてね」
横山ミズキ「じゃ、また今日はここまで! 相談や質問があったら個別にメール、もしくは六時までは職員室にいるから直接来てもいいよ!」
  最後にもう一つ連絡事項を伝えると横山はホームルームを終えて去って行き、残された二年G組の教室は再び活気に包まれた。

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